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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
母の元へと向かう旅

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ふわふわ

 こくりと喉を通っていったジュースは冷たく、心地いい。

 安価なものであるが、疲労している体は美味しいと訴えている。


「ぷはあ」


 ロイは既にコップを空にしていた。

 氷をカラカラと鳴らし、物足りなそうにしていたので二杯目を頼む。

 成人であるハルノートとオルガは酒であるのでまだ飲み干していないが、体に納めていくペースは早い。

 私も皆と例外なく、間もなくジュースはなくなりそうである。



 北へ進んでいくために山を迂回する道程は終わり、私達は町へ到着していた。

 久しぶりに気を休めることが出来るということで、皆伸び伸びとしている。


「ガウ~」


 ご機嫌のリュークを見ていると、とても心が休まる。

 こんな心境になっているのは理由があって。


「明日は仕事……」

「思い出させんなよ、忘れてたのに」


 うげえ、とした顔のハルノートに怒られる。

 結局、トレイフワスプの集団から逃れることはできなかった。

 女王蜂の執念は地の果てまでついてきそうなしつこさで、その個体を倒すまで終始戦いをする羽目になったのだ。

 魔石などの戦利品は得ることはできたが、持てる荷物は限られている。

 それにお金には困っていない。

 手持ちにはブレンドゥヘヴンのときの報酬の分や貴重な雷の魔石をまだ売らずにもっているのだ。


 そんな無駄でもあった戦闘でヘロヘロな体でようやく到着した町。

 そこの冒険者ギルドで私達はほぼ強制に近いもので依頼を受けることになった。


「死んでからもブレンドゥヘヴンは厄介だな」

「本当にね……」


 依頼内容は山の主がいなくなったことで発生した、様々な問題を引き起こす魔物の討伐だ。

 今いる町は、山から比較的近くに位置する。

 旅の最中通ってきた村で討伐をいくつか引き受けてきたが、影響は色んな場所で出ている。

 現在は問題がピーク時であるので、私達のような人手は駆り出されることになっていた。


「冒険者ってのは大変そうだな」

「普段はそんなことないんだけどね」


 オルガは冒険者ギルドに所属している訳ではない。

 明日はロイとまったりと過ごすようで、とても羨ましい。


「はぁ……」

「リュークは連れてくのか?」

「その方が楽だけど、他の冒険者もいるからね。どうしよう」


 合同で依頼を受ける形だ。

 面倒なやからに目をつけられたくないし、リュークは疲れていることからやだやだと拒否している。

 だが、


「連れていこうかな。やっぱり楽だから」

「ガウッ!?」


 私が頑張ってるときにリュークが休むだなんてさせない。

 道連れである。


「あしたリュークいないの? 主も?」

「うん、お仕事だからね」

「そっか。主、がんばってね」

「うん、ありがとう」


 ロイの口元にソースがついていたのでぬぐう。

 この子と共に過ごせる時間が限られていると考えると、こうした一つ一つのことが大切な思い出になっていく。


 頑なにロイは私のことを主と呼ぶ。

 その意味については話を聞いている。

 オルガは、主の対象になっている私のことをロイは止めたって付き従うだろうと言っていた。

 だが、冒険者である私の旅は幼い彼女にとっては過酷で、半魔である私を主と仰いだって良いことなんかない。


 慕ってくれることは嬉しいが、別れのときは来る。

 私が再び会いに行くこともできるだろうが、それがいつになるかは分からず、狼人達は住む場所を変える。

 命と隣り合わせの冒険者であることも合わせると、もしかしたら永遠の別れという可能性があるのだ。


 だからロイと兄のオルガとの一時の旅を、大事にしていきたい。

 同行するのは途中までのところを、ハルノートに渋々了承をもらって狼人の村までしてもらったのだ。

 ロイがこの町に到着した際、私にしがみついてまで離れるのを止めたからできたことだが。

 それに私もロイを見届けるところまでそうしたかったので、渡りに船である。



「……あ」


 物思いに沈むと、いつの間にかジュースを飲み干していたので、追加を頼む。

 ハルノートが「俺のも」と言うので、彼の分も一緒にだ。

 酒豪なので、三杯目ともなるが顔色は通常通りである。


「どうぞー」


 店員さんから飲み物を受け取り、気分を上昇させるためにも一気に飲む。

 魔法で氷を入れ忘れたせいか生ぬるく、味に違和感をもった。


「おい、クレディア。氷くれ」

「わかったぁ」

「は? ちょ、待て! もう十分だっ」


 作った量が多すぎたようで、コップには液体と共に氷が溢れ出ている。

 そのときのハルノートの慌てる様子がなんだかとっても面白い。

 笑いが込み上げてくる。


「ふ、ふふ。ふふふふふ」

「……なんか、クレディアの様子おかしくないか?」

「頭でも打ったか?」

「ガウー?」


 体が軽く、子どものころ想像した雲の上にいる心地だった。

 そして視界がぼんやりとしてきて、現実感が薄い。


「主、大丈夫?」

「んー?」


 なぜだかロイが、心配そうに私を見てる。

 どうしたのだろうか。

 寂しくなってしまったのか。

 なら、頭を撫でて抱きしめてあげないと。


「あ、主!?」

「らいりょーぶ、らいりょーぶ」

「ぴゃっ」


 ずっと触りたかった獣耳を前に、押さえていた欲が負ける。

 ふわふわだ。

 獣人にとっては家族や番にしか触らせないという、人族にない器官なので今まで我慢してきたが、それが損に思えてくる。

 しっぽも触れてみても同様だ。

 幸せに浸っていると、ロイはふるふると震えている。

 そんなにも寂しかったのかと頭をするりと撫でると、「ふわぁ」と声をもらしていた。


「そこまでだっ」


 オルガにロイを没収された。

 なんて酷いことをするのだ。

 むうっと頬をふくらますと、彼の耳も獣耳としっぽがあることに気付いた。


「わあい」

「俺のは駄目だからな!? ロイのもだけどっ」

「うぅ、ケチ……」

「いい加減にしろ、酔っぱらい」


 ひょいっとハルノートに持ち上げられる。

 トレイフワスプから逃げるときも思ったが、転生してからはずっと低い視点であるので、新鮮な気持ちだ。

 それと皆私を見ていて、オルガは必死に自分の尻尾を押さえていて、また笑ってしまう。


「ふふふ。りゅーく、皆おもしろいねぇ」

「どこも笑う要素ねえよ」


 真顔なハルノートも面白い。

 でも彼もニッコリとした方が、楽しくなれるだろう。

 ほっぺたに手を添え、そしてこの端正な顔の口角を上げてやる。

 そのときの「いってえ!!!」という悲鳴の言葉は、私の笑いを復活させるのに十分だった。

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