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  閑話 ファースト

お待たせしました。短め。

 赤くなった額をそっと撫でて、孝一はもう一度莞爾とクリスに頭を下げた。


「莞爾くん、クリスさん、この度は本当に申し訳ないことをした。本当に、すまなかった」


 再三にわたって謝られたこともあり、莞爾とクリスは苦笑いで首を横に振った。莞爾はそっと孝一の肩を叩いて顔を上げさせた。玄関でいつまでも頭を下げさせているわけにもいかない。


「そういうなら、飯でも食っていけば良かっただろ、兄さん」


 孝一は目を瞬いた。もう兄さんとは呼んでもらえないと思っていた。

 どこまでもお人好しな男だと思った。


「すまない。親父とお袋が家で待ってるんだ」

「知ってる。まあ、智恵さんにタッパーに詰めたの渡しておいたから、みんなで食ってくれよ」

「……ありがとう。いや、すまないな」


 智恵と菜摘はというと、仲良く手を繋いで外にいた。続いて外に出ようとする孝一を、莞爾とクリスはつっかけを履いて追いかけた。


 孝一は車の前で待っている妻と娘を見てくすりと笑った。

 いつだったか、夢見た妻子の姿のような気がした。


 莞爾は茶化すように言った。


「しっかし、智恵さんいきなり借りて来た猫状態だったな!」

「ああ……いや、本当に申し訳ない。彼女にはわたしからもよく言っておくから」

「いや、別にもういいよ。ちゃんと謝ってもらったし……」

「……テーブルも、弁償しよう」


 頭を下げそうになった孝一に莞爾はにやにやと笑って追い討ちをかけた。


「いやあ、あのテーブル、もう生産してないんだ。それに黒檀でさ。三十年ぐらい前に親父が大枚叩いて職人に作ってもらったやつだからな。今あれと同じぐらいのテーブル買おうとしたら、たぶん百万超えるんじゃねえかな」

「ひゃっ、百万!?」

「うっそーっ! せいぜい五十万ぐらいだろ」

「な、なんだ。嘘か……いや、それでも五十万か」


 孝一は真剣に弁償しようと思っているらしかった。頭の中で計算でもしているのだろう。莞爾は相変わらず変なところでかたっ苦しい男だと笑った。


「気にすんなって、兄さん。別に弁償なんてしなくていい。ちょっと凹んだだけだ。目立つ傷でもないし」

「だが、なあ……」

「少しでも悪いと思ってるなら、それは菜摘ちゃんに還元してやってくれよ」

「それは、そのことがなくてもするつもりだ」

「ふーん。まあ、別に弁償しなくていいってこと」


 孝一は納得できないのかしばらく首を何度か傾げていた。そこにクリスが尋ねた。


「掘り返すようで悪いが、昼食は一緒に食べて帰ればよいではないか」


 クリスは菜摘と一緒にご飯が食べられると少し期待していたが、さすがに孝一と智恵はそこまでの厚かましさがなかったし、これ以上恥の上塗りをしたくなかったようだった。

 察した莞爾が料理をタッパーに詰めたが、それでも中々受け取ってくれなかったくらいだ。


 孝一は申し訳なさそうに言う。


「年末年始にまた来ますから、クリスさん。その時にでも。今度はわたしたちの方からお誘いしますよ」


 最初の慇懃無礼な態度はどこへ消えたのか、孝一は困ったように笑った。クリスも溜飲を下げたのか、頬をぽりぽりとかいた。


 莞爾が思い出したように尋ねる。


「親父さんにはなんて?」

「さあ。菜摘のことは心配してくれているし、ここに来てたのも知ってるみたいだ。けど、あえて黙認してる」

「……まあ、そうだろうな」

「あれのことならわたしが言うのも変だが、あまり気にしないでやってくれないか。親父は直接関わってたわけじゃないし……まあ、祖父が勝手にしたことだ。むしろ佐伯家には申し訳ない気持ちだと思う」

