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グーリーアタクー侍

作者: 野原犬三朗

時は幕末、江戸では米の不作で食糧難に直面していた。一部豊作の藩主を江戸に呼び出しては年貢の取り立てに米俵を要求した。従わない藩主は家来を減らされ隣国の大名にいじめられる羽目になった。ここ薩摩でも米俵の奪い合いで小競り合いが起きていた。食料不足の江戸に米俵を納めれば幕府から屋敷と家来が増員され格上されて偉くなれると、欲の深い武家侍が弱そうな武士に米俵を要求して斬り合いになっていた。米俵を奪った後は武家侍は皆殺しにさらて屋敷は血の海になっていた。そんな争いの中か辛うじて逃げた五人の侍がいた。彼ら五人は刀や槍を交わしながら帆船を使って大海原へ逃げ切る事ができた。


荒波に揉まれた船は太平洋を漂い、いずれは何処かの島に辿り着くだろうと五人の侍は高をくくっていた。がしかし、何週間も海を漂う事になった。そして、精根尽き果てた五人の侍は神に命乞いするしか無かった。


「おとう、あれ見た事ない船さあ」


「本当だね、始めて観る船だね」

さばにと言う琉球の漁師が使う小舟に親子で漁をしていた。

「行ってみるねえ」

「大和の侍だったら刀持ってるから怖いさあ」

「大丈夫さあ、いってみよう」

さばには穏やかな海をその帆船に向かって行った。さばにの倍は有る帆船にはあの五人の侍が船底に日差しをさけるように布を顔に被って死んだように寝ていた。

「気を失ってるみたいだね」

「うん、屋ケ名に連れて手当しないと」

「そうだね、縄で引っばって行こう」

と、縄を舳先に括りオールを漕いで琉球の方向に進めた。琉球の屋ケ名港に着いた親子は漁師仲間を呼んで漂流していた五人の侍を病院に運んだ。漂流した患者を何回も診ている胡屋出身の医者サンダーが侍五人を診察を依頼した。

「五人とも大丈夫さあ、二、三日したら意識も戻って元気になるさあ」

「サンダー先生、大丈夫かね刀持ってるけど」

「刀は隠しておきなさい」

「それは出来ないさあ、勝手に人の物取り上げれないさあ」

「何言ってる琉球は薩摩の刀狩りで刀は持てない事になってるでしょう。取り上げるのは当たりまえさあ」

と、サンダー先生は全ての刀をどこかへ隠した。二日後A侍が意識朦朧と起き出して来た。そして周りをキョロキョロしながら今自分が何処に居るのか確かめていた。周りで寝ていた四人の侍に気付いて叫んだ。

「おい、みんな起きんとかあ」

一人一人の顔をビンタしておこそうとした。

「うるさいな」

B侍が言った。

「わしらは漂流でくたくたなんじゃ」

C侍も起き出してきた。

「やっと意識が戻ったな、心配しておったぞそのまま死んでしまうかと思っておった。でも良かったのう全員無事で」

A侍は自分だけ意識が無かったと聞かされて、取り残された気分だった。

「それで、ここは何処なんだ」

A侍が訊いた。

「琉球国だよ」

「今薩摩で話題に成ってるあの島か」

「そうだ」

E侍がここから説明を始めた。

「薩摩で配られた瓦版で琉球は薩摩の物と書いてあった。それは、琉球は薩摩藩と戦う事なく薩摩に占領された。琉球は武器を持たない民族と、薩摩は土足で琉球を荒し回った。逆らう者は片っ端から薩摩に斬り殺されて、その恨みもあるはずだがここの住民は有効的で優しい」

「まじっすか、有効的なんすか」

「多分ここの住民は薩摩と琉球の関係は知らないのだろう。首里からかなり距離が有るから争い事の情報がここまで流れて来ないのかも知れない」

「皆さんおはようございます」

医者のサンダーが入ってきた。五人は揃って正座をして頭を下げた。

「我々五人を助けていただき感謝致しております」

「すっかり元気になって良かったさあ、フーチバーが効いたんだね」

「フーチバーって何だすか」

A侍がB侍に訊いた。

「分からん」

その二人の会話に反応してサンダー先生が付け加えた。

「フーチバーは琉球語で日本語に訳するとよもぎです」

「道端に生えてる、あのよもぎですか?」

「はい、琉球のよもぎは内地のよもぎと違って料理や薬草によく使います。そのよもぎを煎じてあんた達がここに運ばれた時から呑ませてました」

「あんた達アタクウみたいさあ」

サンダー先生の看護師が言った。

「何だって、アタクウ見たいって何だすか」

A侍がサンダー先生に訊いた。

「アタクウはトカゲですよ、グーリーアタクウと言って子供達のペットみたいなトカゲです」

「拙者はトカゲと似てますか」

C侍が言った。

「グーリーアタクウに似てるさあ」

と、看護師。

「拙者はよく分からん、グーリーアタクウもトカゲなのか?」

「はい、多分この子はあんた達がフーチバーで元気になって頭をペコペコ下げるから、グーリーアタクウに似てるって言ってるんでしょう」

「そのグーリーアタクウとは、どんなトカゲなのだ」

「見に行きますか」

「近くにおるのか」

「庭にガジュマルがあるからその木に登ってるはずさあ、行きましょう」

5人の侍がサンダー先生の後を着いて行った。手入れされた庭の塀はサンゴや貝殻等で囲まれていた。屋ケ名病院と掲げた門の所にツルを巻いたガジュマルの木がアーチを作りそこが門で入

口だった。

「これは何という木じゃ」

E侍が訊いた。

「これはガジュマルです。琉球では昔からこの木にはキジムナーと云う妖怪が住んでると云われてます」

「なんか人間のヒゲが上からぶら下がった見たいで気味悪いっす」

と、A侍。

「おいどんも始めてだす」

D侍が始めて言葉を発した。

「このガジュマルの何処かにアタクウが居るはず。探して見ましょう」

サンダー先生はガジュマルの樹木の周りを探し始めた。

「居ました。ここに」

五人の侍がサンダー先生の指さす方を覗いた。

「おう、これがアタクウかヤモリと似ておる。これが拙者達に似てると言うトカゲなのか」

「グーリーは琉球語で日本語に訳するとお辞儀って意味です」

「グーリーアタクウを日本語に訳するとお辞儀するトカゲって事なのか」

「そうです。このトカゲに刺激与えない様に、よく観察して見て下さい」

五人の侍の目がトカゲに集中した。するとそのトカゲがペコペコ頭をさげはじめた。

「お辞儀しとるばい、面白いトカゲだすなあ」

「可愛いトカゲでごわす」

「噛みつくと痛いのであろうな」

「痛く無いですよ、捕まえて噛まれて見ますか」

「いやいや、そんな無謀な事せんとっておくなさい」

「大丈夫さあ、人に懐いてるから心配ない」

と、サンダー先生はトカゲを捕獲した。サンダー先生は捕まえたトカゲを侍達に見せた。

「ほら触ってみて、ウロコみたいな皮だけど撫でると気持ち良さそうにするぞ」

「いや、いや遠慮する噛み付かれたら怖いでごわす」

「そうだ、一つ教えてなかった。このトカゲが元気無い時お前達に煎じて呑ませたヨモギを与えると元気になる」

「ヨモギを与えると元気になるとですか、わしらと同じだす」

「頭をペコペコする所もな、だからお辞儀するトカゲに似てると言ったのだ彼女は」

「そうだったんだ、あははは」

五人の侍が同時に笑った。

「そうであった拙者達の名をまだ名乗ってなかった。皆の衆一人ずつ自己紹介をしようではないか」

「その前に、ここえ集まってもらえまいか」

E侍が四人の侍を端っこに集合させてヒソヒソ話し始めた。

「よいか、決して薩摩出身の事は言うな。備中高梁の出身と言うのだ良いか」

「良いでごわす備中高梁でごわすな、でも備中高梁とはどこだすか?」

「拙者の故郷じゃ」

「其方の郷でごわしたか」

五人の侍は改めてサンダー先生の前に集合して自己紹介を始また。

「では、拙者から。拙者の名は総社総一郎と申します。拙者の得意分野は手ろくろで陶器を作る事です」

「手ろくろで陶器を作る事ですか。ここには手ろくろはないですが作る所をみたい物さあ」

「総社総一郎さんですね宜しくお願いします」

「こちらこそ、命を助けた事に感謝致しております」

総一郎は一歩下がり侍Dに譲った。

「おいどんですか。おいどんの名前は下柳禿太です。おいどんの得意分野は鍛冶の加工でごわす。鉄の匂いを嗅いで鉄を掘り当て加工する事でごわす」

「下柳禿太さん、よろしくお願いします」

「こちらこそだす」

禿太は一歩下がりC侍に譲った。

「拙者の名前は左官幸之助です。得意分野は大工でござる、道を作ったり橋を作ったりしておりました。よろしくお願い致す」

「左官幸之助さん、よろしくお願い致します」

幸之助は侍Bに譲った。

「おいどんの名前は佐藤踵です。おいどんの得意分野は」

と間を空けて看護師の女性をジッと見た。

「お主の得意分野は女だろう」

「違うでごわす。破廉恥な事云わんでごわす」

「あはは、佐藤踵さんよろしくお願い致します」

「誤解せんでもらいたいおいどんは破廉恥な男では無い事を」

「最後になったっすが、私の名前は油元火太郎です。得意分野は内緒です」

「えっ、内緒ですか。まあいいですけど、油元火太郎さんよろしくお願い致します」

これで全員揃った。サンダー先生は屋ケ名の村長に五人の侍を紹介して、 暫く屋ケ名滞在の許可を取り、使って無い土地を提供してくれた。 五人は何もない土地に、勝連山で木を切り倒し木を加工し家を作り始めた。五日後、何とか住める家を完成させて五人は土間でくつろいで居た。

「台所が欲しいのう」

五人の食事は屋ケ名の村人が作って提供してくれていた。

「食べる物くらい我々で作って食わねば、村の人に悪いでごわす」

「職を見つけないと、働ける所は無いものかのう」

「働くける所と言っても何をするのじゃ」

「まず鍛冶屋を始めよう。この村には鍛冶屋が無いから大工が使う道具を製作して他の村で販売すれば金が入る」

「それは良いアイデアでござる、でどうやる」

総社総一郎は少し考えてから言った。

「この辺で地層がむき出しになった場所はなかったじゃろうか?」

「そう言えば勝連山の近くに土砂崩れの跡があったが、それがどうした」

「むき出しの地層から鉄鉱石を探して鉄を採掘するのじゃ」

「鉄鉱石はそう簡単に採掘できるのか」

「わしに任せておけ、三人で行きたいと思うが誰か一緒生きたい者はおらぬか」

四人の侍は疲れた顔をして誰も参加を希望する者はなかった。

「お前とお前、わしに着いてこい」

下柳禿太と佐藤踵を指名して強引に勝連山へ向かった。

「拙者は油を作るとするか」

油元が言った。それから何日がして侍の家からトンカチトンカチと鍛冶屋の音が村に響いた。鍛冶屋を開業したのだった。火を入れる役、鉄を挟む役、鉄を叩く役それぞれ仕事をこなしてノコギリを拵えていた。

「ノコギリの鋳物が出来たらそれを削る道具居るだろう」

「刀が有っただろう刀の刃をヤスリに使う」

総社総一郎は下柳禿太に言った。

「おい、あれは駄目だ、刀は侍の魂が込められてる」

「あんなの要らんだろう折ってヤスリにすればいい」

「駄目だ」

下柳禿太は怒った。

「分かったから、そう怒るなヤスリも別に拵えればいいだろうが」

そしてやっと二人掛かりで切るノコギリが完成した。

「これは凄い、これで何が出来るか楽しみでごわす」

そのノコギリは、太い木の枝を切り落としそれを立てに切って板を作る事が出来る道具だった。

「これがあれば我が家の隙間風を塞ぐことができる」

そして切った板で家が完成した。板不足で隙間だらけの家に住む村人は、板で出来た家があると噂を聞き付けて沢山の村人が侍達の家を見学に来た。

「みなさん、この板で家を改装しましょう」

侍達は無償で板を村人に配りノコギリの貸出もした。何ヶ月かすると村の家々が木目の板で綺麗に豪華になった。

「琉球にはサンゴを砕いて粘土で固めた家が殆どなのじゃが、この板があれば安く短期間で家が完成する。それを宣伝して琉球の村々を周りこの板を売り込めば大金が入る、売れるぞこれは」

「われわらだけでは無理だよ、屋ケ名の住民と共同でやった方かやり易い」

「そうか、木を伐採する係り、木を加工する係り、板を運搬して販売する係り、と言った会社を屋ケ名で作って共同経営する。儲けは我々より屋ケ名住民に還元するでどうだ」

「良いではないか、やりましょう」

「全員賛成だな、よし決まった」

とんとんと板を販売する会社が出来上がった。板は飛ぶように売れて屋ケ名住民を豊かにした。

「ここは極楽じゃ海は綺麗し看護師は優しいし」

佐藤踵は屋ケ名海岸で看護師の子とくつろいでいた。

「あなた達、故郷の事だけど私全て知ってるわよ」

「えっ、今なんて言った」

「薩摩で起きた武家同士の闘いで敗れ命辛々この島に逃げ込んだ」

「誰から聴いた」

「貴方等の家紋です。出身地が備中高梁と言ってましたが、私の目はごまかす事はできません、その家紋は薩摩の家紋です」

「何故知っているのだ」

「本当は私も薩摩の生まれなのです。それで薩摩の親友にあなた達の事を手紙を書いて聞いたのです。その返事は薩摩で武家争いがあってその生き残りの5人だって書いてあった。それ本当なの」

「本当だ、琉球国では薩摩は敵と思われていたから隠していた」

「二回目の手紙にはこう書いてあった。薩摩藩がアメリカのユタ州で買ったウィンチェスター銃の設計図が盗難にあった。その犯人は五人の侍の一人が持ち去ったと薩摩のドン大将が怒って追跡部隊を結成して軍艦でここに向かっているって、あなた達を捕らえる為に。これ本当なの、軍艦でここに戦争が起こるわ」

「まじっすか、ここに隠れて居る事なんで知ったんすかね」

「私は密告してないわよ。あなた達が屋ケ名の経済を良くしてくれたのに密告するなんてそんな裏切り行為絶対しないさあ」

「おまはんは、薩摩の出身と言ったではないか、密告する立場にある。その友達とやらが密告したに違いない」

「こうしては居られない皆の衆に報告してこなければ」

「私も」

「其方は、来られないでよい」

佐藤踵は仲間の所へ走った。

「えらい事になったっす」

「どうした佐藤殿」

「薩摩の軍艦がここに向かっていると言う情報が」

「薩摩の軍艦が、琉球国と戦を始めるのか、二度も占領するのか」

「そうじゃないっす」

「首里城に向かっているのだろう」

「ここですよ、ここ屋ケ名に」

「なにい、屋ケ名にむかっていると申すのか。この田舎に、なにも無いこの田舎にか」

「我々っす。我々を捕まえに来るんすよ」

「冗談はやめろ、軍艦だと最低でも百の兵が乗船してるはずだ。我々はたったの五人だ無駄な戦いだろう、何か勘違いでもしているのだお主は」

「例の物っす」

「例の物って何でごあすか?」

「ウィンチェスター銃の設計図っす」

「あれはそんなに重要な物なのか」

「総社総一郎殿に訊いてみよう。総社総一郎殿はどちらに居られるのだ」

「相変わらず鉄砲鍛冶で忙しいと会ってくれない」

「鉄砲鍛冶で、忙しいと会ってくれないだとう」

佐藤踵と下柳禿太は総社総一郎の鍛冶場へ向かった。

「総社殿、総社殿お邪魔してよろしいかな?」

別に建てた鍛冶屋に立ち入り禁止と札を掲げたドアを開けた。

「何か用か」

総社総一郎が細かい加工をしてる所で仕事の手を休めずに言った。

「その仕事やめて貰えないか話がある。良いかな」

「なんだ、拙者に何か用か」

総社総一郎は仕事の邪魔された事で怒っていた。

「薩摩の追っ手が我々を捕まえに、ここに向かって居ると情報が入った」

「本当か、でいつ頃やって来る」

「一週間後だろうと思う。その鉄砲鍛冶だけど、ウィンチェスター銃なのか」

「そうだ、百丁はある」

「触ってみるか」

「いいのか」

「もう完成しているから、どうぞ」

総社総一郎はライフル銃を佐藤踵に渡した。

「火薬はどこから込めるのじゃ」

「火縄銃と違うぞ、引き金がある、それに指をかけて撃つのじゃ」

「よく分からん、見本を見せてくれ」

佐藤踵はライフル銃を総社総一郎に返した。受け取ったライフル銃に銃弾を込めて的に向かって引き金を引いた。バン、バン、バンと発砲した。佐藤踵と下柳禿太は目を丸くし た。

