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みつばものがたり  作者: 七沢またり


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第八十三話 宴は続くよいつまでも

 大輪暦588年、5月。お花見が一度もできないまま5月になっちゃったよ。春の素敵な花々も緑が混ざり始めてるし。大統領のお仕事って公私の区別がほとんどないから、毎日があっという間に過ぎちゃうんだよね。というわけで、大統領権限発動により今日はお忍びで、首都ベルの視察を行うことにした。市井の様子を直接見聞きするのも大事なことだからね。実際はただの散歩なんだけど問題なし。

 私は普段着に質素なフードを被って、出来る限り目立たないようにしている。特徴的な白髪は目立たないようにしっかり格納だ。呪われてそうな髪と顔を見られたら一発でばれちゃうから仕方ない。

 

「で、私の警護はアイク国家保安庁副長官とその手下の皆さんですか」

「……はい。国家主席が気軽に散歩とか本当に勘弁してください。わざわざ閣下が街に出向かなくても、こっちで始末しますんで、何かあったら俺――ではなく私の首がなくなります」

「はぁ、そうですか。一応気をつけますね」


 頬に傷があり、しかも人相が極めて悪いアイクさん。どうみてもゴロツキやら強盗にしか見えないんだけど、実力はジェロームさんお墨付き。粛清乱発のせいで人材不足だから、使える人間は怪しくてもドンドン採用して、能力があるならグングン昇進させちゃうよ。


 ほかにも、ガスパール・プロテウスさんという科学者兼元徴税官さんが新規採用されてるよ。王党派有力貴族の縁者で不正徴税疑惑を弁解できずに、サンドラに粛清される寸前で助かったらしい。ジェロームさんの口添えで救われたから、彼には一生頭が上がらないだろう。

 曰く、世渡りが死ぬほど下手だけど真面目で頭が凄く良いから、首を落とすのはもったいないんだって。で、国の発展のために科学技術院を新設し学院長に据えましたと、後から聞いた。勝手にやりたい放題でとても素晴らしい。もしかしたら適当にサインした申請書にあったかもしれないが全然記憶にない。

 名前は立派だけど、建物はどこぞの屋敷を再利用しただけなのでそんなに経費はかかってない。学院長にも積極的に研究にいそしんでもらうらしいし。なんにせよ、私の共和国に科学者は必要だから問題なし。ニコ所長の共和国魔術研究所は兵器研究が主体になっちゃってるから、それとは違う形で頑張ってほしいね。


「……しかし、閣下自ら街に繰り出す必要がありますかね?」

「ええ、ありますよ。散歩は名目で、国民の皆さんがどんな感じで日々を暮らしてるか興味があります。最近ヤバい目で万歳してる姿しか見てないんで。生の声が聞きたいんですよ」


 実はあれは全員動員したサクラでしたとか悲しいよね。独裁者の末路って大抵悲惨だし。いきなり反乱とか起こされたらしょっぱい結末になっちゃうからね。どう終わるにせよ、派手にやらないと。


「……分かりました。変装した私の手勢が至近距離を守り、周囲も親衛隊で固めさせてます。しかし危険因子全てを排除はできません。いざとなったら、荒っぽい手段を取りますのでご容赦ください」


 確かに、怪しそうな人間が目に付くところに沢山いる。しつこく聞き出したところ、手下の皆さんは元暗殺者でアイクさんはその元締めだったとか。お偉い貴族さんの依頼を受けて、色々と悪事を重ねていたらしい。蛇の道は蛇ということで、ジェロームさんが丸抱えだ。というか何度も依頼してたお得意様だったんじゃないかなぁ。

 まぁ、怪しいどころか本当の犯罪者だったわけだけど、今が大事だから特に私は気にしないのであった。真面目なサンドラに聞かれたらサンドラリストに名前が載るので黙っておいてあげよう。大統領は空気が読めないとクーデターを起こされちゃうからね。


