平穏?
「あーるーじっ!」
「うっ」
お腹に衝撃。
似たようなことがあったような、ないような。
リュークになら、お腹めがけて突進はあるか。
「……おはよう」
「おはよう、主」
にっこり。
朝から気持ちのいいような笑顔である。
ロイは討伐から帰ってから、前より甘えぼうになったような元気というか。
良い傾向であると思おう。
実際、塞ぎこむより断然いい。
「リュークも、おはよう」
「がぅー」
まだ眠そうなリュークはロイに任せ、朝の支度をする。
魔力操作の訓練も日課として行う。
ぐるぐるぐる、体内で魔力を巡らせる。
その後、宿の食事場に行けばハルノートが既にいた。
お酒をいっぱい飲まされていたが、元気そうだ。
朝の挨拶をすれば、返してくれる。
こういうところは律義だと思う。
あと、挨拶は平和な日常を感じれるので好きだ。
平穏が戻ってきた気持ちになる。
二日休息をとったら、また魔物がいる道を歩いていかないといけないのだが。
今日の早い時間なら、昨日の酒の影響で人が少ないだろうからと冒険者ギルドに来た。
ギルドマスターに、報酬を取りに来いと言われていたのだ。
「体張ったのに、これっぽっちか」
「十分な額だと思うよ?」
私にとっては大金である。
手に持つ袋からはジャラジャラと音がする。
「俺がやった目玉分を考えれば少ねえよ」
「全部回収されたもんね」
ブレンドゥヘヴンの素材はギルドが持っていった。
持って帰り方は凄かった。
空間魔法が付与された魔法の鞄に収納していったのだ。
あんな大きなものが小さな鞄に入っていく様子は圧巻だった。
欲しいと思うが、Sランク冒険者にならなければもらえない。
ミンセズさんが羨ましい。
そんな訳で、ランクごとに報酬は均等に分配された。
「これで美味しいもの食べよっか」
「ほんとう?」
「ガウーッ!」
「簡単に甘やかしてんじゃねえ。というか、お前らは食べ物ばっかりか」
バシッと叩かれる。
いいではないか。
お金の使い道とたら、食べ物ぐらいしか思い付かない。
荷物になりそうなものは買えないし。
「じゃあBランクに昇格したお祝いも兼ねて、ハルノートも一緒に食べよう?」
食べる? という言い方よりもこの方が彼は乗ってくれる。
功績が認められ、ランクが上がったのだ。
私はCランクでいた期間がまだまだ短いのだが、説明されたことには『特例』だそうだ。
その場にちょうどいたミンセズさんによると、私を推薦してくれた者とのこと。
誰からかと聞けば、濁された。
今日、分かるとのこと。
詳しくは教えてくれなかった。
皆でパフェを食べることになった。
私、ロイ、リュークはシェアをして巨大パフェ。
ハルノートは抹茶のパフェである。
甘いものは無縁そうな彼だが、以外とパクパク食べる。
巨大パフェには呆れていたが。
「主、くちあけてー?」
「え?」
「あーん」
「むぐ」
「ガウー」
「リュークも? いいよー。あーん」
「……はぁ」
「ため息? 美味しくないの?」
「うめーよ」
やっぱり酒の影響があるのか、疲れた様子だった。
美味しくないって言うなら抹茶パフェを食べる計画だったので残念だと思ってると、店内がざわめいた。
「何の騒ぎだ?」
「貴族が来たらしいね」
「俺らには関係ねえな」
「でも人探ししてるらしいよ」
「はあ? 誰を?」
「えーと、…………私っぽい」
指を指されている。
というか、チェイニー様だ。
「ごきげんよう」
「ごきげんようございます……?」
いけない。
動揺しすぎて変な挨拶になってしまった。
どうしよう、これは跪いた方がいいのだろうか。
だけどハルノートはふんぞり返ってるし、ロイはポカンとしてるし、リュークは呑気にパフェを食べ続けている。
チェイニー様は多くの護衛を連れていた。
その中で極大魔法を補助していた魔法使いがいて、とても申し訳なさそうである。
「ええと、何をされにいらっしゃったのでしょうか」
「勿論話をするためよ、クレディア」
一介の冒険者の名前を覚えられている。
目をつけられてしまったのか。
「何をそんなに青ざめているの。私は勧誘しにきただけよ」
椅子に座りながらチェイニー様は言う。
店で用意されたものだから似合わない。
ドレス姿だから尚更だ。
「貴方、私の元で働かないかしら」
部下にならないか、と機嫌良さそうに誘われる。
ハルノートは「またかよ……」とうんざりしていた。
「お気持ちは嬉しいのですが、私には冒険者というものが合っていますので」
「給金ははずむわよ?」
「……すみません」
「…………そう」
しゅんとしていて、なんだか寂しそうだった。
大丈夫かと、やってしまった本人ながら思っていると、執事の方が「失礼」とチェイニー様と話し合いを始めた。
「お嬢様、断られてしまいましたね」「……ええ」「ですが、本来の目的の方は断られていません。いつまでも落ち込んでいないでください」「落ち込んでなんかないわよ!」「はい、そうですね」「そうよっ!」「では、今度はちゃんと言えますね」「い、言えるわ」「本当ですか? 一度練習しておきます?」「……わ、私と、おおお友達になってくだちゃいっ」「噛みましたね」「うるさい!」
執事が殴られた。
ビンタではないんだ、と変なところに感想を抱いてしまう。
「なんか、阿呆な奴だな」
「しっ。声が聞こえちゃうよ」
あちらの会話は丸聞こえだったのだから。
だがその危惧は必要なく、チェイニー様は執事の足を踏むのに精一杯であった。