「これは凄い銃ではないか、これなら天下取れるばい」

「このライフル銃の図面の他に」

総社総一郎は言葉を継ぐんだ。

「他に、とは次があるとか」

「ライフル銃の図面と一万両をくすねた」

「なにい、一万両をくすねた、それは死罪に値する行為だすぞ」

「一万両は船底に隠してそのままにしてある。ここでは使う事がないから金が無くても暮らせる。薩摩とは天国と地獄の違いがある」

「二人は何処だ」

「左官幸之助と油元火太郎は薬莢の火薬を造っておる」

「銃弾の事か」

「そうだ、村人に応援を頼んでやって貰ってる」

「水くさいではないか、わしも手伝うぞ」

「お前たちは、不器用だからこの仕事からはずした」

「不器用とはなんだ、無礼な」

「その短気な所が駄目なんだ」

その頃薩摩藩の帆船おいどん丸は百五十兵の軍勢で屋ケ名に向かっていた。

「五人の侍を捕まえるだけの為に百五十兵が必要かのう、どう思う船長どの」

乗船兵の大将と船長の二人は帆船の一等席のラウンジのような豪華な船室で固定されたテーブルと椅子に腰掛けていた。

「我々の任務はライフル銃の図面と一万両を取り返す事だろう。どんな相手か知らないが、そのライフル銃の図面でライフル銃を作れる技術者が5人の中に居るらしいのだ。そのライフル銃 を完成さたと云う情報も入っておる。しかも百丁百五十の軍勢でも互角に戦える数の武器数だす」

「刺客を送れば簡単に済む事ではなか」

「それなんだ。何人かその屋ケ名に刺客を送り混んだが音沙汰なしだ。全員殺られた」

「それで軍隊を送り屋ケ名を占領する計画なのか?」

「そうだ、我々は命令通りライフル銃の図面と一万両と五人の侍を捕えて薩摩に帰還すれば良い事なのだ」

「一つ訂正だ、五人の生死は問わず逆らえば殺してもよいとの事だ」

「霧島大将殿」

「なんだ大根船長殿」

「次の入港する与論島だが、そこで休憩取らんか」

「何故じゃ」

「数時間で屋ケ名到着ではないか船で夜を明かすより、与論島で一泊して早朝出港すれば元気な兵で戦えるぞ」

「それもそうじゃのう、急ぐ事もない相手は弱いに決まっているからな」

「そうなされい、長い船旅で兵も疲れてなさる、休養を取らねばやる気が出んぞな」

その時、琉球の与論島駐在員は薩摩の行動を携帯ランプを使って島から島へ光通信で情報を送った。そしてその光は、屋ケ名の見張櫓まで到達すると点滅する灯を文字に変換して五人の侍の所に連絡に来た。

「薩摩の軍艦は与論で一泊して明朝、屋ケ名に出撃すると与論島から光で連絡が入りました」

「なに、それは誠でござるか」

「はい、今まで間違った情報は無かったので間違い無いと思います」

「分かった、ありがとう。引き続き櫓に戻って監視をお願いします」

「はい、佐藤殿」

佐藤踵は戦の準備をする屋ケ名兵を広場に集合させた。

「薩摩の軍艦は、明朝屋ケ名湾沖に姿を現すと情報が入った。焦る事は無い今は戦に備えてよく寝る事だ、いいな」

「はい、油元殿」

全員が声を揃えて言った。そして、東の空を赤く染め始め頃、屋ケ名村は静まり返っていた。野犬がゴミをクンクン匂いで餌を漁っていた。そして朝の五つ時、水平線の向こうに黒い軍艦が姿を現した。

「おーい、薩摩の軍艦が来たぞ」

見張役が通った高い声て知らせた。屋ケ名兵は一斉に小窓を覗き込んだ。その向うに薩摩の軍艦が黒煙を上げながら向かっていた。

「ここでよい、イカリを降ろせ」

大根船長は珊瑚で座礁しない様深めの海域に軍艦を停泊した。

「地図と双眼鏡を持って来い」

屋ケ名の地図と双眼鏡を片手に班長の無害勝が戻ってきた。

「お持ちいたしました」

甲板のテーブルに屋ケ名の地図を広げ、双眼鏡で現地を確認しながら上陸できそうな場所を探していた。

「地図で見るとこの辺の海岸が広い」

「はい、私もここがいいかと思います」

と、意見が一致すると艦長は待機していた兵に言った。

「屋ケ名に上陸するぞ、船を降ろせ」

「了解致しました」

上陸船を海上に降ろすと一斉に兵が乗り込みオールを漕ぎ出した。綺麗な珊瑚や魚が兵達の目を楽しませた。

「美しい魚がおるぞ」

「始めてじゃこんな綺麗な海は」

「よそみするなオールを漕ぐ事に集中しろ。敵が襲って来たらどおする」

「へい、済みません班長どの」

上陸船が砂浜に乗り上げると、下船した薩摩兵は船が海に流されない様陸に押し上げた。第二陣、第三陣と次々と上陸して来た。手際良く砂浜に上陸して杭で策を作り野営陣地にした。そして、屋ケ名村の偵察に班長の無害勝が三人の兵を連れて村に向かった。ひっそりとした屋ケ名村は、海風が吹き抜けるだけだった。村向こう端に砂で固めた要塞がみえた。それより先にいくと敵に囲まれて襲撃を受ける恐れがあると無害勝は入口付近で立ち止まり大声で避けんだ。

「誰かおらぬか、話がしたい。出てこられい」

すると五人の侍が要塞の扉を開けて無害勝の前に現れた。

「我々を捕まえに来たのだらう、話す事はない。捕えたかったら武器でかかって来い」

「戦火になれば村人も犠牲になるぞ」

「女子供は勝連城に非難したから大丈夫じゃ」

「勝連城はあの丘のふもとにある建物です」

歩兵が説明した。

「あれか、勝連城は」

暫く考えてから無害勝が言った。

「勝連城も焼き払うぞ良いのか」

「屋ケ名を落としてから言え馬鹿たれが」

「馬鹿たれだとう、頭来ただすばい。屋ケ名の馬鹿たれが」

と、それを聴いた屋ケ名兵が発砲した。カンカンカンと鉄兜に穴が空いた。

「琉球人をバカ呼ばわりしたからだ。馬鹿たれがあ」

下柳禿太が言った。また発砲が続き、無害勝は身を潜めながら陣地へ逃げ帰った。

「腰抜けども、腰抜け薩摩野郎、攻撃して来い」

下柳禿太は毛の無い頭をぽりぽり掻いた。陣地に戻った無害勝は唖然とした。部下の武士達がそれぞれ好きな事をやっていたからだ。釣り糸を垂れて魚を捕る者、裸になって日を 浴びる者、砂浜で相撲を取る者、木陰を作って将棋を指す者といった全く緊張感がない。徳川家の軍勢と戦ってきたツワモノぞろいのはずが。

「お主ら何してる。合戦の修羅場となろう場でその様なのんきな事して切腹もんだぞ。全員集合せい」

「班長どの切腹だけは勘弁しておくんなさい」

武士達は口々にいい訳しながら無害勝班長の前に集合した。

「だらしないぞ、待ったなしだ。突撃せい」

「まだ心構えができてないでごわす」

「戦火にその様な無駄な考え等ない、突撃せい、切腹だぞ」

「うるさい班長殿だ。何かと言えは切腹、切腹と兵をおどす」

「うるさいぞ」

無害勝は兵のケツに蹴りをいれた。

「痛いでごわす」

「突撃、突撃じゃ怯むでないぞいけ、いけ」

やりと刀と鉄の盾と鎧を装備した薩摩25名の兵は屋ケ名の村に恐る恐る脚を踏み入れた。何件か建ち並んだ民家を一軒一軒を敵が潜んで居ないか調べ始めた。家々の正面に巨大な要塞が兵達を見下ろしていた。

「この要塞は何処かで見たことある要塞でごあす」

「せっしゃも」

「おいどんも」

「関西軍勢と戦った霧島合戦の砦と似ておるぞ。あの合戦では、あの砦のおかげで勝ち戦となった。設計した武士が、確か左官幸之助と言ったかな」

「左官幸之助といえば、五人の侍の1人ではないか。その左官幸之助がこれを設計したとなれば、これは超えられんぞ最低でも1万の軍勢で攻めない屋ケ名は落とせんぞもしかして」

村の中央で集まった二十五名の兵の周りが急に殺気で満ちた気配に変った。

「家々に鉄砲を構えた兵が」

屋ケ名兵が家々の窓からライフル銃を構え狙っていた。一軒の家から左官幸之助が現れた。

「聴いておったぞ、おいどんの事話しておったがいかにもこの要塞はおいどんのが設計した」

「おお、左官幸之助どの拙者の憧れの武士であった。ここで会うとは奇遇でごさるでごわす」

「左官幸之助殿我々と戻らぬか、ここで暮らしても退屈であろう」

「その逆でござる、ここは天国じゃ薩摩とは大違いでごさる。お主こそここで住まわれたらどうだ」

「遠慮する。拙者もここの景色に見惚れたが、家族が待っておる。薩摩藩を裏切ったら拙者の家族は獄門打ち首でごさる」

「そうか、家族がおると仕方ないのう。その前に武器を地面において貰おうか」

「いやじゃ、と言えばどうする」

「こうなる」

パンパンパンと刀とヤリと盾に命中してグニャグニャにへし曲がって地面に転がった。

「もう使い物にならんだろう、だからゆっくり地面に置け。我々が丁寧に扱うぞ」

無害勝は火の見櫓のてっぺんで兵達が村人に囲まれ両手を上げ降参した姿を観て叫んだ。

「戦え、抵抗しろ。切腹だぞ」

「ばか班長殿が、また切腹をほざいて御座る。薩摩もおしまいだな」

「下でなに愚痴っておる、直ちに出陣じゃ、鉄砲隊、弓兵、歩兵同時じゃ。出陣せい。切腹だぞ」

百五十の軍勢が屋ケ名入り口百メートル手前で鉄兜に甲冑を装備した鉄砲隊が火縄銃を構え屋ケ名兵が発砲するのを待った。が、発砲が無いとわかると鉄砲隊は立ち上がり火縄銃を構えた恰 好で全身した。その後ろを鉄兜も甲冑も無い身軽な歩兵が身を屈めながら鉄砲隊の後を着いていた。一軒の家屋の窓から銃口がチラッと現れたのを歩兵が目撃した。

「あの家屋だ敵が潜んでおる狙え、あの小窓だ」

鉄砲隊はその家屋の窓に向けて発砲した。鉄砲隊が鉄砲の筒に火薬を詰めている間、弓矢兵が矢を射った。家屋の小窓から屋ケ名兵がライフル銃で反撃して来た。 鉄兜と甲冑で銃弾跳ね返して身を守るのがやっとで鉄砲の引き金を引く余裕などなかった。

「後退じゃこのままでは全滅じゃ撤退だ撤退」

「誰だ勝手に指示するのはおいどんが司令する。突撃突撃でごんす」

兵達はライフル銃の銃弾の雨におびえながら家屋に向かって突進した。ダダダダダ総社総一郎は最新の機関銃も拵えていた。戦火を語る事もなく薩摩藩は全滅した。帆船で合戦を観ていた霧 島大将は我が身が危ないと大根船長に出港を命じた。

「逃げろ逃げろ殺られる。攻めてくるぞ急げ」

霧島大将は最大の腰抜け野郎だった。これが薩摩藩の大将か笑わせる。

「なんだとお、琉球で我が薩摩藩が敗れたも押すのか」

薩摩藩のドン大将が言った。

「全薩摩海軍を動員して琉球を攻め落とせ、琉球を滅ぼせ琉球人は皆殺しだ」

と、ばかな大将がほざいた。

「どうされた。怒りで顔がつり上がっているぜよ」

坂本がドン大将に言った。

「おいどんの家来の家来が琉球に逃げ込んで寝返った。そして、おいどんの兵を叩いたばい、裏切りは絶対許せん」

ここで話が飛んで琉球の貿易症人空手中場の話をしよう。空手中場は琉球から清国に渡りガラクタを船に詰め込んで琉球に持ち帰り、そのガラクタを再製し農民に売り歩いていた。そのガラクタの中には空手中場が発案したヌンチャクと言う武道の武器があった。空手中場は大八車にガラクタを積んでコザの街に売りに歩いていた。

「これはなんねえ」

客の一人がヌンチャクを指差して聴いた。

「買うの、買わなかったら教えないよ」

「買わないよ」

そっけない対応に客は寄り付かなかった。

「それ幾らねえ、全部貰うかな。大和の銭も清国の銭もあるけど」

「これ高いよ、木の部分は三味線に使う鉄工木使ってるし、鎖は清国の万里の長城の策に使っていた物で出来てるから」

「幾らねえ、高くてもいいから」

「十両でどうねえ」

「分かった。全部買う」

「本当ねえ、十両では高いと思ってるけど」

「じゃあ安くするねえ」

「うそ、高いよこれ」

「もっと欲しいけど注文できるねえ」

「幾らでも作れるさあ」

「そうねえ、じゃあ頼むかね。名前は」

「名前は空手中場です」

「あんたの名前じゃなくて、この道具の名前さあ」

「あっこれねえ、ヌンチャクさあ」

「ヌンチャクね、分かった」

「薩摩の役人がきた。じゃ あ残り頼んだからね」

「有難うございました」

薩摩藩の役人が刀狩りで武器を売って無いか視察に空手中場の所にやって来た。

「お主何を売っている。みせろ」

薩摩藩の役人が武器を売って無いか調べていた。

「ガラクタばかりだな、売れるのか」

空手中場は何も言わなかった。北谷の砂部に空手中場の実家があった。コザの街まで片道第八車を引いて半日かかった。

「おとうが帰って来たよお」

空手中場の息子だった。海辺の家の横には貿易症人の船が停泊してあた。第八車には物を売った金で豚一頭と鶏その他諸々の品物を積んでいた。

「あなた、お帰りなさい」

妻のカマルが出迎えた。

「ただいま」

「沢山売れたんだねこんなに買い込んで」

「これだけ有ったら当分ひもじい思いしないで暮らせるさあ。それからカマル後ろ向いて」

「後ろ向くのなんで?」

「いいから早く」

カマルは後ろを向いた。空手中場は隠していた簪をカマルの後ろ髪に刺した。

「おかあとっても綺麗さあ」

息子のマサアが言った。

「何したの?」

と、カマルは結った髪に手を掛け簪を取った。簪を手に取り笑顔を作って言った。

「有難う、前から欲しかったさあ。本当に有難う」

とカルマは空手中場に抱きついた。

「良かったさあ、喜んでくれて」

「マサア」

「何ねえおとう」

「今から仕事があるからお前も手伝って」

空手中場はコザの街で追加注文を受けたヌンチャクの増産に作業場にマサアと向かった。

「おとう、僕は勉強したいから手伝わないよ」

「何言ってるねえ、おとうの事聞かないのか」

「あなた、マサアは勉強したいって」

「何勉強すんだ」

「おとうが清国から持って来た本さあ、鉄の」

「あの本ねえ、お前あの本読んでるのか」

「読めないけど、なんとなく絵が書いてあるから。事典もあるから調べながら勉強してるさあ」

「おい、お前いつからそんな勉強の事考える様になった」

「わからんけど、なんとなくさあ」

数日後空手中場は注文を受けたヌンチャクを風呂敷に巻いてコザの街へ向かった。

「比嘉武道場、この辺だけど」

空手中場は今の中の町の民家の通りを探していた。

「有ったここだ」

比嘉武道場の立看板の前で立ち止まった。サンゴで塀が築かれて入り口を一枚の壁で仕切られた道場だった。塀で中の様子が分からなかったが以外広く武道着を着た琉球民達が蹴り突きと 言っ清国拳法を習っていた。

