第3杯 ②
ハイツの出入口の方へ急ぐあたし。
駆け足で扉に寄って、それを押して開けると、目の前には昨日知り合った洋輔がいた。
彼は制服を着こんでバイクに跨っいる。今にも走り出しそうな雰囲気。
バイクのサイドミラーにあたしの姿が映ったのを、洋輔が気が付いたみたいで、声を掛けてきた。
「なんか、慌ただしそうだな?」
フルフェイスのヘルメットを頭から外した洋輔の方へ、思わず駆け寄る。
困り果てていたあたしは洋輔に事情を話してみた。
「そうなの、今日2度寝したみたいで、遅刻かもしれない……」
洋輔はヘルメットで髪のセットが崩れたのを気にしてなのか、サイドミラーで自分の茶色がかった前髪、やや長めの後ろ髪などを直している。気が済んだのか、やっとこちらの方へ向いた。
立派なM字型の前髪をした彼はあたしの顔を見るなり失礼な一言。
「案外、お前ってどんくさい奴だな」
あたしはこんな所でチンタラしている場合じゃない、と彼の嫌味を含んだ言葉に目が覚めた。
「悪かったわね。それより急ぐから、またね」
気分を害したあたしは彼をまともに見ないで、別れの言葉を押し付け、ズンズンと1.5メートル程を歩く。
その時、呼び止める声が。
「あっ、おいトウコ!」
あたしが振り返ると、今の今まで話していた洋輔は何か言いたげにしている。急いでいたけど、その彼の表情を察して応える事にした。
「なに? ホントに急いでるの」
「しゃーないっ俺が送ってやらなくもないが」
「ホントに? じゃあ、お願い!」
「ほい、来た。じゃ、後ろに乗れよ」
「うん」
ありがたい洋輔の言葉に甘える事にして、あたしは進んだ道を戻って、また彼のいる場所へ駆け寄る。
「はいよ、これ被れよ」
駆け寄ったあたしに洋輔は自分が持っていたヘルメットじゃなく、別の物を渡してきた。可愛らしいヘルメットを受け取り、それを頭に装着して、彼の後ろに乗り込んだ。
「用意はいいか?」
「うん、いつでも」
「大学ってどこの大学?」
「何? 聞えな~い!」
バイクのエンジンを掛ける音とヘルメットが音を吸収してるのか、人の声が聞こえにくい。あたしはもう一度訊き返した。
「だから、大学どこだよっ!」
「――大学ね。大学は桜花女子短大っ」
普通のトーンで話を使用もんなら、バイク音のせいで、なかなか会話が進まない。
そんな事もあって、少し大きめな声で会話しているつもりだったけど、ふたりの近くを通行している学生さん、OLさん、その他大勢が迷惑そうな感じで、チラっとこちらを見ている。
その嫌な感じの視線に気付いたあたしは、恥ずかしくてヘルメットの中の顔が、真っ赤っかになるのだった。