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平成七年の彌縫録  作者: オヒョウ
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発生当日の事

 今朝、珍しく5時半頃に起きまして、震災物故者への合掌を致しまして、ふと思い立ちましたので。

 人の記憶は年月の経過と共に曖昧となる。

 体験していない事をも己の記憶であると誤認する事もある。

 これから記す事は私の記憶であるが、別の誰かの記憶であったかもしれない。

 今から23年前に私自身が体験し見聞した事である筈なのだが。


 平成七年(1995年)、一月十七日、未明。

 大阪府の東部にある自宅の2階にて寝ていた私は、不意に目が覚めた。

 何とも言えぬ音が聞こえたからだ。

 昔から寝坊助の私であるが故に、普段なら絶対に目覚めぬ時間なのに。

 コォォォともゴォォォともつかぬ篭った異音。

 後から、あれが地鳴りであったと思うのだが、其の時は何だろう?としか思わなかった。

 布団から上体を起こし、はてさて?と首を傾げていたら、其れがやって来た。

 下から突き上げられる立て揺れ。

 未体験の恐怖に身が凍る。部屋の彼方此方に積み上げられた小説や漫画の山がドサドサと崩れ、机や箪笥が嫌な音を立てて軋む。

 揺れた時間は一瞬に限りなく近い時間であったろうが、其の瞬間は意識の中で時間が止まっていたような感じだった。

 足の踏み場の無い部屋を出て1階に降り、テレビをつけるも放送前の時間故に何も映らない。

 確か当時のテレビ放送開始は朝六時からだったと。

 幾つかのチャンネルを回している内に、何処かのチャンネルが真っ暗な町並みを映し出した。

 放送局が何処かのビルに設置したお天気カメラの映像だったのか。


 YouTUBEで「阪神淡路大震災」「当日」で確認すると、関西の民放が地震発生時に生中継していたスタジオの混乱する状況の映像や、発生三十分後にNHKのアナウンサーが被害状況を伝えるニュース映像がアップされている。


 しかし、私が覚えているのは、真っ暗な町並みを映す画面の上部に死傷者○名のテロップがあった事だけだ。

 最初は数名だったと思う。

 やがて其の数字は11名となり、加速度的に増えて行くのだが。


 六時頃になり、親父から電話があった。

 当時、天王寺の寺が大規模な改築工事をしており、親父は工事現場の一角に立てたプレハブで寝起きしていたのだ。

 家電話に親父が掛けてくるまで、私は離れた場所に住む親父と連絡を取るといった基本的な事すら頭に無かった。

 今のように携帯・スマホが普及していれば兎も角、普及以前の当時である。

 電話は今よりも身近でありながら、身近ではなかったのだ。

 親父は無事であるとの事、工事現場に特に被害は無いとの事、私は己の無事を伝えるだけで精一杯であった。

 何かあれば又電話すると言って電話は切れたが、次に電話が繋がったのは翌日の朝であった。

 電話回線がパンクし、不通状態になってしまったのだ。


 親父の電話に触発されて境内・屋内を見回る。

 本堂の湯飲みは一つだけ倒れていたのみで、後の二十個ほどは倒れていなかったが、中の水は全て零れていた。

 どうやら立て揺れの所為で、湯飲みがジャンプさせられた際に零れたようだ。

 扉の歪みも無く(後に歪みが出たが)一通りの安全を確認した私はテレビの前に戻った。

 死傷者の数字が三倍くらいになっていた。

 其の日、私は夜になるまでズーッとテレビの前から離れず、食事も夜になってから少し食べただけだった。

 夜が明けて、被災地の惨状が克明に伝えられるようになり、最初は大した火事でもなかった神戸の街があっという間に大きな火焔に包まれていた。


 私は腰が抜けていたのだと思う。

 何故なら、前日の午後から夕方にかけて、三宮駅を利用して神戸方面へ檀家参りに行っていたからだ。

 震災発生の当日は、西宮と宝塚へ檀家参りの予定だったからだ。

 半日ずれていたら。数時間ずれていたら。

 私は瓦礫の中に、火災の中にいたのだと、理解したからだ。

 誤字脱字は見逃して下さいませ(平身低頭)。

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