勝てるかな
魔石拾いからハルノートは帰ってきた。
地面に落ちている分は既になかったようだが、交渉してきたのか手には二つ大きめの魔石を持っていた。
「ほら」
「わっ。魔石、二つともくれるの?」
「片方だけだ」
どうやら完璧な雷対策が欲しかったらしい。
この魔石で感電しないものをつくれという望みだった。
全くもって無茶を言う。
必要な道具は揃っていないというのに。
まあ、なんとかするのだけれど。
「ブレンドゥヘヴンが来るまでの残りの時間は?」
「あと一日二日だとよ」
私達は結構ギリギリだったらしい。
疲れたが、強行軍で来たかいがあったものだ。
雷対策として私がこの場で出来るものといえば、魔方陣を描くか魔法を付着するか。
雷魔法には詳しくないものの、無属性の魔法に雷の魔力を込めてしまえば、雷に特化した魔法となるだろう。
「魔力を留まらせる素材はある?」
「ない」
「なら、守りの護符を使うしかないかな」
防御魔法ならば長時間魔法を持続させなければならない。
私の手持ちでその素材といえば、ないよりはマシと大量に用意した守りの護符しかない。
魔力と親和性がある紙で作ったので、雨で濡れないようにしてもらう。
「魔法を発動させるのに、この魔石を使うだけでもいいけど……」
それだと捻りがない。
私は指先を切り、描かれている魔方陣に血で雷の要素を加えていく。
専用のインクとペンがないので仕方ないが、紙に傷を押しつけることとなり痛い。
魔物からの攻撃で痛みには慣れているので、泣き事を言うほどではないが。
「できた」
一つ目の完成である。
私の血のせいで呪われそうな見た目だが、効果は雷の耐性に向上しているだろう。
後は魔石から雷の魔力を魔方陣に注ぐだけである。
これを何回か繰り返した。
魔方陣に込められる魔力は少ないので、一回限りで効力は失う使い捨てだ。
計六つの守りの護符ができた。
私とハルノートで分けるので、私は三つの護符をもつことになる。
守りは三回までだが防ぐ対策はできたが、血を使いすぎた。
魔方陣を描くために深く切ったので、手から血がだばだば流れる。
治癒はした。
だが血は戻らないので大人しくしていると、口は悪いままだがハルノートが気をつかってくれた。
周りの人から幼い子に何をさせてんだ、ということで責められていたからかもしれないが。
魔方陣を描いている最中、ぎょっとしたように見られていたらしい。
全部気付かなかった。
*
「死人も出るだろう困難な戦いにも関わらず、大勢の者が逃げずによく来てくれた。まずは感謝の言葉を送りたい」
冒険者ギルドからの代表者が言葉を送る。
お偉いさん達は冒険者達からよく見えるところに並んでいて、ギルドマスターであるミンセズもいた。
鍛えられた人にしか持てない、重たそうな斧を持っている。
道中で軽々と振り回しているのを、私は目撃済みである。
作戦を話された。といっても、人数が多いので細かい指示はない。
冒険者であるから、統制がないことは分かっているのだろう。
配置される場所や攻撃の合図など、大雑把に言われたぐらいだ。
それに加えて、もう一つのことも話された。
「この討伐には領主から援助してもらっている。その一環として、本日は領主のご息女がこの場に駆けつけてくださった」
「男爵家のチェイニー・オントルキンよ。貴方達は、私が極大魔法を放つ為の時間稼ぎをしてもらうわ。それまで、精々生きながらえるといいわね」
「……皆、粗相がないようにな」
魔法に対して自信がある、典型的な貴族の少女だった。
お偉いさん達でも扱いに困っているように見える。
先の作戦で極大魔法を放つなんて聞いていないので、きっと見た通りであろう。
「あんなやつが極大魔法を打てる訳がねえ」
ハルノートが吐き捨てるが、私も賛成なところだ。
貴族であるから、秘蔵されている極大魔法の詠唱を知ってはいるのだろう。
だが、それを扱うには並外れた技術がいる。
「でも、嘘じゃなかったら心強いね」
なにより羨ましい。
私は情報がないせいで上級までしか魔法を使えない。
極大魔法を打ってみたい。
一魔法使いとして、切実に思う。
話が終わり、冒険者は噂をたてていた。
内容は先程の貴族の少女についてが多い。
お高くとまっているとか、冒険者のことなんかなんとも思っていないとかだ。
不評のようである。
確かに雨と雷を完璧に防ぐ天幕に籠っていたら、何か言いたくなるなる気持ちは分かるが。
冒険者は雷を防ぐ結界内にいるだけだ。
山から遠吠えが聞こえた。
頭に響くような高い声だ。
後から来た私達は初めてだったが、元いた冒険者にとっては何度か聞いたものらしい。
ブレンドゥヘヴンの遠吠えが有力だ。
「……勝てるかな」
「さてな。追い返すことは出来るんじゃないか?」
ハルノートも勝つのが確実とは思っていないらしい。
「気楽だね」
「お前は不安そうだな」
「死ぬかもしれないもん」
「簡単に死んでくれるなよ。せっかくパーティーを組んだんだからな」
「でも今回はあんまり関係ないね」
私は魔法使い、ハルノートは射手だ。
配置されている場所が違う。
「……でも、私にはしないといけないことがあるから、死ぬ訳にはいかないよ」
「ロイのことか?」
「それもだけど。お母さんのところに行かないといけないの。私が勝手に行くんだけどね」
「ふうん?」
「まあ、私の旅の目的だよ。ハルノートはこの後行くところは決まってるの?」
「特にねえよ。色んなところを歩いてるだけだ。俺は里を出たかっただけだからな」




