伯爵の陰謀
兄と妹の微笑ましい光景。
それなのに、邪魔するエルフが一名いて。
「なんでそんなに笑ってるの?」
「そりゃあ、あの反応の差を見ればそうなるだろ……っ」
ロイは長く終わらない頭撫でに、なんとも言えない表情を浮かべていた。
満足げなオルガとは対称的である。
「無粋だね」
「クレディアも内心思ってんだろ?」
「私は違うよ」
母に会えたときのことを考えると、私もオルガさんと似たような状態になるだろう。
久しぶりであり、生きているか分からなかったときまであったのだ。
彼の想いにはとても共感できる。
「それにしても、お前は何個も厄介な面倒もってんな」
「……後悔してる?」
「してねーよ。たかがちょっとしたことだろ?」
「たかがでも、ちょっとしたことでもないと思うけど……」
オルガさんから聞いた話だと、狼人の村が壊滅したのは貴族が関わっていると思われる。
領地もちの伯爵で、お金には困らない財力が相手だ。
それも悪評高い。
「司祭がいたこと、偶然だと思う?」
「布教の為に各地を巡ってた奴か? そんな訳ねえだろ」
「やっぱり?」
「あの女神を崇める宗教の奴等は、この国では動きづらいだろうからな」
「ええと、シャラード神教だっけ?」
私が住んでいたセスティームの町では、太古の龍べリュスヌースが崇める人が多かったので、詳しくないがそのような名前だったはず。
ヘンリッタ王国ではどの宗教に属するか、制限を受けることはなく自由ではあるが、唯一の例外としてシャイヤード神教があげられる。
隣国の隣国の位置にある聖国の中で、大多数が信仰している宗教だ。
内容が異種族の差別があることで、ヘンリッタ王国内では推奨されていない。
そのシャイヤード神教の信徒が、服装から判断して話に出てきた司祭達であるのだが。
「大金でも渡されて、伯爵が裏で手を回したかもな」
そうでもなければ、伯爵の部下と共にいることはないだろう。
布教だけが目的で各地を巡っているのかは考えもので、狼人の村で火の手も上がっていないのに二つの集団が助けに来たと来るのはおかしい。
それに魔物だってそうだ。
優れた身体能力を持つ狼人だけが殺され、助けに来た人族は傷一つない。
「テイマーがいる可能性が高いね」
「かなりの使い手だろうな。一匹テイムするだけでも、かなりの労力が必要だって聞く。それを村を囲めるぐらいの数だ」
「全部の魔物がそうじゃないかもしれないよ。魔物を引き付ける植物があるからね」
「詳しいな」
「薬屋で働いていたからね」
それに希少な植物魔法を使うリュークといれば、自然と詳しくなれる。
「魔物以外にも、剣で斬られたような傷もあったな」
「あ、オルガさん」
「もう撫でるのはいいのかよ……っいきなり何しやがる!」
「ウザイエルフがいたからな」
鉤爪を装備していないので危険度は下がるが、拳で殴られそうになってハルノートが怒鳴る。
彼が謝って互いの態度が良くなったと思っていたが、全然違ったようだ。
エルフと狼人は相性が悪いかもしれない。
ロイとも喧嘩することはなかったが、必要以上に話をすることはなかった。
「主」
「もうお兄さんとはいいの?」
「うん」
「和解できてよかったね」
兄妹で互いを憎からず思っているのに寄り添えないなんて、可哀想だ。
そんな思いで行動したが、仲良くなれたようでほっとした気持ちである。
「ガウー!」
「リュークも良かったね、だって」
「うん、ありがとう」
ロイは屈託の無い笑顔だった。
以前より明るい雰囲気になっていて、家族の存在は立派だと思った。
「途中まで共に行動してもいいか?」
喧嘩は引き分けに終わったようで、今後の話となる。
「この辺りは危険ですし、構いませんよ。向かう方向は同じで、ロイとここでお別れは寂しいですし。ハルノートはいい?」
「嫌だ……とは言わねえよ、流石に」
仲が悪いとはいえ、良心はあるようだった。
ロイを一人で道中の魔物から守りきるには危険な行為である。
「また話の繰り返しになりますが、これからはどうするのですか?」
「仲間と合流しようと思う。俺達とは別にある狼人の村にいるはずだからな」
村の壊滅から逃れた、オルガさんと同じ狼人の方である。
「他にも狼人の住む村はあったんだな」
「俺らの村と同じ伯爵が治める領地内だがな」
「危険ではないですか?」
「だが逃げる訳にはいかない。仲間は危険を知らせるためにその村に行ったんだ。それに合流後は隣国にいる狼人のところに移住するつもりだ」
話は何年も以前からしていたらしい。
狼人同士の繋がりは多くあるようで、その中の一つが横暴な伯爵の話を聞いてなんとか出来ないものか考えてくれたらしい。
そして多くの狼人を移民として受け入れるよう、体制を整えてくれているそうだ。
隣国の王は獣人であることから許可してくれて、ヘンリッタ王国にもそのことを交渉して、現実になりそうなところまでいっていたらしい。




