清楚系の先輩・野村翡翠 エンド
キミは家に着き、ご飯を食べた後で考える。
「そうか、野村先輩は極度のあがり症だったのか。何とかならないのかな?」
キミは野村先輩を助けたいと思って、シレンさんに尋ねるが、シレンさんは冷たく言う。
「野村があがり症のままの方が、お前との関係はうまくいくだろ。野村はもう実力はあるんだ。お前の力量が追い付くまで待たせた方が良いだろう。だから、アドバイスはしない。
むしろ、野村がコンクールに失敗して、お前が彼女を励ます方が、二人の関係も良好になるだろうな! 私はその方法を勧める」
「ということは、あがり症を克服する方法はあるということか?」
「あるにはあるが、お前には絶対に良い方向に行かないよ。それでも良いというなら教えてやるけどな。後悔はするなよ!」
キミはシレンさんに決心して、宣言する。
「好きな子が困ってるのに、助けになれないなんて男じゃないよ! オレは好きな子には幸せになってもらいたいんだよ!」
キミの決意を、シレンさんはあきれる。
「そう言って、格好を付けた何人の男が後悔することになったか……」
シレンさんは少し良く考えろと言って、キミに時間を与えてくれた。キミは今日の事、野村先輩の事を考えていた。
そして出した結論は、やっぱり力になってあげたいということだった。キミはシレンさんにそう伝える。シレンさんは乗り気ではない。
「バカだね。何の得にもならないかもしれないのに、好きになった子を助けたいなんてね」
「それが男ってもんだ。好きな子のためには何でもしてあげたい。頼む力を貸してくれ!」
「分かったよ。あがらないテクニックを伝授してやる。後は、勝手に野村に伝えるんだな」
こうして、シレンさんはキミにあがらない方法を教えてくれた。キミは早速、野村先輩にそのテクニックを教えてあげることにする。
キミは野村先輩との約束通り、朝早くに家を出て、彼女の家に走って向かう。
シレンさんは低血圧という言い訳により、まだ眠っている。野村先輩はシレンさんと違い、約束の時間通りに家を出て、キミに出会う。
「あ、野村先輩、時間通りですね。おはようございます」
「おはよう。水上君も頑張っていてすごいな。私も負けないように頑張らないとね!」
野村先輩は笑って、ガッツポーズをした。その姿を見て、キミは可愛いと思ってしまう。
キミは思い切って話題を振る。
「実は、オレの従姉からあがらない方法について教えてもらったんで、それを野村先輩にも教えようと思って、急いで来ました!」
「え? そうなの。ありがとう! でも、うわさで聞いてる方法はいろいろ試したよ。成功した時をイメージしたり、手のひらに人という字を書いて飲んだり、どれも効かなかったけどね……」
「あ、その方法はダメですね。まず、成功のイメージはほとんど良い影響を与えてくれません。むしろ、成功のイメージはマイナス要因になります。
人間の脳には、自分が取った行動を元に調節を計ろうとする機能があるため、成功のイメージを持とうとすると逆に緊張してしまうものなんです。
手のひらに人と書いて飲むのも同じ原理で、緊張している人が好くする行為をすると、緊張しているこの行為をしているから自分は緊張しているのだろうと勝手に判断して、寄り緊張してしまうものなんです。
つまり、緊張したくないのであれば、緊張している人が絶対にやらない行動を取れば、脳はリラックスしていき、緊張しなくなるわけです。
例えば、試験当日に爪切りを持って来て爪を切ったり、公演の時に落書き用のノートを持って来て絵を描いたり、お手玉のような玩具で遊んだりなどです。
公演前に水を一杯飲むというのも、緊張をほぐす良い手だと思いますよ」
「なるほど、緊張しないように普段していることをするか……。じゃあ、私の大好きなキャラクターの下敷きとか、うちわとか、クッションとかを持って来ても良いってことよね?」
「まあ、和んだりできるのなら、良いと思いますけど……」
「じゃあ、ちょっと待ってて! 私のぬいぐるみキーホルダーを持っていくから、今日は大事な音楽の試験なのよ。リラックスできるかどうか試してみるわ!」
野村先輩はちょっと大きめのネコーズぬいぐるみキーホルダーを持って来た。
「ちょっと大きくないですか? 邪魔になりそうです」
「だから、重要な試験の日とかにだけ持って来ることにしたのよ。可愛いでしょ?」
「う、はい。可愛いです!」
キミは野村先輩を見てそう思った。
「じゃあ、学校へ行きましょうか」
キミと野村先輩は学校へと向かって歩いて行く。どうやら、キミの教えた方法が野村先輩の緊張を取り除いたようで、試験の結果は良いようだった。
「水上君、ありがとう! あなたのおかげでうまくいったわ。お礼に今度、デートしてあげるね。どこが良い?」
「あ、どこでも良いです。じゃあ、気になった映画とかあるんで、そこでどうですか?」
「いいよ! 今週の日曜日夕方六時に待ち合わせね!」
「はい、楽しみにしています!」
キミはその日、とても幸せな気分で一日を過ごした。帰ってから、シレンさんにデートの事を話す。シレンさんは笑ってこう言った。
「そうか、じゃあ、ちょっと早いけど、私の役目はここまでだね。短い間だったけど、楽しかったよ。野村を幸せにしてあげるんだぞ」
「はい、いろいろありがとうございました!」
こうして、シレンさんはキミの前から消えていった。もしかしたら君の家にも現れるかもしれない。その時は、ケーキやプリンなどを食べさせてあげよう!
普通にハッピーエンド!
ここまで見てしまったか……。
キミと野村先輩はそれからしばらく付き合った。しかし、野村先輩があがり症を克服したことで才能が開花し始め、すぐに海外に留学してしまった。
キミとしばらくは連絡を取っていたものの、しばらくしてメールの返事が来なくなった。
二年後、テレビのニュースで野村先輩が、プロの音楽家になった事を知った。そして、その年にプロの指揮者と結婚したとニュースが流れた。ようやくシレンさんの忠告を理解した。
シレンさんがキミにバカと言ってるような気がした。その日は一人で泣いた。
「まあ、こんな時もあるさ。また最初から読んで、友人の妹か、幼馴染を恋人にすれば良いだけさ」
「いたんですか?」
「アフターケアはバッチリだと言っただろ。まあ、二年過ぎたけどな。野村翡翠の事はなかったことにして、最初から始めろ!」
キミだけバッドエンド&ループエンド!