閑話 着々と
お待たせしてすみません。今回すんごく短いです。
お忘れかもしれませんが、本作は一応ローファンタジーです。
バルトロメウスは緊張した様子でルイーゼの実験を見守っていた。
高価な試験管の中にある薬品の色が赤から紫に変わり、やがてそれが青色に変わっていく。
ルイーゼは安堵のため息を吐いて言う。
「ふう……どうやら再現性は間違いないようですね」
その言葉にバルトロメウスもようやく胸をなで下ろした。
ルイーゼの提案に乗って三ヶ月。ようやく愛する妹であるクリスを救い出すための第一歩に到達した瞬間だった。
「集められたサンプルから推定したクリスの魔力反応です。バルトロメウス様は例外なのであんまり参考になりませんでしたね。というか、最初からバルトロメウス様の魔力反応を除外していればもっと早く結果が出ていましたけど」
「うーむ、まさか己のせいで妹との再会が遠のくとは」
それでも予定通りの進捗だった。
ルイーゼは研究室の椅子に座って資料を整理する。
「これでようやく次の段階に進めますね。くふふっ、天才ルイーゼの実力をお見せしようじゃありませんか!」
「自分で言うのか、このチビは」
「チビでもいいですよ。ボクは天才で寛大で慈悲深いですからね!」
ルイーゼの自尊心は悪化の一途を辿っていた。
この後の予定としては、転移魔法とクリスの魔力反応をリンクさせて召喚するための準備だ。主に魔法陣を開発するが、魔道具の類も新たに開発しなければならないようだ。
ルイーゼから説明を聞いたバルトロメウスだったが、基本的に脳筋なので全く理解できていなかった。彼が理解したのはとにかく完成まで待たなければならないということだけだ。
「それから、バルトロメウス様にはちゃんと責任を取ってもらわなければなりませんしね!」
「責任? なんのだ」
「なっ、なっ、覚えていない!?」
首を傾げるバルトロメウスにルイーゼは猛然と抗議した。
「最初にクリスを探し出そうって提案したときの話ですよ! あのときバルトロメウス様はボクの髪をこれでもかと触ったじゃないですか!」
「そう……だったか? すまぬ。覚えていない」
「そんな、そんなことって……もう両親にも英雄のお嫁さんになれるって言っちゃいましたよ、ボク」
泣きそうな顔をするルイーゼにバルトロメウスは頬をぽりぽりとかいて言う。
「クリスが戻ってくるまで待てるなら己も構わぬ」
「へ?」
「責任は取ると言っている」
ルイーゼは飛び上がって喜んだ。
「本当ですか!? 本当ですか!? 本当なら優しく愛しく慈しむように髪を触ってくれて構いませんよ!」
ぴょこぴょことバルトロメウスの前に進み出て頭をずいっと出したルイーゼ。
バルトロメウスは少し肩を竦めて言われたとおり、優しく、愛しく、慈しむように頭をなでなでした。
どこからどう見ても恋人のそれではなく、子どもをかわいがる大人の図だった。
「えっへへーっ! もう言質は取りましたからね! 取っちゃったんですからね!」
「ただ心配だ」
「心配? ボクと結婚するのが心配なのですか?」
「お主はチビだからな」
「むむっ! 別にチビでもいいではないですか! ボクは体格は少しだけ、ええ、ほんの少しだけ小さいのは自覚していますが、大人に相応しい頭脳と品格と妖艶さを併せ持っているではないですか! 何を心配するのですか?」
そうではない、とバルトロメウスは額に手を当てた。
口に出していいものかと悩んでいるようだったが、ルイーゼがうるさいので遠回しに言う。
「その体格では子作りもままならぬかもしれぬ。子どもの頃の服を大人になって着られぬと同じ道理もあろうし、種馬も相手が牝鹿ならば役目を果たせぬであろう?」
その視線は明らかにルイーゼの平坦な胸部装甲に向けられていた。
「……」
ルイーゼは沈黙し、真顔で自分の両手で胸を押さえた。
ぺったんこである。大事なことなのでもう一度言おう。
――ぺったんこである。
「……バルトロメウス様」
「なんだ?」
ルイーゼは至って真面目に尋ねた。
「シスコンなのは存じていますが、ついでにロリコンにもなれませんか?」
ルイーゼは真剣な顔でバルトロメウスにしがみついた。
あと一話投稿して、次の章になります。