いけにえ姫と妖精たち
なんてことなの!
二の姫さまはぷりぷりと怒っていました。
お姫さまとしてあまやかされて育った二の姫さまは、自分の望みがかなわなかったことがゆるせないのです。だと言うのに魔女のせいで文句も言えなくて、怒りはたまるばかりです。
そんな二の姫さまのことなど気にもせず、魔女は二の姫さまを妖精に差し出してさっさと立ち去ってしまいました。
魔女はいなくなったのでもう自由に口を聞けるのですが、二の姫さまはなにも言えませんでした。魔女がいなくなってからまわりを妖精たちにとりかこまれ、ひととは似つかないその姿が、おそろしかったからです。
「おびえてる」
「こわい?こわいの?」
「かなしい?泣く?」
そんな二の姫さまをおもしろがって、妖精たちはくすくすと笑います。なにせ魔女にじゃまされたぶん、かのじょで楽しまなければなりませんから。
あまりのおそろしさに、二の姫さまは怒りも忘れてふるえました。
そんな二の姫さまのまわりを、妖精たちがますます楽しげに飛び回りました。
「わ、わたくしは、ハラムの国の姫なのよ!」
そんな状態に自尊心が傷つけられた二の姫さまが、怒りをふるい立たせて叫びますが、妖精たちはどこふく風です。それどころか、なにがおかしいのか、きゃっきゃと笑い出しました。
「ヒメサマ!ヒメサマ!」
「それがどうしたの?」
「ニンゲンのヒメサマ」
「おいしい?」
「楽しい?」
馬鹿にされたと感じた二の姫さまが顔を赤らめると、ひとりの妖精が二の姫さまの顔をのぞきこんで言いました。
「ニンゲンが、ボクらになにができるの?」
目を見開く二の姫さまのまわりで、妖精たちがケタケタと笑います。
「つかまえる?」
「たおす?」
「したがえさせる?」
「「「そんなこと、魔女だってできないのに?」」」
そう、妖精に言うことを聞かせるなんて、魔女ですらできないのです。簡単にしたがえさせられるなら、魔女たちだってこんなにこまっていません。
悪意がなく素直で、それでいてこの上なく思いやりのない妖精たちの言葉に、二の姫さまはとてもおそろしくなって、すとんと座りこんでしまいました。大きく開かれた目に、涙がたまります。
「転んじゃった」
「泣いちゃった」
「どうしたの?」
「おなかすいたの?」
「怪我したの?」
あくまで妖精は自分に正直で、ひとの気持ちがわからない存在でした。
二の姫さまは近づいて来る妖精たちを見てひっと悲鳴を上げると、座りこんだままあとずさり、ついには両手で顔をおおって泣き出してしまいました。
「どうしたの?」
「しゃべってよ」
「それじゃおもしろくないよ」
泣くだけしかしない二の姫さまへ妖精たちが口々に言いますが、二の姫さまは泣くばかりで答えません。これではつまらないと思った妖精たちは、二の姫さまから離れて相談をはじめます。
「どうすれば良いかな?」
「どうすれば良いと思う?」
「ピリカが泣いたときはどうしたっけ?」
「知らなーい」
「レシパがどうにかしたんじゃなかった?」
「レシパだ!」
「レシパを呼ぼう!」
「連れてこよう!」
どうするか決まるなりひとりの妖精が飛び上がり、王子さまの乳母のところへ向かいました。
妖精たちにとってみれば、赤んぼうの夜泣きも二の姫さまの涙も、おんなじものなのです。
「あらあらまあまあ、なんておいたわしい」
うむも言わせず連れてこられたレシパは、二の姫さまを見つけるとひどく悲しげに顔をゆがめました。妖精たちとはちがう声を聞いた二の姫さまは顔を上げると、人間の姿を見るなりかけよってすがりつきました。
十五年もずうっと妖精のところにいたレシパは、王宮のひとのように上等な服は着ておらず、ふだんなら近づくのも嫌なしわくちゃの老婆でしたが、妖精にくらべればずっとずうっとましだったのです。
レシパはそんな二の姫さまを抱きしめ、その背中をそっとなでます。
「おそろしかったでしょう。おかわいそうに。なにかひどいことはされていませんか?」
あたたかい手と言葉にほっとして、ますます涙があふれます。
ただただ泣き濡れる二の姫さまを、レシパはやさしくなぐさめ続けました。
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