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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
二人と一匹

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最悪の日 後編

 暖かな風だった。

 私を取り巻いて守る、強さをもっていた。


 首を締められていた手が風によって弾かれるように離される。

 重力に引き寄せられるままにドサリと落ちた。

 首を締められている感覚が残っている。

 酸素が足りない。

 必死に、精一杯息をする。



「お、かあ……さん?」


 息も絶え絶えの中、誰かが側にいることが分かった。

 視界は潤んでいて断言出来ないが、佇まいから母だと思った。


「おかあさん」


 掠れた声だった。

 大粒の涙が大量に溢れ出る。

 駆け寄り、抱きしめる。


「遅れてごめんなさい」


 謝る母に「そんなことない」と言おうとするが失敗する。

 しゃくりあげていて、上手く言葉で言えない。


「もう大丈夫よ。すぐに終わらせるから」


 そろそろと母の側を離れる。

 私が居ては、邪魔になってしまうからだ。



 リューを探す。

 すると片方の翼を必死に羽ばたかせながら、私の元に飛んできていた。

 見ていられなくなり、宙から落ちそうになったリューを抱える。

 傷を見て顔を歪める。

 私もどこかしら骨が折れていたり罅があると思うが、リューの傷は目に見えるため私よりも酷いものだと感じた。

 ギュッと大事に抱える。

 このとき、母は腰にあった剣を鞘から抜き、ダルガに構えていた。


「絶対に許さないわ」

「お前もそのガキと一緒に殺してやる」


 お互いに言葉を交わし、静寂が訪れる。

 勝敗は一瞬だった。

 母の姿が掻き消えて、後に残ったのは剣で斬られたダルガのみ。


 そして辺りに漂う独特の血の匂い。

 それは吐き気を催すもので、どんどんと血の海が広がるにつれて強くなった。


 *


 ダルガと一緒にいたもう一人の男――――ムノバは、足をもつれるように森の中を走っていた。

 木の根に引っかかって転びながらも、走るのは止めない。

 何かから逃げるかのように、ひたすら足を進める。



「なんで、なんで、なんで、なんでだよ!」


 どうしてこうなってしまったのか。

 森で巨大な蜘蛛の魔物に襲われて。

 紫色のまだまだ幼い少女に魔力で潰されて。

 少女の親らしい女の眼光に睨まれて。


 ムノバはあのままあそこにいれば殺されると分かっていた。

 だから同業者のダルガをおいて無様に逃げた。



 ムノバは冒険者だ。

 冒険者としての実力はCランクという小さい街では有名人になる強さで、さらなる名誉を求めて大きな街まで来た。

 けれどそこには自分達よりも強者がいた。

 悔しくて、どんなに努力しても強者の前には霞んでいた。


 そこから自分の性格は歪んでいったのだろう。

 暴力を振るったり女性を襲ったりして好き勝手に生きた。

 もうこれ以上、成長出来るほどの才能はないと気づいていたからだ。


 こんな森に来るんじゃなかった。

 ムノバは自分と同じような境遇のダルガとチームを組んでいた。

 自分とは違い、己の才能を未だ信じているダルガは、ムノバを引き連れて龍の住む森まで来た。

 皆が恐れる龍を倒してしまえば、誰もが羨む英雄へとなれると考えたからだ。


 そんな自殺行為ともとれる行動に巻き込まれることは嫌ったが、すぐに現実を思い知ることなるだろうと思い、助けが必要なになったら恩を売ろうと打算的なことを考えていた。

 だが、現状はどうだろうか。

 ただ死にたくないと無様に足掻く醜い人間以下に成り下がっている。



「もう冒険者なんて辞めてやる!」


 Cランクは決して低いものではない。D、E、Fと下には下があり、B、A、Sと上には上がいた。

 けれど上にいくにつれて人数は少なくなっていくのでランク的には高いほうだ。

 けれど今回のことでなけなしのプライドは完全に砕け散った。

 自分より年下の女そして幼い少女にまで恐怖し、逃げるなんて。


 これからは冒険者をやめ、まじめに畑を耕すのがいいかもしれない。

 そう考えていると、ムノバは周りの雰囲気がおかしいことに気付いた。

 やけに静かなのだ。

 これは覚えがあった。

 なにせ、今日同じことが起こったのだから。


 木々の隙間から細長い黒の脚が見えた。

 それは一本や二本どころではない。

 六本は確実にあった。

 巨大蜘蛛の魔物だ。

 逃した獲物を再び見つけ、今度は逃がさないと言う代わりに目を赤らめている。


「くそ、ほんと今日は運が悪い」


 視界が宙を舞った。

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