討伐隊 前編
冒険者を成員とする討伐隊が組まれた。
魔物は山から下りてくるということで、その麓や被害が出た村に赴き退治する。
それを現在進行中でしていた。
私は辺りを警戒する者に囲まれながら魔力探知を行う。
動物や空気中に漂う魔力といった数多の情報から、悪しき獣の反応だけに絞る。
その結果得た魔物の位置を細かく隊をまとめるリーダーに報告し、危険度が高いところから襲撃にかかる。
高位な魔物には遭遇していない。
大抵は弱いものばかりで、時たまに中位のものが出てくるくらいだ。
集団のものもいるが、トレイフワプスのときのように膨大な数ではない。
あまりに脅威な魔物は、既に倒されているのだそうだ。
気は抜けないが危険度が低い、楽な仕事。
また一匹、二匹と魔物は亡骸に成っていく。
牙、魔石をナイフで捌きながら取る。
そうして仕事に集中していたが、とあることを思いため息をつく。
「はぁ……」
「探知しすぎて頭バグったか?」
「なってないよ。ちょっとだけ頭痛がするけど」
情報量が多すぎて頭がパンクしそうな結果であるので、己の魔法では治せない。
水魔法では無属性と原理が違うので可能だろうが、この場にはいないのでなんともならないのだ。
だが、そんなことよりも。
例えハルノートにディスられても、そう、昨夜の件だ。
はっきりとは覚えていないが、ぼんやりとした記憶だけでも自分がやってしまったことは確かだ。
私は成人でないことから誤って酒を飲んでこともだが、思考回路が回らなくなったのが悪かった。
なぜロイの耳や尻尾を触ってしまったのか。
あのときは幸せな心地だった。
ハルノートが飲むはずだった酒は美味で、高揚とした気分になった。
耳はふわふわで、いつまでも触ってい続けたいものであった。
だが、代償は大きい。
ロイは幼い故か気にした素振りはなく、逆にべったりとくっつき仲が深まっていたが、オルガとは視認できる形でも距離が離れた。
せめて成人するまで、酒は飲むなと言う。
当たり前なことなのだが圧迫感がすごく、こくこくと何度も頷いてしまった。
「うぅ」
穴があったら入りたい。
魔力探知だけのせいではないだろう頭痛もする。
これは癒したはずの二日酔いで、幻覚なはずだ。
リュークがそんな私を心配する。
気遣ってくれるのは嬉しいものだが、今回ばかりはしないで欲しい。
心の傷が広がってしまう。
「なーにやってんだい?」
しゃがみこんだ状態でうだうだとしていると、ひょこりと顔を覗かせる女性がいた。
私は驚きの声は飲み込み、「ラャナンさん」とだけ彼女の名前を言う。
「面白いことしてるとこ悪いけど、そろそろ移動するよ」
周りを見渡すと、私のように魔物を前にしている者は既にいなかった。
慌てて魔物の処理をするはめになっていると、ラャナンさんがありがたくも手伝ってくれたので、なんとか出発に支障は出ることはなさそうだった。
「昨日のこと、考えてたんだろう?」
ラャナンさんは討伐隊の中で私以外で唯一の女性の冒険者であることから、よく話をする相手であった。
気さくな性格で、からからと笑う様子から親しみを持てる。
そして現在の私にとって重要なのが、昨日の失態をさらした場にいたということである。
にやりとするラャナンさんに対し、私は顔が赤くなる。
「お、図星かい?」
「絶対分かって指摘してますよね」
目に力を入れてにらむが、効果はなかった。
陽気に「ほらほら行くよ」と、ハルノート達が集まるところに引っ張っていく。
前衛である彼女は私の背丈を軽々と越える大剣を背負っているのだが、その重さを感じさせない足取りである。
「誰にだって失敗はいくつもしてるもんだ。命に関わるようなものと比べればクレディアのは可愛いもんなんだから、気にするもんじゃないよ」
「……そうですけど、ラャナンさんは気にしないようにしてたのを掘り返しましたよね」
「気にしないようにしてたわりには、何度もうじうじしてたじゃないか」
昨日の今日であるから、何度も思い出してしまったのだ。
そのことが彼女に伝わっていたのならそうとう分かりやすかったのだと思い至り、恥ずかしくなった。
同時にしっかりしなければ、と気を引き絞める。
きっとこれは忠告だろう。
流石に戦闘の際に余計な考え事はしていないが、一歩間違えれば悲惨なことになる冒険者の職である。
まだまだ未熟であると気を落とすと、合流したハルノートに「やっぱり頭バクったんじゃねえか」と心配してかける言葉ではないことを送られた。
彼の言い方には慣れたが今の気分的に思わずムカッとなる。
だがちょうどリーダーの指示が下ったことにより、ラャナンさんの忠告を実行することにして意識を切り替え、魔力探知を行った。




