最高の美女をください その三
キミはシレンさんを連れて帰ることにした。
店を出ると、偶然にも学校一の美人と言われている吹奏楽部の先輩、野村翡翠に会った。
「あ、どうも。部活ではお世話になっています。後輩の水上透です」
「ああ、確か、一年の……。このお店で買い食い? 悪い子ね。まあ、私も買っていく所だけどね。じゃあ、二人だけの秘密……、でもないわね。この子は彼女さん? 可愛い子ね!」
野村先輩はシレンさんを見てそう言う。
「違います! そう、従姉ですよ。偶然帰りが一緒なんで、まあ、ケーキでもと……」
「ふーん、仲が良いんだ」
「いや、こいつ友達いないから……」
「へー、同じ学年かしらね? まあ、いいわ。
またね水上君!」
野村さんは店の中へ入って行ったが、キミはしばらく緊張して動けなかった。先輩の髪の香がしばらく残っている。良い香だった。
「ほーう、あれが君の好きな人か?」
「いや、違う。ちょっと、気になってるだけだよ」
「それは、好きなんじゃないのかよ……」
しばらくして、キミとシレンさんは歩きだした。すると、道の向こうからキミの友達の武野敦が現れた。敦が言うには、敦の妹はキミに惚れているという。それを聞いたキミは、敦とちょっと気まずい感じになっている。
「おう! なんだ、透、彼女がいたのか? これで妹も諦めがつくだろう。いやー、毎日妹がうるさくて困ってたけど、丁度良かったわ! 今度、妹と一緒にダブルデートでもしようぜ! お前のおごりで!」
「いや、彼女違う!」
「なんで片言? 彼女じゃないの?」
「えーと、従姉。そう、従姉で遊びに来ているんだ。ここらで美味しいケーキ屋はないかって言われて、案内したところなんだ」
「そうなのか。分かったよ。じゃあ、またな」
敦は急ぎの用事があったのか、すぐにキミと別れてどっかへ向かう。敦が見えなくなると、シレンさんはキミに尋ねる。
「敦の妹が最高の彼女じゃないのか? 兄貴はイケメンだから、妹も可愛いと思うぞ。それに、たぶんお前に惚れているのは本気だと思うんだが……」
シレンさんはキミの顔を見てつぶやく。
「いや、ないな。忘れてくれ!」
「おい! 傷付くじゃないか」
「すまん、すまん。じゃあ、妹にアタックするか? 成功率は高いかもしれないぞ」
「嫌いじゃないよ、でも、友達の妹だし、敦の弟になるのはちょっと不安かな……」
「ちっ、クズめ!」
シレンさんにそう言われ、キミはちょっとへこんだ。
家に着き、玄関を開けようとすると、隣に住んでいる幼馴染の同級生の火野紅葉と出会った。紅葉はシレンさんを見て、驚き慌てている。
「な、彼女? いつの間に! どこで知り合ったのよ?」
「彼女じゃないよ! えーと、家政婦のバイトに来たシレンさんだよ。ちょっと、住む場所がいるみたいで、とりあえず家に来てもらったんだけどね」
紅葉は落ち着きを取り戻して言う。
「ふーん、一緒に住むんだ。見た所、同い年くらいだけど……」
紅葉はシレンさんを見て、可愛いからか、ちょっと嫉妬してるようだ。キミは動転して、紅葉にこう言ってしまった。
「そうだ! じゃあ、シレンさんは紅葉の家に泊まりなよ。同い年だし、話も合うだろう。やっぱり、年の近い男女が一緒に住むのは、近所の目もあるし良くないよ!」
キミの提案に紅葉が焦る。
「ええ! 急に? どうしよう?」
シレンさんは冷静に言う。
「いや、透と個人的に話したいこともあるからな。透の願いを叶えるためにも、今日は一緒にじっくりと話し合わないと。お互いの幸福な未来のために!」
「え? 二人はそういう関係だったの? 彼女を通り越して、夫婦の様ね……」
「お前、適当な事を言うな! うそうそ、別にそういう話じゃないよ。給料とか、食事と住む場所を捜しとか、そんな話だよ」