「天気も良いですし、できれば平和なお散歩にしたいですけどね。それもこれもガンツェルさんと特務師団の頑張りの結果次第ですけど」

「…………」


 お散歩とか市井の調査とか言ったけど、実際は首都に残ってる緑化教徒残党絶滅確認ツアーです。お仕事をサボってカビを討ち漏らしてないか厳しくチェックしちゃうよ。

 ガンツェル少将のお手並み拝見ということで、首都の隠れ緑化教徒を探し出して殲滅しろと命じてたんだよ。私が出張ったときに、うっかり選挙演説中でしかも褒め殺し最中だったら本当に危ないので安全策だね。ちなみに武器は短銃だけ持ってきた。一応念のためにね! うっかりぶっ放さないよう注意しよう。誰もいなかったら楽しい買い食いツアーに変更だ。アイクさんたちと遅いお花見でもするとしよう。

 

「あ、そういえば。今の私達って、親子に見えるんじゃないですかね。ほら、何人も殺してそうな父親と愛想のないグレた子供みたいな。どう思います?」

「…………いや、どうなんですかね。私には分かりませんが」

「折角ですし、お父さんって呼んだ方がいいですか?」

「……本当に勘弁してください。本当に」


 アイクさんがダラダラと冷や汗を流し始めたので、勘弁してあげることにする。そんな感じでどうでもいい無駄話を一方的にしていたら目的地に着いちゃった。


「うーん、人が大勢いますね。まさに首都って感じです」

「……閣下が勝利してからは毎日こんな感じですな。食料も大体行き渡って、皆ようやく落ち着いたようです。……一時期は取り合いの様相だったのが嘘のようで」


 最初は首都ベルの一番大きな市場に来てみたよ。王国時代とは違い、なんだか明るい空気が漂ってる気がする。皆の顔には笑みがあるし、喧騒と言ってもいい感じに騒がしい。前に来た時は、こんな感じはなかったはず。贔屓目かもしれないが、賑やかで大変よろしいことである。

 やっぱり首都なんだから大いに賑わってないとね。大統領の頭がおかしくても、国はなんとかやっていけるってことでもある。それを支える人は大変だと思うけど!

 

「良い感じに賑わってるのはしっかり確認できましたね。肝心の治安の方は大丈夫なんですか?」

「……ウチと首都警備隊が厳しく掃除してますので、今は反革命的な動きはほぼありません。それでもやらかす救えない馬鹿は、見せしめも兼ねて宮殿前広場でギロチン処刑を行っております。元王党派やら山脈派残党も、今ではすっかり牙を抜かれて大人しいもんです。煩いのは新聞社ぐらいです」

「なるほど。アイクさんの頑張りはジェロームさんとサンドラにしっかり伝えておきますから。お給料が上がりそうですね」

「……いえ、本当にお気遣いなく」


 良い天気で暖かいのに元気のないアイクさん。どうにも私と一緒にいるとテンションがあがらないらしい。裏稼業をしていただけあって、私の本質を見抜いている。いざとなったら直ぐに逃げを決断できる長生きできそうなタイプだ。いつ着火するか分からない呪い爆弾と一緒になんて誰もいたくないしね。良い仕事仲間にはなれても、お友達にはなれなさそう。残念だけど仕方がない。

 ――と、市場をぶらぶらしていたら、一際賑わいを見せている一画がある。そこに目的もなくふらふら近づいて耳を傾ける。

 

「なるほどねぇ。これがミツバ様の全財産なのか。って、土地どころか金も全然ないじゃないか。ブルーローズ州の立派な屋敷があっただろうに」

「土地、屋敷共に現在は国の管理下となっています」

「私が言うのもなんだけど、もっとあってもいいんじゃないかねぇ。あんなに働いてるのに」

「ミツバ様は決して私腹を肥やさないと宣言されています。毎月、私有財産を公表されているのは公約を守るためです。また、大統領職の報酬についても、必要最低限を受け取り後は国庫に返納されています」

「私たちのことを第一に考えて、率先して倹約されているんだろう!」

「本当に、まだ若いのに大した方だねぇ。どこぞの馬鹿貴族とは大違いだよ!」


 青色の軍服に身を包み、ミツバッジを胸に誇らしげにつけている、真面目そうだが、どうにも目がヤバい若い男。何やらチラシを配っており、それを受け取った人々がそこに集まってガヤガヤとひたすら騒いでいる。チラシに目を向けると、現在の共和国の政策についてやら、私の今月の私有財産についてやらが適当に書いてある。