「ちやーびらさい」

空手中場は広い庭の先頭で武道を教えている男に向かって大きな声で叫んだ。

「誰ねえ」


と、ガニ股で体格のいい武道家がのっしのっしと向かって来た。

「頼まれたヌンチャク持って来ました」

「おう、あの時の行商人か。待っていたさあ」

空手中場は風呂敷を広げてヌンチャクを見せた。

「おいみんなここに来て」

武道家は教え子達を呼んだ。

「みんなこれを取って独り一つだよ」

ヌンチャクを取る様言った。

「これを考えたのはあんたねえ」

「はい、私が考えて作りました」

「どんなして使うかよく分からないけど、教えてもらえ無いかなあ」

「いいですよ」

と、空手中場はヌンチャクを手に取りビュービュー振り回しながらヌンチャクの形を披露した。

「凄いさあ、あんた名前はなんて言うねえ」

「空手中場です」

「空手中場かいい名前だね」

「有難うございます。一つ質問していいですかね」

「なんねえ」

「今教えてる武道は、なんて言う武道ですか?」

「武道名はない、清国の武道を真似た所もあるけど新しい名称を考えている所、そうだあんたの名前使っていいかなあ」

「おれの名前」

「空手中場の空手を取って琉球空手、琉球空手、琉球空手いいねえ。使っていいかねえ」

「別に構いませんけど」

と言う話から沖縄空手が生まれたと作者は空想した。さて空手中場の息子マサアが青年となりそして所帯を持ち子を授かった。同じ似た様な親子五世帯の子供五人が後の侍だった。薩摩藩の武 家侍に後継の子が無い者は役職を解かれ素浪人と一般庶民に格下げされる。子が出来ない侍は捨て子を養子にすれば武家屋敷を追い出される事が無かった。しかし養子縁組が不足すると琉球 の子供に目が向けられ賄賂で役人を雇い琉球の子供をさらって養子縁組を得る侍もいた。空手中場の息子マサアの子供がその侍の養子に雇われた役人にさらわれた。その時抵抗したマサアは 子供の前で斬り殺されたのだった。他の四人の侍も同じ様な過程で薩摩に連れていかれた。 物語は屋ケ名に戻る。薩摩藩は屋ケ名を攻め落とす前に忍び者を屋ケ名に送り込んだ。屋ケ名の白浜海岸、今のホワイトビーチに薩摩の忍者隊が海を泳いで上陸して来た。時刻は晩の九つ 時、今の午前零時だった。忍者隊は静かにゆっくり屋ケ名の民家に忍び寄ってきた。家屋の戸をゆっくり開け寝入っている屋ケ名民を一人一人殺害していった。屋ケ名民の中には内地の忍者 以上に武道の達人がいた。その男はこの村に宿泊していた。その男は忍者の気配に気づくと、むくっと起き出して外の様子をみた。忍者が家屋に忍び込み出てきた時は刀に血のりを垂らして 現れた。男は身を隠ししばらく考えた。忍者隊を1人で片付けてやろうと。翌朝、屋ケ名村にいつもの様に朝日が差し込んだ。昨夜の静かなる戦いで忍者隊の死体が村中に転がっていた。

「なんねえこれ、誰か外で寝てるさあ」

「ゲゲゲ、違うみんな死んでるさあ」

「刀に握っているから薩摩藩の忍者隊みたいみたいさあ」

「ぎあー照屋根さん一家が死んでる」

屋ケ名村はパニックになった。 百五十

名の忍者の死体が村のあっちこっちに転がっている。屋ケ名村住民の犠牲は数名だった。その頃薩摩では屋ケ名に送った忍者隊の成果を期待していたが、全滅したと報告がはいると屋 ケ名決戦の総指令武将ドン大将は次の作戦を考えた。人海戦術なのか?

「なにい、無敵の薩摩忍者隊が全滅しただとう」

大大将が吠えた。

「徳川の忍者を全滅にした部隊だぞ、屋ケ名には化け物がおるのか」

「琉球にはある武道が流行っておるそうで御座います」

「なんだそれは」

「空手とか言ってました。侍を倒す為の拳法とか」

「ドン大将殿、拙者に任せてもらえないか」

「おう、坂本どんどうした。何を任せろと言うのだ」

「薩摩藩の鉄砲は今だ火縄銃ではないか」

「そうだ、それがどうした」

「琉球の鉄砲はライフル銃だ。琉球を攻め落とせるのか」

「多勢に無勢、人海戦術で勝てるに決まっておる」

「機関銃とやらも装備しておるらしいぞ」

「なんだその機関銃とやらは」

「一度に何発も銃弾が飛び出して百人以上は倒せる恐ろしい武器だそうだ」

「それは誠か」

「それを造ったのが鉄砲鍛冶の総社総一郎ばい。もと薩摩の武士、惜しい人材を敵に まわしたのう」

「それを言うな」

「坂本殿話がそれとるぞ、任せろとは何を任せろと言うのだ」

「つまりだ。拙者がメリケンに渡ってライフル銃を買い付けてくるのじゃ」

「お主がメリケンに渡ってライフル銃を買いに行くのか。勝手に行けばいいではないか」

「それには金がいるではないか」

「幾ら要るのだ」

「最低百万両は要るな」

「なにい百万両だとう。我が薩摩藩の財政は圧迫してる事存じておろう。出せるわけがないではないか」

「琉球を攻め落とせば元は取れますよ」

「それは誠か」

「琉球には莫大な財宝が眠っておるそうだ」

坂本はうそぶいた。

「よし分かった出そう」

と言う事で坂本はメリケンに渡った。

「殿、屋ケ名は何時攻め落とすので御座いますか」

「坂本殿が戻ってからだ」

「屋ケ名の城壁が万里の長城の様に建設中と情報が入ったでごりまするぞ」

「城壁がなんだ。メリケンの大砲で破壊できるわ、わっはははは」

副将軍の下柳源五郎が呆れていた。アメリカ今のユタ州の砂漠を奇兵隊が西武開拓民を護衛しながら金鉱山へ向かっていた。

「この辺はアパッチ族の領土だ何時襲ってくるか分からん警戒しろ。奴らはライフル銃を手に入れてから片っ端から白人を襲って来る」

カッター将軍は自然の岩で出来たリングの輪を通りながら言った。その奇兵隊の後方を遅い馬に股がり坂本が追いかけていた。

「ミスター坂本もうすぐです」

通訳のケントが言った。

「乗馬が慣れないもんで、お尻が痛くなってきた」

アメリカ大陸に上陸して休む間も無くウィンチェスターのライフル銃製造工場に向かっていたのだった。カッター少佐率いる騎兵隊の任務は十台の幌馬車を金鉱山まで無事送り届ける事と坂 本をウィンチェスターライフル銃製造工場まで案内する事だった。ジョーダン川に差し掛かった時だった。

「もうすぐ川だそこで休憩をとるぞ」

カッター少佐が疲れきった騎兵隊に一腹の言葉した。川の手前岸壁でカッター少佐はインデアンが潜んでいないか岸辺に三人の偵察を送った。岩山を降りて行く三人の兵は小さくなって岩影に 消えていった。暫くすると銃声が響き渡った。

「なんだ、インデアンの種撃か」

三人の騎兵が岩山をよじ登って戻って来た。

「インデアンが攻めて来ます」

騎兵隊と幌馬車は丘の上から川の方に通ずる蛇行した登山道をインデアンの騎馬隊が砂煙を上げながら五十頭ほど登って来るのが見えた。 「カッター少佐どうします。インデアンが向かって来ますよ」

カッター少佐は周りの景色を眺める様に体を一周した。

「あそこだ、岩と岩の間の隙間」

岩の間に馬車が通れる道が繫がっていた。

「みんなあの岩の間にの道だ、あそこを通るぞ」

先頭を誘導する騎馬隊の後を幌馬車が向かった。

「ケント殿インデアンとはどんな組織なのだ」 「ミスター坂本、今は話してる余裕などありません。まわりを警戒してインデアンが隠れてるかも」

その岩で囲まれて細い道は長く十キロは有った。

「これは人が造った壁なのか?」

岩壁を見て坂本はケントに訊いた。

「自然です。ミスター坂本」

「自然に、こんな万里の長城の様な壁が出来るのか。メリケンは凄い所でごらる」

「もっと凄いの観ただろう」

「何をでごさるか?ケント殿」

「岩で出来た巨大なリングが有っただろう」

「岩で出来た巨大なリング?気付かなかったでござる」

現在の観覧車、その位大きな岩のリングの下を通った事を坂本は気づかなかったのであった。

「何時も見慣れてるから、教えてるおけば良かったな。帰りに又そこ通るからその時教えますよ」

「それはなんと言う名称の岩なのだ」

「ランドスケープアーチだ私の祖父が付けた」

「ランドスケープアーチでござるか、想像つかないが是非見たい物だ」

と、二人の雑談を岩の道に落とした。その道を抜けるとそこは遥か地平線まで見渡す限り砂漠だった。

「砂丘でござるか?ここは」

「砂丘じゃ無く砂漠です」

ここまで緊張感の無い会話で進んで来た二人だが、結構速めに移動しながらの会話であった。カッター少佐は部下にダイナマイトを岩壁に仕掛けて爆破させた。岩は道の上に崩れ落ちて不通 になった。

「こらでインデアンは追ってこれない」

と、カッター少佐。ユタの砂漠に日没がやって来ると強かった風も納まり穏やかになった。

「ここで野営するぞ」

カッター少佐は暗くなる前に薪の材料を拾いに行く様兵に命じた。

「ケント殿話が違うではないか」

「えっ、何が?」

「最初の所でもうすぐ着くと申したではないか」

「インデアンが居たから」

「インデアンが居たから大きく迂回する事になったのだ」

「そうであったか、拙者はライフル銃工場はまだか、まだかと何千回も思っておった。訊いてよかったでごあす」

「心配するなミスター坂本、必ずライフル銃工場まで無事案内する」

幌馬車を輪してその中央に瓦礫を積み上げ轟々と燃やしていた。

「こんなに火を炊いてインデアンに気付かれるではないか」

「大丈夫だ夜のインデアンはみんな寝てる。信仰があるんだろう、夜中行動したら罰が当たるとかね。それよりももっと怖いのはコヨーテだ」

「コヨーテなんだそれ?」

「オオカミに近い生き物だ」

「オオカミで御座るか。日本にもオオカミがおるが、皆恐れておる。そのオオカミより恐ろしい生き物なのかそのコヨーテとは」

「オオカミの生態系は分かるがコヨーテ生態系は分からない、その分恐れられている」

その時コヨーテの遠吠えが砂漠に響き渡った。コヨーテ、オオカミどちらとも付かない遠吠えにケントと坂本は耳をそば立てて聴いていた。

「ケント殿これはオオカミの遠吠えか?」

「コヨーテだ。オオカミとは違う吠え方をしてる」

「拙者にはただの犬の遠吠えに聴こえるがな」 その時、炊き出しが出来たと料理担当の兵が二人を呼んだ。今夜のディナーはトマトペーストに豆と鷹の爪を煮込んだメキシコ料理のチリドックだった。

「これはうまそうで御座る、頂きさしてもらう」

「待て」

坂本はチリドックを口に入れようとした時で止まった。

「ミスター坂本は辛いのは苦手か?」

「辛い食べ物で御座るか。分からんでごさる」

「食べても良いでごさるか」

「どうぞ」

坂本はチリドックを口一杯に放り込んだ。モグモグと暫く噛みしめていた坂本だったが、次の瞬間アウー、オウー、と叫んだ。砂漠の遠くでその叫び声を耳にしたコヨーテが静まり返った。 コヨーテは尻尾を巻いて野営している周りから退散した。

「大丈夫かミスター坂本」

坂本はゆでダコの様に真っ赤だった。

「拙者はもう寝ます」

「そうとう効いた様だな。このチリドックが、この前も訪問した勝とか言う侍もこれ食ってコヨーテになってたな」

「今なんと申した。勝とかい言ったな」

「勝○○だ友達か」

「いや、ただ訊いただけだ」

白々と夜が開けると朝日が摩天楼と思わせる岩山を赤々と染めていた。

「ケント殿あれはなんと言う建物じゃ」

坂本が朝日の長い影を作って体操をしながら訊いた。

「建物じゃない岩山だよ」

「それは誠か、拙者には建物に観えるぞ、アメリカは凄いとこでごさる。宇宙の違う惑星みたいだ」

「ミスター坂本一つ質問していいかな」

「なんでござるかな」

「その今着ているその服だけど、ダサくないか」

「なにを申す日本ではみな同じ物を着ておるぞ」

「騎兵隊も幌馬車隊もその服を見て笑ってる」

「何、拙者の服で笑ってるだとう」

坂本を観て談笑していた。

「無礼な奴らだ」

「全員出発するぞ準備はいいか」

「準備は出来てます。カッター少佐」

「よーし、出発進行」

太陽が真上に来た頃、インデアンの種撃から守る為、十メートルの杉の木を何万本も並べて作った塀の金鉱山の村に到着した。硬く重い扉か開かれ騎兵隊と幌馬車隊は塀の中へ吸い込まれて いった。塀の中は金の発掘で全米から集まったならず者の溜まり場だった。

「誰だ、インデアンか」

昼間っからテキーラをラッパ飲みしていた男どもが坂本を観て言った。

「何を言っているのだ。ケント殿」

「インデアンか、と言ってる」

「拙者の事か!」

「相手にするな、銃があるから撃たれるぞ」


左右に家屋が建ち並び、さらに路地の奥にも家屋が密集していた。目の前の山が金鉱山だろうか、小粒の発掘隊がつるはしを振り下ろしキンコン轟いていた。中央の大きな建物は掘り当てた金を測りにかけて売買する金取引場なのだろう。列を作って掘り当てた金を売りに来ていた。幌馬車と坂本とケントと彼らを守る騎兵隊5人が金鉱山をはなれライフル銃工場へ向かった。人気の無い砂漠からだんだんと家屋が点々と目に映る様になった。

「ミスター坂本見えますか。あれがライフル銃工場がある町です」

「やっとで御座るか」

高台から遠くの方に家屋が建ち並ぶ街が。街に入ると着飾った貴婦人が日傘を差して街をかっぽしていた。

「女性が多いのうこの街は」

坂本は行き交う貴婦人に目を奪われていた。ふと坂本は自分の袴姿が気になり出した。

「ケント殿、拙者は、これをあれに着替えたい」

坂本は自分の袴を差して、紳士服姿のカウボーイを差した。

「ここは日本人が経営している仕立て屋なんだ。ミスター坂本と同じ国の者だ」

「それは誠か、日本人がここで和服を売っておるのか」

「まさか、和服着るアメリカ人なんていませんよ」

「では何を売っておるのだ」

「今通った貴婦人達が着ていた服はテーラー鈴木の仕立てなんだ」

「それは誠か、あの様な服はここの鈴木とも押す方の針で仕立てたと言うのか」

「ここの反物が好評で全米から服地だけを買いにわざわざテーラー鈴木までやって来る」

「それは凄いで御座る」

カウボーイブーツのケントとわらじのぞおりを履いた坂本がテーラー鈴木の店内に入場した。

「ミスター坂本、もうここは出ましょう」

「そうであった。拙者はここで金の発堀に来たのでは無かった」

「金を堀当てようと思ったら、金がいる。だいたいここに居る連中は詐欺師がおおいから、金が出尽くした山を法外な値段で発掘権を売りに来るから、カモにされるだけだよ」

「分かった。仕立て屋でミスター坂本に合う服はないか見て来ましょうか」

「宜しく頼むでござる」

テーラー鈴木、と看板が掲げられたアパレル関係の店の入り口で坂本は立ち止まった。

「ケント殿、この看板の横に鈴木と日本語が書いてござるが。なんで鈴木と書いてあるのだ」

「いらっしゃいませ、テーラー鈴木へようこそ」

小津安二郎の映画に出て来そうな和服姿の美しい日本女性が二人を出迎えてくれた。

「あら、その着物は日本の袴では御座いませんか」

英語で話す彼女の言葉の意味は理解出来なかったが、坂本は聞き返した。

「拙者は日本から着た者で御座る」

「あらまあ、日本人の方なのお、珍しいわ」

日本語で受け答えた彼女に坂本は胸の高鳴りが襲った。

「はい、拙者は土佐から参った者で坂本と申します」

「土佐国の方でございますか。それはそれはわざわざアメリカまで何をされに来られたのですか」

「ライフル銃の購入に参ったのでござる」

「ライフル銃ですか、日本は今どうなって居るのですか、又戦争が始まったのですか」

「琉球国の屋ケ名と言う所と薩摩藩が戦っておる所でござる」

「琉球国ですか、琉球国とは何処にあるのですか?清国ですか」

「いや、南の最南端に位置する島国じゃ」

「そうですか、もうし遅れました」

「私は吉備国の倉敷と言う街から主人と二人で修行のつもりでアメリカへ渡ったので御座います」

「吉備国の倉敷でござるか、拙者の里土佐国の近くではないか瀬戸内海を渡ればそこは倉敷と聴いておる」

「はい、紡績業の盛んな街で御座います」

「そこの反物を使っておるのか」

「はい」

「金鉱山で働いていた作業服の紺のズボンじゃが、あれも倉敷の反物を使っておるのかな?」

「はい、ミスターリーバイスの経営する紡績工場のジーパンに使っていおります硬い繊維は倉敷の反物を使っております」

「ほう、それは凄いでありますな」

と、そこへ旦那の鈴木ゴン三郎が現れた。

「いらっしゃいませ」

と英語で挨拶した。

「あなた、日本の方ですよ」

と、奥さんの裕子が言った。

「そういえば、袴姿ではないですか。始めまして鈴木ゴン三郎と言います」

ゴン三郎はアメリカ式に握手を交わした。

「坂本と申します。奥さんから経緯をお聴きしました。誇りに思います」

「私がした事がそんなに誇れる事なのか、ただ生きる為に働いているだけなのだが」

「いえいえ、それは謙遜でござる、もっと自分達がした事を知らせ広める事です。そうすれば日本の若者に刺激を与え日本は世界の先頭に立って歩む事が出来ますぞ」

鈴木夫妻はなるほどと言った顔で聞いた。

「早速では御座るが、拙者も街ゆく男と同じ物を仕立ててもらえないか」

「はい、喜んで」

鈴木ゴン三郎はメジャーを取り出して坂本の体のサイズを測りだした。

「ここも、ここも測るで御座るか」

肩幅を測ったり股下を測ったり、胸回り測ったりする事にいちいち口を挟んだ。

「出来上がるのに時間が掛ります。夕方までには完成してお渡し出来ると思います」

「さようか、では服が完成するまで、拙者はケント殿と街の探索にでも出かけるとするか。ケント殿頼むでござる」

「えっ、何を頼む?」

「街の案内でござる」

「そっうか、じゃあ食事でも行きますか」

「この街はよく整備されておるのう、道は石の様に硬い物で舗装されてるしガス灯も備わっておる」

「ウィンチェスター家のおかげだな」

「ウィンチェスター家の資産てどの位あるのだ」

「この街に投資して居るから想像が付かない」

「この街はウィンチェスター家の金で出来た街なのか」

「そうだな、ここの店だ」

牛の形に切った板にジャッキーステーキと書かれた店の前で立ち止まった。

「ステーキとは牛の肉か」

「そうです。入りましょうミスター坂本」

二人は店内に入った。店の店員が坂本を見るとそこで待つ様ジェスチャーをした。店内は客がおらず空いていた。暫くしてから店員が二人をテーブルに案内した。そのテーブルは、他のテーブルとは階段二段分下に出来た汚れたテーブルだった。

