いけにえ王子と魔女の問い
お妃さまから本当のことを聞いたピリカは、ふと思い出して胸もとを探りました。
しゃらりとすずしげな音を立てて取り出したのはロザリオで、ロザリオを見たお妃さまは目を見開きました。
「それは……!」
「妖精がくれたものです。誕生祝いだと、言って」
人間って、こう言うことが好きなんでしょ?そう言ってピリカにロザリオを渡した妖精は、それからもなにかとピリカにものをくれました。
しかし思い返してみれば、その妖精をものをくれる時以外に、妖精の谷で見たことがないのです。
あれはきっと、ハウラプがよこしたものなのだろう。ピリカは、確信していました。
「ハウラプ……森の魔女は、母上が渡した品を一度も換金していません。すべてそのまま、わたしに渡しています」
「それなら、ピリカが自分で換金を?」
「いいえ」
ピリカは首をふり、すべてしまってとってあると伝えました。
「でも、それならばお金は」
「魔女がべつに用意して、妖精に預けていました」
これは、レシパや妖精たちに確認して知ったことです。
レシパは買いもののとき、妖精からお金を受け取って使っていると答えました。お金の出どころは知らないが、盗んだものではないそうだと。その答えを聞いて妖精にたずねれば、妖精は素直に、魔女がピリカたちに使わせるようにと持って来るのだと答えました。
妖精がちょっとしたことでも魔女ととりひきをするのだと知ったのは、そのときです。妖精はお駄賃にもらったと、遠い異国の花を見せました。
そのあと、ほかにもいろいろと妖精にたずねれば、ハウラプが、ピリカをいけにえにすることを良しとしていなかったことも、あまりひどい扱いをしないようにと頼んだことも、家や家具をととのえてくれたことも、ピリカのためにレシパをともにさらったことも、わかりました。
どれだけ守られていたのかと、なにも知らずハウラプをうらんでいた自分が、恥ずかしくなりました。
「魔女は約束をやぶらず、わたしたちの暮らしに不自由がないようとりはからってくれていました。母上とのとりひきのことも、わたしにすら教えませんでした」
ハウラプがピリカから逃げたのは、お妃さまとの約束のためだったのでしょう。その上で、お妃さまとの約束をやぶらないで、ピリカに真実を教えるため、こうしてお妃さまと会わせてくれたのです。
そうですか……とつぶやいたあとで、お妃さまがためらいがちに口を開きます。
「……わたくしを、うらんでいますか?」
泣き腫らした赤い顔で、お妃さまは問いました。
「いいえ」
ピリカはゆっくりと、首をふりました。
「母上をうらんだことはありません。魔女のことは、ずっとうらんでいましたが、まちがいだったと気づきました。うらむとすれば妖精ですが……妖精に、悪気はないでしょう」
妖精と人間では価値観や考え方がことなるのだと、十六年もともにすごしていればいやでも理解します。妖精のいたずらは、おさない子がアリの巣に水を流しこんだり、ひたすらアリの頭と胴体を、引きちぎったりするようなものなのです。
妖精も幼子も、ただ、おもしろいからやっているだけで、そこにはなんの意図も悪意もありません。それが相手にとってどのような意味を持つかなど、想像もしていないのです。
「母上の判断はまちがっていません。わたしを産み、生かしてくれたこと、感謝しています」
ピリカはほほえんで、お妃さまの手をにぎりました。
お妃さまの目に、一度はおさまった涙が、また浮かびます。
「あなたはわたくしの自慢の息子です」
お妃さまにだきしめられ、ほめられて、ピリカはくすぐったい気持ちでほほえみました。
ピリカはそれからしばらく、お妃さまに乞われるまま、妖精の谷での生活について教えました。たいへんでしたねと涙ぐむお妃さまに、それでみなが救われたのだから良いのだと伝えます。
お妃さまの話も聞きたいと、顔も知らない自分の家族の話を聞き始めたところで、部屋の扉が開きました。
ふたりそろって振り向いたさきにいたのは、フードをふかくかぶったハウラプです。
「邪魔しましたか?」
「いや、大丈夫だ」
くいと頭をかたむけたハウラプにピリカが答え、お妃さまから離れます。
再会の時間はここまでで、妖精の谷に帰るのだろう。
ピリカは、そう思っていました。
「ここに残りますか?」
「……え?」
ハウラプに、残るかときかれるまでは。
ぽかんとするピリカに、ハウラプは説明します。
あたらしいいけにえがいるから、ピリカはもう国に帰っても良いのだと。
「泉の村のひとたちと孤児たちは、帰る場所として妖精の谷を選びましたが、あなたはここが家でしょう。もどりたければ、もうもどって良いですよ」
「え、でも、レシパと二の姫は」
とまどって思考がまとまらないピリカとは対照的に、ハウラプはいたって冷静です。
「そのふたりも、もどりたいと言うならもどしますよ」
なんのためらいも見せずに、ハウラプは答えました。
ああ、このひとにとって、自分は単なるとりひきの品でしかないのだな。
そう気づいて、ピリカはさみしい気持ちになりました。
ハウラプはピリカだけにやさしいのではなく、だれに対してでもやさしいのです。
お妃さまはピリカの判断にゆだねようと、ほほえんでから目を閉じます。
ピリカはしばらく迷って、ゆっくりと口を開きました。
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