「うちだってもう親父もいないし、その死んだ親父だって残念がってたからさ。あんまり気にしないように言っておいてくれよ。俺だっていつの話だよって感覚なんだから」

「ああ……そうだな」


 クリスが横で首を傾げているが、何の話かと尋ねることはなかった。彼女の感覚からすると、家長同士の会話に家人が関わるべきではないと思ったのだ。


 実のところ、由井家と佐伯家には六十年以上前に因縁があった。莞爾の父親がまだ幼かったころだ。当時は戦後間もない時期で、村単位で後家をどうするかとか、戦地から帰るまでの間に親族が土地を預かっているとか、その手の話がどこにでもあった。


 まさにその最たる例として、由井家が佐伯家の現在の宅地の名義を預かり受けていたのだ。無論、それは口約束であったし、当時の由井家の家長が善意で承諾していたことでもあった。けれど、名義を返す前に家長が亡くなり、有耶無耶になりそうなところで莞爾の祖父が名義を返してくれと言いに来た。


 ところが、由井家のあとをついだ孝一の祖父がその話を反故にしようとしたのだ。なんとか他家の後押しもあって名義を取り返したものの、由井家と佐伯家の間には長年に渡る禍根が残った。

 田舎ではこの手の話はよくあったのだ。戦後のごたごたで土地を奪ったり奪われたり、いつのまにか人手に渡っていたりということが珍しくなかった。


「どちらにせよ、俺と兄さんの間にわだかまりなんてないわけだし」

「……そう、だな。ああ」


 孝一はその言葉にほっと胸を撫で下ろした。いつのまにか莞爾を見下すような人間になっていたことが恥ずかしい。農家の父親を持っているのに農家を馬鹿にしていたのは、かつて父親に対して反抗していた側面もあるが、それにしたってもう四十を過ぎているのだ。いいかげん大人になれと自ら気づくべきだった。


 遠くでは、菜摘がプランターを触った手で智恵の手を握っていた。智恵は苦い顔をしていたが、それをはね除けることは決してなかった。「あとで一緒に手を洗いましょうね」と諭していた。妻もまた変わったのだと思うと、自分だけどうして惨めなままでいられるだろうかと、目の前が明るく拓けたような気がした。


「まったく、君は……いや、お前は昔っからいつもそうだった」


 孝一はわざと言い直して頭をかいた。思い出されるのは上京するときに見送りに来てくれた莞爾の拳だった。あのとき、どすんと叩かれた胸の痛みを、まるで昨日のことのように感じられた。


 言葉ばかりを重ねたがる孝一に比べて、昔の莞爾は行動で示すタイプだった。それが少し羨ましくもあり、一方で少し窮屈にも感じていた。莞爾は弁が立たないというのも大いにあった。けれど、それ以上に莞爾は言い訳を作らなかった。父親と真摯に向き合っていた。


 自分はどうだっただろうと考えれば、孝一は莞爾がすごい男に思えた。大したことはない、ぶっきらぼうで言葉足らずで、お人好しで肝心なところで二の足を踏む、そんな男だが、飛び込むべき瞬間に飛び込む男だと思った。


