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  友人の妹・武野エリカ その三

 「わー、これ、欲しかったんだ!」


そう言って、シレンさんは遠慮なくお土産を選ぶ。キミの財布の中身を知った上で、そうしているのだ。ホント、恐ろしい女だ。


「ちょっと、この後、喫茶店に行くんですよ。

お金足りなくなりますって」


「ああ、そうだっけ? じゃあ、このチョコとモコソンぬいぐるみだけでいいや。モコソン、エロいからストレス発散で殴るのに丁度良いんだよ!」


「そんな理由で買わないでくださいよ」


「え? 一応、ネコーズとセットだから……。

普通の萌えを狙うクソ女はネコーズを買う。殴ったり、クッションにしたりという実用性のある女はモコソンを選ぶ。これがこのぬいぐるみ達を選ぶ女の特徴だ!」


「嫌な実用性だ。エリカちゃんはネコーズを選んで良かったね!」

「うん!」


キミ達は買い物を済ませ、動物園を堪能した後、喫茶店に行くことにした。

動物園を去る途中で、シレンさんは緑色の恐竜を見て想いにふけっていた。


「ちっ、さすがに遊園地まではお金が持たないか。まあ、まだ乗り物もしょぼいし、パスの整備もできていない。ネコーズとモコソンで人気になった後で、私だけ無料で使えるようにしてもらおう。


そうすることでデートの時や子供と一緒の時に、無料で施設を全て回れるからな。ついでにもっと良い乗り物を作り、長島スパーランド並みのテーマパークにしないとな。


とりあえず、そこの隣の山にメアリー牧場を建てるように相談しよう! 


そして、ゆくゆくはそこの施設のオーナーとなり、父親と母親の散歩コースは動物園と遊園地、メアリー牧場と拡大していくのだ。最後には、豊橋市を手中に収める。


これが私の計画なんだ。ネコーズよ、頑張ってくれ!」


シレンさんは独り言をつぶやきながら、動物園を後にした。

キミ達は自転車に乗って、喫茶店に移動する。びっくりドンキーに入る。


「お! びっくりドンキーかよ。冴えない三十代の友人がここで働いてるんだよ。


奴には幸せになって欲しい。妻を貰って、家族的な付き合いを続けて欲しいと考えているんだ。ここでちょっと宣伝させてもらう。じゃあ、ハンバーグセット一つ!」


「シレンさん、あんまり行ったことないんですね? メニュー一つ覚えてない感じですから……」


「あくまでも友人が働いているだけで、しょっちゅう行くのは、一番カルビだからな。ビビンバと焼き肉が姉と父親に大人気だ! たぶん……。誕生日にはケーキセットを出してくれるからな。


別に誕生日じゃなくても、ついつい行ってしまう魅力的なお店だよ!」


「ほぼ安いという理由で行ってますね。いきなり家族設定にしないでくださいよ。シレンさんは天涯孤独な身で、ようやく僕の手によって救出されたって設定だったじゃないですか? 


良く分からない宣伝で、設定を変えないでくださいよ」


「いやー、前のご主人様のとこに居た時の話だから。別に設定はおかしくないだろ。食べ歩き好きな設定だし、こういう宣伝から業者が目を付けて、人気小説家になるってこともあるだろうから。


ていうか、普通に文章書いてるだけで人気小説家とか嘘だろ! インターネットの小説上位を見たけど、内容的には微妙な物が多かったぞ。


ありゃ、裏で絶対手を回しているって! コネが何ぼの世界だよ、小説や漫画なんてのは……」


シレンさんは趣味でやっているネット小説のアクセス数が低いので、ストレス発散でそんなことを言い出す。


「まあ、真面目に仕事するのが一番ってことでしょうね。早く家事とか手伝ってくださいよ。全然何もしていないじゃないですか?」


「まあ、私ができ過ぎたら、将来来る嫁が比較されちゃうだろ。前の子は……とか、あの子の方が……とか言われると、嫁もやる気を失くすだろ。そう言われないための前準備だよ。


いいじゃん、どうせ、数ヵ月後には嫁候補が台所に立ってるんだし……。ねえ、エリカちゃん?」


「ええ? まあ、家庭の事情は私には分かりませんけど、きっと可愛いお嫁さんが来てくれますよ!」


まあ、君を狙ってるんだけどね、とは言えなかった。キミは話題を変え、エリカちゃんに学校の様子などを訊いてみることにする。


しかし、普通に訊いたのでは、また前の状況に戻ってしまう危険があった。キミとシレンさんはトイレに行くふりして、打ち合わせをする。不登校を解決する方法について訊いた。


「うーん、状況が分からないことには、何ともアドバイスできないね。先生や同級生が、エリカの可愛さに嫉妬していやがらせしているのなら、何とか解決もできるのだが……」


「しばらくはその設定で言ってみましょう。キミが実は、教師から嫌われるとか、同級生からハブにされるってことにして、シレンさんに相談するんで、アドバイスを下さい。


エリカちゃんの状況とヒットすれば、何かしらのコメントをくれるかもしれませんし……」


「よし、出来るだけみじめで、生きてるのも嫌になるくらいの内容にしておけよ。そのほうが、エリカが自分と比べてマシに見えれば、どんどん絡んで来るからな! 逆にしょぼいと、さっきの状況に戻るぞ!」


「よし、分かった」

キミ達は席に戻って、話を始める。


「シレンさん、訊いてください。オレの担任の片桐(定年退職済みだよ)とかいう担任のクソ教師が、オレを前に立たせて叱るんですよ。オレだけクラスのさらしものにされて怒られるんですよ。


酷いと思いませんか? しかも、話を聞いてなかったとか、他の生徒がいる前でしなくても良いじゃないですか?」


「まあ、教師というのもストレスがたまる生き物だからね。大人しくて、それなりに成績悪くて、将来が心配な奴なら、ストレス発散と教育を兼ねてそういうことするかもね。


どうせほとんどから嫌われているでしょ。真面目すぎるのも、困りものだよ。今の社会なら、生徒虐待ってことで訴えられて、退職させられる危険もあるからね。


そういう教師は、意外と権力に弱いから、PTAとか、第三者に訴えてもらえれば、一気に別人のように変わるよ。


でもまあ、あんたの方にも非はあるようだから、今後こういうことが起こらないように、対策を立てる方が賢明だね。クラス中でみんなの前で立たせる理由は、ストレスといやがらせの何物でもないよ。


その時は先生に、人間には反抗的な性質があるので、こういう風にみんなの前で恥をかかせる場合、心理学的に言って、改善する可能性は全くありません。個人的にアドバイスしてくださいと言うのが良いでしょうね」


「そうですか。ありがとう。まあ、その教師と別れる会の時に、善意でプレゼントを贈ったけど、今にして思えば、嫌がらせだったのかもな。なんか、粘土で作った贈り物だったんだけど、生首だったから……」


「ああ、それは開けてびっくりしたかもしれませんね。若い時には良くある過ちですよ。相手と仲直りしたいという気持ちが大切なので、気にしなくていいのでは?」


「今度からは買った物をプレゼントしますよ。そん時はお金なかったから……」


キミはエリカちゃんの反応を見るが、あまり関心はなかったようだ。どうやら、教師が原因ではないようだ。


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