「なんですか、アレ」

「……アルストロ長官肝いりで創設された、共和国政治指導委員会の委員です。政治が分からない迷える人々のために、助言を与えるのが役目だそうで。首都だけでなく、地方の市や村にも選抜された人間が派遣されていますな」

「そんなの全然初耳なんですけど」

「……アルストロ長官が計画を申請し、閣下が裁可されたと聞いております。……申請書は私も確認しておりますが」

「……あ! そういえば思い出しました! ええ、私がしっかり裁可しましたね! ちゃんとばっちり見てますよ!」

「…………」


 疲れていたから全然覚えていない。いつの間にかサインしていたらしい。やはりもっと注意しないと危ないというのが分かった。でも私の分身は現実には具現化してくれないので、どうしようもないね。これからもワンオペで頑張ろう!

 

「で、確認ついでに聞きますけど、委員会の委員長は誰なんです? また新しい人を見つけたんですか?」

「……いえ、アルストロ長官が兼任されております」

「うわぁ。流石に兼任しすぎですよね」

「……そう申し上げましたが、このような重大な役目は他の誰にも任せられないと張り切っておられましたな」


 国家保安庁長官兼、難民大隊司令兼、国立義務教育所所長兼、共和国政治指導委員会委員長である。しかも国民議会議員でもあるし。そのうち過労死するんじゃないかな。絵を描いたりバッジ作ったり訓練したりいつ休んでるのか分からない。私に負けない頑張り屋さんである。

 

「ミツバ様と共和国は不正な政治は許しませんし汚職も決して見逃しません。もしもそのようなことを見聞きしたら、直ぐに政治指導員か憲兵に報告してください。必ず調査し処罰します」



 私の『国民の母は決して私腹を肥やさない』、『不正な政治は許しません』という適当な人気取り政策について説明しているらしい。土地、家、芸術品とかには特に興味がないので、財産を持つ意味がない。美味しい食事は宮殿で食べようと思えば食べられるし。ついでにお給料は返しても、必要な衣装とか物品は経費で落として買っちゃうし。馬鹿な商人や議員がたまに賄賂っぽいのを贈ってくるけど、全部公表してから国庫行き。国がお家みたいなものだから、お金を貯める意味をさっぱり見出せないのである。でも私の後任は苦労するかもね!


 で、『不正な政治は許しません』は、サンドラ議長が頑張ってるから私はほとんどノータッチ。贈収賄で私腹を肥やそうとする元上院議員さんや汚職役人の皆さんはだいたいギロチンに送ったからね。今はほとんどいないよ! 富裕層に厳しく貧民層に優しいのがサンドラの基本的方針だし。


「それで、結局俺らは選挙でだれに投票すればいいんだい。俺は頭が悪いから、難しいことは分からねぇ!」

「そうだそうだ! どうしたら国がもっと良くなるのかさっさと教えてくれ!」

「それを自分たちで考えて判断するのが、自由で公平な選挙というものなのです。革命により、貴方たち国民が血を流し命を懸け勝ち取った、極めて重要な権利です。今は難しいかもしれませんが、責任を持って自分で考えなければなりません。ミツバ様もそれを望んでおられます。そのための20年という期間なのです」

「でも、私はミツバ様のお力になりたいんだよ。あんなに小さいのに頑張ってらっしゃって。私はいてもたってもいられないよ!」

「それでしたら、ミツバ党から公認されている候補者に投票すると良いでしょう。ですが、ミツバ様支持でも派閥によりその考えは多種多様です。これから派閥ごとの考えを簡単に説明しますので、自分が支持したい派閥の候補者を検討してください。もちろん、これも一つの見方ということであり、貴方がたの行動を縛るものではありません」


 バッジを見るにミツバ党党員らしいけど、言ってることは一応まともに聞こえる。多分サンドラの革新派かな。結果的にミツバ支持を増やすことに繋がっているから、次の選挙はミツバ党の圧倒的勝利になりそうだね! 対抗できそうな党が一つもない。シーベルさんの大地党は地味で影が薄いし、旧山脈派も実力のある人は全員墓の下。旧王党派なんて正直に名乗ろうものなら袋叩きに合うだろうし。出来あがるのはミツバ党と諸派って感じかな? 共和国に大政翼賛会が完成するよ。軍靴の音が鳴り響いてそうで超怖いね! ――と、適当に怖がっておくとして。


「なんだかんだでアルストロさんは本当に頑張ってますね。ちょっと前まで腐敗上院議員だったのに、いつの間にか一皮むけてたんですねぇ」


 それが良いかどうかは別として、吹っ切れているのは間違いない。窮地でも絶対に裏切らないのは誰でしょうと聞かれたら、アルストロさんかなと答えられそうなくらいに忠誠度100。頭がおかしいのが難点だけど替えは利かないね!


