マセガキはやめて
貴族の友達ができた。
それにあたり、文通やり取りが増えた。
以前ハルノートから奪われたものを含め、一通増えた手紙を送る。
ツンデレのお嬢様は早速送れと言ったけれど、今日話したばかりであるのにと少しこらえきれなくて笑ってしまった。
大雑把に描かれた地図が机に広がっていた。
ヘンリッタ王国のもので、私が進んできた道を線で結んだとすると下から上、つまり北に向かって旅をしていたということだ。
ロイを送り届ける為、目的地はティナンテルとなっている。
そこでロイが住んでいた訳ではないが、その付近にはいたことは分かっている。
「ティナンテルまで一番近い行路は山を越えることだが……」
「そこにブレンドゥへヴンがいたんだよね?」
「ああ。山の主は死んだが、まだ他にもやべえ奴等がうじゃうじゃいるらしいぞ」
「じゃあ無理だね」
「俺も命を捨てる行為はしたくねえ」
「なら迂回することにして……」
「川沿いに歩いていくことになるな。分かりやすいが、時間がかかる」
ティナンテルまで遠回りとなる。
だが山は越えたくない。
レッグピアススナイパーで経験したが、主がいなくなったことにより、魔物の弱肉強食のピラミッドは大きく変わることとなる。
きっと山は今ごろ、強いものも弱いものも己の生存のために争い合っているはずだ。
そんな中に自ら飛び込んで行きたくはない。
ハルノートと私が話し合いを次々としていく。
道の他にも確認しなければならないことは多い。
荷物でも、調理器具で一つしかいらないのに被っていたら片方を売ったりしなければならない。
少しだけ荷物が減ったが、何週間分の食糧を買って入れれば増えることとなるだろう。
「あいつ、よくしゃべるようになったな」
一区切りつき、話が変わる。
ロイを見て言ったことだ。
私は「うん」と肯定する。
ロイはリュークと遊んでいて、楽しそうだ。
言葉も、初めて会ったとき比べて格段に多くなった。
きっとそれがロイにとって普通のことだったのだろう。
魔物に襲われ、奴隷狩りにあって酷い目にあったせいで、無言に近い状態になってしまった。
「お前、あいつから新しいこと聞けたか?」
「ううん。まだ」
ハルノートには、省いていたロイの経緯について話していた。
送り届けてくれることに付き添ってくれるのに、何も話さないのでは不義理であるからだ。
それに助言が欲しかったからでもある。
「正直、ティナンテルは危険だと思うぞ。あいつが奴隷狩りにあって、それを支援していた貴族がそこの領主であることはほぼ確実だからな」
「……やっぱり?」
「お前も目、つけられてんだろ?」
「ティナンテルに関係する貴族かは分からないけどね」
王都では騎士に追いかけられた。
必死に逃げたけれど、その結果私は指名手配とされていないのだろうか。
冒険者を続けられているから大丈夫だと思うが、不安になってきた。
ハルノートは「そうなったらそうなっただろ」と他人事のようだ。
「パーティー仲間がそうなってもいいの?」
「別に? また別人として冒険者に登録しなおせばいいんじゃねえか? お前の髪色があまり見ねえもんだから、すぐバレそうだが」
「それは大丈夫だよ」
「なんか策でもあんのか?」
「え? それは……うん。色染めてしまえば簡単でしょう?」
「そういえばそうか」
危ない。
今の薄鈍色を他の色に変えてしまえばいい、だなんて言えるはずがない。
そんな魔法、光か闇の属性をもっていなければ出来ない。
「だけど、勿体ねえな」
「?」
「髪だよ。似合ってんのに」
ハルノートは何気無しに私の髪に触れた。
私は思った。
あ、こういう風にして女の子を落としているんだ、と。
歩いていれば、ハルノートは容姿が整っているのでよくナンパされているのだ。
夕食を食べていれば、夜のお誘い事もある。
すげなく断っていたが。
行かないのかと聞けば、「そんな気分じゃねえ」とのこと。
そんな気分だったらどうするのとは尋ねなかったが、まあ、誘いにのったり、そういうお店に行ったりするのだろう。
それに好みの女性がいて、ハルノートが声をかけてしまえば大抵了承してしまうだろうし。
そんなときに、こうして髪に触ったりしているんだろう。
確かに、男の人に触れられているのに、嫌な感じがしない。
きっとごく自然にやっているからだろう。
手慣れてるな、と思う。
ガキには興味ないようなので、そこは安心だ。
ロイが襲われることかないから。
私の場合は魔法で叩き潰してしまえばいいだけである。
私は触れられた部分の髪を整えておく。
そして一応は忠告はしておく。
ハルノートのその行動により、勘違いしてしまった女性が出てきてしまったら可哀想だからだ。
そのことにより「マセガキ」発言をもらうこととなった。
私は取り敢えず、リュークを出陣させた。
お腹に直撃されて「がはっ」となっていて、私は溜飲を下げた。




