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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
母の元へと向かう旅

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ブレンドゥヘヴン 後編

「っ魔力が膨れ上がった!」


 チェイニー様がつくりだす極大魔法は完成が近かった。

 だが術者の手から制御が外れかけていて、補助の役割を果たす魔方陣がバチバチと光が弾けて暴走している。


「あいつ、こっちにくるぞ!」


 ブレンドゥヘヴンは危機を察知した。

 ミンセズさんを筆頭とする冒険者が意識を引き寄せようとするが、敵は鬱陶しいというように翼で凪ぎ払う。


 魔法使いは青ざめる。

 後衛なので、チェイニー様の近い場所にいるからだ。

 私とハルノートも例外ではない。

 怪我人も大勢いる。

 命惜しい者は既に逃げていた。


「おまえでいいっ、あそこにある俺の弓とってこい。速くだ!」

「は、はいいいっ!」


 ハルノートは近くにいた人に言い、次は火の魔法使いにターゲットを絞りこんだ。


「どんな魔法でもいいから火を出せ!」

「な、何よいきなり……」

「言う通りにしろ!」

「あーもうっ!」


 詠唱省略を用い、ポンッと火が出た。


「もっと強い火にできねえのか」

「なんでこんなことに魔力を消費しなきゃならないのよ!」

「私がやるっ」


 魔法で火に風を送り込む。

 魔力回復薬によって魔力は全快目前だったので有り余っていた。


「矢、持ってきましたぁ!」

「ハルノート、もうそこまで来てるよ!」

「くそっ、間に合うか……。炎の精霊よ、俺の声に応じろ!」


 魔法で作られた炎の近くに赤の光が灯った。

 これが精霊。

 雨のせいで元気はなく淡いが、神秘的を感じる存在であった。


 ハルノートは弦に矢をつがえ、キリリと引いた。

 空にいるブレンドゥヘヴンを見据えている。

 狙いは目か。


「こんなの当たるはずないわ!」

「いいや、当たる」


 汗か雨か判別できない液体が顔から滴り落ちた。

 睨み付けている瞳は炎で赤く染まっていて、彼の気性を表しているようだった。

 雷雨という最悪のコンディションなので、私は「サポートする」と申し出た。

 一言、「任せる」と返される。


 魔法を構築する。

 ブレンドゥヘヴンはチェイニー様しか見ていない。

 精霊はハルノートの意思を汲み取って、炎と同化して矢に宿った。


「射つぞ」

「いつでも」


 射った。

 私は軌道、速度を考えながら援助する。

 矢は爆発的にごうごうと燃え盛っていった。


「命中した!」


 私達の様子を見ていた者は歓声を上げた。

 ブレンドゥヘヴンは急所を射られ、瞳と同じ血を流し出した。

 悶え、苦しむ。

 雷が激痛に反応して、雷が乱れ落ちた。

 肌からチクリとするのを感じるより先だった。


 咄嗟に耳を塞ぐも、轟音が押さえる手の隙間を通して轟いた。

 耳鳴りがして、耳が機能しなくなった。

 私はそのことに意識がもっていかれた。

 だからしゃがみ込むのが遅れ、雷が直撃した。


 懐に入れた守りの護符が発熱した。

 これで残りは一つ。

 最初の一枚は、治療した前線に向かう人にあげてしまっていた。


 私の近くにいた他の者も、地面を伝って感電していた。

 だが動けないような状態ではない。

 雷の衝撃で倒れそうになった私をハルノートは支えた。


「……まだ」


 そう、まだだ。

 ブレンドゥヘヴンは目を貫いただけでは死なない。

 それに己を脅かす極大魔法を忘れてはいなかった。


 耳がまだ完全に機能していないので、周りの者が何かを言ってることは分かったが内容は理解できなかった。

 ハルノートなら「馬鹿!」と罵っていそうだと思いながら、私は自分で立ち、チェイニー様の元に駆け出した。

 見過ごすことはできなかった。



 敵は体全体に雷を帯びた。

