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泉の乙女と本当のこと

 

 

 

 ふらふらしていたけれど、大丈夫だろうか。


 ピリカを見送ったメムは、ふと心配になって家の外を確認しました。


「って、ああっ、大丈夫!?」


 そこに倒れたピリカを見つけて、あわててかけよります。

 こしてみれば、ピリカは青い顔で気をうしなっていました。


「……いっきにいろいろ、話しすぎたかな」


 悪いことをしたと反省はんせいしながら、メムはピリカを背負いました。

 外にころがしてはおけないので、自分の家のベッドを貸すことにしたのです。


 家のベッドにピリカを寝かせてから、メムは考えます。


「あたしたちのほかにも、ひとがいるって言ってたよね。ピリカがもどらなかったら、心配するかな」


 じっさいは妖精によって何日なんにちも連れ回されたりするので、一日戻らないくらいは気にされないのですが、そんなことは知らないメムは、事情を知らせに行った方が良いだろうと考えました。

 それに、ハウラプのことを悪く言ったと言うひとのことが、気にならなくもありません。


 メムはもしピリカが起きたときのために書き置きをすると、自分たち以外の人間をさがすために家を出ました。


 自分の家を出てすぐにであった妖精にピリカたちの家の場所をきけたので、メムはまったく苦労せず目的の場所に行くことができました。妖精は一日で、メムのことを気に入ったようです。いじわるもいたずらもせず、素直に協力してくれました。


