友人の妹・武野エリカ その二
キミとシレンさん、エリカちゃんで動物園を回り始める。キミはエリカちゃんに元気になってもらおうと、いろいろ尋ねる。
「エリカちゃん、好きな動物いるの?」
「別に……」
エリカちゃんはつまらなそうにそう言う。
「じゃあ、何か食べたい物とかあるかな? 値段が高くなければ、奢ってあげるよ!」
「別に……」
エリカちゃんは再びそう答える。
「ちっ、これじゃあ、いじめられるわけだ。もうこのまま襲っちゃえよ。その方が何かしら反応変わるだろ!」
シレンさんは犯罪者トークを、キミにささやき誘惑して来る。
「ほら、キスしていい? て訊けよ。別に……って返って来たら、キスできるぜ! ファーストキスかもしれないし、同意も得たってことになるから、大して問題ないよ。
涙をためて、ウルっとしている美少女は、ちょっと萌えますぜ。どうしやす、アニキ?」
キミはしばし考えるが、やはりそれはまずいと断念する。とりあえず、エリカちゃんがつまんなそうなのは変わらないので、動物園にある喫茶店で何か飲むことにした。
「こののんほいパークオリジナルコーヒーとカップラーメンを下さい。いやー、動物園で食べるカップラーメンのカレー味は何で美味しいのかね?」
シレンさんはエリカちゃんの事はそっちのけで勝手に注文する。エリカちゃんは相変わらず同じ表情だった。キミはつぶやく。
「やっぱりキスしたほうが進展あるかな?」
「その方が良いな。お前を男と認識させた方が、後々うまくいくだろう。このままだと、折角の動物園が台無しだ! トイレに連れ込んで、人目の付かない所で襲えよ!」
シレンさんの言う方法はあまりにも危険すぎるので、キミは展望台に行くエレベーターの中で、ちょっと迫ってみようかなと思った。
シレンさんは今回悪乗りばかりだが、いざという時は頼りになるアドバイザーだ。
(これはシレンさんの心の声です。恋愛の参考にでもしてください:幼馴染など、相手が自分をよく知っていて、恋愛モードになかなか発展しないと感じた時は、別の自分を演出してみるのも一つの打開策なんだ。
そうすることで、相手は反応を変えたりして、近づくきっかけに成り易いんだ。これをあらかじめ用意しておく人もいる。
みんなも友達モードと恋人モードくらいは作っておいて、状況に合わせて使い分けてみよう)
キミは壁ドン(壁をドンと叩いて、女の子をドキッとさせる技・恐怖心のドキドキと恋愛のドキドキを勘違いさせ、吊り橋効果を狙う一時期流行った技)をすることにした。
キミは間合いを取り、エリカちゃんを追い詰める。
エリカちゃんはキミに恐怖を感じたのか、壁ドンと同時に、キミにボディーブローを喰らわせる。キミはダメージを受けたが、何とか踏みとどまった。
「何を……」
キミがそう言うと、エリカちゃんは怖がりながら言う。
「だって、キスして来るのかと思って……。さっきちょっとキスとか言ってたから……。怖くなって、つい……」
エリカちゃんが反応を示したのを見計らい、シレンさんがエリカちゃんを慰める。
「全く、いきなりキスしようなんて、なんて男だ! エリカちゃん、心配しなくても大丈夫だよ! 私がいるうちは、あのケダモノに危害を加えさせないから」
「うん、ありがとう、お姉ちゃん」
何か知らないが、二人に友情らしきものが生まれた。シレンさんは更にキミを追い詰める。
「おら、この屑男! さっさと私達をエスコートしな! そうしたら、今回の事はチャラにしてあげるわ!」
こうして、キミは二人を連れて、ようやく動物園を回る。エリカちゃんは、シレンさんに心を開き始める。しばらくは見守ることにした。
シレンさんは、お姉さん風を吹かせ、エリカちゃんに優しく尋ねる。
「エリカちゃんは料理とかできるの?」
「うんん、全然できないよ。お母さんに作ってもらってばっか」
「ふーん、今度クッキーでも焼いて食べさせてよ。こいつ、女の子からクッキーなんてもらったことないから喜ぶよ。黒こげでも、生焼でも良いからさ!」
シレンさんはキミの方をちらりと見て言う。
