B 友人の妹・武野エリカ その一
「じゃあ、友人の妹を恋人にしたいです!」
キミは安全パイと思われる友人の妹を狙う。
「そうか。しかし、妹というのは予測できん不思議でおかしな生物だからな。
少し大人びたタイプなら、ある程度の予測も立てれるが、まるっきり子供タイプだと、言葉と行動が全く噛み合わなかったり、目をつぶったからキスしても良いのかと思ったら、リアルに寝てるだけだったりするからな。
できれば、もう少し大人になってから落とした方が良いと思うんだが……」
「一応、十三歳だから大丈夫だろ。ちょっと幼いけど、結婚すればよくある年齢差になるしな」
「まあ、在学中はロリコンとか言われるぞ。それだけは覚悟しておけよ!」
こうして、キミに惚れているという友人の言葉を信じ、武野エリカを彼女にする計画を、シレンさんと一緒に立て始める。まず、友人と一緒に、妹遊ぶことにした。
「兄貴は口実としては便利だけど、二人きりにするのは難しいかもしれない。まず、四人で遊んで、妹のメールアドレスや携帯電話の電話番号をゲットするんだ。
その後は、兄貴はある程度無視しても良い。妹と連絡を取れればこっちのモノよ!」
シレンさんは犯罪者のような事を言っていた。
「それでも良いですけど、最初はどこにしますか? 遊園地は金額が高すぎる、映画はあまり会話をする機会が無い、となるとカラオケとかですかね? その後食事とか?」
「ダメだ! 中学生でカラオケと食事、妥当な普通のプランではあるが、妹の口から親御さんに知られた場合に、不信感を抱かせる可能性がある。
親御さんが知ったとしても、子供らしく微笑ましいと思える所じゃないと、次の機会に疑いを掛けられる場合があるからな。アイドルのコンサートやライブ、コミケなども危ない。
まさか、悪い連中と付き合ってるんじゃないか、と思わせるような場所は避けた方が良い。親御さんが安心して任せられると思えるようにならなければ、ちょくちょくデートに誘うのは難しい。
そして、両親や兄貴が油断している所をガブリと捕食する。それが正しい落とし方というものだ。というわけで今回は無難に、地元の動物園『のんほいパーク』でデートするとしよう。
人が多いし、獲物も油断しやすいだろう。それに、シャ―ケット・ネコーズぬいぐるみを本格的に売り込みたいからな!
そこから、動物園、植物園と攻めて行き、最終的に『のんほいパーク』と豊橋市を手中に収めるのだ!」
「うーん、だんだん悪い人と話してるような気分になって来たぞ」
「気のせいだ。私はあくまで、お前と武野エリカに幸せになってもらいたいと思っているだけだ。
過程はちょっと荒い時もあるかも知れんが、若妻をゲットした時はとても良い気分だぞ!」
「本当に大丈夫なんでしょうね? 犯罪行為とかは嫌ですよ!」
「ふっ、私の力を悪用すれば、犯罪行為すら揉み消すことが可能だ!」
「ダメじゃないですか……」
「まあ、冗談は置いといて、実際に彼女にあって見ないことには、対策も改善も出来ないからな。今度のデートは普段通りでいてくれてかまわんぞ」
「じゃあ、そうしておきます。もうすでにメールで都合は付けたんで大丈夫ですよ」
こうして、今度の休日に四人で遊びに行くことが決まった。
キミ達は朝の九時に、動物園の入り口前に集合する。友人で今回は邪魔者の敦が、キミに話し掛ける。
「まさかお前が動物園に行きたいなんてな。まあ、妹も俺も暇だから、晩くまで付き合ってやるよ。金は無いけどな」
それを聞き、シレンさんは喜ぶように言う。
「キャー、ありがとうございます。冴えない透君とじゃ、味気なかったので助かります!」
キミはシレンさんに突っ込む。
「ちょっと、キャラ変わり過ぎじゃないですか? 他の人が不審に思いますよ。
いい歳こいて、ブリッ子キャラとか引きまくりますよ。エリカちゃんの方が、お姉さんみたいになってるじゃないですか。ねえ?」
キミは妹のエリカちゃんを見るが、表情が暗い感じだった。それを見てシレンさんは言う。
「うーん、現実を見て冷めたったんですかね。好きだった人がこんなへたれなら、冷めてしまっても当然と思いますけど、ちょっと早過ぎませんかね?