「わたしはお前が羨ましいよ、本当に」

「……いや、なんのこと?」


 莞爾はわけもわからず首を傾げていた。その眉根を寄せる表情さえもどこか面白おかしく感じられた。今年は久しぶりにお歳暮も送ってやろうと思った。とびきり高いやつを。


「なあ、莞爾くん」

「なんだよ」

「もしわたしがこっちに戻って来たら……」と言いかけて、孝一はくすりと笑い「あー、いや。それはまた今度話そう」


「なんか知らないけど、わかった。まあ、好きにしてくれよ。俺は兄さんと違ってだいたい家にいるからさ」


 莞爾がほくそ笑んで嫌味ったらしく皮肉ると、孝一は「こいつ」と彼の肩を小突いた。


 いつのまにかまだ十代だったころの感覚が急に胸に押し寄せて、二人は思わず頬を緩めた。


 不意に、菜摘が走り寄って、孝一は彼女の視線に合わせて腰を落とした。

 久しぶりに娘と同じ視線の高さに腰を落として、子供の見ている世界がこんなにも大きかったのかと少し驚いた。


 菜摘もきょとんとした顔で孝一の顔を見つめ、ついで嬉しそうに歯を見せた。


「どうしたんだ、菜摘」

「えっとね、クリスお姉ちゃんと大根の水やりしてなかったなって」

「ああ、そういえば水やりを一緒にしていたんだったね」

「うん。ねっ、お姉ちゃん!」


 問いかけられて、クリスは大きく頷いた。


「帰る前に水やりをしていくか?」

「うん!」


 クリスが手を差し出すと、菜摘はにこやかに笑ってその手を取った。遠くで智恵が少しばかり悔しそうにしていた。孝一が視線を向けると決まりが悪そうにしていたが、彼が二人の方へ腕を動かして合図すると、智恵は何かに気づいたようにクリスと菜摘の方へと走り出した。


「……正直、身の恥だと思う」

「おう」

「四十過ぎにもなって、莞爾くんやクリスさんの気遣いに甘えてる」

「別にいいんじゃねえのかね」

「そういうわけにもいかない。けれども、今だけは甘えさせて欲しいんだ。厚かましいお願いだとはわかっているが」


 急に真面目な顔を装った孝一に、莞爾は鼻息を漏らして頬をかいた。本当に変わったものだと、いやむしろ昔に戻ったと思った。まるで今まで幻惑にかかっていたみたいだ。


 智恵がクリスと菜摘に加わり、二人が水をやる様子を眺めているのをさらに孝一と莞爾が見ていた。借りてきた猫というのがまさしくそうだと言わんばかりにしおらしい態度で、どこかよそよそしいというか、ぎこちないというか、今更どんな顔をすればいいかわからないという困惑がありありと浮かんでいた。


 けれども、彼女からすればその困惑を恥と知りつつも厚かましく縋ることが返礼の一歩目だと気づいていた。うちに固まった劣等感をどうしてこのような場所でみっともなくわめき散らしてしまったのかと嘆かずにはいられないが、言ってしまってすっきりした反面、言うべき場所を間違えたというのも十分に理解していた。


 莞爾は「あー」と言葉にならない声を漏らして頭をがしがしとかいた。少しばかり肌寒い。もう冬に入り、日光に関係なく気温が低かった。水場で手を洗い冷たくなった菜摘の手を、智恵はハンカチで優しく拭う。菜摘が「ありがとう」と言うのが二人にも聞こえた。


「わたしも、このままでいいと思っていたわけじゃないんだ」


 莞爾は無言で続きを促した。けれど、孝一は視線だけで「わかるだろう?」と問いかけて、その先を話さなかった。莞爾は小さく頷いて答えた。


「所詮俺はまだ独り身だよ、ったく」

「……クリスさんは妻じゃなかったのか? てっきり婚約ぐらいはしているものだと思っていたんだが、違ったか」

「婚約ねえ……そうだなあ。俺はその気があるんだけど、あっちがな」

「首を縦に振らない?」

「そうじゃないさ。言えないことの方が多いんだ。でも、そこは察してもらえると助かる」


 孝一はしばし考えて、外国人の女性が日本の辺鄙な農村で独身農家の家にお邪魔しているという構図がそもそも想像の埒外であることにため息をついた。どうしたって察することはできそうにない。


「いい人なんだろう?」

「さあ。それを判断するには少々出会ってからの時間が短い気がしないでもない。でも、案外うまくやっていけると思ってる」

「ひとつ屋根の下に住んでて間違いは起きないのか?」

「起こす気がない」

「やれやれ、だ。そういう意固地なところは全く変わっちゃいない」


 孝一はふっと笑った。


「でも、少し安心したよ。お前はそういう男だった。昔から」

「……もしかして褒めてるのか?」

「貶してるんだ」

「嘘だろ、なあ」

「本当だって」


 孝一はくすくすと笑って歩き出した。その後ろ姿を見送り、莞爾は昔の彼とは違う雰囲気に気づいた。三山村を去ったときの孝一の後ろ姿は悲しくなるほどに小さく、寂しそうだったのに、今となってはどこか嬉しそうで、楽しそうで、少しだけ大きく見えた。


