第五十八話 革命前夜
ベリーズ宮殿に暮らす国王ルロイは、王妃マリアンヌ、王子マリスと楽しいひと時を過ごしていた。宮殿は食料、燃料の備蓄も豊富であり、大雪の影響など全く問題としていなかった。外の苦境は執事のモーゼスから知らされていたので、国民が苦しむことのないよう適切に対処するようにと指示は出した。それ以上、ルロイにできることは何もない。何かしたくてもできないのだ。国を動かす大臣の任命、解任はできるが、彼らが新しい政策や法律を作るには全て上院議会の承認が必要となる。上院の多数派はヒルード派と正道派。同じ七杖家でありながら、彼らは国王を助けるどころか、自分たちに都合の良い政策ばかり実行している。先日のプルメニアとの開戦も彼らが決定した。ルロイは生まれながらに傀儡となることが運命づけられていた。それを打破すべく、マリアンヌは孤軍奮闘していたが成果は芳しくない。
「マリアンヌよ。国民たちはさぞ苦しんでいるだろうな」
「……はい。ですが、この雪のおかげで暴徒が沈静化しているのも確かです。皮肉なものですね」
「余ほど国民から憎まれた国王がかつて存在しただろうか。実に情けない話だ」
「貴方は、民のために動こうとしていました。ですが、いつもあの者たちが邪魔を!」
「……余の意が通ることはほとんどなかった。議会制というものが、ここまで王権を縛るとは。父も予測できなかったのであろうな」
度重なるプルメニアとの戦争と和平。その休戦の最中、敵方プルメニアは軍の体制を変えてきた。各領主が戦のたびに兵を集めて参戦するのではなく、国軍としてある程度常備しておき、いつでもまとまった動きがとれるようにだ。ルロイの父、先代国王はこれを非常に危険視した。よって、周囲の反対を押し切って早期の軍制改革、士官学校設立、王国魔術研究所の設立などの大改革を施したのだ。今のローゼリアがあるのは、先代国王のおかげだが多くの禍根を残した。兵権を取り上げられ反発する貴族たち、度重なる増税で不満を蓄積する国民。彼らの怒りを鎮めるため、先代国王は議会制度を導入してしまった。意見を蔑ろにはしないと表明するためにだ。最後まで諫言していたのはピンクローズとブルーローズの当主だったか。精神を病む前のギルモア卿は特に反対していた。
議会制導入初期は、国王の権限は凄まじく、あらゆる政策、法律への拒否権が認められていた。だが、先代国王が倒れた隙を見計らい、イエローローズを中心とした連中が王権に制限を掛け、拒否権を廃止する法律を成立させてしまった。成立と同時に先代は死に、ルロイが即位した。最初から苦難の道をルロイは歩くことになったのだ。
「春になったら、確実に共和派が動くと大臣たちから聞かされた。早急に王都の軍備を固める必要があると。だが、国境の防衛を割いたら他国が侵入してくるのは確実だ。故に認められない」
「しかし、王都が乱れれば元も子もありません。それを見過ごすのは危険ではありませんか?」
「……………………」
ストラスパール戦役直後ということで、王都警備局、近衛兵程度しか王都ベルを守る兵は存在しない。自派閥のレッドローズ州兵は王都を含む周辺都市の治安維持のために散らばっている。まさか民が集団で牙を剥くなど考えてもいない。
「各国境に配置されているセルベール元帥、メリオル元帥、ビルロ元帥は話が分かる方々です。王都警備隊を率いるラファエロは独立戦争の経験があるとはいえ、兵が少なすぎます。せめて一個師団は王都に配備しておくべきではないでしょうか。国内での配置転換なら、議会の同意は必要ありません。……派閥間での折衝、譲歩は必要でしょうが」