「拙者は上のテーブルがいいで御座る」

「ここで我慢しろテーブルを移動したら追い出される」

「なぜで御座る」

「人種差別って知らないだろう」

「人種差別?なんだそれは」

「白人とそれ以外の人種を差別する事だ」

「白人とは鼻が高くめが青で髪が金髪のお主のような人種の事か」

「黒人や東洋人やメキシコ人は差別の対象にされる」

「それでここの人間は見下した目で拙者を見ておったのか」


「馬鹿にはしていないから気にするな」

店員がメニューを置いていった。

「お品書きでござるか」

「メニューだ」

「メニューでござるか。拙者には読めないでござる」

「ミスター坂本、私と同じ物食べますか」

「分からないから仕方ない、同じ物でいいで御座る」

「じゃあ、フライミリオンステーキを二つで宜しいかな」

「はい」

「これはなんで御座るか」

キャベツを千切りにトマトを蝶の形に切ってキュウリを扇形に飾ったサラダだった。

「野菜です。綺麗でしょう」

坂本はその野菜を一気に口の中に放り込んだ。

「ケント殿これはみそ汁で御座るか」

「スープと言う」

坂本はズルズルとそれも一気に飲み込んだ。

空になった皿は全て片付けられテーブルには何もなかった。

「ケント殿、これで終わりなのか拙者まだ物足りないで御座る」

「まだ、これからです」

とそこへ鉄の皿にベーコンで巻いた上質の牛肉がジュウジユウと言いながら運ばれて来た。

「おう、これは美味そうで御座る。では頂きまする」

「さて飯は食ったしこれから何処参られるかな」

「ライフル銃工場見学したりライフル銃の値段の交渉したり何日が滞在するだろうから、ホテルの予約しないと」

「宿の事か」

「そうです。行きましょう」

二人はホテルを探した。

「あれがいいかな」

ホリデーインと看板を掲げたホテルだった。 宿を取った二人はそれぞれの部屋で先づ汚れた体を洗い落とす事だった。坂本は着たきりの袴と何日も着替えない臭いフンドシを放り投げてバスタブに浸かった。

「極楽じゃ」

坂本はそのままバスタブで寝込んでしまった。

「ミスター坂本、いらっしゃい」

貴婦人が坂本を誘った。 坂本は貴婦人の招待で金の馬車で貴婦人の豪邸へ向かっていた。そこは、他の侵入を拒んだ分厚い扉でここの警備の男がゆっくり開けた。そして金の馬車は扉の中消えた。庭と言うより森の 様な道を進むと、城の様な建物が坂本の目に入った。坂本と貴婦人は城の中に消えていった。そこは天国だった。ベットに横たわった坂本は沢山の女性達に身体の全ての手入れをしてもらっ ていた。それが、なぜか坂本は息ができず苦しんでいた。

「苦しい助けてくれケント殿」

と、目が覚めるとバスタブで溺れかけていた。

「夢であったか、しかし今まで見た事ない夢であったばい」

テーラー鈴木で仕立てたチョキのスーツとテンガロンハットを被った坂本はウィンチェスター家のライフル銃工場へ向かった。そこは、現在の工場の形に近い建物が細長く連なっていた。工 場の中では沢山の労働者が働いていた。

「これは凄い工場でござる」

坂本は建物内の広さに驚いていた。ライフル銃の真にあたる筒の製造工程で坂本は見学していた。

「これはどんな仕掛けで弾が飛び出すのだ」

「下からバネで弾を上に押し上げて連続で撃てる仕掛けになってる、と言ってます。坂本」

「もし、鋳物の中に空洞ができてたらどうなるかのう」

「暴発するに決まってると言ってます」

「おーい、坂本殿が帰って来たぞ」

薩摩藩の武士達が薩摩港に入港した蒸気船ツイート丸に乗船した坂本に手を降った。

「坂本殿長い旅であった。ご苦労であった」

「皆の物出迎え有難う。日本に帰還して幸せでござる」

坂本は辛かった長い旅を振り返りなが言った。10万丁のライフル銃が薩摩藩の武器倉庫に搬入された。

「坂本殿ご苦労であった。アメリカはならず者天国と聞いておったから坂本殿の安否が心配であった。無事帰還できて良かったでござる」

「きつかったで御座る。インデアンと言う部族に襲われそうになったり差別を受けたりで」

「まだ聞いて無かったが琉球国はあれからどうなったのだ。ドン大将殿」

「さあね、あれからやる気無くして何もしてない。ただ隠密行動は続けておるぞ。屋ケ名民に化た隠密から情報はしっかり取っておる」

「それで、琉球国の屋ケ名は今どう変化したのだ」

「変わらない、前と同じだ」

「拙者が留守した一年間なんの変化もないとも押すのか」

「そのままだ要塞もそのまま、屋ケ名民はいつもと変わらず。飲んで踊って楽しく暮らしておる。わが薩摩藩は不景気で自殺する武士までおると言うのに、琉球国はなぜあれだけ豊かなの だ」

「貿易収支で儲けておるのだろう」

琉球国屋ケ名では出会いの季節となり村々の独身男女が集う社交場として離島が使われていた。その島は伊計島と言う無人島だった。村々で男女が出会いペアが出来るとその島に渡り無人島で二人力を合わせて生活する。女好きの佐藤踵も相手を見つけて伊計島に向かっていた。

「佐藤さんの生まれはまだ聞いてなかったけど、何処ねえ」

交際相手のサイタが訊いた。

「拙者は吉備国の出身だ。日本の真ん中より少し下の方の国だ」

「ずいぶん遠いとこから来たのですね」

「船で一月は掛かるかな。遠いな確かに」

伊計島に上陸した二人は前のカップル達が残した手作りの小屋が点々と散らばっていた。

「どの小屋にしょうかな」

佐藤踵は形のいい小屋を探した。

「あれがいいじゃない」

と、サイタが小屋を指差した。そこへ向かった。

「いいなこれ。台風でも持ちそうだ」

佐藤踵はその小屋に決定した。

「心得その一二人で協力して生活する事、心得その二食料は海産物等を捕る事、心得その三小屋が壊れても別の小屋の材料を使ってはならない」

無人島で暮らす心得の巻物を開いて読み上げたサイタだった。

「もう良い、心得十カ条なんか、だれも監視してないから守る奴などい無いだろう」

よく見ると他にもカップルが小屋に住み着いていた。

「なあ、他のカップルの小屋を訪ねてみようか」

「心得その五隣人と交流する事、だから行きましょう」

二人は小屋の中を改装していたカップルの小屋を尋ねた。

「入っていいですか」

「どうぞ」

と聞き覚えのある声だと佐藤踵は思った。中へ入った佐藤踵は吃驚した。

「油元火太郎ではないか」

「佐藤踵殿お主も来ておったのかそれで相手の方は」

サイタがひょこっと現れた。

「おお、これは美しい」

「始めましてサイタと申します」

「油元殿の彼女は何処です」

「魚を取りに海に行ってます」

「漁ですか、男勝りでござるなあ」

「もしかして他の3人もカップルで伊計島におるのか」

「正解、下柳禿太も総社総一郎も左官幸之助も向こうの小屋におるはず。行ってみなされ」

「これは偶然とは思えないなあ」

「サンダー先生が我々の交際相手を探してくれたのだ」

「サンダー先生が我々の愛のキューピットなのか」

「そうだ、サンダー先生は我々が屋ケ名を薩摩藩から守りそして経済を発展させた。屋ケ名民は幸せを手に入れたのに5人の侍は今だ独身で幸せではないと。恋の矢を射ったのだ」

「サンダー先生が我々の好みを知るはず無い、ただ若くて可愛い子をと勧めたのだろう。それも偶然に出会った風に仕掛けた」

「そうだったのか、気付かなかったでごあす」

「では私達は3人の侍の所へ行って挨拶でもしてきます。またお世話になると思が、宜しくお願いしますでごあす」

「そうだったのか。しかしサンダー先生は我々の好みの女を何処で探したのかのう」

伊計島と屋ケ名を挟んで宮城島、平安座島がある。空撮で観たとおり寄生虫が卵を産んだ後の様に気持ち悪く縦横等間隔に並んだ日本の石油備蓄基地がある。嘉手納基地よりここの石油基地 を撤去してもらいたい。が現在で、10昔前ここには橋も民家も無く自然が支配していた。伊計島では南国特有、色鮮で百万色の絵の具を散りばめた美しい夕陽を背景に5組のカップルが捕っ た魚を竹に刺して焼いていた。

「酒は無いが魚は美味いぞ、さあ、食おう食おう」

焚き火の前でワイワイやっていた。これが初日で何日か経過すると伊計島で過酷な生活を体験をする。ここで、5人の侍をお浚いしておきましょう。油元火太郎、佐藤踵、左官幸之助、下柳禿太、総社総一朗5人の共通点は薩摩藩の役人に拉致されて、薩摩の武士の養子として育てられた過去がある事そんな彼らをグーリーアタクー侍と呼ば れていた。油元の彼女は知念ハイビと言った。屋ケ名の機織り職人の娘で、おてんばで好奇心旺盛な娘にだった。佐藤踵の彼女は具志川ウーチと言った。ハイビと同じ機織り職人の娘でハイビとは対照的におとなしく上品な子だった。左官耿之助の彼女は平良川ビンガと言った。下柳禿太の彼女は山原ガンジュウと言った。総社総一郎の彼女は桃原バンシルウと言った。この子は不思議な力を持っていた。それは未来を予知出来る能力があると云う事だった。グーリーアタクーとは琉球語で日本語に変換すると「おじぎするト カゲ」になる。そのトカゲを発見したらよく観察してみるといい、ペコペコおじぎをするはずだ。かわいいトカゲである。ノコギリの様な歯をしているが、噛まれても洗濯バサミで挟まれたくらいで全く痛くない。餌はハエとか蚊を舌を伸ばして捕獲している。このトカゲはデリケートな生き物で箱に入れて飼ってると、ぐたーとして動かなくなる。そんな時はヨモギを与える。するとたちまち元気になって箱の中を走り回る。漂流してくたくたの5人の侍にヨモギを与えるとトカゲと同じたちまち元気になって、ペコペコ頭を下げて礼を言う所が、このトカゲに似てると看護師のカマルが言い出した事からグーリーアタクー侍と命名したのであります。1、75Km2がこの島の面積だ小山あり泉ありバナナあり結構ジャングル な所で勿論グーリーアタクーもいる、ハブもいる。そして台風もやってくる、今その台風が5人の侍の小屋に襲って来た。あっという間だった。小屋は何処か遠くへ飛んで何もない原っぱになった。

「二人ともやめなされ、喧嘩してる場合ではないぞ、新居を建てんといかんのだろう」

油元火太郎が二人の間に入った。

「喧嘩してないでしょう。これは愛のひとつさあ、幸之助は私か好きだからこうやって喧嘩みたいに見える事するんだから」

「どう見ても喧嘩に見えるけどね」

「ビンガの言う通り。仲がいいでごさるぞ、喧嘩ではない」

顔にあざを作って左官幸之助が言った。油元火太郎は左官幸之助のチラッと見てから、話題を変えた。

「今から家を建てる材料を探しに森の中に入るぞ」

「家を建てる材料をでごさるか。それは拙者にまかせてくれ」

「どうしたビンガ、何か見つけたのか?」

平良川ビンガは左官幸之助の前に出て鼻をクンクンさせた。

「何をかいでおるのだビンガ」

「ハブがいるさあ、ハブの匂いがする」

「ハブの匂い、何も匂わんぞビンガ」

ビンガは草むらをかき分けた。そこにはハブがトグロを巻いて舌を出していた。と、平良川ビンガがいった。平良川ビンガとハブの距離は50センチもなかった。その時ハブが牙を出してジャ ンプした。これで平良川ビンガはハブに噛まれて血清の無いこの島で死ぬのだろうか。スローでゆっくりのシーンで平良川ビンガに向かって行くハブの牙が、だんだん近づいてきた。5組のカップルは台風の驚異に唖然としていた。

「あんた、台風位でなに脅えてるわけ、情けないねえ男なら台風なんかに脅えていたらダメでしょう。しっかりしなさい」

と左官幸之助に平良川ビンガが喧嘩腰で怒鳴った。なんで怒鳴るかわからんけど、左官幸之助はただ謝るだけだった。左官幸之助はうるさい女だなあと怒鳴った。

「うるさい」

「なに、やるねえ、かかって来なさい」

喧嘩っ早い平良川ビンガだった。ガンガンゴンゴンボコボコ喧嘩が始まった。左官幸之助は本気で平良川ビンガを倒す気で戦った。があっさり平良川ビンガにこてんこてんにやられた。

と云う事で、5組の先頭を切って左官幸之助が伊計島のジャングルに進んだ。

「ハブがいるから気をつけろ」

うしろの方から総社総一郎が言った。

「大丈夫でごさる。ハブが現れたら捕まえて食ってやりますよ」

「まって、動かないで」

良川ビンガとハブの距離5センチの所で時間を止めて、平良川ビンガの先祖を辿ってみよう。彼女の先祖はあの空手中場の長女マジルウが嫁いだ平良川家の次女として生まれた。空手中場が 残したヌンチャクや空手武道を母親が引き続き、後に娘のビンガに教え伝えて来た。そんな彼女がハブに噛まれて死ぬはずかなかった。それは一瞬の出来事だった。後数センチでビンガの柔 肌にハブの牙が刺さる手前で、ビンガの指がハブの首根っこを掴み持っていた袋に押し込んだ。

「もう大丈夫、先に行きましょうか」

全員唖然としていた。

「何をしてるの早く行くよう」

「ビンガどの、その生きたまま袋に詰めたハブだが、どうするのじゃ」

「今晩の食事です。大事なタンパク源ですからバブ重にして差し上げますよ」

「ハブ重でござるか、おー恐ろしい料理でござろうな」

ビンガと顔のりんかくが似た下柳禿太がいった。

「下柳殿はビンガ殿と似ておるのう」

と、ビンガと下柳を見比べて佐藤踵がいった。

「失礼な奴だなあ、ジロジロみるでないぞ」

「失礼したでごあす」

「ごあす。ではない、でごさるだ」

暫くジャングルを進むと左官幸之助が探していた土を発見した。

「この土だ皆の衆、この土を海岸の原っぱに運んでレンガを作るでごさる」

「この土でレンガが作れるのか」

「これがレンガの原料だ」

「誠か、さすが左官幸之助殿でござる。我々にはただの土にしかみえない」

「さあ、二人で担架の様な運搬用の道具を使って運び出すのだ」

足場の悪いジャングルを何回も往復して海岸の原っぱにレンガを作る土が盛り上がった。海岸の砂とレンガの土を混ぜて長方形のマスにこねた土と砂を流し込み形を取った長方形のマスを取 り去ると乾く前の赤いレンガで来ていた。それを一日乾燥すると完璧なレンガが完成する。まあ、そこから一ヶ月半かなレンガの家が5軒が完成した。厠と風呂は共同で使う様な設計でその レンガの家で明らかに違う作りの家が一軒あった。総社総一郎の家だった。彼の頭の中は鋳物工場しか無く家の中にでかい釡がこしらえてあり、それが家の面積をとり大きな家に設計されて いた。はっきり言ってそれぞれのキャラクター設定で作者は悩んでおる、誰にするか?。知念ハイビは機織り機が欲しいと総社総一郎に製作を頼んだ。

