裕との奇跡の再会(2)
とりあえず場所を変えない?ということになって近くの公園に来た私たち。
「つまり亜季はあのあとすぐに明菜ちゃんとして生まれ変わったってこと?」
「うん。意識が途切れた瞬間にお母さんに抱かれてた」
「そんなことってある…んだね?」
「私も信じられなかった。けど事実そうなんだから…」
「受け入れちゃうのが亜季のすごいとこだけど…」
「ってかそうしないとやってられなかったし」
「そっか」
「そうなんだよ」
「……」
「……」
信じらんない…。今の姿で亜季として裕と話してるなんて…。
「裕が馬鹿だからってのが救いだったのかも…」
「馬鹿ってなんだよっ」
「40前のおっさんがそんな口利かないでよ」
「おっ…」
「ふふ」
「あ、亜季は17年も経って自分の運命受け入れたかもしれないけど俺は今いきなりなんだからな」
「そうだね。そこを考慮しなくちゃフェアじゃないね」
「そうそう」
ここで裕はコーヒーで、私はココアで一息。
「私聞きたいことがいっぱいある」
「だろうね…。うん。なんでも聞いて?」
「ん。まず私が死んだのって?」
「あれは飲酒運転だったんだ」
「飲酒運転か…」
「うん。だから俺酒が苦手でさ。酒が悪いんじゃないんだけどいい気がしなくて」
「裕がお酒飲まないのってそういうことだったの…」
「そうなんだよ」
「あの、お母さんとお父さんは…?」
先に逝った娘のことどう思ったんだろう…?
「少しずつ元気を取り戻してたよ。今はおばさんぎっくり腰になっちゃったとかで休んでるけどおばさんもおじさんも普段はいつも通り農園で仕事してる」
「ほ、本当…。よかった…」
「亜季。俺さ、ずっと亜希が忘れられなかった」
「嬉しい。…け、けど早苗さんは…?」
あんなに今でも私のことを思ってくれてて、それじゃあ早苗さんは?
気になってたけど聞きたくなかったことを今はすんなり聞ける気がする。
「もちろん好きだよ。じゃなきゃ結婚なんてしてないさ」
「そう。…安心した。幸せなんだよね?」
「幸せだよ。亜季は知らないだろうけど早苗は俺らと同じ大学の1つ下の後輩なんだ」
「えっ、そうだったの!?」
「学部が違うから声をかけられるまで俺も知らなかった」
「そうなんだ」
「亜季がいなくなって俺一応学校には行ってたけど講義とかなんにも聞いてなくてさ」
「…うん」
「いつも亜希と一緒にいた中庭のあのベンチに座って空ばっかり見てた」
「…そっか」
「そんな時に早苗が話しかけてきたんだ。クッキングサークルなんですけど一口どうですかってクッキー渡してきた」
「早苗さんらしいや」
「だろ?早苗、亜季のことも俺のことも知っててさ、羨ましかったって」
「そうなんだ」
「いつも遠くから見てたって、亜季のこと教えてくれないかって言ってきたんだ。だから俺、亜季の話をずっと早苗に聞かせてた。歌が上手いことも田舎育ちの男っぽいやつだってこととか。そのくせ甘党でいつも菓子パン食べてたことも」
「ちょっと、なに言ってんのよ」
「ははっ。でさ、早苗に話して聞かせてると亜希が本当にいなくなったんだなって現実味がやっとでてきて。それまでは本当はどこかにいてひょっこり出てくるんじゃないかって思ってたんだ。だけどそうじゃないんだって。俺が大学を卒業するときに早苗が俺に言ったんだ。亜季さんのことを忘れなくてもいいじゃないですか。素敵な人だったんだから忘れる必要なんてないんです。それでいいのでこれからも私を先輩の隣にいさせてください、って」
「早苗さんがそんなこと…」
「ずっと俺のことを支えてくれた早苗に惹かれてきてた。だから早苗のことを大切に思って付き合ったんだ」
「そうだね。裕の一番は早苗さんだ」
「ちょっと妬いてくれてもいいんじゃ…」
「なんでよ。嬉しいよ私は。逆に私を忘れられないままなんとなく早苗さんと付き合って裕也ができちゃったから結婚しました、なんて言われたら裕のこと張り倒してたわ」
「うわぁ…。よかった」
「まったく…。そんなんでやっていけてるの?会社とか重役についてるって聞いてるよ?」
「俺すごく業績残してるんだよ」
「ところでなんの会社なの?今まで聞いたことなかったけど」
「おもちゃメーカーだよ」
「…なるほど。そりゃあまだ頭が幼いままなのは役に立つだろうね」
「アイディアなんてどんどん出てくるんだよ。才能かな」
「うんうん。才能だよ」
「馬鹿にしてるでしょ」
「当たり前でしょ」
「あぁ、酷い。亜季はなにもかも違うのに変わらないよ」
「なにもかも違うのに私をわかってくれてありがとう」
「うっ…」
「ちょっと!?どうしたの?気持ち悪いの?」
急に蹲る裕…。吐くの?吐きたいのかな…?