「彼らにはリリーア、ヘザーランド、プルメニアを抑える重要な仕事がある。この苦境でも拮抗を保てているのは彼らのおかげだ。拮抗を崩せば、また戦争になるだろう。それはできない」
軍務大臣が『現在、まともに動ける師団はそれくらいである』と言っていた。他は給金を払えず、もはや形骸化しているとか。何より、率いるべき貴族たちが自分の土地に戻ってしまい、引き籠っている。彼らが何を考えているかは簡単だ。いかに自分の利益を守り生き延びるかということ。ローゼリアを誰よりも愛しているルロイには理解できないが、家族を守りたいという気持ちだけは分かる。
「……ミツバには、ギルモア卿のように各派閥の調整役を担ってもらおうと思ったのですが。いささか、見込み違いだったようです。申し訳ありません」
「ははは。そのように厳しい言葉はマリアンヌらしくない。ミツバが我々に敵対したというわけでもあるまい」
「それはそうですが。まさか、あそこまで独立独歩を歩むとは。ラファエロの説得にも耳を貸そうとしません」
「君が強く推すから推薦したものの、流石に若すぎたのだ。彼女はまだ12歳、とても政治を理解できるとは思えない」
「……いえ。状況を分かっているからこそ、身を引いたのかもしれません」
「だとしたら、やはりギルモア卿の才は引き継がれたということだろう。容貌は彼女の母ツバキから受け継いだようだからな」
昔を懐かしく思う。ギルモア卿とは、王になる前からの付き合いだった。マリアンヌとの結婚に反対されてからは、疎遠になってしまったが、良い友人だったのは間違いない。だから、彼が立ち直ればと思い、王魔研に色々と協力させた。必死の延命を図っていたのがミツバだったとは知らなかったが。上手くいった暁には、以前のように付き合えるかと思っていたが、急死してしまった。今でも残念に思っている。
「思いを馳せている場合ではないか」
ルロイは軽く息を吐き、思い出を断ち切った。今考えるべきはこれからのこと。このままでは、きっとよくないことになる。それは、才覚に欠けると自覚している自分でも分かる。ルロイは重々しく口を開いた。
「――マリアンヌ。君は冬の間、マリスと共に実家に帰ると良い。情勢が落ち着くまで、カサブランカで安らかに暮らしなさい」
「な、何を言い出すのですか!? 今私たちがそんなことをすれば、どうなるか!」
「いずれにせよ同じことだ。愚かな私にもわかることがある。国民の怒りはもう絶対に収まらない。怒りを鎮めるためには血が必要なのだ。それを察知した者たちは、既に他国へ逃げ出している。私も大臣からそれを勧められたよ。勿論断ったがな」
弟のフェリクスなどは混乱に乗じて国王の座を狙っているようだが、上手く行くとは思えない。たどり着く先は同じだろう。
「私だって断ります!! 私の祖国はこのローゼリア以外にはありません!!」
「君は私にはもったいないほどの利発で聡明な女性だ。私と結ばれたせいで、聞くに堪えぬ陰口を叩かれ、過酷な枷を負わせてしまった。心から謝罪する。……私は、いつも後悔していた。だが幸福だったのも確かなのだ。楽しく幸せな時間を、本当にありがとう」
ルロイが手を2回軽く打ち鳴らす。部屋の扉が開かれ、王都警備局隊長に就任したばかりのラファエロが兵を率いて現れた。全員が大きな鞄を背負い、長銃で武装している。
「……陛下。本当に宜しいのですかな?」
「カサブランカの大使には今後のことは伝えてある。そしてこの手紙を大公に渡してほしい。決して粗末には扱わないだろう。勿論、君や兵のこともお願いしてある」
「お気遣い頂き、感謝の極み。王妃様、王子様のことは必ずこのラファエロがお守りいたしますぞ!」