「ハイビ殿はなぜそんなに機織り機が欲しいのだ」

「私は、分かったのです」

「何がでござるか」

「私は機織り依存症でございます。糸を織ってないとこの様に手が震えて」

「それは可哀想に。作って差し上げよう」

総一郎は機織り機の図面を頭の中に描いてトンカチトンカチと機織り機の製作に取り掛かった。交際相手の桃原バンシルウも手伝っていた。機織り機が完成するまで知念ハイビは伊計島のジャングルに機織りの材料となる繊維の糸を集めに出かけた。ツタの枝の弦から硬く細い糸が取れた。

「糸巻巻、糸巻巻、引いて引いてトントントン」

と、ハイビは交際相手の油元火太郎と仲良く巻き巻きしてた。

「知念ハイビ殿機織り機が完成したでござる」

と、総社総一郎と桃原バンシルウが手織り機を担いでやってきた。

「わあ、有難うございます。こんな綺麗な手織り機はじめてさあ」

佐藤踵の具志川ウーチも総社総一郎にあるものを頼んだ。

「総社総一郎さまこれを」

「これはなんでござるかな」

受け取った図面をみて質問した。

「これは、アメリカへ渡った私の祖父が持ち帰った図面でございます」

「なんの図面じゃ」

「祖父は私が洋裁の針仕事をみて私の為にと」

「私の為に?、そのつづきは」

「私のためにと、この自動針抜いマシンの図面を送って来たのでごさいます」

「これを、祖父はアメリカまで行って貿易されていたのでござるか」

「はい、間抜けな祖父でございます」

「何処が間抜けなのだ」

「この様な図面を私にはなんの役にもたちません」

「祖父は間抜けではござらん、これは実物以上に価値がござるで、ごあす。これを拙者に作れと申すのだな」

「作れとは、も押しておりません、お願い致してるのでございます」

「喜んでお受けいたそう」

徹夜続きで体力も限界に近かった総社総一郎はまさかの元気顔で受け答えた。

佐藤踵は吹き流しを海岸に立てて風をみていた。そこへ油元火太郎かやって来た。

「佐藤殿、それはなんで御座るかな?」

初めて見る吹き流しに興味を示した。

「吹き流しにでござる。こうして風の強さを知るのだ」

「風の強さで御座るか、別に肌で風の強さは分かるではないか」

「そうじゃのう、確かに地面に近い所は風向きが定まらない、前から吹いたり後ろから吹いたりする。何故じゃ佐藤踵殿説明出来るか」

「地面が風邪を作っておるのじゃ」

「地面が風を作っておると申すのか、そんな馬鹿な」

「地面が熱くなると対流で風が起きるのじゃ」

「よくわからん。吹き流しに戻るが、吹き流しは一つで良いのではないかこの数、尋常ではないぞ」

吹き流しが40以上パタパタたなびいていた。その吹き流しを縫ったのは総社総一郎が製作した自動針抜いマシン(ミシン)で縫った物だった。

もっと細かく吹き流しの事を説明すると、四十本の竹に吹き流しを括りくけ、風の取り入れ口が直径十センチの吹き流しが中央から左右に五つ五つさらに直径九センチの吹き流しが左右に五つ五つと端っこに行くほど直径が小さくなり 吹き流しの数が合計四十はある。

「全ての吹き流しを縫い合わせて一枚の布にするのだ」

「吹き流しのどの部分を縫って一枚の布にするのだ」

「風の取り入れ口横から端まで縫い合わせるのだ」

「佐藤踵殿が縫うのか」

「これは女の仕事だ。拙者の具志川ウーチに縫ってもらう縫う」

「拙者も何か手伝うてやれる事は無いか佐藤殿」

「油元殿が出来そうな事は、そうだなあ吹き流しを縫い合わせると、横幅が三十三尺になるが、その後の作業が拙者一人ではえらいのでその時お願い出来るかな」

「よかろう、いつでも呼んでくれ」

と、油元は私用で出て行った。

具志川ウーチは佐藤踵が描いた翼の形をイメージしながら縫い合わせた。

「出来ましたよ、あなた」

と、ウーチは佐藤踵に甘える様に言った。

「いま、あなた、と拙者の事を呼んだ様な気がしたが。あなた、と呼んだのか」

「はい、私達は夫婦でございますこれから"あなた"と呼んでもいいでしょう」

「照れるでは無いか」

と佐藤踵はでれでれしてると、ほの隙にウーチが接吻をした。

「ごめんなすって」

油元火太郎が入って来た。

「三十三尺の布は完成したか、様子を見に参ったでござる」

「おお、油元殿縫い終わったでござる。今から布を庭に運んで組み立てる所だった」

二人は布を広場一杯に広げた。

「これはでかい」

「ここに二百本の紐の束がある、これを布に結んで行くのじゃが」

「その紐を何処に結ぶのだ」

「風を取り入れる窓の所に紐を引っ掛ける輪があるだろう、それに通すのじゃ」

「あれ、吹き流しは尻の所が空いていたのに、これは塞がれておる、何故だ」

「ここから空気を取り入れて風船の様にふくらますのだ。それをラム圧と申すのだが、その為に尾は縫い合わせた」

「ここから空気が入ってマント全体が膨らむのか、それで膨らんでどうなるのだ」

「これを使って空を飛ぶのだ」

「佐藤踵殿、頭は大丈夫なのか、これで空を飛ぼうと思っておるのか」

「うん」

「何処でその様な事教わったのだ」

「拙者の頭で描いた。吹き流しを縫い合わせて鳥の翼の様に作れば、これで空を飛べるのでは無いかと思っただけでごさる」

「思い付きで作っておるのか」

「いやそうじゃない、ベルヌーイの定理を知っておるか」

「なんだそのベルヌーイの定理とは」

「外国の学者の学説じゃ」

「なんの学説だ」

「鳥の翼を科学的に説明した定理じゃ。鳥の翼は上面が盛り上がって下面が一直線で、上面と下面の空気の流れの違いで上昇すると説明しておる。それをこのマントに取り入れて縫ってあるのだ」

「拙者には、ちんぷんかんぷんで訳が分からないでござる」

二人は黙々と紐を取り付けていた。

「これで全ての紐が結ばれた。これをどう飛ばすのじゃ」

佐藤踵は帯で出来たハーネスを持って来た。

「これを着ろ」

「これはなんでござるか」

「全身を固定するハーネスでござる」

「全身を固定するハーネスでござるか、拙者が着けてどうなると言うのだ」

「つべこべ言わずにサッサと着けるのでござる」

「着方がわからないでござる」

「まずは股からハーネスを通すのじゃ」

「こうか」

「そうじゃ」

そうじゃ、こうじゃと複雑なハーネスを装着する油元火太郎であった。

「肩と股とお腹、五箇所の留め金締め付けて苦しいでござる。佐藤踵殿なんとかしてくれでござる」

「ハーネスを緩めればよい」

「留め金で縛ってる部分を緩めるのか、ややこしくて解らないでござる」

「世話の焼ける奴だ。こうだ」

佐藤踵は留め金のベルトを緩めた。

「これは楽になったでござる。これを着て何をするつもりでござるか」

「鈍い奴だなあ、お主があのマントを操ってそらを飛ぶのじゃ」

「拙者があのマントで空を飛ぶと申すのか、冗談は顔だけにしてくれ飛べる訳がない」

「これを固定帯の腹の両端に着いた金具に取付けるのだ」

「これはマントに繋がった帯ではないか、これをこの金具に取付けるのであるのか」

「そうだ、これでよし。お主はもう翼を手に入れたも同然だ」

「何をとぼけた事申すのだ」

油元火太郎は広げられたマントの中心に立っていた。

「そこから後ろを向くのだがその前にこの紐の束を括るのじゃ」

油元火太郎は紐の束を頭から潜らせて後ろを向いた。

「手の位置はそのままでしっかり紐の束を掴むのじゃ」

「腕は互い違いになっておるがこれで良いのか」

「又前に向き直るからそれで良い」

暫くすると海側からやや強めの風が吹いてマントに空気が入り膨らんで来た。

「良いか、今掴んでおる紐の束は翼を羽ばたく時に使う紐で一番目が前紐束と言う。その二番目は中紐束、三番目は後紐束と言う、間違っても飛んだ時引っ張ってはならない、墜落するぞ」

「佐藤殿に申す事がある」

「なんでござるか」

「お主のその口調はまるで飛んだ事がある様な言い方だ」

「飛んだ事も飛んでる所も見た事がない。頭の中で擬似体験してるだけだ」

「擬似体験でごさるか、妄想教じゃ、佐藤踵殿は」

「そうじゃ、拙者の頭の中は擬似の世界がいつも動いているでござる」

「それは多分、はるか先の未来じゃろうな。当たりであろう」

「ご名答でごさる」

「まだでござるぞ、マント全体に空気が膨らんだら真上にマントを立ち上げる。腕の力は要らん、自分の体重で持ち上げるのじゃ、よいか」

「腕の力は無し体重で持ち上げるのだな、了解したでござる」

「では拙者は支援はせんぞ、油元殿だけで立ち上げるのだ。離すぞ」

「離したらどうなる」

「支援してるこの手を離すと飛んで行くのだ、かくごはよいか」

「覚悟とはなんの事だ、そんなにやばい事なのか」

佐藤踵はマントを立ち上げて手を離した。真上で止まったマントが強風で上昇を始めた。

「佐藤殿身体か上へ上と引っばられておるぞ」

「それが飛ぶと云う事だ」

油元火太郎の足が地面から離れると後ろ向きの身体が半回転して前を向いた。

「佐藤どの、これはどっ云う事だ。拙者飛んでおるのか」「飛んでる、飛んでる。成功じゃ」

「ここから何をすればいいのだ。支持を頼むでござる」

「分かった。両端にある紐は舵取りの紐じゃそれをしっかり握れ」

「よいか、何回も云う様だかその舵取りの紐以外何処も触るで無いぞよいか」

「分かったでござる、他の紐を引くと潰れて落ちるので有ろう」

「そうだ、何が起きても舵取りの紐だけは離すな」

「了解でござる」

油元火太郎は砂浜を駆け登る海風で二十尺の高さまで高度を上げて停止していた。

「よし、先ずは右へ舵を取るぞ」

「右へでござるか」

「右の舵取りの紐をゆっくり引くのじゃ」

「ゆっくりでござるな」

油元火太郎はおどおどしく右に舵を取った。

「そうだ、今度は体重を右に掛けるのじゃ」

「こうでござるか」

油元火太郎は身体を右に傾けた。

「そうだそんな感じだ」

するとマントは左に大きく傾いて右方向に急旋回した。

「よし、元に戻すから万歳だ。万歳だ、万歳しろ聞こえるか」

油元火太郎は後方でわめきたてる佐藤踵の声に反応して万歳をした。するとマントは水平に戻り斜面を流れる様に飛行した。

「次は逆の動きで戻って来るのじゃ、聞こえるか」

油元火太郎は佐藤踵の逆の動作で戻れと叫んだ声を耳にするとその逆の動きで左旋回をして戻って来た。

「そうだその感じで同じ所を行ったり来たりするのだ。海岸から外れた所を飛ぶと海側に流され戻れなくなるぞ」

「了解したでござる、楽しいのうこのマントは癖になりそうでござる」

空を飛んでいる油元火太郎に気付いた他の侍達が海岸に集まって来た。

「何事じゃ」

「誰だあれは」

「ヤッホー皆の衆、油元火太郎でござる。ここからよく見えるぞ」

「油元殿なのか」

「凄い油元殿なのか」

海岸に集まった侍達が一斉手を振った。8の字旋回で降りる事なく長々飛んでいた。場面変わって薩摩ではライフル銃を手にした薩摩兵がライフル銃の使い方を習っていた。

「これがあれば江戸幕府を倒せるぞ、徳川の兵は未だ火縄銃だ屋ケ名を落すより江戸幕府を倒した方が薩摩の為にもよい。のお坂本殿」

「江戸では食糧が不足したからと備蓄した米俵を接収しおった」

「許せん、江戸を攻め落として見せる」

「無理は言わんとここから江戸まで何尺あると思っておるのだ」

「山陽道、近畿道、東海道を抜ければ江戸でごあす」

「全国には江戸の兵が駐留してる、その兵を倒しながら進むのだぞ、無理にきまっとるドン殿」

「坂本殿、情勢を知らないな」

「今は平和ボケした日本だ生まれてから一度も刀を抜いた事がないサビだらけの刀を差した侍だらけの幕府と聞いとおる。赤子をひねるような物だ」

「お主本気でゆうとるのか」

「本気で有るぞおいどんは。江戸の為に我が薩摩藩は働いた。もうこりごりだごわす。

「何尺ではない何里であろう」

「今頃何を申しておる」

「話は変わるがお主が申した屋ケ名の財宝だか、ある人物の話しで琉球の何処かに外国の海賊が隠したと申しておった」

「それは誠か拙者は出まかせで言っただけだが」

「お主、嘘をついたのか」

「いやいやすまぬ、大洞吹いたでござる」

「もっと財宝の事聞こうと思ったが、まあいいかでごあす」

「まあいいかではない、その財宝の事話した人物とは何者だ」

「おいどんの従兄だ」

「その財宝の事もっと詳しく聞かせてはもらえないか」

「そんなに聞きたいか」

「財宝だ誰でも聞きたがる」

「坂本殿だから話すが、こう云う事だ」

「地球の裏側の南米大陸の話しじゃが、その昔そこは大族が支配する文明があったそうだ」

「有ったそうだ、とは」

「異国の軍隊に滅ぼされた」

「それはスペインと云う国であろう」

「坂本殿、お主知っておるのか」

「ケントと云う米国人から聞いた事がある」

「お主が話していた通訳の男か」

「さよう、続きをどうぞ」

「その王族は何も抵抗せずスペイン軍に滅ぼされた」

「むごい話しじゃ」

「スペイン軍の目的は財宝だった。事前に探検隊を送り大族の財宝を知った。その財宝の量が尋常ではなかった」

「どの位あった。このくらいか」

坂本は水を救う様に両手を合わせた。

「小判に換算すと日本の全ての小判をかき集めても足りないくらいの量だ」

「なにー、ドン殿冗談は顔だけにしとおけ」

「拙者が申したのではない、従兄が申したのだ」

「従兄の事が嫌いか、ドン殿」

「半分はな、がだ。従兄は拙者を信頼しておる、何でも話す。嘘はないはずでごわす」

「それで、そのスペイン軍は財宝をどうしたのだ。兵同士で分け合ったのか」

「まさか、本国に持ち帰るつもりでいた」

「持ち帰るつもりでいた、とは海賊に強奪された」

「ご名答、大西洋が縄張りの海賊が小舟で軍艦に忍び込み刀で一人一人殺害した」

「日本の忍者か?」

「忍者ではない、海賊とも押しておるであろう」

「そうであった。忍者が出てくる場面ではなかった」

「護衛艦に忍び込んだ海賊は船底に爆弾を仕掛け、全護衛艦を爆破沈没させた。財宝を積んだ運搬船だけになると何処からか海賊船が現れて、今度は海賊船が、運搬船を誘導した」

「大西洋を縄張りの海賊だが、スペイン海軍に目を付けられたらお仕舞いと、パナマ運河を渡って大平洋に逃げ込んだ。その後、時間差でスペイン海軍が追ってきた」

「ひとつ疑問が湧いてきた。聞いて良いか」「なんだ坂本殿」

「財宝の事を話した、お主の従兄だが、作り話ではないのか」

「話してなかったかな?従兄はスペインに渡って、スペイン海軍の視察に出掛けておる、そこの海軍将校が経験した事をそのまま引用して手紙を送って来たのだ」

「海軍将校が何故お主の従兄に財宝をの事を話したのだ」

「あの後、海賊はスペイン海軍から逃れて大平洋を漂流した」

「漂流して行き着いたのが琉球王国だった。ってことか?」

「その通りだ、海軍将校の話しではスペイン政府は強奪さた財宝を求めて琉球王国へ向かっていると書いてある」

「その海軍将校は今何処に」

「財宝を強奪された責任を取らされて謹慎中となって惨めな暮らしをしてると云う」

「財産を全て没収された海軍将校は、スペインでは暮らせないと家族で海外逃亡を計り、従兄が日本人たとわかると、スペイン海軍が琉球に到着する前に、財宝を探し出して欲しいと頼まれたのだそうだ」

