におい
ティナンテルは母の元へ向かう旅先の方角にある。
場所はセスティームの街のように一泊して王都に到着するところではなく、辺境の地だ。
ロイを送り届けるまでの道のりはまだまだ長い。
なるべく速く到着させてあげたいが、魔物が沢山いるこの世界なので安全に進んでいくしかない。
慣れた手つきで魔法を構築し、魔物に風を放つ。
キノコに足が生えた魔物は柄とヒダの中間で分かれることになった。
だが、それだけではこの魔物は動きを止めない。
相手の魔物は頭を揺らしても、得意な胞子での攻撃ができないことに気付いた。
足をドスドスとさせ怒りをあらわにする。
そして私へと突進しようとするが、「ガウー!」と足に植物が絡まったことで倒れこんだ。
「おじさん、キノコ好きですか? 沢山ありますよ」
「おお、くれるのか。それはありがたい」
柄だけとなった魔物は切り刻まれ、護衛の依頼人となる御者と共に食べることとなった。
依頼人はこの前親切に馬車に乗せてくれた人だ。
魔物が多くなっていく道で危険であるので出していた護衛の依頼を私は受けることにしたのだ。
低報酬であるが、ロイも同伴していいので、私にとっては良い仕事だ。
進むべき方角も合っている。
「……これ、いや」
「ロイ、好き嫌いしては駄目だよ。ほら、口開けて」
「ん~」
口元にもっていくが、ロイは嫌がる。
決して開こうとしない。
魔物のキノコは美味しい、というものではない。
そして不味くもない。
気持ち悪い足の部分ではないから、頑張って食べて欲しい。
「おじさんは沢山食べてるよ」
「ガウ」
「リュークだってまあ、それなりに食べてる」
「でも……」
「隙有り」
「んぐ」
口を開けた瞬間に詰め込む。
ロイは食わず嫌いだったようで、一度食べてしまえば小腹を満たす程度にその後もキノコを食べた。
魔物が多くなる道を進んでいるので戦闘の回数が多くなり、その度に止まることとなるので中々先に進めない。
私とリュークだけの護衛なので、戦闘に時間がかかることもある。
なので魔物避けとなるお香、では効果が薄いので、強烈な臭いを発する植物をリュークに頼んで魔法で出してもらう。
「うっ」
「強烈な臭さだなあ」
「ガウー……」
植物を出したリュークも呻く臭いである。
嗅覚が敏感なロイなんて、鼻をつまみ目を潤わせて泣きそうだ。
私は自分を含めて全員に風の魔法をかけ、臭いから守る。
もうすでに服からも臭うということで消臭すれば、皆元通りの様子になった。
臭い植物を馬車にぶら下げ、定期的に魔法をかけ直しながら私達は進む。
魔物は臭いに鈍いものしか襲ってこなくなった。
ここら辺の魔物の生息は鈍感な者が少ないので、軽快になった馬車はどんどんと進んでいく。
途中すれ違った人達から「なんだこの臭い」「くさっ」と呟かれるが、知ったものではない。
女として傷つくものだが、同様の者が二人と一匹いるのでそこまで気にしない。
「……あめのにおい?」
ロイはくんっと匂いをかいだ。
植物の臭いも一緒にかいでしまったようで「うっ」となっている。
私は空を見ると雲は黒い。
そしてその後、ぽつぽつと雨が降ってきた。
「まだいいが、雨が酷くなりそうだ」
「どうしますか?」
「どこかで雨宿りするしかないだろうなあ。といっても、どこにもなさそうだが」
「少し待ってください」
魔法で目の視力を強化し見渡す。
何もなければ、リュークに頼んで大きな葉を出してもらうことも出来る。
だが雷の可能性があるし、馬車の分も考えると魔力の消費大きいので避けたい。
「……見つけました。あの先に洞窟があります」
「じゃあそこまで馬車を走らせるか。お嬢ちゃん、乗りな」
「すみません」
魔物の反応が近くにないので馬車に乗る。
その瞬間馬車が動き始めたので、慣性によって「わっ」と後ろに倒れ込みそうになった。
だが間一髪リュークが助けてくれたので、怪我をするのは免れる。
予想以上に速く飛ばすので驚いた。
地球の馬と違いこの世界の馬は足の力が強いので、全力のスピードが速い。
ぐんぐん進んでいくうちに、あっという間に洞窟にたどり着いた。
私達と同じ目的で洞窟内にいた魔物は排除し、風を引かないようタオルでふく。
依頼人のおじさんは馬の分もあるので大変そうである。
体が冷めてしまうといけないので、焚き火の準備をする。
洞窟の入り口付近でならば、危険はないだろう。
落ち木は雨に濡れて使いものにならないので、リュークに頼んで木を魔法でつくってもらった。
小さめの木であるので、魔力の消費は少ない。
「あっ、その持ち方危ないよ」
「だいじょうぶ。主、しんじて」
ロイと協力しながら枝を切っていくが、ナイフを用いるのは初めてのようでハラハラする。
今にも手を切ってしまいそうだ。
私はナイフの持ち方を教える。
そうするとナイフを持つロイはさまになっていた。
だが子どもの見た目では、あやふやな印象ももつ。
昔の私もこんな感じだったのかと思った。
ざあざあと雨が降っていた。
雨は止む気配どころか、より激しくなっていく。
今日は先へ進むことは出来ないだろう。
日が沈むまでは時間があるので、依頼人のおじさんから手遊びを教えてもらいながら暇を潰す。
おじさんは子どもの心を掴むのが上手く、ロイは楽しそうにしていた。
「結界の様子を見てきます」
「すまないね」
「これも仕事ですから」
リュークにはロイの側にいてもらうとして、結界のところまで行く。
「異常はなし、と」
攻撃魔法ばかりを重心に鍛練してきたので、結界は不得意である。
一応結界を重ねがけして強固にし、魔物の襲撃に備える。
その際、風属性を結界に付着したくなるのは私の性だ。
その際、洞窟の外側に馬車にぶら下げて使用していた臭い植物を見かけて反射的に息を止めた。
だが雨が降っている間は匂いを発しない特性をもつことを思い出し、息を吐く。
自分で置いていたことをすっかり忘れていた。
この植物はまた雨が止んだら強烈な臭いをまた出してくれるので再利用するのだ。
この不思議な植物をどういう原理なのだろうと、私はしげしげと眺める。
そんなことだから注意が散漫となった。
だから私は「先客か」という声がするまで、男の存在に気付けなかった。




