貴族の友達
一口、パフェを食べる。
美味しい。
ロイに「あのおひめさまはいいの?」と言われるが、現実逃避がしたいのだ。
でも、パフェはもうすぐ食べ終わりそうだ。
だから、もう話は終わりということで去っては駄目であろうか。
「クレディア!」
「は、はい!」
スプーンを慌てて置く。
ごめんなさいって言いそうになってしまった。
「貴方、私の友達になりなさい!」
命令形だった。
思わず黙ってしまったら、「嫌なの……?」と泣き出してしまいそうになっている。
「おい、面倒だから友達になっちまえよ」
「……貴族と?」
「ならない方がヤバイんじゃねえの?」
そうだけれども。
迷ったけれど、私は友達になることにした。
チェイニー様は最初の印象のときより、かわいい性格をしていることが執事とのやり取りで伺えたからだ。
それに友達が増えることに悪いことはない。
ただ、その友達が貴族ということで気後れするだけだ。
「そう、友達になってく……差し上げるんだからっ。この私が!」
ツンデレお嬢様だろうか。
こっそりと護衛に「やったわ!」と報告している様子を見て微笑ましくなってしまう。
「申し訳ございません。クレディア様とそのご同行者様」
その後、執事がやって来て色々と説明してくれた。
チェイニー様はあの性格だから、友達がいないらしい。
それに魔法使いとして優れている方だから、余計に周りから遠退かれてしまっていたという。
「お話に聞いたところ、クレディア様は極大魔法で三人分の補助が出来る実力の御方。それに加え、同性で年が近い者でいらっしゃる。そのような点で、貴方様はプライドが高いお嬢様のお眼鏡にかなったということなのです」
「そ、そうだったのですか……」
「話が長い」と言いたげなハルノートには黙ってもらう。
その間にチェイニー様は戻って来て、執事は蹴られてた。
痛そう。
だけどその瞬間、執事は頬が上がっていた。
……いい主従関係だと思うよ。
できればその顔はロイには見せないようにして欲しい。
「うげえ」
「……ちょっと」
「ガウー?」
「うん。この世界にはああいう人もいるんだよ」
地球でもいた。
住む世界が変わっても、痛みを喜びに変換できる人がいるんだね。
「あの、チェイニー様」
「敬語はなしよ」
「……」
「な・し!」
「……チェイニー」
「なにかしら」
「もうそろそろ、その、執事さんが……」
「あら、本当だわ」
足蹴にしていたのをようやく止めてくれた。
ロイが執事さんを見ようとするので目隠しする。
あれは見てはいけないものである。
チェイニーがパフェを頼んだ。
時間があるから、ということらしい。
ハルノートが逃げようとしたので、飲み物を人数分頼んで阻止する。
「あら、美味しいわね」
小さな口に、次々とパフェが収まっていく。
幸せそうな顔は年相応だ。
「チェイニーは何歳なの?」
「今年で十三よ」
「じゃあ私と二歳差だね」
私は前世の記憶があるからだが、十三歳で魔法使いとして立派な実力を持っている。
きっと並みならぬ努力をしたのだろう。
それに貴族であるからか、年齢よりも大人びて見える。
なんだか私と似てる。
でも、私のような異常性はもってない。
前世の記憶はないし、それに彼女は人族だ。
「もしかしてだけど、Bランクに推薦してくれた?」
「ええ。Cランクには不釣り合いな才能を持っているもの」
「勧誘してくれたのに?」
「……咄嗟に口に出てしまったのよっ。それに貴方とは友達になったけれど、その、ライバルとも思ってるし……」
「そうだね。私もそう思うよ」
チェイニーもそうだったように、私も年の近い魔法使いはいなかった。
最初に思ったより、いい関係になれそうだ。
「……なんか、お前ばっか仲間に誘われるな」
「羨ましいの?」
「別に」
チェイニー様が去っていき、ハルノートがポツポツと呟く。
多分、性格からして誘われないとは思う。
実力は確かなので。
そんなこと、一番本人が分かっているだろうが。
「私はハルノートとパーティー組んで良かったよ。リュークとロイを受け入れてくれたからね」
厄介者とパーティーにはなりたくないだろう。
そんな中、ハルノートはロイを一緒に送り届けてくれるし、リュークに関することでもしトラブルが起こっても、文句を言いつつ何とかしてくれそうなエルフだ。
リュークに「ガウー!」と顔に飛び付かれて、嫌そうな顔はするけれどもね。