「それで、どうするのだ。お主は江戸を攻め落とすのか、財宝を探しに琉球を攻めるか」

「殿、自動連発銃の試し撃ちの準備が整いました」

鉄砲隊の内内幕隊長が襖の向こうで促した。

「坂本殿も来るが良い」

「何が始まるのだ」

ドン大将と坂本は広い庭に出た。

「これは西瓜でござるか、西瓜に鉄兜を被せて何が始まるのだ。西瓜が百個以上はあるぞ、しかも人の形をしておる」

「実弾一発で何処まで貫通するか実験するのだ」

「鉄兜を被った西瓜をか、2、3個であろう」

「驚くでないぞ、よく見ておくがいい」

ドン大将はよしの合図をだした。

「よーし弾を込めーい」

狙撃者が実弾一発を連発銃に装填した。

「よーし討てーい」

ズドーン鈍い音が屋敷に響いた。実弾は鉄兜で保護された西瓜を百個全て貫通した。

「これは凄い何処の銃だ」

「坂本殿が仕入れた銃だ性能くらい確認してこなかったのか」

「いえいえ何も、びっくりでござる、このような恐ろしい武器を持ち込んだのか拙者は」

「これで幕府を倒せるでごあす」

「これで幕府を?」

「幕府の攻撃の形を知っておるか坂本殿」

「幕府の攻撃の形とは将棋で云う穴熊とか櫓とか言う、戦の戦法か」

「そうだ、幕府の戦法は何処の藩も同じ一気乱れず横列に並んで前進する攻撃の形じゃ、徳川はその戦法はで豊臣を滅ぼした。その伝統を引き継いで現在も同じ戦法で戦うはず」

「この武器があれば十万国の兵も一人で倒せる」

「ドン大将殿、確かかここ」

坂本は頭を指差していった。

「拙者の事をアホと申すのか」

「ドン大将はアホでござる。江戸幕府を倒すなど不可能でござる」

「死を覚悟で攻め落とす」

「江戸に攻め込むまで何百と戦を繰り返して行くのだぞ」

「わしのようなアホが一人でもおらんと日本は変わらないでごわす」

「それで、拙者もドン殿の加勢をするのか?」

「坂本殿は琉球王国を、屋ケ名を攻め占領する事でごあす。あの近くの無人島に海賊が財宝を埋めた言う事らしい、従兄の話しでは」

「拙者は戦の経験がない、無理でやんす」

「我輩の部下がお主を援助するから大丈夫でごわす」

と言う事でドン大将は江戸幕府を倒す為10万の騎馬隊を引き群れて長州藩に上陸した。坂本は屋ケ名を攻め落とす為の戦艦30隻を進攻させた。

「坂本殿その服はなんでござるか?」

「アメリカのテーラー鈴木で仕立てたスーツだ」

本はテンガロンハットにカーボーイ靴でかっこ良く決めていた。

「かっこいいでごわす。拙者も作ってもらえないかなあ、そのテーラー鈴木とやらに」

「アメリカへ渡れば作れる」

「さょうか、では、拙者もこの戦が終わればアメリカへ渡って仕立ててもらうでござる」

と、ドン大将の部下。

「艦隊は今どの辺りを航海しておるのだ、ドン大将の部下どの」

「杉本隊長と呼んでくだされ」

「杉本隊長でござるな、失礼つかました」

「今は、奄美大島に向かっている所でございます」

「奄美大島かいい所であろうな、そこで休憩を取らんか」

「坂本殿が指揮官で御座います。お好きに」

「全艦奄美に停泊する。でよろしいかな」

「了解であります」

杉本隊長は敬礼をした。軍艦は奄美港に入港した。

「皆の衆下船じゃ、ここで休憩を取るぞ」

宴会好きな坂本は海鮮料理にうつつだった。大広間に豪華な料理と酒が用意されていた。その夜はドンチャン騒ぎて祭りの様だった。そのころ伊計島では五人の侍達がマントの制作に夢中になっていた。知念ハイビが織った布地を具志川ウーチが裁断してマントに縫い合わせた。それに二百本の紐を結び繋ぎ合わせて、マントを完成させた。完成したマントは油元火太郎が一機一機飛行して機能を確認していた。完成したマントは佐藤踵の家屋内に袋に詰めにして保管されていた。後々、展開する物語にこのマントが使われる期待していただきたい。もう一つ総社総一郎がある機械の図面から起こした動力物があった。それは自動車に使う原動機で原寸の四分の一の寸法で組立てた小型エンジンだった。

「これはなんだ」

油元火太郎が総社総一郎が作ったエンジンを覗いて言った。

「これはエンジンと云う物だ」

「エンジンでござるか」

「仕組みはこうだ。この筒のことをシリンダーと言う」

「中に丸い穴が空いておる。これがシリンダーと申すのか」

「そうだ、この穴にピストンをはめ込む」

「そのピストンに取り付けた金属の棒がコンロットだ」

「なんとなくだが分かるでござる」

「そのコンロットの先にプロペラシャフトがある。ピストンが上下に動くとコンロットがプロペラシャフトに伝えて回転する仕組みになっておる」

「で、動くのかな?」

「燃料がない」

「燃料とは?」

「気化性の油で動くのじゃがそれが無い」

「気化性の油とは何だ」

「図面の説明書に石油と載っておる。その石油は地面深く掘れば発掘出来ると載っておるが、頼めるかな」

「拙者がその石油とやらを掘れと申すのか」

「お主のその鼻で石油の匂いを嗅ぎ分けて発掘出来ると思うが」

「素手で掘って石油とやらを発掘するのでござるか」

「まさか、これを使ってくれ」

「何だこれは」

「掘削機だこれで、石油を発掘してもらえればいい」

手動式の回転ベルトでパイプを回転させて地層深く掘り進め石油を掘り当てる掘削機だった。

「分かりました。やってみるでごあす」

長州藩へ上陸した10万の騎馬隊を引き連れたドン大将を高杉の招きで山口城に招待した。

「ドン大将殿に先をこされた。拙者も江戸幕府を倒す作戦を立てた事があるが、多勢に無勢負け戦に我が兵を投入は出来んと思って、こうしておとなしく幕府の指示にしたがっておるのだが」

「それが正解でござる。幕府と戦をすれば周りの藩が攻めてお仕舞いでござるからな」

「拙者は1番それが心配じゃ、周りの藩が空きあれば攻める構えでおる。これは幕府が裏で操っておるのであろう」

「吾輩もそれを感じておる。許せん幕府の犬ども」

「戦で藩を減らすつもりなのだろう」

長州藩を後に広島藩に向かう途中幕府の使者がドン大将に書状を受け渡した。その内容は此より先には進めない薩摩に戻れとあった。

「こんなもので吾輩が引き下がると思っておるのか」

書状を破り捨てて前進をつづけた。それを、高台から観ていた広島藩の兵50万は戦闘体制にはいった。

「着おった。連射銃隊左右に別れ移動しろ」

広島藩の兵は徳川式横一列戦法で攻めて来た。

「間抜けども吾輩の兵の恐ろしさを見せてやるばい」

それは一瞬だった。連射銃が火を吹いた数分後五十万の兵は全滅した。

「何があったのだ。我が兵はどうなった」

「殿、逃げましょう」

「坂本殿、坂本殿もう朝でござる。起きてください」

飲みすぎて寝込んでいた坂本だった。

「分かった、分かった。今起きる」

と、褌一丁の坂本は消えた背広に気付き周りを探した。

「拙者のスーツは何処だ」

「ここです」

隊長が腕に持っていた。

「かせ」

「駄目です。お風呂から先です」

「何い、お主拙者の女房か」

「その汚い体で戦艦の司令室に来られると困るので」

「何故じゃ」

「私の上官が戦艦に乗船する事になっておるからであります」

「お主の上官?」

「はい、私に変わって彼女が坂本殿の相棒でございます」

「彼女、とは女か」

「はい、だから汚いと嫌われます」

「綺麗か?」

「えっ、誰がです」

「その、お主の上官だ。綺麗か」

「はい、綺麗好きな美しい方でございます。坂本殿」

「そうか、じゃあ風呂に入って拙者も綺麗にするか」

坂本は風呂に入り、鈴木テーラーで仕立てたスーツを着込んだ。

「どうだ、かっこいいか」

「かっこいいです。イチコロです」

「何がだ」

「相棒となる美しい上官がです」

「拙者はその女の事を意識して聴いていると思っておるのか」

「はい」

「ばれたか」

坂本が戦艦に乗船して司令室に入ると、もうそこには女性指揮官が坂本を待っていた。40代半ばの今で云う宝塚歌劇団の女優の様な美しい方であった。

「坂本殿、奄美大島で何したのです」

「はい、あのまだ御紹介を受けてないのでありますが、そなたの名は」

「そうでした。私が屋ケ名上陸の指揮する事になったドン貴子と申します」

「ドン貴子指揮官、ドン大将の娘さんではないか」

「お父さんことは口にしないでください」

「はい、失礼しました。ドン指揮官どの」

「今日からは私がこの戦艦を指揮しますので坂本殿は黙ってて貰えますか」

「杉本隊長は拙者に作戦の指揮管に就任したと申しておったはずじゃが」

「それは私が解任を致します」

「なぜでござるか」

「この先の島々で毎回下船されて、どんちゃん騒ぎされたら戦になにりませんから」

「私は真剣ですぞ」

「黙らっしゃい。昨夜のドンチャン騒ぎて二日酔の兵では戦になりませぬぞ。琉球を甘く観てはならぬ、財宝の事忘れるで無い」

「ドン貴子殿、財宝の事は内密にお願い致す」

「そうでありました。父上から他言するなと強く釘を刺された事でありました」

その頃伊計島では油元火太郎が奇跡の石油発掘に成功した。

「黒い水が地面から吹き出して来たでござる」

掘削機で五十尺掘った所だった。

「バルブとやらをはめねば」

油元は油塗れになりながらパイプにバルブの蓋をねじ込んだ。そして石油を必要な量だけバケツに汲んで蓋をして数時間置放置すると汚れが沈殿して透明な液体になる、これがガソリンだった。その燃料をエンジンに給油して動くか確かめていた。油元は水と洗剤を混ぜ容器に入れて持ってきた。

「これでよいか」

「ありがとう、それでよい」

総一郎は溶液をエンジンに垂らしてもう一度エンジンを掛た。すると、シリンダーの所から泡が湧き出した。

「やっぱりでござる。ここから空気が漏れておる」

泡がブクブク吹き出していた。

「部品と部品を合わせたわずかな隙間から空気が漏れてエンジンが動かんのだ」

「空気が漏れる所に、ネバネバしたゴムと云う木の樹液を塗ったらどうじゃろうか」

「ゴム?、そう云う木が有るのか」

「ほれ、ここに生えておる、これがゴムの木でござる」

と、云う事でゴムの木の樹液をシリンダー加工面に塗って、エンジンを掛けると始動した。

「動いたでござる。これを何に使うのじゃ」

「これで遠くまで飛ぶのじゃ」

そこへ、佐藤踵がプロペラを持って来てそのエンジンに取り付けた。

「油元殿これを背負ってみてもらえないか」

エンジンを固定した帯びに両肩を通してそれを背負って立ち上がった。

「そうだ、これを持って」

佐藤踵はエンジンから伸びた吊り革の様な物を油元に渡した。

「これはアクセルと云う物だ。これを強く握ると回転が速くなり、弱く握ると回転が遅くなる」

その頃ドン大将は大阪藩に攻める構えでいた。百万石の大阪藩には幕府の役人が薩摩藩に対して出陣を出しても、誰一人従う物はなかった。

「拙者の命令が聞け無い者は切腹だぞ、出陣せい」

「わしらなぁ、幕府の事なんかもう、何も聞かへん、あんたが切腹しなはれ」

「薩摩藩に尻尾まいて逃げる幕府やったんや、今まで幕府を恐れていた事がアホみたいや、皆の衆腰抜け幕府を吊るし上げるんや」

と、云う事で、薩摩藩は大阪藩に守られながら名古屋を目指した。その途中大津の温泉宿で長旅で疲れきった体を十万の兵は一晩ここで休む事にした。大津温泉宿周辺で野営する薩摩兵は順に温泉に浸かり、焚き火で炊き出しの飯を食っておった。一部の幹部は大広間を借りて大阪藩の大将の接待を受けていた。

「ドン大将殿、われわれ大阪藩はここまでしか護衛できまへんが、ここから先幕府は忍者隊を送り寝込みを襲ってくるとも限らない。そこで我が大阪藩の忍者隊をドン大将殿の周りに配置して、手助けをと思っておるんやけど宜しいでしょうか」

「それは誠でごわすか、是非ともお願い致しますでごわす」

「江戸幕府を倒す事祈っておるさかい、頑張っておくんなさい」

「ありがたき幸せでごわす」

その夜、大阪忍者隊は幕府忍者隊を警戒して猿のごとく高い所から監視をつづけていた。翌朝何事もなかったかの様に兵達は起き出した。

「よく寝たでごわす。昨夜の温泉が効いたのか気持いいぞな」

殆どの兵達がそんな感じだったのは、全て大阪忍者隊のおかげだった。周辺の木々の天辺には大阪忍者隊が仕留めた幕府忍者隊の死体が何体も吊るされていた。それに気付く薩摩兵は一人もいなかった。

「この先に行く手をさえぎる天竜川がございます。これを使ってください」

宿の番頭が渡し船を提供してくれた。

「これは、これは、かたじけない」

「ドン大将はん、幕府を倒せば高い年貢も安くなりはるのですか?」

「幕府を倒せば年貢と云う物は廃止するでごわす」

「ほんまでっか、ほならあるったけの渡し船使うてください」

と、云う事で名古屋藩の目を盗んで薩摩隊は天竜川を渡り切った。

「殿、薩摩藩の部隊が天竜川を」

「なにい、天竜川は渡れんようしちょったにゃぁか、何で渡らせたんや、出陣じゃ、食い止めんにゃぁいかん、幕府のお偉がたに怒られるにゃぁか、出陣、出陣、しにゃぁせい」

今頃気付いた名古屋藩は四十万の兵を投入して天竜川河川へ向かった。

「ドン殿名古屋藩の騎馬隊か向かってます」

見渡す限りの草原に薩摩軍は名古屋藩の攻撃にそなえた。はるか遠の丘に黒い固まりが現れ、こちらの様子を伺っていた。

「あれだーにゃ、薩摩軍はえれー少ねえにょう」

「殿、ここで野営地を築いて合戦に備えましょう」

「そうするだにゃ」

その頃坂本指揮官のいや、貴子指揮官の艦隊は。与論島の近くを航海していた。生まれて初めて観る珊瑚礁に貴子指揮官は少女の様にはしゃいだ、こんな風に。

「わあーこんな綺麗な海始めてでごんす。ここで戦するアホがおるのでありましょうか」

「貴子指揮官殿、なにはしゃいでおるのでござるか、貴方が戦をするんです」

「これは私ごときが失礼つかました。坂本殿は南海の海は始めてか」

「はい、始めてであるぜよ」

「私も始めてでごわす。この世にこの様な美しい所が有るとは夢にも思うてなかったです」

「南海行けばだいたいこんな景色ぜよ」

「坂本殿は太平洋を渡った経験から興味ないのだろうな」

「半年は太平洋の海原で飽きるほど過ごした。もう二度と船には乗るまいと決めておったが、又こうして、今度はじゃじゃ馬と一緒に船に乗ってしもうたぜよ」

「じゃじゃ馬ですか、私は」

「いや、じゃじゃ馬とは杉本隊長の事であるぜよ」

側で聴いていた杉本がわしの事か、と疑問に思った。

「アメリカのユタ州であるが、どの様な所だったか教えてはもらえないか、私も一度は行ってみたいとおもっておるのであるが」

「岩と砂だけぜよ」

「何か不思議な物はなかったのか」

「一つだけあってぜよ」

「どんな物だ」

「岩が橋の様に空を跨いでおったぜよ」

「自然の岩でござるか?」

「デリケートアーチと申してなぁ、正に芸術であった。貴子殿も一度は行ってみらればよいぜよ」

「神秘的な所でしょうなぁ、見てみたいでございまする」

「拙者と行きましょう。案内してあげますぜょ」

「それは誠でございますか」

「貴子殿の様な美しいお方となら喜んで」

「あらま、それが目的で御座りまするか」

「そのじゃじゃ馬なところが無ければ、申し分ないのでござりますがな」

「また、じゃじゃ馬と申したな。この褌坂本が」

「褌坂本だあ、なにゆえその様な事申すのじゃ」

「奄美大島の宿で其方一人褌一丁で寝ておったからじゃ」

「見たのか」

その時、貴子指揮官の瞳から涙か止めどなくながれた。

「どうされた。拙者の褌一丁の寝姿を思い出して、涙されとるとですか」

「何をバカな事を、父上の事でごさりまする」「そうであった。其方の父上、ドン大将殿は今、愛知藩と戦っておる所でごわすな、あれからどうったか?」

「モールス信号とやらを送る装置が、大阪藩、愛知藩、江戸と三箇所に設置されておって、合戦で勝利すればその信号がこの船には届くはずで御座るが、まだなんの信号も」

「琉球の財宝よりドン大将殿の事で頭が一杯で涙されたのですな、同情するぜよ」

「しかし、私も武士の娘財宝を」

「屋ケ名を攻めて財宝を我が手に、よーそろー、よーそろー」

坂本は舳先に立って叫んだ。その頃屋ケ名では5人の侍達が伊計島からもどり、屋ケ名の風習に従い伊計島で仲良く暮した縁で夫婦と認め同時結婚式を上げた。そして屋ケ名にはすで赤瓦の家が5人の侍の新居として建ててあった。屋ケ名民はカチャーシーと泡盛で五組の夫婦を夜中じゅう祝い世を明かした。のは屋ケ名民で5人の侍達は早寝して、それぞれの新居で朝を迎えた。