ラファエロが敬礼する。マリアンヌは兵の拘束から逃れようとするが、力が及ばない。強引にコートを着せられ、頭を覆うフードも被せられる。眠っているマリスの姿も見える。じきに太陽も落ちる。同時に出発すれば、邪魔は入らないだろう。
「あ、貴方ッ! 私もこの国に残ります! もし運命が尽きたというのなら、死なねばならぬというなら、私も一緒に!!」
「我がレッドローズ家は、ローゼリア建国以来、共に歴史を歩んできた。ローゼリアス王家正統の血は絶やしてはならぬ。君はマリスを守ってほしい。……君には秘密にしていたが、既にマリスに継承の儀を行なっていたのだよ。ははは、ギルモア卿の真似をしてみたが、意外とバレないものなのだな」
「マ、マリスに赤薔薇の杖を!?」
「さらばだ、マリアンヌ、マリス。もしも、大輪の神の思し召しがあったら、いずれ会えると思う。そのときは、また3人で一緒に花壇の花を育てようぞ。宮殿の庭一杯に、レッドローズの花を」
泣き叫ぶマリアンヌに笑いかけ、ルロイはラファエロに頷いた。信頼できる従者、護衛も全員マリアンヌに同行させた。無駄に死なせる必要はない。部屋には、ルロイと沈黙を貫いていたモーゼスだけが残された。
「爺。お前も行って構わなかったのだ。今からでも間に合うが」
「私が仕えるのは陛下のみ。そう決めておりますのでお構いなく。それに国王たるもの、道先案内人もなしではその名に傷がつきましょう。不肖ながら、この私が務めさせていただきます」
「…………最後まで、迷惑をかけるな」
「もったいないお言葉です」
ルロイの言葉に、モーゼスは表情を崩しながら、恭しく礼をするのだった。
◆
ブルーローズ別宅。最近の混乱のおかげで、ミリアーネは生きる活力を取り戻していた。やせ細っていた顔も、今ではもとに戻っている。息子の死を嘆く弱々しい未亡人としての振舞は、宮廷でも注目を集めている。それを利用して人脈も増やし、今では他国大使とも懇ろになっている。国の惨状とは逆に、ミリアーネは充実した毎日を過ごしていた。ミゲルの励ましもあったが、悲しみを乗り越えるには結局動くしかなかったのだ。
そんなミリアーネの前に、緑の装束の男がやってきた。緑化教会の司祭、カンパネロだ。皺だらけの顔には、神への信仰を喜ぶ表情はない。一見すると、ただの老人。だが、目の力だけは感じられた。そこから感じるのは、怒りだ。
「あらあら。司祭自らわざわざのお出ましとはご苦労なことね。それで、一体何の用なのかしら」
「……とぼけおって。貴様のおかげで、王都の緑化教は壊滅寸前だ。よくも我らを利用してくれたな」
「それだけのお金は渡したのだから、被害者ぶるのは止めてほしいわね。第一、神の力があれば、あんな餓鬼などひとひねり。貴方たちは確かにそう言っていたわ」
「……悪魔を見くびりすぎていた。緑化教本部の大司祭が急死した。神の代弁者たる大司祭の死により、緑化教会は混乱の極みにある。それもこれも、あの悪魔のせいだ。そして、悪魔をけしかけたのは貴様だ、ミリアーネ!!」
「笑わせないでちょうだい。あの呪い人形の緑化教徒嫌いは元々よ。大司祭様とやらだって、ただの不運が重なっただけ。私が何かを指図したわけじゃない。だって、あれを始末したいと誰よりも望んでいるのは私よ?」
一時期酷くふさぎ込んでいたミリアーネは、愛息グリエルの死後復讐を強く望むようになった。対象はもちろんミツバである。議員になったらしいが、そんなことはどうでもよい。望むのはむごたらしい死である。だから、緑化教徒に接触し、金を大量に投入してミツバを襲撃させた。結果はご覧の通り。悪魔の呪いというのは、狂信者の信仰すら寄せ付けないのだろうか。以前なら発狂して叫んでいただろうが、今のミリアーネは余裕を取り戻している。ミツバ暗殺計画は一旦保留状態だ。切り替えの早さは、イエローローズ家出身の特徴でもある。
