サッカーの練習試合と健兄の結婚?
今日は裕也が所属してるサッカークラブの試合があるということで私は早苗さんと応援に来た。
「暑いわねぇ…」
「本当ですね。こんな暑い中走るなんて私には到底考えられません」
「私もよー」
レジャーシートを敷いて日傘をさしてさっきから暑い暑いと口にしている。本当に裕也を尊敬するよ。こんな暑い日にボールを追いかけて走るなんて…。
「あ、あきちゃん始まるわっ」
ホイッスルが鳴って試合が始まった。裕也が所属してるのは強豪のチームらしくて――私はそういうことを詳しく知らない…――レギュラーに選ばれるくらいだから裕也はかなり強いらしい。
いや、本当なにも知らないけどゴールを決めるとかそういうことはわかるから裕也が活躍してる姿を見てるだけで楽しいんだよね。
「わっ、見た見た!?」
「見ましたっ!!」
裕也が点を決めると私と早苗さんは手を取って大はしゃぎ。裕也かっこいいー!!
ピーッ
試合は10-2で裕也のチームが勝った。裕也は2回もシュートを決めたんだよ。すごいすごい。裕也の勇姿もばっちりカメラに収められたし満足。
「裕也は裕さんに似ないで運動神経抜群ですね」
「あら?あきちゃんよくパパが運動苦手なの知ってるわね」
「え?あ、あぁ裕也が言ってたんですよー」
「そうなの。パパったらメンツ丸潰れね。ふふっ」
「ですねー」
危ない危ない。なんで知ってるのかって、そりゃあ前世で付き合ってたからです。…ってそんなこと言えない。
けど本当に裕と裕也は似てないんだよね。早苗さんも運動できるように見えないし、いったい誰に似たんだか。
「裕也は私に似たのよー」
「え…?」
「私学生の時バレーやってたの」
「嘘だぁ」
「本当よっ」
「だって早苗さん身長…」
「身長が低くたってバレーはできるのよっ」
「へぇ…。けど早苗さんとバレーって…。踊る方じゃなくて?」
「ボールの方よっ」
まさかの新事実発覚。早苗さんとスポーツなんて結びつかなかったなぁ。
早苗さんは頬を膨らませてしまった。
「ごめんなさい早苗さん。機嫌直してくださいよー」
「別にー」
「あ、ほら。この裕也綺麗に写ってると思いません?」
「あら本当ねっ」
「やっぱ私カメラの才能あるかもですっ」
「被写体が良いっていうのも忘れちゃダメよ」
「ふふっ。もちろんわかってますっ」
親バカと姉バカトークをしながら家路に着く。
「それじゃあ私はこれで」
「ええ。またね」
「はいっ」
私が先に家に帰って家のドアを開けるとなぜか中が騒がしい。また健兄と将兄が喧嘩してるのかと思ったけど健兄じゃないみたい。お父さんの声が聞こえる。
リビングを覗くと将兄が立っていてその前に椅子に座っているお父さんがいた。
「どうしたの?」
「あら明菜。おかえり」
「ただいま。お母さん。将兄とお父さんどうしたの?」
お母さんがキッチンで普通に料理をしていたから2人を横目にお母さんのそばに行って尋ねる。
「将斗がね、一人暮らしをしたいって言い出すから」
「へぇ。いいんじゃない?再来年の話でしょ?」
「違うのよ。今からだって」
「今から?」
「明菜。部屋に行ってなさい」
「はーい」
いつも温厚なお父さんが少しキレ気味だから私は大人しく部屋と向かう。
それにしても高校2年なんだからあと2年したら大学でそしたら一人暮らしも余裕でオッケーだろうに。どうして今から…?って健兄のせいか…。最近じゃ顔合わせるたびに喧嘩してるし。昔は2人協力して私の取り合い――自分で言うの恥ずかしいけど、してたくせに。
健兄は猪突猛進で且つ私のことになると更に無茶をし出す。それに対して将兄は冷静で融通も利く人だから健兄と正反対でよく衝突するんだ。
と、考えていると隣の将兄の部屋のドアが開く音がした。話、終わったのかな?
