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元彼の息子と幼馴染み  作者: 咲山空
小学5年生
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11年振りの再会

 4月15日。今日はある人の命日。そして私が生まれた日。




「あきっ」



 朝目が覚めて顔を洗いリビングに入ると私に飛びついて来たのが一番上の兄、健斗。



「おい健斗!!あきから離れろっ」



 そんな健兄を私から離し次に私に抱き着いたのが2番目の兄、将斗。



「明菜、誕生日おめでとう」



 今日は私の11歳の誕生日だ。そして私が死んだ日。大学3年になったばかりで浮かれていた私は不注意で車にはねられて次に目が覚めたら知らない母親に抱かれていた。それから11年、私は前世の記憶を持ちながら恥ずかしい幼少期を過ごすことになったんだ。



「明菜。またボーっとして。自分の誕生日くらいシャキッとしなさい」


「はいはい」


「はいは一回っ」


「はーい」




 私にデレデレな2人の兄、優しくてかっこいいパパ、しっかり者で少し口うるさいママ。小さいころから甘えることができず子供らしくない私にこれ以上ない愛情を注いでくれた大好きな家族。だけど私は、以前の家族、友達、そして恋人を忘れることはできない。…いけない。今の私は紺野明菜だ。昔のことを思い出すのはもうやめにしよう。

 だけど今までも何度も胸に誓っているこの思いがまたしても崩れることになるとは今朝の私は微塵にも思っていなかった。





「遅くなりましたー」


「あ、あきちゃん。待ってたよ」


「ごめんなさい。今は班長決めですか?」


「そうなの。けどあきちゃん来たからまた自己紹介しよう」


「ごめんなさい」


「こらー。またそうやってすぐ謝るんだから」


「あ、ごめ…」




 今日は新学期が始まって初めて集団下校をする。5時間目は地区ごとに集まる時間だったんだけど教室に向かう途中でどこに行けばいいのかわからなくなっていた1年生がいてその子の地区が集まる教室に送り届けていたら私が遅刻してしまった。

 私の班は今年6年生1人、5年生は私ともう1人今日は欠席の男の子がいて、4年3年の子がいなくて2年生に女の子2人、そして新1年生に…




「あきちゃん、この子が新1年生の根本裕也君。裕也君、この子は5年生の紺野明菜ちゃんよ」


「こんにちは!!」


「……」



 どうして…?どうして裕がいるの…?



「あきちゃんどうしたのー?」


「あーきちゃんっ」


「わっ…あ、ご、ごめんね?えっと裕也君、こんにちは。初めまして。紺野明菜です」


「裕也君、あきちゃんはしっかり者だからドンドン頼っていいからねー」


「はーい」


「裕也君もしっかり者だよ。ちゃんと挨拶もお返事も元気よくできてー」


「えへへ」



 裕に…前世での恋人に瓜二つの裕也君を褒めて頭を撫でてあげると懐かしい顔で笑った。




「みんなあきちゃんって呼んでくれるから裕也君も私のことあきって呼んでね」


「うんっ」




 その後6年生の琴葉さんが新班長に、私が副班長になることに決まった。少しみんなで仲良く話してこのまま外に出てもう一度集まって集団下校、ということになった。



 琴葉さんは先頭、私は一番後ろについて歩いている。



「へぇ、じゃあ裕也は私のお家と一番近いね」


「そうなの?やったー」




 そもそも近い人が集まって下校しているわけだけどそんなお隣さんって人はいない。裕也君のお家も私の家から20メートルくらい離れたこの前できた家らしい。下校をしている間に2年生の子2人が家に着いてバイバイした。



「じゃ、あきちゃん、裕也君のことお願いね」


「わかりました。さようなら」


「琴葉ちゃん、バイバーイ」


「うん。バイバイ」



 ここで琴葉さんとも別れて裕也君と2人きりになった。…話していてますます裕にそっくりのこの男の子…。裕なわけないのに、もしかしたら裕がちっちゃくなっちゃったっていうファンタジックな考えが浮かんでくる…そんなわけないのに私の人生何が起きるかわからないから。って待って。根本…って――。



