目に見える世界は
いつの間にか口癖が「疲れた」になった。
いつからか笑顔が少なくなった。
何でだっけな。
とん、とテトラポットに寄りかかる。
頬を撫でていく風は潮の匂いをまとっていて、少しだけベタついていた。
この辺りの海は遊泳禁止の為、人が少ないので私個人としてはお気に入りの場所だ。
すかっと晴れ渡った空は清々しいし、慣れ親しんだ潮の匂いは心地いい。
ただ、何故だろう。
体がだるい。
風邪とかじゃなくて感覚的な話で、多分だるいのは重いのは心。
ずっと抱えている蟠り。
「ヤなことなんて一つもなかったのに」
ポツンと吐き出された言葉は波音に攫われて行く。
頭が痛む。
ストレス性の偏頭痛だろう。
私は前髪を軽く梳くようにして頭を押さえた。
ズキズキ痛む頭が鬱陶しい。
あの頃とは違うんだと言われてるみたいで腹立たしい。
知ってるよ、そんなこと。
深呼吸をして肺に潮の匂いのする空気を送り込む。
変わらない。
何かあったら此処に来ていた。
あの頃と何も変わらない景色が私の目の前に広がっている。
この景色が私は好きだった。
今でも好きだ。
人がいなくて静かで、波の音だけが響く遮断されたような世界。
あの頃と、何も考えていなかった頃と同じ。
何も変わらない。
変わったのは、私。