酒場にて
重力魔法の後、冒険者は果敢な戦いぶりをした。
ブレンドゥヘヴンという一時とはいえ動けない者を永遠にするだけの作業だからだ。
時々落とす雷も、結界を張ってしまえば被害は出ることはない。
逃げていた者も戻ってきていて、それはもう雄渾な戦いぶりであった。
*
「勝利の美酒だぁー!」
「今日はいっぱい飲むぞぉー!」
ブレンドゥヘヴンを討伐し面倒な後始末をした後、冒険者達は酒場に来ていた。
元々はSランクであったというミンセズさんの奢りということで、皆ガバガバと酒を飲んでいる。
私はまだ未成年なのでジュースだ。
「主ー」
とたとたと、液体の入ったコップを揺らしながら歩いてくるロイがいた。
酒場は討伐の収集がかけられた町の開催であるので、ロイもいるのだ。
勿論リュークも私の側にいる。
この二人を残して飲み会はできないので、参加していいかミンセズさんに聞いたところ了承を得た。
しかも奢ってくれるのである。
Sランクでギルドマスターとなると、懐がとても暖かいのだと思った。
ロイと乾杯し、「あのね、リュークがいっぱいおやつたべてたよ」と町にいる間の話を聞き、私の言ったことを守らなかったリュークを懲らしめたりする。
酒場は大騒ぎであるから、「ガウー!?」という叫びも喧騒に紛れる。
「何してんだ?」
リュークの頭をぐりぐりしていると、ハルノートが話しかける。
手には酒だ。
酔っ払った様子はない。
冒険者から絡まれてお酒を飲まされていた記憶があるのだが。
聞いたら酒豪らしい。
「なあ、氷入れてくれよ。酒がぬるくて敵わねえ」
「いいよ」
ハルノートのこのような言い方にも慣れた。
魔法でコップに大きい氷をカランと入れる。
すると、それを見ていた他の者が「俺も俺も」と寄ってくる。
氷を入れる。
そうなると、何人もの人が氷をねだってきた。
「嬢ちゃん、頼むよ~」
「うう、分かりましたから。だからちょっと離れてくださいっ」
酔っぱらいばかりなので、とても酒臭い。
「じゃあ、氷が欲しい人はコップを掲げてください」
声をあげると、ほぼ全員であった。
まあ、飲み物は冷たい方が美味しいので分かるが。
私は頭上に巨大な氷をつくる。
そして一つ一つ小さな氷へと変えていき、コントロールして次々にコップに入れていく。
その際と氷の欠片がおりてくる。
それを見たロイが「わあ!」と目を輝かせ、リュークは冷たくて気持ちいいのかぐるぐると浴びるように飛んでいた。
冒険者も口笛を鳴らしたり「ありがとう!」と叫んだり、拍手をしてくれる。
どうせなら、とパフォーマンスを兼ねて行った余興は喜んでくれたようだ。
私は屈託のない笑顔を浮かべた。
その後は武勇伝話となった。
「いやあ、やっぱすげえのはギルマスだよな」
「だな。あのブレンドゥヘヴンの脚を切り飛ばしてるからなあ。大きな怪我もしてねえし」
称える声が多いのはミンセズさんである。
本当は冒険者は引退しているのだが、まだまだ現役でいられる実力だ。
他にもずっと前線で戦っていた剣士や盾士も名前があがる。
司令塔役となっていた魔法使いもだ。
近くてその姿を見ていたのでとても納得である。
というか魔法使いとして優れている彼女に勝手ながらに尊敬していたので、やっぱり皆もすごいと思ったよねという同意した気持ちである。
近くに同士のパキナさんがいたので、私達は語り合う。
同じ女性同士の魔法使いなので、話は盛り上がる。
炎を炸裂させる姿なんて、とても美しかった。
そして、魔力が尽きた人に対して優しく救護しているという人柄のよさもあった。
「どーしたの? 私の話かしら」
「ビビ様!」
「やーね、様付けは止めてよ」
ビビさんが話しかけてくれたこともだが、語り合っていた相手が様付けにもビックリである。
信仰の域だ。
流石の私もそこまでではない。
「あ、あのっ。ビビさ……ん。握手してください!」
「ええ、いいわよ」
パキナさんは「ふわあー!」と歓喜の声を出していた。
私も便乗して握手してもらう。
そこからはパキナさんが前に出る形になりながら、先程話していた内容を伝える。
「まあ、そうだったの。とても嬉しいわ」
大輪が綻びるような笑みのビビさんである。
まさに大人の女性という方である。
美しい。
「でも、貴方達も頑張ってたわよ。特にクレディアちゃんには何度も感心したんだから」
「私、ですか?」
「ええ。言い出したらきりがないぐらいだもの。まだ幼いのに凄いわ」
「ええと、ありがとうございます」
尊敬している方から誉められた。
舞い踊るぐらい嬉しい。
だが戸惑いもあるので、もごもごとしてしまう。
「ほんと、なんなら私のパーティーに来て欲しいぐらい」
「そいつは駄目だ」
威嚇するようにハルノートが来た。
武勇伝話として彼も話題に出て囲まれていたのだが、抜け出せたのか。
「……あのときのエルフね。貴方には関係ないでしょう?」
「こいつと俺はパーティー組んでんだよ」
「へえ。でもやっぱり関係ないわ。優秀な人材を引き抜きしているだけもの」
「何がだけだ」
なんだか言い争いに勃発している。
困ってパキナさんを見るが、羨ましがれるだけだ。
ビビさんにパーティー来て欲しい発言でらしい。
助けてくれる人はいない。
結局、私は止められることはできなかった。
ハルノートに引きずれる形でなぜか酒場から出ることになる。
過度に酔っぱらった人にロイが何かされてしまうことを考えると時間的にいい頃合いではあるが。
でも彼的にはどうなのだろうか。
「もうお酒はいいの?」
「まだ飲みたりねえが、絡まれるからな」
うんざりとした表情である。
確かに冒険者のハルノートへの絡みようは凄かった。
「でも、いいよね。こういうのは」
皆で騒ぎ、わいわいするのは楽しい。
亡くなってしまった方も、治ることのない怪我が残ってしまっている方もいるので不謹慎なことかもしれない。
けれど、そんな人だって喜びを分かち合うことは許してくれるはずだ。
ハルノートも「まあ、そうだな」と肯定してくれた。




