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泉の村といけにえ王子

(2016.12.26.22:15)

ハウラプの再訪問までの期間を変更しました

 

 

 

「いやぁ……」


 妖精の谷のリーダーは、ゆかいそうに言いました。


「まさか村ひとつ連れてくるとは、思わなかった」

「わたしも思っていませんでしたよ」


 にやにや顔から目をそらしてつぶやいたあとで、ハウラプはリーダーを振り向いて胸を張ります。


「でも、この方がおもしろいでしょう?」

「それはまあ、そうだね」


 うん。とうなずいたリーダーに、ハウラプは問いかけます。


「満足ですか?」

「それは、しばらくしないとわからない」

「それなら、一月ひとつき後にまたききに来ますから、考えておいてください」

「わかった」


 リーダーとわかれたハウラプは、メムの家をたずねました。


「問題なく暮らせそうですか?」

「しばらく住んでみないとわからないけど、とりあえずは大丈夫じゃないかな。川もあるし、草や木や動物は、狩っても良いんだよね?」

「良いはずだよ。なにかだめだったら、妖精から言われるだろうし」


 ハウラプの答えに、ならひとまずはなんとかなる、とメムは返答し、あきれたように窓の外をながめました。


「にしても、村ごとって言って、建物たてものや畑ごと移動されるとは思わなかったな」

「ないとこまるでしょう」

「そうだけど。魔女ってすごいなぁってさ」

「そのぶんは、役立ってくれるとうれしいです」

「がんばるよ」


 ハウラプは、一月後にまた来るからなにかこまりごとがあったらそのときに教えるように伝えて、メムの家をあとにします。


 家の外まで出てハウラプを見送ったメムは、ちょうど会ったウパチリに言いました。


「あれで悪い魔女だって言うんだから、貴族の言うことは信用しんようならないね」

「本当ね」

「せいぜいあの子の役に立つように、妖精の気を引こうか」


 メムとウパチリは連れだって泉に向かうと、ならんで歌いはじめました。

 さすがにハウラプも泉はうつせなかったのですが、かわりに妖精の谷のなかの泉のそばへと、村を移したのです。


 ふたりが歌い出すと、つられたように村のひとびとが集まって楽器をひきはじめます。

 美しい音楽に、たちまち妖精たちが集まって来て、躍りだしました。




 歌声が聞こえた気がして、ピリカは顔を上げます。


「うた……?」


 聞きまちがえではなく、たしかに女性の歌声が聞こえました。


「二の姫かな」


 はじめはそう思いましたが、すぐに違うと気づきます。歌声はふたりぶんで、歌声以外の音も聞こえて来たからです。


「行ってみようか」

「うん!」


 そわそわしていた監視の妖精に声をかければ、すぐにうなずいた妖精はピリカをつかんでひとっ飛びしました。


 向かった先の光景こうけいに、ピリカは驚きます。


 そこには、昨日まではなかったはずの集落が、あらわれていました。

 歌声は集落のそばの泉から聞こえるもので、歌っているのはふたりの女性。歌うふたりのまわりにひとが集まってなにかしていて、その頭上ずじょうをたくさんの妖精が飛び回っていました。


 歌い手のまわりのひとびとは楽器を演奏していたのですが、ピリカにはそれがわかりませんでした。なぜなら、ピリカは生まれてからいちども、楽器を見たことがなかったからです。


 ピリカを監視しているはずの妖精も、ピリカをおろして飛び回りはじめたので、ピリカは歩いてひとびとに近づきました。こんなにたくさんのひとを見たのも、さらわれてからはじめてです。


 新しいひとを見たとき、またいけにえかとうたがったピリカでしたが、楽しそうに歌ったりなにかしたりしているひとたちには、自分や二の姫のようなかなしさは見えませんでした。