「問答など無用。貴様には代償を支払ってもらう。貴様の死をもって仲間への弔いと神への償いとする。私と無残に死んでいった教徒たちは楽園に導かれるだろう」
カンパネロが、緑の装束をわずかにはだけてみせた。体には榴弾が大量に巻き付いている。紐を引けば即座に着火し、この別宅は吹き飛ぶだろう。当然ミリアーネも死ぬ。だが、この司祭は死ぬ気がないのは分かっている。一般の緑化教徒と違い、幹部級の緑化教徒たちは、ある秘密を共有している。それを、ミリアーネは掴んでいる。
「まぁ、待ちなさい。今死ぬのはもったいないわ。だって、貴方たちが信じる神への奉公の好機を逃すことになるのよ?」
「異教徒が我らの神を語るな! 貴族の命乞いが見苦しいというのは嫌というほど知っている!」
「スラムに潜んでいるなら、王都の状況ぐらいは知っているでしょう。春になれば、必ず共和派が決起する。王都は混乱の極みになる。国王にそれを治める力はない。それはなぜか。軍の主力は国境に張り付けだから。王都にかまっている余裕なんてないのよ」
ミリアーネはもうこの体制がもたないと見切りをつけている。だから、大事なミゲルを議会には出席させることを辞めさせた。病欠ということにしてあるが、実際は既に亡命済み。説得にはかなり苦労したが、泣き落としと言いくるめで最後には強引に納得させた。
その亡命先だが、同盟国のカサブランカや中立国ではなく、敢えてリリーア王国に向かわせた。アルカディナは失ったとはいえ、海洋の覇権は彼の国が握っている。ローゼリアと違い将来が明るい。手土産は、王魔研が開発した『新型砲弾』の現物と設計図だ。保管は非常に厳重だったが、ミリアーネの手配により副所長を脅迫して手に入れることができた。職務に忠実で買収には苦労したようだが、家族の命には代えられなかったらしい。ニコレイナスが頑なに存在を否定していた新型だ、その価値は計り知れない。いずれ、それが量産されてローゼリアに撃ちこまれようが、もう知ったことではない。そのときにはもういないのだから。
「だからなんだと言うのだ。我々には何の関係もない。それ以上囀るのは止めたらどうだ」
「私たち王党派は、その混乱に乗じて決起するわ。頭を挿げ替えて、やり直すのよ。軍の主力がいない以上、傭兵を入れられる私たちに分がある。でもまだ数が足りない。そこで、貴方たちの出番というわけ」
「戯言をぬかすな。何故我らが王党派の手助けをせねばならん!」
「ふざけてないわ。報酬は、貴方たちだけの土地をあげる。私のブルーローズ州の土地をね。そこを隠れ蓑にして勢力を増やせば良い。後は楽園なりなんなり、好きにしなさいな。私は手に入れた権力を使って、リリーアのミゲルの後援をした後で保護してもらう。その後のローゼリアがどうなろうと知ったことじゃないわ」
兄ヒルードはこの機に国王の座を奪い取ろうと画策している。軍から抜けた連中を傭兵としてかき集め、武器弾薬も必死になって集めている。ミリアーネも賛同して、志を共にする連中への工作を手伝っている。――表向きはだ。内心ではもう見捨てている。頭を挿げ替えようが何をしようが、この国はどうしようもない。何より、グリエルの死で、完全に見切りをつけた。今の望みは、ミツバの死と、自分とミゲルの栄達である。自分とミゲルが幸福なら後はもうどうでもよい。その踏み台となり全員死ねば良い。金と権力を握れるなら、ローゼリアだろうがリリーアだろうが関係ない。自分の家系を残すことが最優先だ。
「……貴様の言い分は分かった。が、裏切らぬという保証はあるのか。貴様が策を弄するのは嫌というほど知っている」
