悪い魔女といけにえ姫
頭を下げて妖精に妥協してもらったら、つぎは二の姫さまの説得です。
理由を説明して国民のために犠牲になってくれるひとならば苦労しませんが、二の姫さまはどうもそうではなさそうです。
いろいろと説得するための材料も用意して、ハウラプは二の姫さまのところに行きました。
「どうしてわたくしが犠牲にならなければいけないの?」
あんのじょうひとのためでは受け入れてくれなかった二の姫さまに、ハウラプはひきかえの条件を出しました。
きれいな服や宝石、めずらしい食べものや花。
生きものだろうが行動だろうが、自分のおもしろいと感じるものだけを求める妖精たちにくらべれば、わかりやすいものでつられてくれる人間はせっとくも楽です。
「あなたのはだを白くするとこもできますよ」
「ほんとうに!?」
ハウラプも馬鹿ではありませんから、相手に合わせてひきかえの条件を考えます。
一の姫さまや妹たちにくらべて、はだが黒いことを気にしていた二の姫さまは、はだを白くできると言うハウラプの言葉に食いつきました。
「え、ええ。これでも魔女ですから、外見を整えるくらいは簡単です」
二の姫さまのいきおいにおどろき、妖精に差し出されるのにはだの白さも関係ないだろうとあきれつつも、ハウラプはうなずきました。ほとんど他人とかかわらないハウラプには、あまり外見の大切さがわかりません。妖精たちとの話し合いに必要なのは、外見より話のうまさとお願いに答える実力です。
それでも妖精に差し出されることを受け入れてくれるならと、ハウラプはあきれた気持ちを隠して二の姫さまを見つめます。
「まつげをのばしたり、目を大きくしたりもできるの!?」
「できます」
「腰を細くしたり、胸を大きくしたりは!?」
「できますよ」
「なら、やってちょうだい!!」
かみつきそうなほど身を乗り出した二の姫さまにすこし逃げ腰になりながらも、ハウラプは自分の役目を忘れませんでした。
「ひきかえに、お願いは受け入れていただけますか?」
「わたくしの望み通りの外見にしてくれるなら、妖精のいけにえだろうが悪魔の花嫁だろうがなってやるわ!」
だから早く!とせかす二の姫さまに、ハウラプは確認します。
「わたしがあなたをあなたの望み通りの外見にすれば、あなたはおとなしく妖精に差し出される。たしかに約束してくださいますね?」
「ええ、約束するわ!」
このとき二の姫さまは、きれいに変えてもらったらこの魔女を追い出してしまえば良い、と考えていました。魔女の約束なんて守る必要はないし、いざとなればお父さまが助けてくれる、と魔女との約束を軽く考えていたのです。
ハウラプはたしかに約束しました、とうなずき、二の姫さまに魔法をかけました。ふわりと黒い霧が二の姫さまを覆い、その霧が晴れると、二の姫さまの外見はもとのおもかげを残したまま、より二の姫さまが望むように変わっていました。
「すごいわ!」
ハウラプを突き飛ばして姿見に駆け寄った二の姫さまは、姿見にうつった自分の姿を見て、歓声を上げました。
そんな二の姫さまの背中へ向けて、突き飛ばされてしりもちを突いたハウラプは静かに言いました。
「さて、わたしは約束を果たしましたから、あなたも守ってくださいね」
そんなこと知らないわ。
二の姫さまは姿見のなかの自分にみとれながらそう言い返そうとしましたが、どうしたことか、口を動かすことができません。
「行きますよ、二の姫さま」
それどころか、立ち上がったハウラプの言葉で、二の姫さまの身体は持ち主に逆らって動き始めます。
それも、そのはずです。
いくら妖精たちの願いごとをかなえても、それで妖精たちがいたずらをやめてくれなければ意味がありません。だから魔女たちは、約束をさせます。魔女との約束は、絶対なのです。
そんなことは知らないで軽々しく約束してしまった二の姫さまが叫びます。
「だましたのね!!」
ハウラプはきょとんとして、首をかしげました。
「だました?なんの話ですか?」
ハウラプは決して、二の姫さまをだましてなどいません。前もってちゃんと、約束を取り付けました。
むしろハウラプをだまして約束を破ろうとしたのは、二の姫さまの方です。
「わたしがあなたの願いをかなえるかわりに、あなたはおとなしく妖精のところに行く。そう言う約束をしたでしょう?」
二の姫さまはさらにまくし立てようとしましたが、おとなしくしたがってください、とハウラプに言われると、言いがかりを叫ぶことすらできなくなりました。
ハウラプは妖精に、二の姫さまを差し出します。
妖精は魔女のことをよく知っていますから、くだらない言いがかりなど言わずに約束を守ります。そもそも内容になっとくしなければ、魔女と約束などしないのです。
こうしてまたひとびとの平穏は守られ、ハウラプの悪名は高まりました。
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