 かれらはいったいなんだろう。不思議におもいながら、ピリカはひとびとをながめます。

 歌い手のひとりが気づいて、歌をやめました。


 歩みよって来るそのひとに、ピリカはみがまえます。

 やって来たのは、白銀のかみの美しい女性でした。見た目から言って、ピリカよりはいくつか年上そうです。


「お仲間かな?」

「おなかま?」


 かけられた声に、首をかしげます。

 女性は、にっと笑ってピリカに右手を差し出しました。


「あたしは、メム。魔女ととりひきして、ここにいけにえとして来たんだ。あなたも、いけにえなんだろう?」


 明るくいけにえだと語る女性、メムは、とてもピリカと同じ立場とは思えません。


「……サロルンの王子だった、ピリカだ。十五年、ここにとらわれている」


 それでも名乗って手を差し出せば、すこしれた手でにぎられました。


「十五年、かぁ。ずっと、あなたひとりで?」

「いや。乳母とふたりだ。半年前に、ハラムの姫もとらわれた」

「ああ、ハラムの姫がいなくなった話は、聞いた気がするな。ここにいたのか」


 うんうんとうなずくメムに、妖精たちが近づいて来ました。


「イケニエ?」

「いけにえー!」

「遊ぶ?」

「遊ぶの?」


 ぐるぐるととりかこまれて、メムは笑いました。


「おっ、来たね。なにして遊ぶ?ケイドロか?氷鬼こおりおにか?色鬼いろおにかくれ鬼でも良いよ?」

「隠れ鬼!」

「よっし、良いよ。ウパチリ!パシクル!トキト!隠れ鬼しようよ!ピリカも、混ざる?」

「え、あ……うん」


 流れに押されるようにピリカがうなずくと、よぉし!と言ったメムが、ひとりの妖精を指さしました。


「じゃあ、あなたが鬼ね!隠れるのはだれ?手ぇあげて!」


 メムがピリカの手をつかんで、ぶんっとふりあげます。さっきメムが呼んだ相手であろうひとたちも、やって来て手をあげました。妖精たちもわいわいと集まって、ぱっと手をあげます。


「全員覚えた?それじゃ、鬼は目ぇつむって百数えて!数え終わったら探しはじめてね。ほかはその間に隠れるよ!!」


 わーっと声をあげて、妖精たちが散りました。集まっていたひとたちも、それぞれ散って行きます。


「さあ、ピリカも、隠れよう」


 メムがピリカの手を引いて、走り出しました。


「建物はだめってしなかったなあ。まあ良いか。どっか適当に隠れてね」


 鬼役の妖精から離れてから、メムはそう言ってピリカを放しました。身軽みがる大木たいぼくによじ登り、大きなうろのなかに滑り込みます。

 話が聞きたい。思ったピリカは、メムのあとを追ってうろに入り込みました。


「えっ、ここ来るの?まあ、入れるから良いけどさぁ」


 メムはほおをかいて、ピリカのために場所をあけました。


「話の続きを、」

「しぃー」


 話をしようと声をかけたピリカを、メムはそっと黙らせました。


「見つかっちゃうよ。静かに。話なら、今晩にでもしてあげるから」


 真剣しんけんなメムのようすにピリカはおとなしくしたがい、息をひそめて身を隠し続けました。


 それから、鬼役を変えつつ白熱した隠れ鬼が繰り広げられ、


「楽しかったー」

「またあした」

「またね、メム」

「あしたもね」


 妖精たちは満足そうに帰って行った。


 妖精たちとの遊びに付き合わされて、こんなにつかれなかったことがあっただろうか。

 さしてつかれていない自分に、ピリカは驚きます。自分はつかれず妖精たちを満足させたメムを、素直に尊敬しました。


「さて、話そうか?あたしの家で良い?」

「ああ、たのむ」


 それから約束通り話をしようとメムに呼ばれ、ピリカはメムの家へと、足を運びました。

 

 

 

つたないお話をお読みいただきありがとうございます


いけにえー!

と叫ばせたのは作者の趣味です


続きも読んでいただけるとうれしいです

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