 莞爾はいくつか考えてみたけれど、ついに答えは見つからなかった。先ほどまでの身勝手な男が、今ではかつて慕った兄以上の兄になっている。それが奇妙に嬉しい事実でもあった。


 ふと、視線をあげるとクリスと菜摘が近くに戻ってきていた。その後ろに智恵がおろおろしながら立っていた。罪の意識はあるらしい。そうでなくては困るのだが。


 菜摘が莞爾に走り寄って彼のお腹におでこをわざとぶつけた。


「おおっ!? どうしたんだ?」


 莞爾は受け止めて問いかけた。


「えへへっ! えっと、えっとね!」


 莞爾は恥ずかしそうにしている菜摘に合わせて膝をついて視線を同じ高さにした。すると、菜摘は顔を赤くしてはにかんだ。


「あ、ありがとう、お兄ちゃん!」

「あははっ、そんなことか。でも俺は何もしてないからな。お礼はクリスに言うといい」

「ううん。お姉ちゃんにも言うけど、お兄ちゃんにも!」

「そっか。ありがとな」


 そっと頭を撫でてやると、菜摘はまた「えへへ」と笑った。可愛い女の子だ。莞爾はつい頬を緩ませた。


 菜摘からすれば、莞爾が促したおかげで両親にしてほしいことを言えたのだから、それなりに助かった一面もある。クリスは文字通り背中を押してくれた。どちらも菜摘にとっては嬉しい助けだった。


 菜摘は莞爾の首に手を回してぎゅっと力を入れた。彼の耳元でもう一度「ありがとう」と言って、離れ際、彼の頬にちゅっと口付けした。


「えへへっ! 菜摘の初めてだよ!!」


 菜摘は照れ隠しにウィンクをしてクリスの方にスキップして行った。莞爾は唖然として頬に手を当てて孝一の方を見た。すると、孝一は鬼の形相をしていた。莞爾は思わず首を横に振った。自分から唇を奪ったのではないと必死に視線と首の動きで訴えた。


「ぷっ……冗談だ。半分くらい」

「いや、もう半分は!?」

「菜摘はやらん」

「いや、もらおうだなんて思っちゃいない……っていうかまだ十歳じゃねえか」

「なるほど。あと六年待てばいいのか」

「そうじゃない。そうじゃないだろ」


 孝一は笑ったり真剣な顔をしたりして、莞爾を困らせた。クリスと智恵はきょとんとした顔で二人の様子を眺めていた。ぴりぴりとした空気がすっかりなくなっている。


 菜摘はクリスの手を握って顔を上げた。


「お姉ちゃんも、ありがとう!」


 とびっきりの笑顔だった。クリスも莞爾と同じように腰を少し下ろし、彼女の頭を撫でた。


「よかったな、ナツミ」

「えへへっ、お姉ちゃんのおかげだよ! ねっ! お母さん!」


 水を向けられて、智恵は思わず息を飲んだ。座敷で謝ったきり、まだまともに目すら合わせていなかったからだ。けれども、このまま終わらせるわけにもいかない。智恵は喉を鳴らせて姿勢を正した。


「クリスさん……あの、その——」

「これからよろしく頼む。礼は不要だ」


 目の前に差し出された手に、智恵は驚いた。彼女の心根の優しさと深さに自分の狭量さを思い知らされた。少し前までの自分だったなら、「馬鹿にするな」と罵倒していたかもしれない。けれど、今ならば素直に受け入れられる。今まで他者に抱いていた劣等感がことごとく消え去ったような気さえした。


 智恵はそっとクリスの手をとって言った。


「……いえ、言わせてください。クリスさん、ありがとうございました。本当に、あなたのおかげです。わたしはとんでもないことをしてしまうところだったんですから」

「ふむ。だが、私とて小娘なのでな。あまり恐縮されると私の方が困ってしまうのだ。それに、娘の友達にそれほど堅苦しく接するのは疲れるであろうし、どうか気軽にしてもらえると私としても気が楽でよいのだが」