「……今のお言葉を直接お伝えいただければ、感激して当分は飲まず食わず寝ずで働かれるでしょう」

「それは死んじゃいそうですので、無茶しないよう釘をさしながらにしますか。最初はアレでしたけど、今は信頼できる人ですからね。雑用を任せられる係として替えが利かないですよ」


 そんなことをアイクさんに言っている間にも、政治指導委員の教育は続いている。耳を傾けようと、人々はどんどんと集まっている。 今まで抑圧されていたから、知識はなくとも政治に興味があるのだろう。しかも共和国は上向き状態だから、自分が国を良くするんだという意識も高まっているかな。頂点にいるのは大統領を名乗る独裁者だけどね。まぁハッピーになれればどうでもいいよね!

 

「自分の考えと一番近い候補者に入れるのが選挙の原則です。ですが、緑化教徒だけは絶対に許されません。彼らは素性を隠し立候補し、欺瞞を流して共和国を乱そうとしています」

「麻薬をばらまいて自爆するあの迷惑なカビがかい?」

「ええ。少しは知恵をつけたようで、ミツバ様支持を訴えながら、共和国を弱体させる政策を訴えかけてきます。例えば、軍事費を削減し皆さんの税金を廃止するなどと言う政策ですね。一見素晴らしく聞こえるかもしれませんが、そんなことをしたら私達は国を守ることが出来なくなります。他国から蹂躙され、国民は奴隷階級に落とされ搾取されるでしょう」

「そんなこと許せるか!」

「そうだそうだ! 俺たちの国をカビから守るんだ!」


 すぐに大きな掛け声が入ったね。あれは政治指導委員が動員したサクラかな? 細やかなところに気が利いてるから、これはジェロームさんの指導かもしれない。実に上手いやり方である。カビにうっかり同情とかされちゃうと困っちゃうしね。困るだけで殲滅はするんだけども。


「仰る通り、そのような愚挙は絶対に許されません。よって、緑化教徒は見つけ次第殺すべきなのです! 先ほどのような愚かな政策を訴える候補者がいたら、それは極めて緑化教徒の可能性が高い。近くの政治指導委員、憲兵、警備兵に至急報告をお願いします!」


 思わず拍手したくなるような演説である。というか全力で拍手してあげた。そうしたら全員気勢を上げて緑化教徒を捕まえろ、殺せの大合唱だ。うん、実に素晴らしいことである。この調子で政治指導委員の人には頑張ってもらおう。アルストロさんにジェロームさんはとても良い仕事をする。今度しっかり褒めて労ってあげなければ。ついでに手作りの勲章もあげることにしよう。三つ葉付き鉄十字勲章とか? なんか不穏な感じがするので、私が大統領の間はミツバ文化功労章とかでいいか。

 

「うーん、素晴らしいですね。まさかここまで頑張ってくれてるとは思いませんでした。私も思わず満足しちゃいました」

「……ありがとうございます。閣下のお言葉を受け、ジェローム大臣とアルストロ長官が打ち合わせて対策を練ったようで。政治指導員会の設置後、カビの検挙率は上がっております。棄教しない連中は全員ギロチンで処理しています。従うのは半々といったところですか」

「私は優しいから、棄教すれば本当は死ぬほど嫌だけど許してあげるんですけどね。カビは麻薬で頭がおかしいから、仕方がないです。広がる前にどんどん潰すのが肝心です。首都ベルから消毒して、全土に網を広げていきましょう」

「……承知しました」


 と、カビ臭い男がいたので、アイクさんに合図して親衛隊を向かわせる。政治指導委員に対して敵意を向けていたから直ぐに分かる。根絶するのは大変だけど頑張ろうね!

