いけにえ王子と泉の乙女
「それで?」
ピリカに紅茶を出して、メムはたずねました。
「あたしになにをききたいの?」
問われて、ピリカは考えます。なにを知りたいか、なにをきくべきか。
「この家は、どうやって?」
ピリカはわれながらあいまいな問いだと思いましたが、メムは気にしたようすもなく答えてくれました。
「もともとあたしたちは、魔女の森のそばの、泉のほとりに村をつくってた。その村人を妖精に差し出すために、魔女が建物ごと村を移動させたんだよ。ないとこまるでしょうって、建物だけじゃなく畑や庭木までね」
魔女がそんなことをするのか。こころのなかでは驚きながらも平静をよそおって、ピリカはつぎの問いを投げました。
「いけにえと言うのは、きみが?」
「いいや。村全員がだよ。もとはあたしだけに言われたんだけど、みんなして、あたしだけを犠牲にするのはいやだって。ほんと、ばかだよなぁ……」
「魔女がきみを連れていくと言ったのに、ほかのひとも着いて来た?」
「そう言うことになるかな。連れていくって言うか、妖精を楽しませてほしいって、たのまれてさ。こっちも事情があったし、その事情をどうにか解決してくれるならって条件で受け入れたんだけど、話を聞いたウパチリ、あたしの友だちが、それならいっそ村ごと行こうって」
「たのまれた?むりやり、連れてこられたのではなくか?」
驚きもあらわに問い返したピリカを、メムは不思議そうに見返した。
「魔女はむりやり連れ去ったりしないよ。お願いして動いてもらうか、なにかとひきかえの約束を取り付けるかだ。むりやり言うことをきかせられるんなら、魔女もそこまでこまらないだろうし」
「こまる?魔女が?」
なにかをこまらせているのは魔女の方だろうにと、ピリカは疑問をあらわにします。そんな顔をされたメムの方も、どうしたのかと首をかしげ、
「魔女の話、聞いていないの?」
「魔女の話?」
「だから、……ああ、そうか」
メムはピリカより一足早く、おたがいに話が食い違っていることに気づきました。
「ピリカはさらわれたとき、まだ小さかった?」
「ああ。生まれたばかりでさらわれた」
「なるほどね。そう言うこともあるのか」
ひとりなっとくしてうなずくメムに、ピリカは問いかけます。
「どう言うことだ」
「ピリカは魔女を誤解してるよ。魔女は、悪じゃない」
「そんなはず、」
反論しようとしたピリカを、メムが片手をあげてとめます。
「とりあえず、一度だまって、さいごまで話を聞いてくれる?」
「…………わかった」
ピリカが受け入れるのを待って、メムは話はじめました。
魔女の仕事が妖精の暴走をおさえることであること。魔女はそのために妖精ととりひきをすること。ときおり言うことを聞くかわりに、人間をほしがる妖精がいること。
森の魔女が妖精に無理難題をふっかけられ、それにこたえるためにひとを探していたこと。はじめに目をつけたひとはあきらめ、そのあきらめたひとの紹介でメムに会ったこと。森の魔女がメムに伝えたとりひきと、メムたちの事情、さいごにどんな決着がついたか。
話を聞き終えたピリカは、信じがたいと言葉をなくしました。
「そんな……っれなら……わたしは……」
「これは、あたしの予測だけど」
混乱するピリカが切れ切れにこぼした言葉を拾って、メムは答えました。
「だれかまわりの人間に、とりひきを持ちかけたんじゃないかな。すくなくとも、かってにさらうなんてことはしないと思うよ。本人か、保護者か、言葉が通じてちゃんと約束がかわせる相手と、とりひきをするんだと思う」
「……まさか」
メムの言葉が本当なら、自分は父か母に売られたと言うことになる。
それに、そうだ。
「それが真実ならば、なぜ魔女は悪名高くなるんだ?それに、そうだ、きみたちの前にさらわれた女性、ハラムの国の二の姫は、魔女にむりやりさらわれたと」
「つごうの悪いことを、おおっぴらに言うかな?こどもを売ったと言うのと、こどもを魔女にさらわれたと言うの、どちらが自分の名誉を傷つけない?あなたが言う女性とやらは、まちがいなく真実を話しているの?」