「もうお出かけですか?」

具志川ウーチが言った。

「薩摩が琉球を攻める前に、やる事がある」

佐藤踵は立て看板を担いでコザへ向かった。

コザの市場には、食料品や衣類等を売り込みに北谷、瑞慶覧、嘉手納、桃原、諸見里、山内、山里、北谷の村々から沢山の行商人が店舗の準備をしていた。佐藤踵は「飛び人募集中、屋ケ名の仕事です。仕事の無い暇な人、屋ケ名で仕事がまってるよー。受付担当佐藤踵の連絡先はここやさ」と書かれた看板を市場の入り口辺に立てかけた。それをフーミンお婆が腰を曲げ看板に近づいて読んでいた。

「これはわったーマサオに教えないといけないさあ」

フーミンお婆はフウチバーを売り切ると急いで自宅に戻った。

「マサオ、マサオはいるね~」

「何お婆」

暇そうなマサオが熊見たいな髭面で現れた。

「また博打して来たでしょう」

「してないさあ」

「これはなんねえ」

博打の賭けに使う紙が転がっていた。

「知らないさあ、誰か他の人が落として行ったんでしょう」

「借金までして、このバクチャーが」

「あんた分かるねえ~博打の借金で一家こど清国に売り飛ばされて地獄をみたって家族が居るって事」

「大丈夫さあ、博打で借金返すから」

「馬鹿たれが、博打で作った借金を博打で返せる訳無いでしょう。あんたは病氣さあ、博打病、治さないと私まで巻き添えくってしまうから」

「仕事はすぐ見つけるから心配しないで」

「家にゴロゴロしてて仕事見つかる訳ないさあ、あんた屋ケ名行きなさい」

「屋ケ名、何しに行く訳ねえ」

「仕事しにに決まってるさあ」

「あんなど田舎に仕事あるねえ」

「あんたは何も知らないねえ、博打場が無いバクチャーがい無い村さあ」

「琉球国で博打場がない所と言えば屋ケ名しかないし、マサオがそこで働けば博打病も治って普通の人間に戻れるよ」

「うん分かったお婆の言う通りに屋ケ名行って来る」

「行ったら帰って来なくていいよ、コザは博打天国だから、博打病治ってもまた博打するから、屋ケ名に永住して」

「じゃあねえ、お婆、屋ケ名いって働いてくるから」

「マサオチョット待ちなさい」

「なんねえお婆」

「そのヒゲ剃りなさい」

「そうだね、髭面だと雇い主に嫌われて帰れって言われるね」

「お婆が剃ってあげるからこっち来なさい」

お婆は慣れた手付きマサオのヒゲを剃り落とした。

「アギジャビヨー、ヒゲで人相分からなかったけど、ちゅら青年さあ。今だったら顔だけで雇ってくれるさあ」

「本当ねえお婆」

「本当さあ、ちゅら青年さあ」

まじで、マサオは日本一美男子と言っても過言ではなかった。

「じゃあねえ、屋ケ名いくから」

と、マサオは屋ケ名へ向かった。屋ケ名の会場に集まった琉球の青年達は簡単な健康診断を受けて元気であれば採用された。そして、採用された青年達にマントとエンジンを支給して飛ぶ練習をはじめた。気が付くと屋ケ名の空は白いマントで埋め尽くされていた。油元火太郎は火薬を詰めた投下爆弾を製作していた。薩摩藩と愛知藩両軍のにらみ合いが続く天竜川河川では、三日目に入り動きがなかった。

「薩摩藩が攻め込んで来るまで我が藩はここで野営ですか、殿」

「薩摩藩の食料が尽きた頃攻撃だぁにゃ」

「薩摩藩は大阪藩の援助を受けて食料は十分あると思われますが」

「そうだにゃ、待ってもにゃ」

「それでは、攻撃を仕掛けますか殿」

「好きな様に攻撃せい、薩摩藩のドン大将を倒せんしゃい」

「はは、承知致したでござる」

と、与儀元大将は騎馬隊を横一列に整列させて、一糸乱れず家康戦法で前進を始めた。

「ドン殿、愛知軍の騎馬隊が前進して来ました。家康戦法で」

愛知藩の騎馬隊、鼓笛隊、攻撃陣と一糸乱れず行進が続いた。薩摩軍との距離が33尺で一斉に全速力で駆け抜ける戦術とドン大将はいつもの事と幕府を馬鹿にした。

「この戦我輩の物でごわす」

側面の連射式銃が「ドドドドンパ」と火を吹いた。一発の銃弾が何百の愛知兵の命をうばった。

愛知藩の兵が一瞬で三分の一に減らされてた。それでも残った騎馬隊と歩兵はライフル銃を構えた薩摩兵に向かって突進して来た。

「撃て撃て撃て」

薩摩藩のライフル銃が雀蜂の如く愛知兵に銃弾が食い込んだ。わずか三十三尺の距離で愛知藩の騎馬隊、歩兵は全滅した。

「にゃんたる失態」

「突撃、突撃」

薩摩藩兵はライフル銃を撃ちながら愛知藩陣地に突撃をかけた。迎え撃つ兵を減らされた愛知軍は。

「殿、まだ我が藩には兵が後方で待機致しております。兵の投入を」

「みたであろう、負け戦だこれ以上の犠牲は我が藩の崩壊に繋がるにゃ」

と、愛知藩は天竜川河川から引き上げた。

「貴子司令官、ドン大将殿からモールス信号が」

「なに、誠か」

貴子は早足て無線室に駆け込んだ。鉄で出来たヘッドフォンをした無線担当がモールス信号を文字に書き換えていた。

「なんと、送って来た。はよう申せ」

「貴子殿、静かにモールス信号が聴き取れません」

モールス信号の音を性能の悪いヘッドホンで全神経を鼓膜に集中して聴いていた。

「薩摩藩は幕府に捕らわれた。と打って来ました」

「これだけなのか、他には信号は来ないのか」

「それが全てです。今も何も聞こえません」

「これは父上は死んだと言う事か」

「わかりません、捕虜になったのかも」

「全艦隊、引き返すのだ」

「今なんと申された?」

「父上を助けに愛知へ舵を取るのだ杉本」

「貴子殿何を血迷った事を申すのじゃ」

杉本隊長が繋がった眉毛を釣り上げて言った。

「父上を助けに戻ると申しておるのじゃ」

「貴子殿の父上より財宝が先であろう」

「私に逆らう気が杉本」

「ああ、逆らうとも、こうやってな」

杉本は貴子の顔面に拳をお見舞いした。床に倒れた貴子を杉本の部下に抑え込まれ動けなかった。

「この様な事をしたら切腹でござるぞ」

「うるさい、縛り上げて物置に放りこんでおけ」

と、貴子姫は物置に監禁された。そこには先客がいた。

「可哀想に綺麗なお顔が台無しぜよ」

そこに居たのは両手を後ろ手に縛られた坂本だった。

「坂本殿、ここで何を」

「同じ穴の狢、貴子殿と同類と思っておるのだ杉本は、拙者も後ろから鈍器で殴られた」

「坂本ここから逃げる手はないのか」

「無理だおとなしくしてた方がいいぜよ」

貴子は涙を流していた。

「どうされた」

「父上がとうとう幕府に、覚悟は致しておったのですが、涙か止まりませぬ」

「ドン大将殿が幕府に、とは全滅したと言う事か」

「捕らわれたとしか連絡が、生死は分かりませぬ」

「で、其方は杉本に何を」

「艦隊を北へ針路を取る様と申すと、財宝が先と、私の顔殴ったのです」

「杉本の奴、財宝を独占する気だ。おっ、船が速度を落としたぜよ」

「屋ケ名に着いたのです。きっと」

三十隻の艦隊は屋ケ名に到着してイカリを降ろし大砲を屋ケ名に向けた。

「撃て撃て撃て」

杉本隊長の号令で一斉に艦砲射撃が始まった。

「砲弾が飛んでくる、みんな伏せろ」

要塞の狙撃窓にいた屋ケ名兵が叫んだ。艦砲射撃は要塞が完全に破壊されるまで続けられた。

「上陸船で屋ケ名上陸だ、船に乗り移れ~」

ライフル銃を肩に掛た薩摩兵が続々と屋ケ名の海岸に上陸して来た。屋ケ名兵は艦砲射撃の嵐で薩摩兵の上陸を阻止する事ができなかった。完全に破壊された要塞の壁に薩摩兵が突撃をかけた。艦砲射撃が止んだ後の要塞の壁は完全に破壊されていた。薩摩兵は壊れた要塞の間から中へ侵入した。薩摩兵が一人殺られ屋ケ名兵が一人互の兵が減りながら薩摩が屋ケ名を占領して行った。その時だった上空を無数の飛行物体が空を覆った。

「何だあれは、みんなあれ見てみろ」

「うるさいぞおまえ、敵は正面だ空から来る訳ない、上を見るな前を見て攻撃するでごわす」

「でも、あれは」

と、その時黒くまるい物体が雨の様に降って来た。それは油元火太郎が造った投下爆弾だった。その威力は凄まじい物だった。薩摩兵は爆風で吹き飛ばされ全滅した。第一班が全滅し続いて第二班も空爆で全滅した。もう残されたのは第三班のみとなった。

「なんじゃあれは、見たことない。空から攻撃出来る物などこの世にあったのか」

「隊長、どうします。引き上げますか」

「馬鹿者、薩摩に戻れば我輩は切腹じや、突撃、突撃、突撃、我輩に続け」

杉本隊長の最後の兵も空爆で全滅した。屋ケ名の白浜海岸は血に染めた遺体が転がり地獄絵となった。やった勝ったと勝利を喜ぶ屋ケ名兵は一人もいなかった。ただ怪我をして助けにを求める薩摩兵に手を差し伸べ肩をかして屋ケ名病院に運んでいた。無人となった薩摩の軍艦に屋ケ名兵が乗船して船内を探索した。船内に監禁されていた貴子と坂本が発見されて五人の侍の所へ連れていかれた。

「ここで待っててください」

屋ケ名兵は二人を煉瓦の家屋に閉じ込めて侍達を呼びに行った。しばらくして総社総一郎が入って来た。

「坂本殿と貴子殿薩摩の英雄が何故船に監禁されていたのですか」

「杉本と言う男の暴動です。わしと貴子殿を殴って監禁した」

「監禁した。なぜです」

「引き返そうとしたからです」

「薩摩にか?」

「そうです。ドン大将と薩摩兵が静岡藩で幕府に敗れたとモールス信号で連絡が入った。それで薩摩に戻り装備を仕切り直して静岡へ向かうつもりでいました」

「父上をたすけにですか」

「はい、父上の事が心配でなりませぬ」

そこへ4人の侍が入って来た。その中の一人が驚きの顔を作った。

「おーこれは懐かしい坂本殿ではいか、お主が何故ここにおるのだ」

「誰かと思えば下柳禿太ではないかお主こそ、何故ここに」

「拙者は、薩摩に追われておって、ここへ逃げたのだ」

「五人の侍の一人だったのか」

「そうだ、薩摩では拙者の首に賞金が掛かっておるそうではないか。坂本殿は知らないのか」

「興味ない事だから、知らなかったぜよ」

「お主は土佐藩の出身だからしかたない事でもあるな」

「ちょっと間を割ってすまぬが二人の関係は?」

「京都長岡天神で仏の修行で同期だった坂本殿でござる」

「そうだったんですか。分かった。その話は暫く待ってもらえないか」

「なぜでござるか?もっと話したいでござる」

下柳禿太は不満そうなかおをしていた。

「今は不信尋問してるところだ」

「不信尋問とは」

「船内の物置に監禁されてこの戦いには関係ないと申しておるが、自作自演で薩摩軍を指揮した者はこの二人かも知れないと言う事だ」

「しかたない、拙者は隅っこの方で見るでござる。疑いが晴れる事を願ってな」

下柳禿太は隅の土間にあぐらを組んで座った。

「話を戻そう、杉本隊長が暴動を起こし監禁された所までは分かった。その暴動が起きる前は薩摩軍の指揮官だったのであろう」

「はい」

「屋ケ名沖までか」

「はい」

「これはもう逃れ様が無い。同罪でごさるな」

「琉球ではハブ地獄行きだな」

「なんだそのハブ地獄とは」

坂本が叫んだ。

「毒蛇が何万匹もおる穴に突き落とし、ハブに噛まれ毒で苦しみのたうちまわるハブ地獄刑だ」

「ハブ地獄とは、地獄の方がもっとましぜよ、ドン大将殿が危ないのじゃ解放してくれ」

「ドン大将殿が捕らわれたからと同情すると思うな」

「わかった。取引するぜよ」

「なんの取引でござる」

「財宝だ、財宝がある、この琉球の何処かに、それを教える」

「財宝か、この琉球にか珊瑚礁という財宝が周りじゅうにある」

「それは金になんだろう、金銀宝石、金に換算して百億両はある」

「馬鹿でもわかるホラを吹くでない、そんな財宝など訊いた事もない」

「本当だったらどうする」

「別に気にもせん、財宝より幸福が大事だ」

「でももし、その財宝のせいで幸福が失われたらどうするぜよ」

「どう言う意味でござるか」

「幕府もその財宝を求めて琉球を攻めてくるかもしれんぜよ」

「薩摩が攻めて来たではないか、薩摩も幕府のまわし者ではないのか」

「我々はドン大将殿の傘下、幕府とは関係ない」

「杉本と言う奴は、幕府の犬ではないのか」

「ただの裏切り者ぜよ」

「財宝の事に戻るが、琉球の何処にに有ると云うのだ」

「それは、ドン大将殿を救出してからだ」

「それが条件か」

「そうだ」

「断ると言ったら」

「琉球は滅びる、どうする5人の侍達」

「ドン大将殿はもう処刑されてこの世におらんのでは」

左官幸之助がいった。

「いや、一か月後ドン大将殿と薩摩兵は公開処刑されると、監禁されてる時に通信が入った」

「江戸までの航海は一ヶ月は掛かるむりでござるな。あきらめろ」

「いやまて、これがあれば一週間で江戸まで行けるぞ」

総社総一郎が言った。これ、とは巨大なディーゼルエンジンを装備した船だった。場所変わって江戸では、瓦版と講談が流行っていた。現在のニュース番組みたいなもので講談師の芝居小屋には連日連夜行列ができていた。

「さてさてお立ち会い、薩摩藩が山陽道、近畿道、東海道と北上、天竜川河川での名古屋藩との合戦で勝利した薩摩藩は江戸へ江戸へと前進致したのであります。そして静岡藩との合戦で幕府の一万の大砲と百万の兵に阻まれた薩摩軍は兵力の八割を失い、将軍の「ドン大将は生け捕りにしろ」との命令でドン大将と数百の兵は生け捕りにされたのであります。さて、ドン大将は銃殺刑と確定、見せしめにと全国の大名に招集をかけ公開処刑となった。刑の執行は一カ月後に実行されるのでありました」

「何処の処刑場だ、教えろ」

観衆が聞き返した。

「これは申し訳ございませぬ。江戸伝馬場処刑場でござります。これを持ちまして終了とさせて頂きます」

講談師は深深と頭を下げた。屋ケ名港を出航したディーゼルエンジン搭載の巨大な船は屋ケ名空軍パイロットそし屋ケ名兵が乗船していた。ディーゼルエンジンのおかげであっと言う間に黒潮に乗って船は相模湾に到着した。相模湾沖て碇を降ろし坂本、貴子、総一郎、火太郎、マサオが上陸船に乗り込み茅ヶ崎海岸に向った。日も沈み暗闇の相模湾から見える三浦半島の向こうに富士山が夕陽を背景に居座っていた。幕府の監視に引っかかる事なく上陸船はゆっくりと茅ヶ崎海岸に上陸した。その海岸はサラサラした砂で左右に何十里も続いていた。

