悪い魔女と魔女の師匠
さて、ぶじに泉の村のひとたちを妖精に差し出せたハウラプですが、それで一件落着とは行きません。ほかの妖精たちの相手もありますし、妖精の谷のリーダーが、満足するかもわかりません。ほかの妖精たちの相手もしつつ、ハウラプはあらたな候補を探しはじめました。
美人はもう渡したので、今度はちがう切り口で探します。
自分でリーダーに言った、孤児、と言う案に目をつけました。
かごの鳥ではつまらないと言うのですから、野生の鳥が良いのでしょう。親に守られずともたくましく育っている孤児ならば、野生の鳥と言えるのではないでしょうか。
「孤児……孤児、ねぇ?」
森の塔の一室で机に向かい、ハウラプは頭をかかえました。
孤児にもいろいろあるでしょう。どんな孤児ならおもしろいと言われるだろうかと、ハウラプは考えをめぐらせます。
きっと、妖精相手にも怖じ気づいたりせず、噛みついて行くような子が良いでしょう。では、どんな生まれならばそんな孤児が育つでしょう。
「こう、孤児だけど、誇りはわすれていないような、一本筋が通っている子……」
うーんとうなってみますが、良い案はうかびません。
「だー!もう!!わからん!!」
煮詰めようにも材料が決められない頭のなかみにいら立って、ハウラプは両手のこぶしをふりあげました。
ぱしん。
こぶしを受ける相手なんてだれもいない森の塔のなかなのに、ふりあげられたハウラプのこぶしはだれかにつかまれました。
「やあ、なやんでおるな、若人よ」
ハウラプのこぶしをうしろに引いて、とつぜんあらわれた男性はほほえみました。
ぐいと首をそらせて視線を真上に向けたハウラプが、男性のさかさまの顔を見上げて目をまんまるくします。
「ししょお?」
「いかにも」
ハウラプに師匠と呼ばれた男性は、うなずいてハウラプの手を離し、くるりと身をひるがえしてハウラプの対面の席につきました。
真っ黒なかみと、金色の瞳。ひとなつこくほほえむその顔は、ピリカとそう変わらないくらいの青年に見えます。
「どうしてここに?」
「森の魔女が村ひとつ消したと言ううわさを聞いてな。もしやわが弟子が悪の道におちたのではないかと、心配して来たのだ」
「ああ……」
事情を知らなければ、村ひとつ消すなんてとんでもない悪行です。
ハウラプは姿勢を正して、目の前の青年に頭を下げました。深く下げられた頭が、こつんと机にぶつかります。
「ご心配おかけしてもうしわけありません、師匠」
「いや、かまわんよ」
肩をすくめた青年は、机の向こうから手を伸ばしてハウラプの頭をやさしくなでます。
口では悪の道におちたのではなんて言いましたが、本当はハウラプがなにか無理難題を押し付けられたのではないかと、心配して来てくれたのでしょう。
「して、なにやらなやんでいる理由を、この師匠に聞かせてはくれないのか?」
「いえいえ師匠。ぜひとも話を聞いて、その偉大なる叡智をお貸しください」
ハウラプはおおげさなもの言いをしましたが、決して遊んでいるわけではありません。大まじめです。
なぜなら、この、いかにもひとの好さそうな青年こそ、ハウラプの魔女としての師匠で、多くの魔女から尊敬される、大魔女のひとりなのですから。
男性なのに魔女と言うとおかしく聞こえるかも知れませんが、そもそも“魔女”と言う呼び名は魔女でない普通のひとがかってにつけたものなので、ちぐはぐなのもしかたがないのです。
ハウラプの話を聞いた師匠は、おやおやとつぶやいて笑いました。
「ずいぶんと、難儀な賭けをしたものだな」
「お恥ずかしいかぎりです」
「いや、恥じることはない。むしろ、そう言う契約もありえるのかと、この年にして学んだぞ」
師匠はよしよしとハウラプの頭をなで、そうよな……と考えるような間を置いてから言いました。
「われはその妖精に会ったことがないゆえ、わが弟子の言葉から考えて候補をあげさせてもらうが、孤児をと言うなら、戦災孤児がよいのではないか?とくに戦敗国の孤児ならば、反骨精神も猛々しいのではないかと予想する」
「それは……」
たしかにそうかもしれないと、ハウラプはなっとくしましたが、ひとつ引っかかって反論します。
「ですが、その抵抗したいこころは、自分の国を負かした相手国への敵意なのではありませんか?」
「そうだろうな」
「では、それを連れ去って敵対する機会をうばうのは、」
「だが、負けた以上はその憎い相手にしたがわねば生きられぬ。わかるな」
ハウラプのくちびるに指を置いてだまらせてから、師匠は静かに言い聞かせました。
「ならば、えらそうに“保護”してやろうとのたまう兵士の目の前で、魔女にさらわれると言ういたずらで一矢報いて、あとはきっぱりわすれると言うのも、手としてありなのではないか?
あるいは、そうよな。もしも戦争の理由がくだらなかったなら、その主導者に少しばかり、いたずらをけしかけてこまらせるくらい、許されるだろう」
にっと笑った師匠にハウラプは、ぱかりと口を開け、ぱくりと閉じ、ため息ひとつで気を落ちつかせてからたずねました。
「つまり、くだらない理由でしかけられた戦争で負けた国を、ご存じなんですね?」
「わが弟子もその国の元国民に、会っているはずだがな」
このひとは、いったいどこまで知っているのだろう。
今度こそハウラプは言葉をなくし、くたっと机につっぷしました。
「くわしい話を、お聞かせください」
「うむ。よかろう」
よわよわしくたのんだハウラプを見て、師匠は満足そうに、ふっとえみをもらしました。
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