少しは乙女フィルターがかかって、積極的にからんで来るものなんですけどねえ、普通……」
妹のエリカちゃんが思った反応をしないため、キミはこっそりと敦に尋ねる。
「おい、本当にオレに惚れてるのかよ? 乙女モードが全然見えんぞ! こう、もっとお兄ちゃん、大好き♡ って来るもんだろうが、普通……」
キミの言葉を聞き、敦ではなくシレンさんが話し出す。
「うわ、キモ! 一人で勝手な妄想してるんじゃないわよ、この変態ゴミ虫!」
キミはシレンさんのきつい一言にかなりへこむ。シレンさんにド突きたくなり、追いかけ回す。
「キャー、変態が追って来る。お巡りさん、助けて!」
「おい! 人が誤解するだろ。みんな、嘘だよ、この人の冗談!」
シレンさんとキミはちょっとケンカを始める。しばらくすると、敦は重い口を開き始める。
「実は、妹のエリカ、最近学校でいじめに遭っててな、引きこもり気味なんだ。エリカを連れ出す口実が欲しくて、俺はああ言ったんだ。ごめんな……」
シレンさんは敦の言葉を聞き、納得する。
「まんまと引っ掛かったわけか。この変態へたれ野郎が!」
「シレンさん、うるさい! ちょっと待て、本当に大変な状況じゃないか」
キミがそう言うと、シレンさんは悪乗りする。
「このままじゃ、エリカちゃんみたいな美少女も、透みたいなお先真っ暗野朗になってしまうじゃないですか。
なんてもったいない。このままいくと、不良化して悪い仲間と付き合いだし、レイプや麻薬などで取り返しのつかないレベルまで容易に達し、見るも無残な骸骨になって野垂れ死にしてしまうじゃないですか。
数少ない美少女が、やくざや不良の餌食になるなど、黙って見過ごせません! でも、お兄様、安心してください!
この変態へたれが、命に代えてもエリカさんを魔の手から守ってあげますとも。私の指導の下で!」
敦はその言葉を聞き、安心したような表情をする。どこか、気が抜けたのだろうか?
「本当ですか? お願いします!」
敦とシレンさんは熱い握手を交わしていた。
シレンさんは続けて言う。
「とりあえず、妹さんの携帯電話の番号と、メールアドレスを教えてください。時間がある時に、エリカさんがまともに生活できるように、アドバイスや注意などを与えておきますから。
変な輩ですけど、透と付き合わせて、不良化を食い止めることにします。万が一何かあった場合は、透が責任を取って、妹さんを嫁にしますんで、ご安心ください!」
「ちょっと、何勝手に進めているの?」
敦はそれを訊いて、完全に安心したようだ。
「そうか! じゃあ、透に全部任せるよ。俺は本当は部活の練習したかったから、エリカをお前に任せて、俺は部活に参加して来るよ。俺、レギュラーだから本当はそんな暇じゃないんだ!
夕方頃にエリカを迎えにお前の家に行くから、それまで適当に遊んでいてくれ。よろしく!」
敦はそう言って、学校の方へ向かって帰って行く。キミとシレンさんは、エリカさんの面倒を見ることになった。
「なんか、あっさりと邪魔者が消えたな」
「あのくらいの年頃は、家族の心配より部活でレギュラー落ちしないかの方が気になるものですからね。あなたのように才能もない人とは違って……」
「ちょっと、オレだって吹奏楽でいっぱい練習してるんだぞ! コンクールの入賞目指して頑張ってるんだぞ!」
「はいはい、そういうことにしておきますよ」
シレンさんはキミの抗議を、適当に流して聞いていた。そして、エリカちゃんに近づいて行く。ちょっと子供をあやすような口調で話しかける。
「はーい、今日はお姉ちゃん達と遊びましょうね。お金は、あなたの彼氏君が出してくれるようだから、心配しないでね」
シレンさんがそう言うと、エリカちゃんは小さくうなずいた。まるで小動物の様で可愛かった。