「あきちゃんどうしたの?」


「え?あ、ああ。なんでもないよ」




 いけないいけない。しっかりしなきゃ。年下のこの子を無事に家に送り届けるのが今の私の役目なんだから自分の世界に入るのは家に帰ってからにしなくちゃ。



「あ。あきちゃん、ここだよ僕のお家」


「あ、そうだねー。本当綺麗なお家だよね」



 この前できたばかりのお家は新築だからやっぱり綺麗。空き地だったここに家が建っていくのを楽しみにしてできたお家がこんなお城みたいな家で驚いちゃったんだよね。きっと裕也君のご両親はお洒落な人なんだなぁ。と、思っていると裕也君が私の腕を引っ張る。




「ん?どうしたの?」


「あそぼー」


「え?遊ぶの?」



 裕也君は私に家に入って遊ぼうと誘ってくれてるみたいだけどそんな勝手に…迷惑じゃないかな?

 そんな私にお構いなしで裕也君は私を引っ張ってお家のドアを開けた。



「ママー!!ただいまー!!」



 玄関先で元気に挨拶をする裕也君を見てやっぱり子供は可愛いなぁなんて考えているとかわいらしい女性がエプロンで手を拭きながら出てきた。



「おかえりなさい…ってあら?」


「あ、初めまして。5年生の紺野明菜です」


「初めまして。裕也の母です」



 私が言うのもあれだけど子供相手にしっかりお辞儀をして挨拶するところを見て新米ママさんにエールを送りたくなってしまった。



「ママ。あのね、あきちゃんと遊ぶ!!」


「え?そうなの?えっと明菜ちゃん、いいの?」


「私はいいですよ。けど――」


「よかったぁ!!さっ、入って入って!!あ、おてて洗ってね2人ともっ」



 私の言葉を遮って裕也君ママはテンションを上げて私を家に上げてくれた。裕也君に誘われるまま洗面所へ行き、リビングのソファに座らせてもらっているとすぐに裕也君ママはジュースとお菓子を持ってきてくれた。



「さぁどうぞ!!」


「あ、ありがとうございますっ」



 裕也君ママのテンションに若干引き気味なのは仕方ないと思う。だって私の周りには年相応の無邪気な子供たちはいるけどここまで学生みたいな元気いっぱいの大人は久しぶりなんだ。きっとここに引っ越して初めて裕也君が連れてきたのが私だから嬉しくなったんだろう。




「明菜ちゃんっ、これね、私の手作りなの!!」


「とってもおいしいです」


「本当?嬉しい!!」


「ママ。僕があきちゃんと喋るの!!」


「えーママも喋りたいっ」


「あ、あはは」


「私もあきちゃんって呼んでいい?」


「はい、いいですよ」


「あきちゃんってあのあそこよね。えっと…」


「よく庭で騒いでいるはた迷惑な家の子ですよ」


 

 兄2人がよく庭でプロレスだかなんだかとにかく将兄ももう中学生だっていうのにまだやんちゃしてていつご近所さんに怒られるかヒヤヒヤしてるんだ。といってもご近所さんは優しい人達ばかりでいつも温かい目で今日も元気ねぇとか言ってくれるんだけど私は夜中でも騒いでるから申し訳ない。



「ここまで元気な声が聞こえてくるから楽しいのよー」


「そう言ってもらえると嬉しいです…」


「ねぇなーに?」


「ん?ほらあのお庭が広いお家に住んでるんですってあきちゃん」


「そうなのっ!?」


「え、うん。そうだよ?」


「あきちゃんあのね?お買い物であきちゃんの家の前を通るからお庭が広くていいねぇっていつも話してるのよ」


「ああ。そしたら裕也君、今度は私のお家で遊ぼうか」


「うん!!」


「あらいいの?」


「もちろんですよ。裕也君ママも遊びに来てください。私の母も喜ぶと思います」


「本当にっ?よかったぁ。心配がたくさんあるから相談できる人いなくって…ってさっきから私あきちゃんに何言ってるんだろうっ、あきちゃんが大人っぽいからつい」


「いいんですよ。母も3人の子持ちですからじゃんじゃん聞いちゃってくださいね」


「ありがとうっ」



 そのあと裕也君が大好きだという戦隊モノのマネごっこをしたりなんだか少し前の兄たちと遊んでるみたいで楽しく過ごしていた。だけど裕也君のパパが帰ってきて私は驚きと動揺と懐かしさでしばらくなにも言えずなにも考えられなかった。



