討伐隊 後編
「はぁあああああ!」
鮮やかな手並みで、ラャナンさんは魔物の胴体を真っ二つにした。
そして追加で襲いにかかる魔物を、彼女のパーティー仲間が盾で受け止めたところをまた、一刀両断する。
「過剰戦力だよな」
「ギリギリの戦力で討伐隊組んでも、意味がないからね」
人の間を縫って進んでこようとするヘルハウンドを、氷の礫を生成して止める。
ハルノートは大量の低位である魔物にめんどくさがりながらも、弓で急所を狙っていく。
リュークにはあまりに目立ってしまうのを控えるために、簡単な植物魔法でサポートをしていた。
時間はかかったものの、何事もなく戦闘は終わった。
片手では足りない数をまだ一日が経っていない中戦ってきたせいか、討伐隊の魔物の処理が最初に比べると雑になっている。
荷物が増えすぎては身動きが遅くなることから、五回目のときから採取品は魔石のみだ。
毛皮などの品質を気にしなくていいことから乱暴に体をえぐ探られていて、亡骸からは怨嗟の声が聴こえてきそうである。
三、四日で魔物の死骸は魔力に変わる。
とはいえそれまで放置しておくと、アンデッドになる可能性が場所によって異なるが大体は一パーセントにも満たないがある。
それは魔物の発生源である負の要素が多いにつれて増えていくので、大量に殺さなければならない今回は発生しやすくなっていた。
なので、討伐隊に参加している間は魔物を火葬する命を受けている。
炎の魔法使いによって燃やされる様を眺めるのは悪臭もあって気分が良くなるものではない。
ハルノートは炎の精霊と契約しているが、自分は関係ないとそしらぬ顔で休息をとっていた。
彼は精霊の力を借りるのはよほどのことがない限りしないのだ。
匂いから逃れる為に風の結界を張る。
自身の膨大な魔力があるからこそ、魔法の無駄遣いができるものである。
人に見られたら小言がありそうなのでこっそりとしていると、リュークがもぞもぞと結界内に入ってくる。
効果範囲は私を中心として人一人分もないので、グリグリと頭を押し付けられる。
「苦しい……」
「ガウウー」
もう少し離れて欲しい私と、遊びと勘違いして離れてくれないリュークとの他愛もない攻防である。
ぎゅうぎゅうと押しても怯みはしないので、私が負けてしまいそうになる。
そんな時、「もう一編言ってみろ!」という男の怒鳴り声がした。
休憩の中の会話を遮る大きなものであったので、その場にいた者達は声の主に注目することになった。
「この腰抜けが、っていったんだ。一度で聞き取れないのかい?」
考えることもなく喧嘩であることは分かりきっていたことだが、その人物がラャナンさんである。
もう一人の男は確か、彼女と同じパーティー仲間だ。
対峙して啀み合う様子は、ただの喧嘩とは言えないような険悪なものである。
ハルノートやオルガの比ではない。
「お前が毎回毎回前にでしゃばりなだけだろうが!」
「僻むんじゃないよ。それは私が悪いんじゃない、あんたの問題だ」
「っ! 女のくせに……」
「ことある事にその話をしないでくれないかい? いい加減、聞きあきた」
「まあまあ二人とも、一旦冷静になろう」
仲介者は慣れた様子で、争う二人を引き離す。
男はまだ突っかかろうとしたが、ラャナンさんが近くにいた人に話しかけたことによって事が発展することはなかった。
「パーティー崩壊寸前だな。見ろよ、あの対抗心むき出しの表情。それにあの男、笑えるぐらいに疲れきった状態だな」
「……笑えないよ。でも、流石経験者は語るね」
「うっせえ」
今まで数えきれないぐらいパーティーに加入しては抜け出したハルノートの言葉が現実になるのに、時間がかからなさそうだった。
ラャナンさんの、前に出て大きな動作で敵をザクザクと切り裂いていく戦闘スタイルは私には良いように見えたが、あの男とは性格も合わせて相性が悪いようである。
「ガウー」
「どうしたの? え、空?」
ラャナンさんのパーティーに気をとられていると、指差す先に鳥の魔物がいた。
何やら私達討伐隊のことをずっと見ていたらしい。
そういった魔物は人が大勢いて勝ち目がないことを理由に見かけることはあるのだが、リュークには気になって仕方がないようである。
普段はそんなことないので珍しい。
「あんな魔物、いくらでも見させとけばいいだろ」
「ガウー、ガウガウガッ!」
「でも、こんなにも言ってるし……」
「俺には何言ってんか分かんねえけどな」
「それは私とリュークの仲だからね」
私は魔物を討つために、魔法を構築する。
「かなり離れてるができんのか?」
「慣れてるからね」
魔物ではない鳥ではあるが豪華な食事の為、森の中の家に住んでいたときはよくやっていたものである。
「失敗したら俺が代わりにやってやるよ」
「そんな必要ない、よ!」
魔法を発動する。
見えない風の刃だが、鳥の魔物であるからかピクリと反応した。
だがそのときには遅く、急所に当たり墜落していく。
矢をつがえていたハルノートは少しガッカリとしていた。
「落ちた魔物はどうすんだ?」
「魔石を狙ったから大丈夫だよ」
回収する時間はなさそうなので、魔物の核を狙って粉々にしてある。
魔物を気にしていたリュークをこれでいいかと見ると機嫌良さそうにしていたので、何よりである。