 



「や、やめろ。我々は正当に選挙活動をしていただけだ! どのような権限があって、我々を弾圧するのだ!」

「ミツバ様万歳! ミツバ様万歳! ミツバ様万歳!」

「この愚か者共、共和国は自由と平等と博愛を掲げているのを忘れたか! 我々は暴力になぞ屈しないぞ!」


 散歩中、なんか嫌な感覚があったので、ちょっと治安の悪そうな路地裏に入ったらこれである。貧しそうな人々や、目に力がない腕や足がない人々が自称ミツバ派の候補者の演説に聞き入っていた。『ミツバ様万歳、でも戦争は不幸を生むので軍事費は削減しよう、税金は不幸になるのでなくそう、不幸で貧しい人々に救いを与えよう、その一環として幸福で安らかになれる素敵な薬をいますぐ全国民に支給しよう! まずは皆様にお試しでどうぞ!』などと宣っていた。

 私が抜き打ちで鉛玉をぶっ放す前にアイクさんが指示を出し、直ぐに拘束して跪かせる。出来る男は仕事が早い。

 

「は、離せ! 言論弾圧をする気か! このような真似をして――」

「中々素敵な演説ですけど、本気でミツバ様を支持する気があるんですか?」

「あ、当たり前だ! ミツバ様は共和国の英雄だ!」

「そうですか。ちなみに、私がそのミツバです。この顔に見覚えはあります?」


 フードを脱いで顔を見せてやると、みるみるうちにカビ達が青褪めていく。


「――な、なぜ、お前がこんな場所に」

「貴方たち、緑化教徒ですよね?」

「ち、違う。我々は正当な政治活動を」

「別に嘘をついても良いですよ。私は臭いで分かりますので。その強情が、どこまで耐えられますかねぇ。全力で頑張ってくださいね!」

「や、やめろ! 私たちは善良な共和国国民だ! お前が大統領だからと言ってこのような暴挙は許されない!」


 拘束されたカビが唾を飛ばして怒っている。目障りで思わず全力で蹴り飛ばしたくなるが、それだと首の骨を折って楽にしてしまいそう。しっかりと苦しませないとね!


「いえいえ、消毒活動は暴挙ではなく国民の義務ですよ。いやぁ、散歩がてらにここに来て良かった。嫌な予感がしたんですよ。じゃあこれから生き残りを全部ばっちり吐かせるので、よろしくお願いします。それまでは、絶対に死ねませんから」

「あ、青カビ共め、必ずや神罰が下るぞ!! 青の悪魔共々地獄に落ちろッ!!」

「そういうのはもういいんで」


 ミツバ様万歳とかふざけたことを言ってやがったカビの頭を掴み、力を込めてやる。呪いが脳へと伝播し、地獄のような激痛と灼熱感を合わせたものが全身に浸透していく。

 

「ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ」

 

 虫みたいに面白い声をあげながら、身体が激しく痙攣し、白目を剥いた眼からは血涙がだらだらとこぼれ始めている。死んでそうだけど、意識はしっかりとあるから大丈夫。まだまだ元気元気。目玉は2個、手足も2本ずつついてるし、手の指もちゃんと10本ある。カビの身体や精神は麻薬でボロボロだけど、無意味に元気なのが唯一の取り柄だからね。

 これから人間が想像する超痛そうなこと全部、お前らに訪れると笑顔で予告してやる。もう絶対に逃げられないよ。

 

「ひ、ひいいいいいっ」

「次は貴方たちなので、心の準備をしておいてください。棄教して、残りの居場所を吐けば、本当は死ぬほど嫌だけど勘弁してあげます。でも、決して無理強いはしないので、遠慮なく意地を通してくださいね。私も存分に遠慮なくやるので」


 力を更に籠める。一人目のカビが痛みのあまり歯を食いしばりすぎて、派手に砕けてしまった。口からは血だらけの色々な物体が撒き散らされる。まだまだ元気に生きてるよ。麻薬の成分で誤魔化せないくらいに、脳髄へときっちり呪いを届けてやった。過激派の私が荒ぶっているので今日はフルコースだね。


