最高の美女をください その二
少し間を置き、シレンさんは思い出したように言う。
「ああ、そうだったな。一応、缶の中からも声で様子は知ってるんだ。だから、最近女子高生たちが美味しいって評判のお店とか気になっちゃって、ずっと行ってみたいと思っていたんだよ。じゃあ、私と出会ったことを記念して、帰りにケーキを買って行こう。もちろん、君のおごりで!」
キミはシレンさんの笑顔につられて、二つ返事で答えてしまう。
「分かりました。じゃあ、授業が終わるまで、目立たないようにしていてください」
シレンさんはキミにそう言われ、廃品の中から何かを取り出した。セーラー服とメイド服だ。廃品回収の品だから汚れているが、近くにコインランドリーがあるため、そこで洗う。
「じゃあ、トイレでこれに着替えて来るね。さっき女の子が見つけた学生服って服だ。これを着れば、目立たないでしょ?」
「あなた何歳なんですか? 同い年って感じですけど、本当はもう少しいってる?」
「たぶん、千歳は超えている。まあ、見た目で言えば丁度いいんじゃないかな?」
「まあ、違和感はないですけど……」
シレンさんは女子高生の服に着替え、キミの仕事を見ていた。夕方になり、帰宅する時間になった。
「えーと、ケーキ屋ですね。お金あったかな。一人分くらいならあったはず……」
キミがそう言って財布を取り出すと、そこには百円が入っていた。
「すいません。全然ないんですけど……」
キミが申し訳なさそうにそう言うと、シレンさんは笑って、どこからか持って来た財布を見せる。
「大丈夫! さっきそこでおやじ狩りして来たから、ほらこんなにいっぱい!」
シレンさんの持ってる財布には、札束がぎっしりと入っていた。
「ええ! おっさんはどこいった?」
キミがそう訊くと、シレンさんはあっさりと答えた。悪気はないのか。
「あのトイレの中に、縛っておいて来たよ」
「逃げるか!」
「はーい!」
キミは問題に巻き込まれたくなくて、財布から現金を抜き取り、財布を捨てて逃げ去った。
証拠はない。誰もキミを犯人とは思わないさ。
そう思ったが、キミにも良心はある。キミはシレンさんを一人残し、トイレに向かった。そして、そこであたかも偶然におっさんを発見したかのように振る舞って、おっさんを助けてやる。
財布がそこに落ちてましたよと、言って、おっさんにさりげなく財布を返す。何も知らないおっさんは、キミに患者の言葉を述べる。
「ありがとうございます。なんか、後ろから突然殴られて、気を失ったようなんですけど、お金が戻ってきて良かった! これはほんのお礼です」
そう言って、キミに一万円をくれた。ちっ、しけてんな、二万くらいくれよと、シレンさんは言ったが、キミにはそれで十分だった。
おっさんと別れ、キミとシレンさんは一緒に帰ることになった。
「シレンさんって、育ち悪いの? いきなりおやじ狩りとか普通はしないよ」
「え? うーん、たぶん前の時に願いを叶えるのが、影響してるんじゃないのかな? もう何年前かは分かんないけど。たぶん、密閉空間に入れられると、記憶が飛んじゃうんだよ。だから、私は願いを叶えて、自由になりたいの」
「悪い事してたのかな? 当たり前のように襲ってたけど……」
「あ、あれは悪い事だったの? 世の中は弱肉強食の世界でしょ? まあ、悪い事なら、今度からは気を付けるよ!」
「まあ、反省したようだし、ケーキを買って帰りますか?」
「わーい!」
キミから見ると、シレンさんは無邪気な子供のようだった。ケーキを食べたりする仕草や、美味しい物を食べた時は特にそうだった。