メムは口のはしにえみを乗せて、かわいた声で言いました。
「森の魔女がみにくい老婆だってのからして、おおうそなんだ。悪い魔女だって言う評判だって、信じられるわけないよ」
「……え?」
さっきから当然のように信じていたことをくつがえされ続けて、ピリカの頭は混乱しきりです。真っ白になりかけた頭をなんとか働かせて、からからにかわいた口を動かします。
「魔女は、老婆じゃないのか?」
「あっ」
だれにも言わないと約束したことを思い出してメムが自分の口をふさぎますが、出した言葉は戻せません。
「違う。あの、あれだ、みにくくないって、話。美人だったんだよ美人」
苦しまぎれにいいわけしますが、それでだまされるピリカではありません。
うっかり妖精にだまされれば、ひどい目にあいかねませんから。
「そのたいどで、だませると思ってる?」
「なんの話かな?」
「まさか、森の魔女が男だったなんて……」
「ちがうよ!男なわけないでしょう。すっごい美少女っ、ああっ」
ピリカの口車でまんまと情報を話してしまったメムが、頭をかかえます。
「美少女!?森の魔女がか?……まさか」
ピリカの頭に、ひとりの少女の顔が浮かびます。森の悪い魔女を指すならばとても受け入れられない話も、もしかのじょのことを指すならばうなずけます。
「ハウラプ……?」
「え?なんだ、知ってんじゃない。もう、驚かせ、」
「ハウラプが、森の魔女なのか!?」
「はっ!?」
がしっとピリカに肩をつかまれて、メムがびっくうっと身体をふるわせます。
「え?あ、そうだよ?あなた、知ってたんじゃ、」
「真っ黒なかみと目の、天使みたいにかわいい子か?」
「そう、だけど、え?もしかして、知らなかったの?」
「会ったことはある。が、魔女とは知らなかった」
「うわ」
失言したと気づいたメムが、思いきり顔をしかめます。
「やっちゃったよ……なあ、森の魔女がハウラプだってのは認めるから、そのこと、言いふらさないてくれないかな?ほかのひとには言わないって、約束だったから」
「それは、なぜ?」
「くわしい理由は知らないけど、森の魔女として動くときは顔を隠してるから、知られたくないんじゃない?魔女って、馬鹿みたいにきらわれてるし」
「そう、か。そうだな。わかった。言いふらさない。と言うか、ここにいるかぎり言いふらすなんてむりだ」
「それもそうだね」
ははっと、メムが笑う。
「で?ほかになにかききたいことは?」
「いや。今日はもういい。頭を整理したい。また今度、話をきいても良いか?」
「ええ。昼間は畑仕事とかあるけど、夜ならたぶん空いてるよ」
メムとわかれてひとり外に出たピリカは、すとん、と地面にひざをつきました。
頭のなかがぐるぐる回って、とても歩けそうにありません。
「悪い魔女は、悪くなくて、森の魔女が、ハウラプで?魔女はみんなをこまらせるつもりはなくて、むしろこまらないように力をつくしていて?魔女はむりやりひとをさらったりしない、から?わたしは、わたしは、父か母に売られたのか……?」
まちがっているのは、レシパなのか、メムなのか。
うそをついているのは、二の姫なのか、メムなのか。
くらくらする視界で、村をみまわした。まるでずっとここにあったかのような村は、たしかに、昨日はなかった。
そう言えば、自分たちにも家があった。
妖精は家なんて持たない。必要としない。だから、ピリカたちに家が必要なんてこころづかいはできないはずだ。
それなら、いま、自分たちが暮らしている家は、だれが用意した?
人間なんてとても足をふみ入れられない、ここに?
「なにを、信じれば、良いんだ……?」
めまぐるしくめぐる考えに、意識が追いつかない。
くらり、と視界がゆがんで暗くなり、ピリカは意識を手離した。
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