なんだかんだ気になった私はドアをノックしてみた。将兄が入っていいよと言ってくれたので部屋に入る。
「将兄がお父さんと言い合うなんて初めてだね」
「うん。そうだね」
「ごめん。疲れてるよね」
「いや、いいよ」
将兄が裕也の家にあがるようになった時もお父さんは仕方ないなって裕に話をしにいって許してたし、けどやっぱり今から一人暮らしってのは問題ありか。
「どうして今からなの?やっぱり健兄?」
「まぁね。健兄は大学生なんだから普通あっちが出てくもんだろうけど健兄は出てかないだろ。あきがいるし」
「あはは…。そうだね。そういう話一切しないし」
「けどやっぱ無理だよな。…あと2年も我慢しなきゃなんないのかぁ」
「いっそのこと裕也の家に…ってそれは無理か」
「そんな図々しいことできないよ」
「だよね」
「あーあ。あいつ友里恵さんと住んでくんないかなぁ」
「同棲?まだ1年しか付き合ってないよ?」
「年数って問題か?ってかそれなら小学校ん時からの仲なんだから問題なくやっていけそうだけどなぁ」
「うーん。どうなんだろうねぇ」
健兄と友里恵さん…。結婚とかどうなんだろう。ってそんなことまだ考えないか。うーん…。友里恵さんなら健兄と上手くやっていけると思うんだけどな。
「ま、本人たちが決めることだしな」
「そうだよね。健兄はってかうちはどうでもいいとして、同棲ってなるとうちだけのことじゃないもんね」
ちなみに私の家族は健兄のシスコンをどうにかさせたい方針だから健兄に彼女ができた時に一家全員で友里恵さんを歓迎したんだよね。…引かれなくてよかった。あの時は本当に嬉しかったんだもん。なのに健兄はあいかわらずで拍子抜けしちゃったんだ。
「大学生でも結婚を前提にーとかって考えないのかな?」
「どうだろうね。将来どうなるかわかってない状態で彼女を幸せにできるかって不安はあるよね。責任っての?取れる自信ないし」
「そうだよね。一人の人の人生に責任持つってそう簡単に決められるもんじゃないもんね」
「だったら付き合ってるのが適当なのかっていうとそんなこと全然ないんだけど」
「わかってるよ。好き同士で付き合ってるのと結婚ってのは違うんだよ、きっと。わからないけど」
「俺にわかんないんだからあきにわかられちゃ困るよ」
「ふふ。けどそしたらお母さんたちにはわかるのかー」
「案外わかんないのかもよ。どうして結婚しようと思ったの?ってよく聞く質問だけどみんな同じようなこと言うじゃん」
「この人と一生一緒にいたいと思ったから、とか?確かにそうなんだろうけどそれだけじゃないんだろうねー…」
「ってなんで俺らこんな話してるんだ?」
「あれ?…そう言えばそうだね。健兄が家出てかないって話から大きく脱線しちゃったよ」
「だな。ま、我慢するよ。あと2年」
「私も全力で健兄を避けて妹離れさせてみせるよ。私が嫌だもん」
「ははっ。協力する」
「ありがと将兄。じゃあね」
裕はどんな風に早苗さんと結婚しようって決めたのかな…。私のことはどうやって吹っ切ったんだろう。ずっと聞きたかったけど聞けるわけがない。私は私じゃないし今の私として聞くのもなんだか寂しくなりそう。もっと、もっと時間が経てば聞ける時が来るのかな?私が20歳になるころとか、そしたら裕は41歳か。なんだかおかしな話…っておかしな話なのか。
自分でもこんなおかしな話を受け止めてるのがまたすごいと思う。仲良くできるか不安だった早苗さんともごく普通に仲良くなったし普通に裕さんと仲良いですね、とか言えちゃうし。私も意識的には35年も生きてるから精神的に大人になったのかも…。
その年の暮れ、私は毎日受験勉強で塾に通っていた。今日も朝から塾で、玄関で靴を履いていると健兄も出かけるみたいで玄関に来た。
「あれ?健兄どっか行くの?」
「ん?おう、友里恵んとこ」
「そうなんだぁ」
「あきー」
「なに?」
いつものように抱き着いてきた健兄をかわして軽く睨みつけるとお兄ちゃん悲しいとか言ってウソ泣きを始めた。
「もうすぐお別れなのになぁ」
「…は?」
「来週俺友里恵と同棲するからさ」
「は?え…。は…?」
あれ?私幻聴が聞こえる?健兄が…
「同棲!?え、本当!?ってか聞いてない!!いつの間に!?」
「うーん、まぁいろいろあってさ」
「えっ、いろいろってなに!?」
「じゃ、勉強頑張れよっ」
「え、健兄!?」
……。
嘘…あのシスコン兄が私から離れてくれる時がくるなんてっ。なんだかよくわからないけど嬉しい!!
この感動を誰かに伝えたいと冬期講習のあとすぐに早苗さんに話にいった。
「そう。健斗君決意したのねー」
「え?早苗さん知ってたんですか?」
「ええ。パパに相談しにきてたから」
「健兄が?そうなんですか?」
「詳しいことは私も知らないんだけどね、パパが健斗君と一緒に帰ってきて書斎で2人で話していたわ」
「どんな話してたんだろ…」
健兄と裕が話してるとこなんてあんまり見たことなかったんだけど…。将兄はここで生活しちゃってる時あるから話もよくするだろうけど。まあ性格的に言ったら健兄と裕は似通ったところがあるんだけど…。
「けど寂しくなるわねぇ」
「え?あぁ、家の中が騒々しくなくなって清々しますよ」
「あら、あきちゃんは寂しくないの?」
「んー。まだそうなってみないとわからないですけど健兄が友里恵さんと上手くいってくれるならいいです」
「あの2人ってお似合いだものね。きっと上手くいくわよ」
「だといいんですけどねー」
とりあえず同棲するってことは結婚とか考えてるってこと…でいいんだよね。よかった。健兄ってずっと私に構いっぱなしで結婚なんてできるのかなって思ってたけど案外普通に離れていってくれるみたい。
まぁ、健兄のことは普通に大好きだから出ていくってなるとちょっとは寂しいんだけどね。私がブラコンみたいで早苗さんには言えないけど。
健兄の言う通りその次の週に健兄は大学の近くのアパートで友里恵さんと暮らすようになった。