「では、少しずつ」

「むふふっ、少しずつか。では、次にお会いしたときは一緒に食事をしようではないか」

「ええ、もちろん」


 男同士で友情を確かめ合う隣で、なぜだか女の友情も発生していたらしい。菜摘は首を傾げていた。



 三人が車に乗って走り去っていくのを見送って、莞爾とクリスはどちらともなくため息をついた。


 どうにかなったという安堵と、思わぬ事態に巻き込まれたという嘆きとが混ざった吐息だった。


「昼飯、ずいぶん遅くなっちまったな」


 時刻はもう午後二時になろうかとしていた。クリスは頷いてくすりと笑った。


「けれど、よかったではないか。昼食を一緒にできないのは残念だったが」

「そりゃあ、あんなことがあってすぐに仲良しこよししようなんて……普通はできねえだろうな。だから言ったじゃねえか。由井の家に帰るはずだって」

「むぅ。だがなあ、仲違いをしても一緒に食事をすれば大抵のことはどうでもよくなるではないか」

「まあ、なあ。でも、場合によりけりだな」


 他人の家に上がり込んで家庭問題を持ち込んだのだから、恥ずかしいと思うのが当然だ。もしそれで平気な顔をしているようでは、莞爾とて孝一と智恵の神経を疑ってしまう。


 クリスの「一緒に食事をしよう」という提案には乗ったものの、その反面で「やっぱりそうだよな」とも思った。だんだんとクリスに毒されているような気がした。


 孝一と仲が良かったということもあるが、大人になってまで子供のような付き合いができるというわけではないのだ。大人になればお歳暮やお中元を贈るのが当然だし、いくら幼馴染とはいっても親しき仲にも礼儀ありだ。


「そもそも、だ。兄さんも兄さんでもうちょっと時間帯を考えるべきだろ」

「今更文句か?」

「愚痴だよ。ほんと気の利かない男なんだ」

「それにしては嬉しそうに笑っていたではないか」

「そりゃあ……まあ、な」


 突然素直に答えられても気持ち悪いだけである。クリスは首を傾げて莞爾の顔を覗いた。どうにも気味が悪いものだ。


「それにしても、ニホンの礼儀というものはいささか建前が大きいのだな」

「そうかもなあ」

「騎士の礼儀といえば、そんなに大層なものはないのだ。喧嘩をすればその後で一緒に飯を食い、酒を飲んで水に流す。それだけだ」

「漢らしい方法だな、おい」


 莞爾はくすくすと笑って家に上がった。クリスも続く。


「さてさて、飯にしよう。まだ仕事も残ってるしな」

「うむ。時間もないし、私も手伝うぞ?」

「お、そうか。じゃあ、ちょっと手伝ってもらおうかな」

「むっふっふっ、任せておけ!」


 とことこと莞爾の後ろにくっついて、クリスは菜摘の楽しそうな笑顔を思い出した。もう寂しいままじゃなくなったのだ。これからも毎日来てくれるかどうかはわからない。それだけが、少しばかり名残惜しい。

「ところで、カンジ殿」

「なんだよ」

「先ほど、ナツミから頬に接吻を受けてはいなかったか?」

「あんなの子供がしたことだろ?」

「むぅ……」

「クリスもしてくれるのか? 俺はいつでもいいぞ」


 莞爾はこれみよがしに問い返した。するとクリスからの返事がなくて振り返ると、壁に額をぶつけているクリスがいた。


「……何やってんだ?」

「いや、我ながら余計なことを言うなと戒めを……」


 ついつい以前の感覚で莞爾をからかおうとしたのが間違いだった。クリスは猛省した。覚悟を決めなければならないのは自分の方だと。


まとめきれずに幼女に逃げました。場面飛ばすのも微妙だったので。



*次から本筋に戻ります。

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