「――か、閣下。後は私たちがやりますが」

「いえ、ここまで来たら久々に私が全部やるとしましょう。アイクさんは、ここの困ってる人たちを難民大隊本部へ連れて行ってください。しっかり援助を与えて、生活が立て直せるように支援を。他にも困ってる人がいたら全部連れて行くように。カビはそういう弱いところを狙ってきますからね」

「……承知しました。おいッ!」

「はっ。おまえら、全員ついてこい! カビはふざけた経典と麻薬しかくれないが、俺たちはたらふく飯を食わせてやる!!」


 そんな感じで人助けや害虫退治をしながら散歩をしていたら、旧下水道に潜んでいる緑化教徒残党を見つけることができたよ。地図から消されてたから見つけらなかったみたい。

 自ら司祭を名乗る偉そうな馬鹿がいたから、アジトなのは間違いない。しかも粗末な装備で抵抗してきたし。もう容赦する必要はないので、司祭以外全員呪いを与えてから麻薬や経典と一緒に焼却処分にしました。司祭は持ち帰って、地方の残党の居場所を吐かせてから処分することに決定。本日、世界で一番不幸な人になることは確定である。


 今日の楽しいお散歩でかなり潰したし、首都ベルの害虫退治も終わりかな? 司祭は残ってたけど、カビの数自体はそんなに多くなかったし。ガンツェルさんもそれなりに頑張っていたんだろう。サボってないようなのでちゃんと褒めてあげることにしよう。

 また増えないよう油断せず、きっちり見張らせるけどね。なんにせよ、もうすぐ実施される選挙でカビの演説は聞かなくて済むのは朗報である。やったね。

 

 一仕事終えてベリーズ宮殿前に戻ると、広場で激務のはずのアルストロさんと愉快な仲間たちが隊列を組んで盛大に合唱していた。国民たちもそれを取り囲んで合唱に参加しているし。

 本当に意味が分からない光景だったが、歌は上手だった。規模の大きな聖歌隊みたいで、ハモりつつ荘厳な感じが出ている。でも歌詞がまずい。私を超美化して神聖化したヤバい歌。歌わずに文章で読んだら、うへーと言い出したくなる奴。サンドラあたりが聞いたら、頭は大丈夫かと真顔で言うに違いない。

 

「予想は出来ますけど、なんです、アレは」

「……来月、6月6日は革命記念日であると同時に、閣下の誕生日でしょう。それを心からお祝いするためにと、難民大隊から有志を募り一日の終わりに練習されているようで。参加希望が多すぎて交代制になっています。今歌っているのは『神聖で偉大で美しい我らが母ミツバ様を、心より讃える歌』かと。他にも『ミツバ様が誕生された素晴らしい日を荘厳にお祝いする歌』、『ミツバ様讃頌歌第一楽章』、『英雄』などがありますな」

「……そ、そうですか。まぁ、好きにしてください。別に仕事をさぼってるわけではないですし。というか今更止めても止まらなそうですし。迷惑をかけないなら別に」

「……難民大隊だけではなく、政治指導委員を使って閣下を讃える歌を市井に広めようとしているようですが」

「それは絶対に止めてください。後世まで残る恥になります。私が命令して無理矢理やらせたことになるじゃないですか」

「……私も忠告したのですが、定められた『運命』とか言ってましたね。意味は分かりませんが、上司の命令ですので従うだけです」

「アイクさんはずるいですね。分かりました、政治指導委員会の件は褒めつつ、しっかりと注意しておきます。はぁ、散歩は楽しかったんですが、最後に疲れましたね!」


 6月6日は私の14歳の誕生日。前より少しは大きくなれたかな? あんまり実感はないけど、ちょっとだけ背は伸びた気はする。大人になった自分は全く想像できないところが悲しい所だ。国民の母と自称しているのだから、少しは大人っぽい女性を目指して頑張りたいものである。それをアルストロさんに美化して描いてもらえばいい感じになるのでは。……うーん、後世に良い感じに残すためにも、検討の余地はあるかもね!

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暴れん坊将軍より暴れているミツバ大統領、緑化教徒残党絶滅確認ツアー改め緑化教徒残党絶滅実行ツアーになっとる。きっと後の時代に、ミツバ大統領世直し旅ドラマとか作られるんだ。 「ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ…
更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 カビ掃除はこまめにやらないといけませんね
14歳の誕生日おめでとうかな?
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