「これは凄い海岸でごわすなあ」

と、総一郎が呟いた。

「この陸の向こうに武家屋敷跡の牧場があるはず。そこには馬が放牧しておる、それを頂こう」

「坂本殿は鎌倉の事、詳しいのか」

貴子が言った。

「若い頃そこの牧場で乗馬の訓練を受けた事がある」

「それは誠か、坂本殿は水戸黄門の様な旅人、いや世界を股に掛けた日本の英雄でござりまする」

坂本等は上陸船を防風林の茂みに隠し牧草地に向った。遠くの方で馬が「ヒーヒー」鳴くのが聞こえた。それは放牧された馬ではなく野生馬だった。坂本は野生馬を見てユタ州の事を思い出した。カウボーイが暴れ馬に跨がり振り落とされない様に乗りこなす場面を、坂本はそれに挑戦した。

坂本は野生馬の群れにそっと近づき投げ縄を取り出した。そして一頭の白馬を狙って縄を投げた。投げた縄はみごと白馬の首に引っ掛かっり驚いた白馬は急に走り出し縄を握っていた坂本の手をすり抜けようとした。縄の先端が結ばれていてそこで縄を握り返しそのまま引っ張られた。坂本は引きずられまいと必死に走り地面を蹴って馬の背中に飛び乗った。白馬は月の光の浴びて跳ね上がり坂本を振り落とそうとした。腕でバランスを取り腰だけを使って白馬から振り落とまいと反射的に耐えていた。そして、白馬は諦めたかの様におとなしくなり坂本の手綱に従った。坂本は次々と野生馬を乗りこなした。

「これで全員の馬が揃った。後は好きな馬に乗って出発するぜよ」

「坂本殿、一人で乗馬は無理でござります」

「乗馬は苦手でござるか貴子殿、では拙者の後ろに乗るといい、さあお手を」

と、坂本は手を差し伸べ貴子を後ろに乗馬させ江戸へ向った。坂本等は鎌倉の裏街道を通り幕府の役人と出会う事はなかった。横浜を過ぎると多摩川の関所が坂本等をまっていた。

「あの関所を通過しないと江戸へは行けないぜよ」

「あの関所を通れる通行手形があれば良いのか」

「そうです。それが無いと通れないぜよ」

「突破はできないのか」

「無理ぜよ、幕府の役人が裏で何百人も待機しおって、そく捕まりその場で切られる」

「わたしにいい考えがあるさあ」

マサオが言った。

「マサオ君が始めて口聞いたでござります」

坂本が空飛ぶ達人を一人同行してもらっていたのが、こてこての琉球人マサオだった。

「なんだゆうてみよ」

「自分が空飛んで関所の役人の目を引くからその間に渡ればいいと思いますが」

「佐藤踵が作ったマントでこの上を飛んで気を引くのか」

「はい」

「ただ飛んでいても全員の気を引く事はできまい」

「できます」

と、言う事でマサオは野原でマントを広げエンジンを掛けて飛んで行った。

「あれはなんだ」

「凧上げをしてるのであろうか」

「いや、糸がないから凧ではないぞ、あれは人でござる」

「まさか、人が空を飛ぶ訳がないではないか」

と屋敷で待機していた幕府の侍達が外に出てきた。マサオは下界に集まった役人の観衆を関所から離れさせるための曲芸飛行を披露した。

マサオは空を飛びながら発煙筒をまいた。右半分のマントから延びている糸を右手を高い位置で握り外側におした。そして左の操縦紐を思いっきり下に引いた。すると翼がましたに来て回転を始めた。

「あれに乗っているのは猿飛佐助か、見事でござる」

「みごとだ、つまらん花火より百倍面白い」

関所の役人達はマサオの曲芸飛行に夢中になっていた。その横を坂本達が通行手形なしで簡単に通過して、その先の多摩川大橋を渡った。マサオは上空から坂本達が関所を通過した事を確認すると曲芸を終えた。最後に関所の観衆に手を振りながら遠ざかっていった。

「見事であった。皆の衆拍手でござる、強くじゃ強く叩くのじゃ」

役人侍達が拍手する音が点にしか見えないマサオの耳に届いていた。そして多摩川の河川に降りて坂本達と合流した。

「みんな腹は空かないか美味い物食いたいぜよ」

「丁度いい所に市場らしい所が有るでござる。行ってみるぜよ」

その市場は魚介類や穀物や野菜が売られていた。

「これはなんでござるか」

「へい、お客さん知らねえんすかあリンゴでさあ、美味えですぜえ」

「いや、また後で」

坂本は江戸っ子の勢いに釣られて高いリンゴを買わされそうになった。

「坂本殿、米を買ってきました」

左官幸之助が肩に米袋を背負って立っていた。

「米が手にはいったか、あとは釜だが総社殿はどこかな」

「拙者はここでござる。米を炊く釜を買って来たでござる」

「よかった、これで多摩川の河川敷で焚き火で食事が作れる。それではみんな河川敷いくぜよ」

多摩川の土手沿いには桜が満開で坂本等を迎えてくれた。

「これは凄い桜が満開ぜよ、風もないし今日は最高の日和だここで炊き込みご飯するぜよ」

「拙者は薪を集めてくるでごわす」

「私は野草を探してきます」

「自分は米を解いてくるさあ」

「拙者はここで釜戸を作るでござる」

誰が決めたか知らないが、彼等はそれぞれの役割で河川敷に散っていった。貴子が野草を腕一杯に持って。マサオは米を解いた釜を持って。総社総一郎は薪を腕に抱えて戻ってきた。左官幸之助も多摩川の石を積み上げ釜戸を完成させていた。坂本は大の字になって満開の桜を観賞していた。

「坂本殿食事が出来ました」

貴子がうたた寝の坂本を起こしに来た。坂本は薄目を開けて目の前の女性に素直にいった。

「満開の桜よりもっと美しい物が拙者の目の前に映っておるぜよ」

「誰の事申しておるのです。食事でございます。さっさと起きるのです」

「はい、今起きるでござる」

「さあどうぞ」

雑炊の様な物と刺身とみそ汁が運ばれて来た。

「これは旨そうでござる」

雑炊の様な物とはヨモギ雑炊で、琉球料理のフーチバージュウシイだった。刺身と出された肉は山羊の皮の刺身で琉球料理の一種で全てマサオが市場で仕入れた食材で、料理もマサオが担当した。

「これは美味しゅうござりまする。マサオ殿は料理も上手でございますね」

貴子が微笑を作って流し目でマサオを覗いて言った。マサオは貴子の美しい瞳に引き込まれ顔を赤くなった。

「いえ、自分はただのバクチャーだから」

「バクチャーとはなんだ?」

「いや、なんでもないさあ」

場所変わって江戸城では全国から地方代表藩主を城内に招集し将軍様の参上を待っていた。

「上様のおなーりー」

ドンドンと大太鼓が城内に響いた。襖が開きデブで刈り上げの将軍様が現れた。藩主たちは深々とあたまを下げた。

「長旅ご苦労であった。苦しゅうない楽にいたせ」

「存じての通り薩摩藩の江戸戦略で我が幕府は大きな打撃をうけた。薩摩藩の様な反逆行為は薩摩藩ごと抹殺いたす。それを心に命じて明日のドン大将の公開処刑に参上願いたい。よいか」

「は、は心得たでございます」

藩主達は深々と頭をさげた。襖が閉じられ上様は城に引きこもった。

「じい、明日は余も公開処刑に出るのか」

「上様の支持で行った事でございますから、当たり前でございます」

「嫌じゃのう余は城から出たくないぞ、じい」

「上様何を申すのじゃ江戸庶民の前で存在を売り込む機会ですぞ」

「余は群衆が怖いなのだ」

将軍様は泣きべそをかいた。

場所変わって坂本が江戸伝馬町処刑場周辺を描いた地図と手紙をマサオが空を飛んで相模湾に停泊している戦艦に届けた。地図と手紙を受け取とった佐藤踵は「江戸港へ侵攻せよ……」と手紙を読んで江戸港へ向った。江戸港に入港すると幕府の役人が見かけない船と接岸を拒否した。奉行所にその事を報告すると大砲と兵を動員して港に戻ってきた。5人の武士が手漕ぎ船でその船に近づき甲板に向って大声で叫んだ。「何処の藩だ。船長はおらぬか」

すると油元火太郎が顔をだした。

「琉球国だ財宝を将軍様にお届けに参った。怪しい者ではない」

「船内を観たい良いか」

「どうぞ、上がって来られい」

船員が縄梯子を垂らした。乗船した武士達は船内を検査し、暫くして油元火太郎の所に戻って来た。

「将軍様への貢物とはなんだ?」

「これでござる」

油元火太郎は琉球漆器が入った3尺四方の箱の積荷を見せた。

「中を開けて見せてみよ」

「喜んで」

箱の中には美しい琉球漆器がカーサの葉で保護されていた。

「武器はないな」

「その様な物は積んでおりません」

「貢物を港に降ろしたら港を離れるのだ」

「それは無理でござる、不足した食料や物資を積まないと戻れません」

「分かったそれでは一日待とう、明日出港するのだ、よいか」

公開処刑当日、日本橋刑務所に監禁されていた薩摩兵とドン大将は牢屋から連れ出され市中引き回しされた後、江戸伝馬町処刑場へ突き出された。竹の柵で囲まれた処刑場周りには江戸庶民がまじかで見学しょうと押すな押すなと集まってきた。十字架に貼り付けにされたドン大将が曝された。竹柵の内側には侵入者に警戒する武士が立消していた。娯楽のないこの時代江戸庶民の楽しみの一つが公開処刑だったと言っても過言ではない。

「上様処刑場の準備が整ったそうでございます」

「そうか、ではまいるか」

腕の立つ武士を護衛に、将軍は馬に跨り江戸伝馬町処刑場へ向った。江戸伝馬町処刑場へ向かう街道は沢山の江戸庶民がゾロゾロと処刑場に向かって進んでいた。後方から将軍様の行列が来ると固まって進んでいた江戸庶民が左右に分かれ地面に土下座した。

「将軍様だ、始めてみるぜ」

拍手する江戸庶民もいた。頭を下げる者より顔を上げる者の方が多かった。

「上様のおなーりー」

処刑場で待機していた武士が一斉に声のする方に振り向き下座に下がり図を沈めた。

「本日は良い日和じゃ皆の衆ご苦労でござるぞ」

「は、は、ありがたきお言葉、感謝致す所でござります」

「では、じい、世の席へ案内いたせ」

「殿こちらへ」

砂で作った坂道に進んだ。蛇行しながら上がると上様専用の高い位置に到着して顔をだすと江戸庶民が一斉に拍手をした。

「将軍様だ、将軍様だ」

「じい、気持ちいいもんじゃのうこうやって庶民に歓迎されると」

「処刑を引き伸ばした事で全国からわざわざ足を延ばし江戸に来られた観衆もるそうです」

将軍から三十三尺の位置にドン大将とその兵が柱に括られ鬼の形相で将軍を睨みつけていた。

「鬼の形相とはこの事か、じい」

「無礼な奴らだ」

「まてじい、ここで短気を起こしてはならぬぞ、平常心で事を進めるのじゃ」

その時だった。江戸庶民の誰かが叫んだ。

「あれはなんだ。鳥か、凧か」

「あれは人じゃねえか」

屋ケ名の飛び人ハイサイターリーが江戸伝馬町処刑場の真上を手を振りながら飛んで来た。足首に紐を結びその紐の先には「荒川河川で飛行曲芸が始まる」と書かれたのぼり旗をなびかせて旋回していた。

「これはいったい何だ、人が凧にぶら下って飛んでやすぜえ」

江戸庶民の口々から始めて目にする物に対する驚きの声でざわめいた。

「じい、あれは何だ余が主催する行事の邪魔ではないか、ひっとらえろ」

「はは」

とじいは砂場を駆け下りて下で待機していた武士にこう命じた。

「皆の者、狼藉者じゃあの物を捕らえろ」と、天井を指差した。

「あの物とは」

武士達が誰の事か聞き返した。

「外へ出ればわかる、とっ捕まえてこい」

と、武士達は一斉に外に飛び出した。

「狼藉者は何処じゃ」

と刀に手を添えた。

「あれだ、どうやって捕らえるのじゃ」

一人の武士があんぐり口を開けていった。

「あの物を引き摺り下ろせないのか」

「方法がわからん、布団を二階から引き摺り下ろすとはいかない、どうすればよいのだ」

「弓だ弓矢で撃ち落せ」

弓矢隊がハイサイターリーに向けて矢を居った。矢は放物線を描いて地面に刺さるだけで一つの矢もハイサイターリーに当たる事はなかった。

「今度は鉄砲隊だ鉄砲で撃ち落せ」

鉄砲隊が発砲しても銃弾は届く事はなかった。将軍がふと竹の柵の向こう側を覗くと観衆役の江戸庶民が一人もいない事に気づいた。

「じい、江戸庶民は何処だ誰もいないではないか」

「弓矢と銃弾で逃げたのです。丸腰の庶民の前で戦をしてはだめです上様」

「戻る様ゆうてくるのだ」

「だめでしょうな、あれを御覧ください」

荒川河川でマサオとその仲間が曲芸飛行で江戸庶民の拍手喝采を受けていた。そのどよめきが将軍の耳に届いた。と、その時坂本等と船から上陸した琉球空手隊が竹の柵を壊してドン大将の救出に突撃をかけてきた。

「狼藉者が侵入した、阻止しろ」

腕の立つ武士と琉球空手隊が処刑場内でぶつかり斬り合いになった。いや、琉球空手隊はヌンチャクだから刀対ヌンチャクで戦った。その後ろで坂本等が柱に縛られたドン大将とその薩摩兵の縄を切って開放した。そして待機させてあった馬に乗馬させた所だった。

「騎馬隊を出陣じゃ」

ヌンチャク対刀はどうなったかと言う事に気になる所であるが、その事を詳しく説明しよう。このヌンチャクはただのヌンチャクではなかった。棒と棒を繋ぐ鎖に仕掛けがしてあった。どんな仕掛けかというと、楕円形の鎖の鉄に切目を入れて刀の刃の部分が丁度はまる様になっていた。一旦その切目にはまると万力の様に抜けなくなり最後は刀が折れてしまう、そんな仕掛けだった。そうとは知らない武士はヌンチャクで刀の刃をバキバキ折られるので全員たじろんだ。

「刀が使えなかったらさあ、素手でかかってきなさい。ヘクナークーワ」

「わったあやヌンチャク使わんからかかって来ればいいさあ、ウジ虫侍が」

「なにい、無礼な奴らだ皆の物柔道で投げ飛ばしてやれ」

と、琉球空手隊と幕府の最高に腕か立つ武士と、空手対柔道で再戦した。一人の武士が襟をつかみ投げ飛ばそうとした次の瞬間ボキボキと腕が折れる音がした。琉球空手の基本の柔道と対戦する技の一つ腕をへし折る、その為の特訓を毎日受けてきた琉球空手の達人と江戸幕府の武士はみな腕をへし折おられ地べたでのたうち回っていた。

「あれが余の護衛をしていた侍達か詐欺どもめ、騎馬隊はまだか」

その頃街道を騎馬隊が地響きで向かっていた。

細い江戸伝馬町街道を騎馬隊が土煙を巻き上げながら駆け抜けていった。次から次へと長い時間馬の蹄の音が途絶える事はなかった。

「戦でも始まるってえのかい」

岡っ引きの半次が鼻をすすって言った。

「処刑場でなにかあったにちげえねえ」

相棒の銭形が十手を手に下町の巡回中だった。

騎馬隊が江戸伝馬町処刑場の広場に到着すると細い管から噴き出す噴水のように左右に分かれ追跡体制を取った。

「皆の物よく聞け逃げた狼藉者の首一つ百両の懸賞金が掛かっておる、早い者勝ちだ突撃せち」

百両と聞いた騎馬隊の目が血走り我先と突進した。

さてさて、どうした物か戦いの写実がちと難しい自分は理解しても読んでいる者が理解していなければ意味がない。とにかくだな、ドン大将と薩摩兵は牢屋に入れられ体力が尽きた状態で柱に縛られ、その後坂本等に助けられた。そして馬に乗馬した。その馬はロバに近いノロマな馬だった。その後を幕府の騎馬隊が追ってくる。絶体絶命の場面、幕府の騎馬隊の馬はサラブレッドの競走馬でいずれ追いつかれ全員首を切られ江戸の三越にさらされるに違いない。と思ったら大違いだった。そうだす。屋ケ名には空軍があるそれを期待しているのであろう、諸君は。

「拙者が先じゃ、新築した家の借金があるのじゃ拙者に首を取らせてくれ」

「拙者は武家屋敷運営費不足で困っておるのじゃ」

「拙者は博打でこさえた借金で地獄なのじゃ」

「他人がどうなろうと拙者には関係ない金じゃ金が拙者の全てじゃ」

うるさい幕府の武士達だ、いや役人達だ。いい人間と世間に好評を得る労わりの皮を被った仮面がはがれだしたか。幕府の騎馬隊はドドドド…といった感じに坂本等に追いた。

「拙者の物じゃ、よるな斬るぞ」

もう敵も味方もない幕府の武士同士斬り合いになった。


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