悪い魔女とないしょの話
ハウラプが、一月後、と伝えた日にちよりずっとはやく顔を見せたことでおどろいたメムに、ハウラプは戦災孤児たちのことと、かれらにかかわらないようにしてほしいと言うことを伝えました。
話を聞いたメムが、ハウラプにたずねます。
「戦災孤児、ねぇ?どこの国の?」
「それは言えません。万一のこともありますから」
ハウラプの答えに、メムは眉をよせました。
「戦争はひとごとじゃないし、こどもを売ったりしないよ?」
「それでも。どうか、あなたがたから孤児たちにかかわることのないようにお願いします」
ハウラプは、ふかぶかと頭を下げました。
メムが眉をよせたまま、問いかけます。
「あなたは恩人だから、言うことは聞くよ?それでも、こどもだけで生きるなんて、そんなのは、」
「それでも、です。必要があればかれらから来ますから、あなたがたは、ぜったいに、孤児たちに手を出さないでください」
メムはため息をついて、うなずきました。
「……わかったよ。ほかのひとたちにも伝えとく」
「ありがとうございます。なにかこまったことはありませんか?」
「いや、な……」
ない、と答えようとして、メムは言葉をとめます。
「孤児の村のこと、オウジデンカには伝えるのか?」
「会ったのですか?なにか、問題は起きていませんか?」
「今んとこないよ。じゃなくて、あたしの質問は」
ハウラプが首をかしげて、そうですね、とつぶやきます。
「交流があるようでしたらメムさんから伝えてもらえますか?わたしは、かれらに会うつもりがありませんから」
「会う気、ないの?」
「ええ」
ハウラプは迷いなくうなずき、それを見たメムは、残念ながら脈はなさそうだな、と思いました。
「会いたがってたけど?」
「だれが、だれにですか?」
「オウジデンカが、ハウラプに」
「ええと、ああ、わたし、うらまれていますからね」
「いや、うらみを晴らしたいとかじゃなく、話がしたいって」
きょとんとしたハウラプが、ぱちくり、と目をまたたきました。
「わたしに、話、ですか?」
「そう」
「王子が?」
「うん」
「いったいなにを?」
困惑するハウラプにメムは、ピリカがハウラプが森の魔女だと知って、本当のことを知りたがっているのだと伝えました。
ますますこまった顔をして、ハウラプは言います。
「それは……うーん……」
「なにか問題なのか?」
「そう、ですね。もうしわけないのですが、お話はしたくありません」
「逃げるの?」
「逃げ……まあ、逃げですね。逃げます」
ハウラプはきっぱりとうなずきました。
「それはまた、どうして?」
「言いません。それで、メムさんたちは、こまっていないですか?」
まるでなにごともなかったかのように、ハウラプは話を戻しました。
「こまってないよ。ちゃんと暮らせてる」
「それは良かった。では、わたしは行きますね」
「……事情があるならしかたないけど、できればオウジデンカに会ってあげてね?」
こまったような笑みだけ見せて、ハウラプは答えません。そのまま、メムの家の窓に手をかけました。
時計を見たメムが、そんなハウラプの手をつかみます。
「せめて玄関を通ってよ」
「わかりました」
今度はちゃんと答えて、ハウラプは玄関へ向かいました。玄関を開けて外に出たハウラプに、声がかかります。
「ハウラプ……?」
「え……?」
メムの家にむけて、ピリカが歩いて来ていました。ぎょっとしたハウラプが、あわてて宙へと飛び上がります。
「待って!」
「それではメムさん、また今度!」
ピリカの呼びかけには答えず、ハウラプは飛び去りました。
「あとすこしはやく来れば良かったんだけどね」
「約束の時間は、七時だったから」
ぼうぜんと空を見上げるピリカにメムが言い、ピリカが空を見上げたまま答えます。飛び去ったハウラプの姿は、もう見えませんでした。
「なんだか、あなたに会いたくなさそうだったよ?」
ピリカを家に通して、メムは伝えます。ピリカはほおを張られたような顔で、メムを見返しました。
「会いたくなさそう、って?」
「会うつもりはないって言ってたから、話をしたがってることを教えたんだ。そしたら、お話はしたくありません、って」
「わたしが、身勝手にうらんだりしたからだろうか」
「いや、そう言うんじゃなくて……」
ハウラプのようすを思い出しながら、メムは言葉をつむぎます。
「なにか、話せない事情がある、みたいだったかな。すごく、こまった顔をしてたよ」
「事情……」
目をふせたピリカが、ふかく息をつきました。
「やはり、きちんと知る必要がありそうだな」
「そうだね。ま、たいへんだろうけどがんばりなよ」
肩をすくめたメムの応援に、ピリカはすこしなさけない顔でうなずきました。
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