意気地無し
おじさんの護衛の終了ともなる町に到着した。
「さっさと行くぞ」
依頼達成の証明をもらったら、ハルノートの後について冒険者ギルドに行く。
身長さがあるので、歩むスピードが全然違う。
子どもの私とロイに配慮しないので、距離が空いた。
私はそのことを気にせずに小さな歩幅のペースで進むと、ムスッとしてギルド前にハルノートは立っていた。
「遅い」
待っててくれただろうか。
言葉では素直でない乱暴なものだが、性格は言葉ほどひどくないことは数日共に過ごしてきて分かってきた。
「ロイは外で待っておく?」
「ううん、主といっしょがいい」
「そっか。じゃあ私とリュークのどっちかから離れないようにね」
ギルドに足を踏み入れる。
じろりと見られる視線は未だ慣れそうにない。
だが視線はロイにも分かれているので、まだマシに感じた。
私はロイの分も受け止めるようにしながら受付の列に並ぶ。
「込み合ってるね」
「冒険者もだが、依頼人の数が多いな」
切羽詰まりながらも、受付の人に魔物の被害の報告をしているようで「なんとかしてくれ!」と叫んでいる。
冒険者同士が口喧嘩もしている人がいて、ギルド内は混沌としていた。
「次の方ー」
「はい」
受付台に背が少し足りていないのは、いつものことである。
完了した依頼の処理をテキパキとしてもらう。
「もうすぐ説明が行われますので、ギルド内でお待ちください」
おじさんが言っていた通り収集がかけられる。
それまでは倒した魔物の換金をした。
「山分けだろ」
「そんなに働いていないでしょう?」
「こいつを守ってやっただろ?」
「ハルノートは寝ながらロイを守ることが出来るんだ」
「バレてたか」
「リュークが教えてくれたからね」
「ガウー」
結局三対一の割合となった。
ハルノートの押し売りのせいで、私の取り分が少なくなった結果である。
後で全員分のご飯を奢ってくれるようなので、プラマイゼロかもしれないが。
高い食事にしてもらおう。
「おおい、話をするから冒険者はなるべくこっちに来い」
大きいとは言えないギルドの建物は、その言葉でより窮屈になった。
「噂になっているから、もう知っている者か多いだろう。四十年前も厄災をもたらしたブレンドゥヘヴンが、閉じ籠っていた山から降りてくると予想されている。隣町からはすでにその影響と思われる魔物の甚大な被害が出ており、我々がいる町も無関係ではない。皆にはその対処をしてもらいたい」
ざわりざわりとギルド内は騒がしくなった。
内容としては「やはりな」「噂は本当だったのか」という声が多い。
ギルド職員から説明されたことは主に二つだった。
一つ目はブレンドゥヘヴンのこと。
鳥形の大型魔物であるらしく、雷雲を伴うことで大雨と雷で深刻な被害を起こすらしい。
普段は山を居どころとしているのだが、四十から五十年を目安に目覚めると山から降りてくる。
現在はまだ籠っている山を中心として雷が鳴っている状態で、村や町への雨の被害は少ない。
だがブレンドゥヘヴンに追いたてられたことによる魔物の被害が大きかった。
二つ目は集められた冒険者の役割についてだ。
「Dランク以下は魔物の駆除、村の被害の復興だ。そしてCランク以上はブレンドゥヘヴンを討伐してもらう」
「ふざけんじゃねえよ! 出来る訳がねえ!」
「そうだそうだ! 俺らに死んでこいってか!?」
とある冒険者の怒りが爆発する。
それはそうだ、と納得する。
地上に足をつけて立つ者が、空を飛び天候を操る魔物を討伐しろと言われているのだ。
何百年前に現れてからずっと生き続けている魔物であり、国が派遣した騎士も壊滅状態にしているという生ける伝説を。
そんな魔物と私は戦わなければならないのか。
冒険者の義務だと言われればやるしかないが、きっと逃げてしまう人がいるのだろう。
死んでしまっては元の子もない。
「はっ、意気地無しが多いな」
「……なんだと」
そんな当たり前である反応をした冒険者に、ハルノートが挑発した。
何をやっているのか。
せっかく最後尾にいたのに、目立ってしまっている。
「Cランク以上にも関わらず、びびってんじゃねえよ」
ハルノートが嘲笑うと「このやろう!」と挑発に乗った冒険者の一人が掴みかかろうとして避けられた。
その後にもう一度馬鹿にしたように笑っていて、二人に増えて不躾なエルフに殴りにかかろうとした。
乱闘である。
「たすけなくていいの?」
「自業自得だからね。それより危ないからこっちに行こう。ほら、リュークも」
「ガウー?」
争いを止める者もいるが、乱入する者の方が多い。
一人の男がやられると、仲間が加わっていく。
「すいません、この子を暫く預かってくれませんか」
「え? ええ、いいわよ。けれどあなたはどうするの?」
「私はあの人のところにです」
一応パーティーを組む予定の人ではある。
面倒ではあるが、止めに行くことにする。
ロイは離れて避難していた受付の女性にお願いし、転がっている冒険者を踏まないようにしながらもハルノートのところへ。
喧嘩をしている以外の者は、迷惑そうな人、面白そうな人、慌てている人、静観している人といった様子である。
「この野蛮なエルフめ!」
「ならテメエは弱虫だ!」
「死ぬのが嫌なのは当たり前だろうがっ」
「なら、冒険者なんかやってんじゃねえよ!」
ハルノートは殴ろうとするので、私は拳の前に結界を張る。
衝突する前に気付いたようだが勢いは止められず、不快な表情をした。
「ハルノート、もう止めよう?」
背の低い私を見下ろされる。
それだけで圧を感じるが、慣れたものなので臆さず目をそらしたりしない。
「……ふん」
「なんだよ、ガキの言葉で止めちまうのか?」
「興が冷めただけだ」
意地悪く頬を上げるのを、自分の目線で窘める。
ハルノートの実力と美貌で仲間がいない理由が、この一件で私は分かった気がした。