「りっぱな家だなぁ……」


 でんっと一軒いっけんった家を見上げて、メムはつぶやきます。ピリカたちの家は、泉の村の家々とはくらべものにならないような大きくてりっぱな家でした。


 こんな家どうやって建てるんだろうと思いながら、メムは家の扉を叩きます。扉は両開りょうびらきで、こまかい彫刻ちょうこくのほどこされたノッカーまで付いていました。


「王子殿下(でんか)でしたらいらっしゃいませんよ」


 なかから、しわがれた女性の声がしました。


「その、オウジデンカについて伝えたくて来たんだけど」


 がたっ。


 あわてたような物音ものおとのあとで、いきおいよく扉が開かれました。


「殿下になにか!?えっ!?」

「あ、いえ、怪我けがしたとか重病じゅうびょうとかじゃないから大丈夫。ただ、疲れて寝ちゃったから、一晩ひとばんあたしの家で休ませるよって教えに来たんだ」

「え、あの、あなたは?」


 とまどった顔でメムを見上げるのは、五十歳ごじゅっさいくらいの女性でした。


「あたしはメム。今日、いけにえとしてここに来たんだ」

「まあ!なんておいたわしい……」

「べつに、いたわしくはないよ。あなたの名前は?」


 このひともピリカと同じように、森の魔女を悪いやつだと思っているんだろうな。

 同情を顔にうかべた女性を見下ろして、メムは思いました。

 このひとも、ハウラプを悪く言ったのだろうか。


「私は、王子殿下の乳母のレシパともうします」

「乳母さんか。えっと、たしか、どこかのオヒメサマもいるんだよね?」

「はい。ハラムの国の二の姫さまが」


 さすがに夜遅いし、オヒメサマに会うのはむりかな。

 メムがそう考えて、用事ようじだけさっさと伝えようとしたときでした。


「レシパ、だれか来たの?」


 レシパのうしろから、若い女性の声がしたのは。


「ええ、メムさんとおっしゃる女性です。なんでも、あたらしくいけにえとして来たとか」

「あたらしいいけにえですって!?」


 レシパの説明を聞いて、声の主が飛び出して来ました。メムの顔を見て、ぱっといたましいものを見る表情をつくります。


「それは、おつらかったでしょうね。わたくしも、」

「……高貴こうきな方には、おつらい暮らしでしょうね。もうしわけありません、もう遅いのでそろそろおいとましますね」

「え、ええ」

「オウジデンカのことは、明日きちんとおくとどけますから」


 はやくちに言って、メムはさっさとピリカたちの家をあとにします。

 直感ちょっかんてきに、かかわりたくない、と思ったからです。


「あれは、タチが悪そうだなぁ……」


 帰り道、オヒメサマの表情を思い返して、メムはちいさくぼやきます。

 ほんのみじかい時間でしたが、メムをみとめてから、いたましい表情を作るまでのあいだ、たしかに、オヒメサマはメムをにらんだのです。


 話を聞こうと思ったけど、やめた方が良さそうだ。

 メムはそう結論けつろんづけると、空を見上げていのりました。

 どうか、大きな問題が起こりませんように、と。




 目覚めたピリカは、見知らぬ部屋におどろいて飛び起きました。窓から、朝のひざしが差し込んでいます。


「ここ、は?」


 すこしホコリくさくて、せまい部屋です。床におりると、ぎっと床板ゆかいたがきしみました。ぱたぱたと、ひとの足音がします。


「起きたかな?入っても平気へいき?」

「あ、ああ」


 扉のむこうから聞こえて来たのはメムの声で、ならばここは安全あんぜんそうだとピリカは判断しました。


 扉が開いて、メムが顔を出します。


「顔色、良さそうだね。えっと、昨日、あたしの家の近くでたおれてたから、家に連れもどして寝かせたんだけど……」

「そうか……めいわくをかけてすまなかった」

「や、それはべつに良いよ。あたしがいろいろいっきに話しちゃったせいもあるだろうし。いちおう、あなたの乳母さんには、うちで寝かせたって教えといたから。具合いは?もう平気?」


 はきはきと話すメムにめんくらいながらも、ピリカはもう大丈夫だと伝えました。メムはほっとしたように笑うと、扉のむこうを指さします。


「ごはんとお味噌汁みそしるくらいなら出せるけど、朝ごはん、食べる?」

「え?」


 なじみのない献立こんだてを言われてピリカは首をかしげます。メムが、あ、とつぶやいて、はにかむように、それでいて、どこか痛そうに、笑いました。


「あたしたちは、もともとサロルンの人間じゃないって言ったよね?本当はもっと遠くの国の人間で、ご飯やお味噌汁は、あたしたちの故郷の食べものなんだ」

「そう、なんだ」

「あー、口に合わないかな?むりに食べてもらわなくても、」

「いや、よければ、もらっても良いかな?」

「うん。わかった」


 メムが用意したのは変わった食べもので、おどろきはしたもののおいしく食べられました。


「あたしはこのあと畑仕事だけど、ピリカはどうするんだ?」

「わたしは」


 一度家にもどろうかと思ったピリカでしたが、考え直してメムに問いかけました。


「畑仕事に、ついていっても良いかな?たぶん、役には立たないだろうけど」

「べつにかまわないけど、用事とか、ないの?」

「いや、とくに仕事をしているわけでもないから」


 答えたピリカを、メムが不思議そうに見ます。


「それじゃあ、あなたたちは、どうやって生きてるんだ?食べものや、服は?」

「食べものや服は、レシパ……乳母が妖精に外へ連れ出してもらって買ってくるんだ」

「おかねは?」

「お金?」

「なにかを買うには、お金が必要なんだよ。あなたたちが生きるためのお金は、どこから手に入れているの?」


 言葉を返せないピリカを見つめて、メムはさとすように言いました。


「畑仕事よりも先に、あなたはちゃんと、本当のことを知った方が良いんじゃないかな。と言っても、その、乳母さんや、オヒメサマが、本当のことを話すかはわからないけど」

「わたしは、どうすれば……」

「自分でしっかり見て、聞いて、考えることだね。どれが本当なのか、なにかおかしなところはないか。とりあえず、買いもののお金がどこから来ているかなら、乳母さんにきけばわかるんじゃないかな」


 ぽん、とピリカの頭をなでたメムが、思い出したように言います。


「あとは、ハウラプにきくって言うのもありだよね。一月後に来るって言ってたし、そのときにきけば、」

「ハウラプが来るのか!?」

「わっ」


 いきなりの大声に、メムがびくっととびすさります。ピリカは、すまない、とあやまりつつ、もう一度、ハウラプが来るのかとたずねます。


「そう言っていたけど……?」

「そう、か。ハウラプが……」


 うつむいたピリカの、どこかうれしそうなようすを見て、メムはききます。


「もしかして、好きなの?」

「え、あっ、そんな……ことっ」


 ぱっと顔をあげたピリカは、ほおを真っ赤に染めました。

 メムが、ふっと吹き出します。


「そっか。ちがったか。ま、どっちにしろ、ちゃんとつかまえて、よく話をきくと良いよ。へたな大人よりずっと、話が通じる相手だからさ」

「あ、ああ。そうしよう」


 うつむいたピリカはもごもごと答え、今日は乳母さんと話しておいでと、メムに送り出されました。

 

 

 

つたないお話をお読みいただきありがとうございます


続きも読んでいただけるとうれしいです

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