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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
母の元へと向かう旅

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きらわれたくない ※ロイ視点

 振り返ることのない背を追う。

 進む一歩は大きい。

 配慮はしてくれないので、自然と距離が離れてしまう。

 だが見失うことはない。

 足取りが止まったからだ。


「この辺でいいだろ」


 話しかけられて、びくりと体を揺らす。

 じろりと鋭い視線。

 主がいないだけで、こんなにも心細くなってしまう。

 明るく元気で、マイペースなリュークもいない。


 何をされるのだろう。

 目の前のエルフは怖い。

 身長差から、必然的に見下ろされる。

 ドクン、ドクンと音が鳴り、わたしは短く息を吐き出した。


「ほら、さっさと話せ」

「なに、が……?」

「決まってんだろ、てめえのことだ」


 わたしのこと。

 わたしが主に話そうとして、でも、できなかったこと。


「ここにはクレディアはいねえ。なら、できるだろ」


 そうだ、いない。

 ここにはわたしを大好きだって言ってくれた主はいない。


 嫌われたくない一心があった。

 わたしのことを話したら、そうなってしまうかもしれなかったから。

 だから、話す勇気はでなかった。

 でも、ずっとこのままではいられないことも分かっている。


 送り届ける為に、主は今一緒にいてくれる。

 わたしの帰る場所にだ。

 そんなところ、もうないのに。


「……主にいわない?」

「それは無理だな」

「なら……」

「だが、先伸ばしにすることはできる」

「……」


 いつかは知られてしまう。

 そんなの、嫌だ。

 でも、話さないといけない。


「はっきり言うがお前、足枷になってることを分かってんのか?」

「あしかせ?」

「足手まといになってんだよ。クレディアはお前に縛られてんだ」


 難しい言葉。

 つまり、わたしが邪魔だってこと?


「あいつが決めたから、別にお前を送ることに反対はしねえ。けどな、お前はあいつの負担になってることを考えた方がいい」

「ごはんをたべるとき、おかねがいるから?」

「そうだ。他にも、魔物から守るのに自衛もできねえからな」


 だって魔物は強くて恐ろしくて。

 それにわたしは弱いから。

 守ってもらうことや立ち尽くすこと、逃げることしかできない。


「だからな、クレディアがお前のことを気にかける負担ぐらいは減らせ。いつまで待たせ続けるつもりなんだ」

「……主、まってるの?」

「ああ」

「わたしが、わたしのことをはなすのを?」

「そうだっつってんだろ」


 そうなんだ。

 主は、待ってくれている。


「……でも、きらわれたくない」

「だからまず俺に話すんだよ。それで嫌われるかどうか、俺が判別してやる。どーせ、いらん心配だろうがな」


 そっか。

 なら、話してもいいのかな。

 わたしも、このエルフも、互いのことを好きという関係を築いている訳じゃない。

 主じゃないなら、嫌われてもいい。




「いっぱいのまものがきたの」

「具体的には?」

「むらをかこめるぐらい」

「……それで?」

「おかあさんとおとうさんが、わたしをにがしてくれた。あぶないから、にげなさいって。だから、わたしははしって……」

「……」

「とちゅうで、ともだちのみっちゃんとあって。いっしょににげたけど、ころんじゃって。みっちゃん、あしひねっちゃったの。そしたら、さきにいって、すぐにおいつくからって」


 だから、わたしはその通りにした。

 怖かったから。

 とても恐ろしかったから。

 魔物の唸る声が、優しくしてくれた人の叫び声が、肌色の塊が、濃厚な血の匂いが、ぐちゃっとした音が、振り返るのが、わたしが死んじゃうのが。

 だから、駆け出した。


「ほかのひとにもね、あったの。よくできたねってほめてくれるほーさんとか、いつもあそんでくれたカイも、イジワルしてくるけどおはなくれたライチも」


 けど皆、早く行けって。

 助けを呼んでこいって言って、別れる前に笑っていたから。


「だからわたし、まちにむかったの。おにいちゃんに、たすけてっていうために」

「お前、兄がいるのか?」

「でもだめだったの。たすけられなかった……ひっく」

「おい、聞こえてんのか?」

「にげちゃった。おいてきちゃった。わたしのせいっ……。みんな、死んじゃった……ふぇ」

「話聞いてねえ……」


 声を上げて泣いた。

 沢山涙が出てくる。

 お母さんも、お父さんもいない。

 みっちゃんもほーさんも、村の皆きっと死んじゃってる。

 わたしが助けられなかったから、捕まっちゃったから。



「あーくそっ。これだからガキは苦手なんだ。おい、泣き止め。クレディア呼んでくるぞ」

「うっ……やだ……」

「なら―――っ!」


 黒い影がよぎった。

 わたしはまた、何もできない。

 助ける力がない。

 だから、呆然とハルノートが吹き飛ばされる光景を見るしかできなかった。

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