悪い魔女と強欲の国
九話目でハウラプが告げた妖精が満足したか確認するまでの期間を
十日→一月に変更しました
投稿後の変更をしてしまい申し訳ありません
「やあやあわれこそは、マウシロチリが国の亡霊。こたびの戦、劣悪なるモスに大義はない。
ゆえに、われらが宝たる若き子らを、畜生国に置いてはおけぬ。われらがとうぜんの権利として、われらが子らを返してもらうぞ」
朝議の場にとつぜんあらわれ、大音声でそう言ったひとを、モスの国のお偉いさんたちは、びっくりして見つめました。
マントを着てふかくフードをかぶったそのひとの顔は、まったく見えません。
ろうろうと口上をのべたあと、マントのひとは笑ったような気配を見せ、口調を変えました。
「なんて、たてまえは置いておこうか。わたしは、森の魔女だ。いま、若い子が欲しくてね。悪いがあんたたちが手に入れたマウシロチリの子ら、あんたたちが親を殺した子らを、横取りさせてもらおうか。三日後、また来よう。せいぜい盗られないように、策を練ると良い」
仁王立ちで腕組みして言い放ったマントのひとは、議会の場を見回して馬鹿にするように笑います。
「まあ、いまのまぬけづらを見たかぎりじゃ、どれだけ策を練っても無意味そうだけどね」
笑われてやっとわれに返ったのか、だれかが、そいつをとらえろ!と叫びました。
その声に合わせるように、ぱあんとなにかがはじける音がして、議会の場に大量の花びらが押し寄せました。お偉いさんたちはみんな花びらにおぼれて、すこしも身動きがとれません。
「ふふふ。それじゃあ、三日後に」
マントのひとはそんな声だけ残して、消えました。
「わーい」
「楽しーい」
「おもしろかったー」
「部屋のなかに花びらって、おもしろいんだね」
「さすが、魔女は悪どいね」
けたけたと笑いながら感想を語る妖精たちに、マントのひと、ハウラプが反論しようと口を開きます。
「わたしは悪どくは…………いえ、今回は完全に悪役でしたね…………」
「板についていたぞ」
「師匠にまで言われると……」
ずーんと落ち込むハウラプの背中を、師匠がぽんぽんとなでました。
「良い働きだったとほめたのだ。あれだけ挑発されて孤児を守れなければ、国としては大恥だろう。国を追われたものたちも、胸がすくと思うぞ」
「そうだよ。楽しいから良いんだよ」
「チカフカムキは話がわかるね」
「チカフカムキは良い魔女だ」
話の内容を理解しているのかいないのか、妖精たちが師匠、チカフカムキをたたえます。おもしろいいたずらができて、満足なのでしょう。
「それは、いまさら悪名が高まろうともう気にしませんが、自分から悪役になろうとは思っていないんですよ」
「だが、それが戦災孤児たちの望みなのだから、しかたあるまい」
「……そうですね」
ひょうひょうと言ってのけるチカフカムキに頭痛を感じながら、ハウラプはうなずきました。一見すると、やさしげな好青年にしか見えないチカフカムキですが、大魔女だけあってお腹のなかは好青年ではありません。真っ黒です。とてもイイ性格をしています。
そんなチカフカムキの示した案は、妖精へのいけにえを手に入れつつ、戦災孤児の生活改善を目指しつつ、いやな国に打撃を与えつつ、近くにすむ妖精たちのいたずらごころも満たしてしまおう、と言う、一石で三鳥も四鳥もねらったものでした。
チカフカムキに話を聞いたハウラプは、とりあえず戦災孤児たちに話を聞こうと現地に向かい、戦災孤児たちの現状やモスの国のひどさ、戦災孤児たちがかかえる燃えるような怒りを知り、チカフカムキの策に乗ることを決めました。
まだ、泉の村のひとたちで満足したかを聞いていませんが、だからこそと決行に踏みきりました。だって、結果が出る前ならば、いけにえと言うたてまえで妖精の谷に移住させることができますから。
妖精たちに遊ばれはしますが、おそろしいケモノもケダモノのような人間もいない妖精の谷は、保護者を持たない子を暮らさせるにはちょうどよい場所なのです。
つまり、賭け中であることを良いことに、妖精の土地を利用してやろうと言う考えです。
チカフカムキの弟子だけあって、ハウラプもなかなかイイ性格をしていました。
「それでかれらが復讐心を捨てられると言うのであれば、安いものですね」
すべては戦災孤児たちに笑顔を取り戻し、このさき数十年、妖精の谷の妖精たちをおとなしくさせるため。
ハウラプは気持ちを切りかえて、三日後に思いをはせました。
そうして三日後、ハウラプはモスの国から戦災孤児たちをさらいました。
モス国のお偉いさんたちは国の誇りをかけて、あらゆる手をつくしましたが、魔女ふたりを前にしてはどんな策も紙切れと同じでした。
そのまま妖精の谷へと向かおうとするハウラプに、チカフカムキが言います。
「われが妖精の監督のためにのこるゆえ、あとのことは気にせず帰るが良い」
「え?」
まだなにか見張るべきことがあったかと、ハウラプは目をまたたきます。
「いたずらはもう、終わりでは?」
「まさか」
チカフカムキは笑って、なにか液体が入った瓶を持ち上げます。
チカフカムキのまわりの妖精たちも、うれしそうに同じ瓶をかかげました。
「これかける!」
「はげる!」
「つるつるになる!」
妖精たちの言葉でうすうすなにをするつもりか察したハウラプでしたが、否定してほしくてチカフカムキに問いかけました。
「なにをなさるおつもりですか?」
「傲慢で強欲な鬼畜生に、この強力な脱毛剤をかけてくる。
不毛の大地となったおのれの身体を見て、かってな欲で故郷を燃やされたものの気持ちを、わずかばかりでも思い知るがよい」
ああ、予想ちがいじゃなかった……。
ハウラプは遠い目になりながらも、チカフカムキがどこまでやるつもりなのか確認する問いを投げました。
「女性にも、ですか?」
「慈悲はない」
大魔女チカフカムキの辞書に、手加減の文字はないようです。
今でもじゅうにぶんに痛めつけられたであろうモスの国に、さらなる追い討ちをかけようと言う自分の師匠を、さすがにそこまではととめようとしたハウラプでしたが、
「…………お気をつけて」
ちらりと視線を向けた先、きらきらと目を輝かせた戦災孤児たちに、とめる言葉を消されました。親や故郷を喪うことにくらべれば、毛と言う毛がなくなるくらいがなんだと言うのでしょう。
たとえそれが、自分自身の悪名として広まるとしても。
ハウラプはそれで良いと、チカフカムキたちを見送りました。
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