 そのまま攻撃しようという魂胆は、長い戦闘の中で何度かやっていたので分かりきったことだ。

 だから振り切ろうとする翼に対しメイスを持った冒険者が迎え撃ち、攻撃の方向をそらす形となった。


 だが、ブレンドゥヘヴンは図体がでかい。

 衝撃波がきた。

 私は魔法を使用し耐えきったが、極大魔法の魔法を構築していた三名は吹き飛ばされていた。


 五名の補助の者がいて暴走しており、制御できていなかったのだ。

 三人減ってしまえばどうなるか、簡単に予想がついた。

 私はチェイニー様のところにようやくたどり着いた。

 魔方陣に足を踏み入れる。

 自身の魔力が強制的に吸いとられた。

 私は注がれてしまった魔力によってさらに暴走してしまわないよう、まずはなるべく魔力を奪われないようにした。

 そして私自身、極大魔法の制御に加わる。


「何よあなた! 邪魔する気!?」

「違います。私は助けにきたのです!」

「冒険者が? あなたになんか無理に決まってるわ!」

「そんなこと言ってる場合じゃありませんっ。このままでは本来の魔法の性質から外れて爆発する!」


 最後には敬語も忘れ、私は叫んだ。

 もうその傾向は出ているのだ。

 チェイニー様は腕が服ごと焼けただれていた。

 他の三名も似たようなものだ。


 言われなくても分かっていたことを言われ、チェイニー様は顔をしかめた。

 私が抜けた三人分の魔法の制御をしていて話せる状態だが、これでもギリギリなのだ。

 手元が狂ったら、今にも暴走し爆発しそうになる。

 それにブレンドゥヘヴンがいるのだ。

 速く完成なり、魔法を安全に放棄しないと大勢の死人が出る被害となる。


「……魔力が足りないわ」

「私が提供します。多分足りる、はずっ」

「嘘だったら、死んでも許さないんだから!」


 そのときにはもう、チェイニー様も共に死んでいるはずだ。

 まあ、どのようにして許されないのかは考える余裕はない。

 私は自分の意思で魔力を注いだ。

 ブレンドゥヘヴンを命懸けで止めてもらっている冒険者の為にも、極大魔法を完成させなければ。



 こんなに巨大な魔力を扱ったことはない。

 プレッシャーのあまり息がきれる。

 だが心に占めるのはそれだけでなく、極大魔法に携われる高揚があった。


「―――力よ、君臨せよ。抗う敵はここにいる」


 詠唱は魔法の補助なので、暴走している状態から安定した。

 そしてどうしたら魔法が完成するのか、道筋を示してくれる。

 チェイニー様は苦しそうだった。

 一人構築しながらのことなのだから抑揚があったが、意思の通った力強い詠唱だった。


「破壊をもたらす者を押さえろ」


 魔法を補助する者がミスをして、私はすぐさまフォローした。

 安定した状態で小さなミスなら、まだなんとかできる。


 ブレンドゥヘヴンが足掻きに足掻いて、冒険者から大きな傷を受ける代わりに一際大きな雷を落としてきた。

 狙いは分かっている。

 私はチェイニー様を庇った。

 守りの護符は全て失うことになった。

 だが、それだけだ。


「堅く重き鎖で縛り付け、地に堕とせ!」


 極大魔法が発動した。

 どんな魔法かは目で見て明らかだった。


 ブレンドゥヘヴンは天空を支配する者ではなくなっていた。

 縫い付けられるようにして、地面に横倒れになった。


「これは……」

「重力魔法よ。どう? 恐れおののいた? 人間だったら抵抗できることなく潰される程の力よ。ブレンドゥヘヴンでも内臓は潰れてるんじゃないかしら」


 チェイニー様は口ではしれっと言ってるが、極大魔法を公使してへとへとである。

 私もであるが。


 それにしても重力魔法といえば、古代魔法ではないか。

 人生で二度目のことに興奮が高まった。

 前半の詠唱さえ聞いていれば、これからの戦闘に扱えた。

 いや、でもこの魔法には繊細すぎる魔力操作と私でも足りないぐらいの魔力が必要だ。

 とても戦闘に使えそうにない。

 だが、それでも私は惜しいことをしたなと思った。

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