「うん、いいよ。お母さんに訊いてみるね」
「できれば、エリカちゃんの手作りが欲しいな。男ってのは、可愛い女の子の手料理が欲しいんだ」
「え? うん、まあ、頑張ってみる」
キミはシレンさんに、質問の意図を小声で尋ねる。
「ふっ、知れた事。料理できない女より、出来る女の方が好きだろ。それに、料理ができる女の子はそれほどいじめられない。
学校にお菓子を焼いて持ってくれば、いじめ解決の糸口になるかもしれない。そして、ゆくゆくは掃除、洗濯などを得意にならせて、理想の嫁にする。
今は不得意でも、ちょっとずつ誉めてやる気にさせてやり、苦手意識を克服してやるんだ。
これはラベリングといわれ、相手の中の不得意な部分を、徐々に誉めて指導していき、相手に得意な事と思わせるテクニックだ。
相手がしてくれたことを誉めて、次はこうして欲しいなと、お願いしていき、恋人の能力を高めるのだ」
「なるほど、さすがシレンさん。今度はキミとエリカちゃんの仲を進展させてくださいよ。
もう少しラブラブしたいです」
「分かったよ。今はエリカも良く話せるようになったし、さっきの事を誤るチャンスだろ。私がちょっと長めにトイレに入ってるから、この方法を使って仲直りしろ!」
シレンさんはキミにカンぺを渡す。
「分かりました。どうぞ、トイレに行って来てください」
キミ達はシレンさんの頼みでトイレに行く。
シレンさんは言った通り長めに入っており、先にキミとエリカちゃんが出て来て、二人きりになった。キミはシレンさんの紙にあった方法を試してみる。
「あのさ、エリカちゃん。さっきはそのごめん。別にキスする気はなかったけど、エリカちゃんが具合悪そうだから、ちょっと強めに言葉を言おうとしたんだ。怖がらせちゃってごめん」
「いえ、こちらこそ。なんか、恐くて透君を殴っちゃった。痛かった?」
「うん、ちょっとね。お詫びというか、罰ゲームというか、ちょっと恋人気分を味あわせてくれる?」
「え? 恋人気分って?」
「あ、そんな難しい事じゃないよ。手をつなぐだけ。それくらいなら良いよね?」
「うん、手をつなぐくらいなら……。キスはダメだよ……」
「分かってるって! こっちも恐がらせたお詫びに、動物のぬいぐるみを買ってあげるよ。ちょっと、恋人気分だろ」
「本当? ネコーズぬいぐるみを買ってもらっても良い? ここのマスコットなの」
「うん、良いよ」
「うれしい! 大切にするね!」
キミ達がそんな話をしている中、シレンさんはトイレでスマホをいじっていた。
(今回の方法は、仕事上で関係がこじれた時の対処法を応用している。仕事上でこじれた関係を、仕事で回復するのはとっても難しい。
なので、仕事上でこじれた関係は、仕事と無関係な場所で修復するのが簡単です。そうすることで、良い仕事仲間としてやっていけるのです。
例えば、飲み会などに相手が参加した場合、自分も参加して話しかけます。
相手が忘れているかもしれない事ですが、時間をおいて説明することで、相手との関係の修復を本気で考えていることが相手にも伝わります。
人間は仕事上の自分と、プライベート用の自分を使い分けている人が多いので、相手が仕事上で付き合いづらい人でも、プライベート上だと仲良くなれる切っ掛けが掴めるかもしれません。
時間をある程度開けるだけでも、相手の怒りが収まり、関係を修復するのが容易になります)
シレンさんはしばらくして、トイレから出て来た。シレンさんは笑いながら言う。
「いやー、女としては言いにくいんだけど、お腹壊して唸ってたよ。今はもう大丈夫。心配掛けてごめんね」
「いえ、ご心配なく。それより、お土産を買っていきませんか?」
シレンさんはエリカちゃんの言葉を聞き、キミの計画が成功した事を悟る。
(ふっ、透の奴、うまくいったようだな。手を握っているし、ぬいぐるみを買いに行くのだろう。これに便乗して、私もクッキーやチョコ、ネコーズストラップを買ってもらおう。
今日のMVPは私だからな!)
「いいよ。行こう!」
キミ達はお土産ショップに向かう。




