装飾品か魔道具か ※ハルノート視点
「こいつを部屋に連れて行く」
赤くなっているだろう頬はそのままに、間違えて俺の酒を飲んで酔っぱらいを強制的に連行することにした。
机の上に散らばる氷は、オルガに任せる。
いつもならここで一つや二つ嫌味を交わすが、「……頼んだ」とクレディアからある程度の距離をおいている姿は滑稽である。
「主ー!」
「ロイ止めとけ! 今のあの子だと、また触られるぞっ」
「主にならいいもんっ」
傾倒しているロイは、レアなクレディアに駆け寄りたいらしい。
そうなってしまえば、低俗な奴等がまた騒ぎ出すだろう。
泊まる宿で食事を取っているため人目は多くある。
さっき二人が絡んだときには鬱陶しい視線、そして下司な話がされていた。
パーティー仲間が噂されるのは鬱陶しい。
さっさと部屋に押し込んでしまうか。
オルガがロイを止めている間にと思ったが、クレディアが消えた。
どこだと探せば、「さっりのじゅーす、くらさい」と店員にコップを掲げている。
俺はそのコップは没収した。
「あうっ」
「ガキが酒を飲もうとすんな」
「お酒りゃなくて、じゅーすりゃよ?」
全くもって面倒くさい。
いつもは大人びており、背中を預けるには十分な魔法使いであるが、その姿は欠片もない。
苦笑いの店員にコップを渡し、クレディアを担ぐ。
「おいおい、エルフの兄ちゃん。お持ち帰りしちゃうのかい?」
「持ち帰りも何も、こいつとはただのパーティー仲間だ」
どいつもこいつも俺をロリコンみたいに扱いやがって。
イライラとしながら、こうなる原因は人目を引くような整った顔立ちをしている魔法使いだと、額を強く指で弾いてやった。
酔いを冷まさせる効果はなかったが、ヒリヒリと痛むようだ。
ざまあみろ。
「ふふふ、のびるー」
「耳を引っ張んじゃねえっ。落とすぞ!」
「ガウー!」
「嘘に決まってんだろ。おいこら、草出すなっ」
階段を上がっていく道中で一悶着ありながらも、やっとのことで部屋に到着。
酔ったクレディアの安全を考慮しリュークを連れてきたが、疲れがより溜まることになった。
「まりゃ寝らいよ?」
「いいから寝ろ」
「んうー」
クレディアは嫌だと駄々をこね、魔法を構築し始める。
それがとてつもない魔力でしているものだから、リュークと共に部屋に閉じ込めておけばいいという考えはやめるはめになった。
「ったく、だからガキは苦手なんだ」
今だけ手のかかる子どもに成り下がったクレディアに布を被せる。
暑いと言っているが、風邪になって明日俺だけ仕事をする羽目になるのは嫌だ。
暫く押し付けておけば、疲れもあって眠っていた。
一人幸せそうに眠っている様子に腹が立ち、鼻でもつまんでやろうかとする。
だが、ふにゃふにゃになった普段見れない顔で、気がそがれてやめた。
「おかあさん……」
「……寝言か」
以前、母の元に向かうために旅をしているのだと本人から聞いた。
あの時はピンっとこなかったが、寝ている間も母を求めていることからその切望さが伺える。
確か、今年で十二の年齢となるのだったか。
達観した視野をもっていたり、俺のときもそうだったが初対面の丁寧な言葉で話すことから、ガキであることを時々だが忘れる。
きっと、この姿が年相応なのだろう。
「ピアスしてんのか、こいつ」
冒険者であるには無防備すぎる寝顔を眺めていると、耳飾りをしていることに気付いた。
華美に身を飾るような性格ではないので、珍しいと感じる。
「ガキにしては、女らしい感性してんな」
起きていたら失礼なと言われるだろうが、聞いているものはリュークだけなので問題ない。
魔石が装飾品としてある、シンプルなつくりだった。
どうやら魔力が込もっているようで、実用を兼ねていざとなったらこれで魔力供給をするのだろうか。
だが、膨大な魔力を秘めるクレディアには、それはあまりにも少ない。
こんなにも小さな魔道具があるのかは知らないが、そう考えた方が確かである。
一見そうとは見えないが、魔法に精通しているクレディアだ。
謙遜かは知らないが、魔道具作りはかじった程度だと言ってはいた。
そこまで考えると、ただの装飾品なのか魔道具なのか気になってくる。
見極めるため、ピアスに手を伸ばす。
すると、もうすぐで触れるというところで、手をがぶりとリュークに食われた。
「ガウッ!」
「いってえッッ!」
直ぐ様手を引っ込めると歯跡がつき、ベタリと唾液がついていた。
何すんだと怒鳴りそうになったが、不届き者は俺か。
温厚なリュークがクレディアを守るように位置していて、さながら騎士のように見える。
「……悪かった」
「ガウー」
何て言っているかは分からないが、勝手に許すという解釈をしておく。
「俺が出たら鍵閉めとけよ」
利口な龍なので、それだけ言い残し部屋から去る。
そのときにはもう、ピアスが装飾品か魔道具かの関心は消えていた。




