15話 気持ちの整理
本日5話目です。
本日最後の投稿になります。
聞こえてきた叫び声に俺を含めて反応はしたが、声の主がパンチとリーゼントのどちらかの声(もしかしたら両方だったかも)だったので、どうせ何かにビックリしたんだどうと思い皆無視すことにした。
「「「グオオオオ!!」」」
何処かで聞いた事のある声に剥ぎ取りをしていた手が止まる。
「どこから聞こえた!」
いち早く動いたのはガインだった。
「こっちからだ!」
チットの返事した先からヤンキー共が慌てた様子で戻ってきた。
「何があった!
担当していた教官はどうした!!」
ヤンキーを追いかけて行った教官が戻ってこなかったのだ。
「俺らのせえじゃねえ。
あいつがきちんと止めないのがいけないんだ!!」
「だから何が有ったと聞いてるんだ!」
言い訳だけをするリーゼントにガインが怒鳴りつける。
「ランニングベアーだ!あいつ仲間を呼び寄せたんだ!」
ランニングベアー、あの熊さんたちがまた出てきたのか。
ゾクッとした感覚がして森の方を見ると、まだ戻って来てなかった教官がこちらに飛ばされてきた。
慌てて受け止めて庇うと、教官はキズだらけでかなり酷かったが息があり、意識もしっかりとしていた。
「ラ・・・ベア・・・・」
「大丈夫、こちらでも把握してますので落ち着いて」
こちらでも把握しているのが分かってか、そのまま気絶してしまった。
直ぐに馬車までチットと運んで、傷の手当てをする。
携帯用だが救急キットを買っておいて正解だった。
ニコも回復魔法を使って怪我の治療を始めるが、そんなに効果は無い様だ。
そうこうしているうちに、熊さんたちに馬車が囲まれてしまっていた。
「俺がやるからでるなよ」
「なに言ってるの、全員でやらなきゃ殺されるよ!」
スロウが反論して全員で行くべきだと言うが、こっちにも事情がある。
「やらせてやれ。
ソーマ、わかってるな?」
ガインは俺が何をしたいのか、わかってるみたいだな。
それもそうか、2人でこの森に居たんだからな。
「別に死にに行きたい訳じゃないからな」
そう言って、馬車から出ると同時に両足の銃をそれぞれに構える。
熊さんたちもコチラが攻撃するつもりなのに気が付いているようで、何時でも飛びかかれるようにしていた。
これで何回か目の戦闘だけど前とは違って、自分の意思で殺すんだ。
でなければ何時まで経ってもこの世界でビクビクしながら生活しなきゃならなくなる。
「来なきゃ、こっちから行くぞ?」
そう言って最初に撃つと決めた熊さんに、デザートイーグルの銃口を向けて構える。
こいつを狙ったのは、怪我を負った教官の血がベッタリと体中に付いていたからだ。別に復讐というつもりは無い。自分のために殺す。生きるために殺す。生かすために殺す。
それが出来なければ自分が死ぬだけだ。
「生きるために死んでくれ」
自分でハッキリと殺意を持ってデザートイーグルの引き金を引いた。
後は無心で打ち続けた。撃っては次を、撃っては次をと目標を変えて殺して行く。
たまに一部の熊さんが馬車を回り込んで中の人を襲おうとするが、俺に邪魔されて殺されていく。
胸や顔に数発づつ撃ちこまれ死んでいく中、何頭かは、デザートイーグルの弾の威力で手が吹き飛ばされたり体の一部が欠損しているのも居た。
何とか近づけても結局は撃ち殺されて終わりだ。
「何なんですか彼は」
馬車の中ではランニングベアーが次々と殺されて行くのをただただ見ていた。
見ていたニコが呟くと、ガインが答える。
「さあな、あいつは自分でも分かって無いんじゃないか?
自分が何者で、何がしたいのか。
ただあいつは悪い奴ではないとは思うな、タダ飯食わしてくれるからな」
ニコの治療が終わり、怪我を負った教官の顔色が少し良くなっていた。
それを確認し終わるとほぼ同時に銃声が止まった。
最後の1頭を殺して、全てが終わった。
一応、生きているヤツがいないか確認してから声をかける。
「終わったぞ、出てきても大丈夫だ」
アレクたちとガインたちが馬車から出てくる。
さすがに怪我をした教官はでてこなかった。
「見事に皆殺しだな、怪我は?」
「いや、近づけなかったから怪我はしていない。
そっちはどうなんだ?怪我した教官とか」
ガインに答えると馬車に指差して答えてくれる。
「中で寝ている。
完全ではないが怪我も有る程度落ち着いている。
ニコが頑張ってくれたからな」
「あの連中はどうするんだ?」
「あいつらか・・・・・まあ俺が決める事ではないけど多分登録は解除されるか、かなり厳しく制限されるんじゃないか?
今回の騒動は実質あいつらが起こした形だからな」
「そうか、面倒なんだな」
ランニングベアーの死体を解体して後始末を終えたら街に戻る事になった。
今回のランニングベアーも比較的安いが、毛皮等が売れるそうで、全部俺が貰う事になった。
全部は気が引けるので半分を俺が、残りの半分をニコに果たす事にした。
最初は遠慮していたが、教官の怪我を直したのは俺じゃなくてお前だろと言って何とか納得して貰った。
街のギルドに着いて速攻で、怪我をしている教官が運び込まれていき、その後に俺らに事情聴取が待っていた。事情聴取といってもただ聞かれただけで、何かの罪に問われる事はなかった。
ヤンキー共はしばらくの間は、ギルド公認としての活動は停止の上、教官の治療費等を払うために殆んどタダ働きをする事になったみたいだ。
部屋に戻ってから思ったのは、後悔や恐怖といった不快感があまり襲ってこなかった事だ。
それでも結局、まだ日本に居た頃の感覚が残っているからか、生きているものを殺す事に躊躇いが残っている様だ。少しだけ手が震えてる。
コンコンとドアを叩く音がしたのでドアを開けると、エレスが立っていた。
「今日の事聞きました、お怪我はしてないですか?」
「大丈夫ですよ。
今回はきちんと出来ましたし、死ぬためにヤッテいたんではないですからね」
「良かったです、お1人で戦ったと聞きました。
・・・何でこんな無茶をしたんです?」
なんでと言われてもなぁ。
「自分のため、ですかね」
「自分のため?」
「そうです、自分の中で区切りを付けたかったんです。
そうしないと先に進めないと思ったから」
何だか納得しませんって顔だな。
「でしたら今後はもう無理はなさらないのですね?」
「そのつもりですよ、自分の出来る範囲でしかやるませんから・・・・・その、ね?そんな顔をしないで下さい」
何で泣きそうな顔してるの?
「約束ですよ?」
「はい、約束します」
「本当にですよ?」
「本当にします」
エレスはホント、心配性だなぁ。まあ本人の優しさから来るんだろうけど。
「だったら信じます、無理はしないで下さいね」
「はい、しません」
そんなに無茶をするヤツに見えるのだろうか。
何だかんだ話をしてエレスは帰って行った・・・・・・・書き取りの宿題を大量に残して。ここは優しくない。
そして寝ていた夜中にガインに叩き起こされて夜食を作らされる羽目になった。
引き続きご意見ご感想をお待ちしております。