紅葉は疑わしい目で、キミを睨みつける。
「まあ、そういうことにしておくけど、高校生なんだからもっと勉強とか、部活に打ち込みなさいよね! 私が毎日起こしているから、学校も遅刻しないんでしょ! 感謝してよね」
紅葉はそう吐き捨てて、家の中に入って行った。シレンさんはキミにこうつぶやく。
「なんだ、もう良いのが揃っているじゃないか! 後は、お前のへたれを治せば、解決するな!」
キミ達は家に入る。母親が出迎えて来るが、どこか浮かない顔だ。
「はー、お帰り。お婆ちゃんが入院して大変なのよ。どっかに、良いメイドさんでもいないかしら?」
「うん、見つけて来たよ……」
母親はキミの一言を聞き驚いた。しかし、シレンさんを見て、がっかりとした表情をする。
「ああ、お友達の方ね。夕飯くらいなら出来てるわ。一緒に食べて行きなさい」
「いや、見た目が若いから、がっかりしたかもしれないけど、彼女は本気でメイドになろうとしているようなんだ。話だけでも聞いてやってくれ!」
キミの話の腰を折り、シレンさんはよだれを流して言う。
「とりあえずご飯を下さい!」
シレンさんは良い匂いを嗅ぎつけたのだろう。話の腰を折って、ご飯を要求する。キミは、食べ終わった後で、改めて話すことにした。三十分ほどして、シレンさんはご飯を食べ終わり、親を飲みながら母親に話し出す。
「ふー、お宅のへたれお坊ちゃんが、まともに彼女も作れないんで、協力してくれって泣き付いて来たんですよ。私もこんな無能と付き合うのは嫌だと断ったんですけど、それなら彼女ができるようにアドバイスをしてくれって、無駄にしつこくへばりついて来たんですよ。
私も今日、名古屋に来たばっかりだったんで、仕方なくメイドという理由を付けて、お宅のへたれを真っ当に生きられるように教育してやろうと思って、お宅に訪問したんですよ。どうです、お坊ちゃんの将来のためと思って、時給三千円で雇いませんか?」
キミはシレンさんの暴走を止める。
「ちょお、待てよ! 誰がへたれだ! それと、時給三千円は高い! せめて、時給八百円だ! 労働時間はお母さんのいない朝九時から午後五時までだ。食費も出すんだし、それで納得してくれ!」
シレンさんはキミの母親に笑いかけて言う。
「ね? 私の指導のおかげで、経済力が格段にアップしたでしょう? このようにしていけば、将来は有望な嫁が見付かりますよ!
後、私もへたれお坊ちゃんのサポートのために学校に付いて行きますんで、一日二時間くらいの労働で五千円くらいは下さいよ それが相場ってもんです!」
「おい! 全然仕事する気が無いだろ! お前なんてニートと同じだ。時給八百円でも高いくらいだ。もっと家事とか料理とかしてくれよ」
「おいおい、それは将来の嫁が可哀想になるだろ。わざわざ性能を落として、将来の嫁がポイントを嫁ぎ易い状態を作り出しているんだ。素人が口を出すんじゃない!」
「じゃあ、見習いってことで時給八百円からだ。そこから徐々に増やしていく、それでどうだ?」
「はっ! そう言って、全然給料を上げないんだろ! 詐欺師が使う手じゃん。時給千円だ! 能力が高いと判明したら、五百円ずつ上げていけよ!」
「分かったよ……」
「彼女ができたら、時給二千円な!」
「え? 結婚するまでいるとか、そんなん?」
「アフターサービスもしっかりしているのが、私のこだわりです!」
「使えなかったら、即追い出すからな。マジで!」
こうして、シレンさんは時給千円で、キミの家に住みついた。キミが部屋に行くと、願いの相談をするため付いて来る。
で、あの三人の中で、誰が好みなのかな?
清楚系の年上美人の先輩、野村翡翠?
すぐに落とせる友達の妹、武野妹?
ツンデレで隣に住んでる幼馴染の火野紅葉?
彼女にしたい人を選んでね。