「緑化教徒を一時的に、私たちの家人として雇い入れましょう。監視役にするといいわ。私が裏切ったらその監視役に殺させなさい」
「…………」
「それにね。私、知ってるのよ。貴方たちの有力な後ろ盾にして、緑化教会の財源の麻薬の出所をね。まさか、緑化教会が、リリーアとクロッカスの飼い犬だったとはねぇ」
カンパネロが、腰に隠していた短銃を向けてくる。やはり自爆する気は欠片もなかったらしい。体に巻き付けているのは偽物の榴弾だ。
「どうして知っているかって? クロッカスの大使様とちょっと懇ろになってね。そこから聞き出したの。私が死ぬと、大使様が嘆くから止めた方がいいんじゃないかしら」
「この女狐め。大使を誑かしたのか!」
「向こうも私を利用しようとしたのかしらねぇ。まぁなんにせよローゼリアは混乱するでしょう。プルメニアはそこを突いて当然攻め込むわ。で、勢いに乗るプルメニアの背後からクロッカスが襲い掛かり、リーリアは海を渡ってローゼリアに攻め込むという裏協定。仲良く東西で分け合うつもりなのかしら。で、緑化教徒は約束の大地と信仰の自由を獲得すると。素晴らしい計画ね」
プルメニア帝国は、リリーア王国、クロッカス帝国とで三角同盟を結んでいる。だが、実際は不戦を約束しているだけで助け合うような仲ではない。リリーア、クロッカスからすれば、ローゼリアと死ぬまで戦い続け、消耗してくれるのが望ましい。そのお膳立てのようなものだ。最後には、疲弊した両国を左右から挟み撃ち。仲良く取り分けるというわけ。その後はどうなるかは知らないが。リリーアはアルカディナ再遠征を企てているフシがあるし、クロッカスは大陸統一を公言している。
「……………………」
「何か違うところがあったら、教えて頂戴。大使に聞きなおしてくるから」
「私の一存では返事はできない。一度、相談する必要がある」
「良い返事をお待ちしているわ。もう、そんなに時間はないでしょうし」
ミリアーネは、口元をゆがめた。きっと上手くいくだろう。王都の緑化教会は弱体化しており、カンパネロも見切りをつけざるを得ない。どこぞに潜んでいる本部に帰還するにせよ、手土産は必要となる。王都を搔き乱し、混乱の極みに陥れ、国王を殺したとなればカンパネロはさぞかし評価されるだろう。クロッカス帝国は、多神教を容認している。ゆえに、緑化教会が許容されても不思議じゃない。緑化教会の歴史など知らないが、死亡した大司祭とやらもクロッカスからの工作員に決まっている。哀れなのは純粋な緑化教徒だが、特に同情の必要はない。大多数が下賤な市民やら浮浪者だからである。
「面白くなるのはこれからよ。……グリエル、見ていなさい。まずは貴方を見殺しにしたこのローゼリアをひっくりかえしてあげる。国王ルロイも一族共々死ぬことになる。そして、最後は必ずあの呪い人形を殺してやる」
兄の王党派が勝利したら、その勢力を存分につかってミツバを甚振り殺す。一番望ましい展開だ。貴族出身者の師団を利用し、どれだけの犠牲を出そうとも殺す。兄ももう嫌とは言うまい。新王になれば放っておくことはできはしない。爆弾を懐に抱えておくなど、誰もしたくないものだ。
共和派が勝利したら、ミリアーネはリリーア王国かクロッカス帝国の伝手を使って亡命だ。兄ヒルードは当然見捨てる。その前に、徹底的に共和派を煽っていくとしよう。貴族出身者は全員皆殺しにしろと。特に、一時は上院議員だったミツバを嵌めるのは容易い。市民の力を使って、あの呪い人形を殺す。さぞかし痛快だろう。王都は死の都になる。ローゼリアがどう動こうとも問題はない。次の場所は用意済みだ。ミリアーネは、国王ルロイと王妃マリアンヌの嘆く姿を想像して、ほくそ笑むのだった。
――こことは違う場所で、悪魔もまた微笑んでいる。