「あきちゃん?」


「あきちゃんだいじょーぶ?」


「え、え…あ、うん」



 ようやく目の前にいる人を改めて見る。…やっぱりだ。やっぱり裕だ。



「裕也のお友達かい?」



 懐かしい。11年前と全く変わらない笑顔で私に話しかけてくれた。けど私は今は感傷に浸ってる場合ではない。



「はい。紺野明菜です。お邪魔しています」


「あきちゃんね、あそこの賑やかなお家のお嬢さんで5年生なんですって!!」


「そうなのか。明菜ちゃん、これから裕也のことよろしくね」


「はい。それじゃあ私はそろそろ失礼しますね」


「えっ、あきちゃん帰っちゃうの?」


「お夕飯一緒にって思ってたんだけど…」



 裕也君と裕也君ママが残念がってくれるのは嬉しいけど今日はさすがにね。



「すみません。今日は家でパーティーを開いてもらえるので」


「パーティー?あ、誰かのお誕生日?」


「はい。私なんですけどね」


「えっ!?あきちゃんお誕生日だったの!?裕也、大変よお祝いしなきゃ」


「早苗」



 裕也ママの暴走を裕が一言名前を呼んで落ち着かせた。…呆れた顔、だけど愛情を込めてる…昔私に向けてくれていたものが今は違う女性に…。



「あ、あの、そういうことなので失礼しますっ」


「あっ、あきちゃんまた来てねー」


「あきちゃんバイバーイ」



 泣きそうになるのを堪えて私は裕也君の家から失礼した。そのまま家へと戻れるはずもなく、私は近くの公園へ。




 裕…裕…。幸せになったんだね。素敵な人と一緒になって可愛い子供もできて。よかった。本当によかった。亡くなった人より残された人の方が辛い、残された人が幸せになってくれているのを見れるなんて、なんて幸せなことなんだろう。そう、普通じゃあり得ない。私が死んで裕のことを考えない日なんてなかった。会いに行こうと思えばここから少し遠いけど二度と会えないことに比べればなんでもない距離。昔住んでいた場所に行けば裕に会いに行ける、そう思ってたけどそれをしなかったのはやっぱり怖かったから。私が死んで、裕があの日のことに責任を感じていたら、そんな姿は見たくない。けど私のことなんかすぐに忘れて新しい生活を楽しんでる姿も見たくなかった。後者の方がいいに決まってる。だけどそれはそれで彼の中で私は過去の人になって忘れ去られてしまったことを受け止める自信がなかった。

 裕が幸せになってくれて嬉しい。だけどやっぱり悔しい。裕の隣にいたのは私なのに。けどいなくなってしまった私にそんなことを言う資格なんてないんだ。だから…だから次彼に会った時は紺野明菜として改めて初めましてを言おう。

 私はそう心に誓って、そろそろ家に帰らなきゃと座っていたベンチから腰を上げた時、聞きなれた声が聞こえてきた。




「あきーーーー!!」


「あきどこにいるんだー!?」


「「あきーーーーー」」




 探すなら手分けした方が効率がいいんじゃないかな…。私のことを必死に探しに来てくれた兄2人に申し訳ないけど馬鹿じゃない?



「あっ、いた!!あき!!」



 将兄が私に気付いてダッシュで走ってそれを追いかけて健兄も走ってくる。



「「あきーーーーーっ!!」」



 そして2人同時に私の元へたどり着いたわけだけど2人同時はさすがに受け止める自信がないから右手を前に突き出して止めた。



「ごめんなさい、遅くまで外にいて。1年生の子を家まで送り届けたら遊んでいこうって誘われちゃったの」


「心配したんだからなー」


「そういう時は電話するんだぞ。わかるか?家の電話番号」


「わかるに決まってるでしょ」



 いくらなんでも小学5年生が自分の家の電話番号わからないはずないでしょ。まったくもう…。



「とにかく早く家に帰ろう。母さんも父さんも待ってるから」


「うん」




 私は右手に健兄の左手、左手に将兄の右手を握ってわが家へと帰った。そこまで遅い時間ではないけどいつも寄り道しないで真っ直ぐ家に帰ってくる私を心配してママもパパも帰ってきた私の顔を見てホッと胸を撫で下ろしていた。

 ごめんなさい。昔のことに未練がましくしがみついてるなんて最悪な娘で。11年間私のことを愛してくれてありがとう。そして、これからもよろしくね。




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