「ううん。亜季ぃー!!」
「ギャ」
「あ、ごめん。嬉しくてつい」
「もう…」
人より長身の裕が今の姿の私に抱き着くと全然支えられない。…なんでこんな低いまま身長止まっちゃったんだろう…。
「明菜ちゃんは昔から小さかったからね」
「うっさい。わかってるわ」
「そろそろ帰ろっか?」
「ん?あ、そうだね。帰らなきゃ…」
帰ったらもう裕也パパと明菜に戻るんだよね。帰ったらもうこんな風に話せなくなるのかな…。
「明菜ちゃんも亜希も同じだよ」
「え…?」
「あれでしょ?亜季は俺が俺だから避けてたんでしょ?」
「え、避けてた…?」
「今まで明菜ちゃんに嫌われてるんじゃないかってくらい避けられてたから軽くショックだったんだよね」
「私避けてたかな…?」
「俺仕事忙しいっていっても週休2日はあるからね。なのに明菜ちゃんは部活だとか裕也を独り占めしたりとか。俺の裕也なのにって思ってたよ」
「あはは。それはごめん。裕也がいつも遊びにきてたから休みの日でも裕は仕事なのかと思ってたよ」
「その代わり健斗君や将斗君が遊んでくれたけどね」
「なんだそりゃ」
「紺野さんが休みの日くらい休みたいって俺に預けてくれたんだっ」
「お父さん…。しかも健兄も将兄もそんな年じゃなかったよ」
「だから勉強だよ。教えてあげてたんだ」
「遊びじゃないじゃん」
「裕也が構ってくれないんだからいいんだよ」
「大きな子供だなぁ…」
まぁ、昔から裕は子供が好きだったからね。後輩の面倒見るのとか好きだったし。
「亜季も子供好きでしょ」
「ん?あーまあね」
「前は煩いなぁとかいいつつ面倒見るって感じだったのに今は小っちゃい子に対して明らか優しいもんね」
「周りがみんな小っちゃい子供だったからね。おかげで夢ができたわ」
「夢?なになに?聞いたことないんだけど」
「早苗さんに極秘でって教えただけだからね。…幼稚園の先生」
「へぇっ!!いいねっ」
「幼稚園にお世話になるの3回目になるけどね」
「確かに。けどいいと思う。きっとなれるよ。亜季に似合ってる」
「ありがとう」
「それじゃあ改めて再会を記念して」
「記念して…?」
「どうしよっか?」
「知らないよ。とりあえず帰ろう。遅くなっちゃう私の誕生日パーティー」
「あ、そうだね」
裕が実家に帰るのはまた今度でいいやと言うから2人で電車で帰る。その間いろんな、本当にいろんな話をした。もう会えないだろう学生時代の友達が誰と結婚して子供が何人いるとか、誰誰が会社の社長になったらしいとか、久しぶりに会った時にするように普通に話した。けどただの久しぶりの再会じゃないんだよね。奇跡の再会なんだ。
誕生日パーティーをする私の家に入る前に裕がちょっと待って、と言って私を引き留めた。
「どうしたの?」
「もう避けないでね?」
「ふふ、わかってる」
どんな姿でも関係が変わっても私たちは私たちだもんね。
ガチャ
「あっ、あき帰ってきた!!」
「健兄いたの?」
「酷いあき!!せっかくのあきの誕生日なんだから当然だろ!!…って痛い!!」
「煩いよ兄貴。あきが帰ってきてたんならさっさと戻って」
「将斗っ…」
「まぁまぁ2人とも落ち着こう」
「「あ、裕さん」」
「裕さん気付かれてなかったってさ」
「あーあ、悲しいなぁ」
「そんなことないですよ、どうぞ裕さんあがってください」
将兄が健兄を外に追い出して裕を部屋の中に入れて私を手招きした。
「なに?将兄」
「裕さんと一緒だったんだな」
「え?あーまぁね」
「お兄ちゃんは嬉しいぞ」
「は?なにが?」
「だってあきは裕さんのことを避けてただろ。なのに裕さんだなんてさ。今まで裕也パパとしか呼んでなかったのに」
「あー」
「愛情の裏返しだろ。わかってるって」
「はあ?」
「あきは昔から裕さんに惚れてたから恥ずかしくって避けちゃう的なのだったんだろ?」
「何言ってんの?違うわ馬鹿」
「痛っ…」
なんでそうなるのよ。知ったかぶりなんだから。だいたいそれは将兄でしょ。最近になって由美さんのこと名前で呼ぶようになったくせに。
私に引っ叩かれた頭を押さえてる将兄を放っておいてリビングに入ると一番に裕也が駆け寄ってきてくれた。
「あきちゃん!!」
「裕也。来てくれてたんだね。ありがと」
「あきちゃん見て見てっ」
「おぉ!!」
裕也が見せてくれたのはつい最近あった大会の優勝メダル。私は部活で見に行けなかったからあとから早苗さんに写真を見せてもらってすごく落ち込んだんだよね。部活休んでも見に行けばよかったって。
「すごいすごい!!きらきらだね」
「一番だからね」
「本当だね。裕也は将来メジャーリーガーだよっ」
「そうなったらびっくりね」
「いや、俺の子だからな」
「え?」
「明菜ちゃんそんな冷ややかな目で見ないでくれよ」
「ごめんなさい。どの口が言うのかと思いまして」
「パパ。本当のことなんだから落ち込まないの」
「早苗も十分酷いよ」
「そうかしら」
この日から裕が積極的に私の部活のコンクールに来て一番前の席で嬉しそうに聞いてたり、休みの日に裕也をうちで預かって早苗さんと裕をデートに出かけさせたりした。将兄には何度も他に好きな人ができたのかとか聞かれるけどそういうことじゃないんだって何度言えばわかるんだか。
それを聞いた健兄までどこの野郎だなんて訊いてくるから厄介で仕方ない。やっぱりうちのシスコン兄たちはいつまで経っても変わらずだ。