第28杯 ③
あたしもマネて、口に入れる。噛むと口いっぱいに広がるガーリックの味とレモンがとても相性がいい。
「ホント、美味しい。いくらでも食べれちゃう」
「良かった、喜んでもらえて」
安心したように微笑んだ藤井くん。
「だって、凄く美味しい」
「女の子って……ガーリックの臭い気にするでしょ」
「えっと、そうだね。一緒に来る人に――よるのかな」
藤井くんとの会話で、あたしは話しながら、自分がバカ踏んだ事に気がついた。
「女の子は、やっぱり好きな人とか?」
「かな……」
「やっぱ、そっか……」
そう答えると、一瞬気落ちした様子の藤井くん。
藤井くんの視線がテーブルに下がったけど、次にあたしへ視線を戻す。
「ああでも、宮野さんみたいなほうが、俺は嬉しいけどね」
「あたしも美味しいものは一緒に味わいたいよ、好きな人と」
「良かった~」
藤井くんはよっぽど安堵したのか、息をフゥっと口から出して、微笑んだ。
あたしは藤井くんの様子が、かわいらしくて、ずっとこのまま見ていたいと思っていたけど、あたしの気持ちとは裏腹に楽しい時間は止まってはくれない、容赦なく時間は進んでいく。
食事も終わる頃、盛り上がった会話も、あたしの寂しさで、口数が減る。
それに合わせて藤井くんも口数が減るのだった。
あたしはデザートをゆっくり時間を掛けて食べる事に。少しでも藤井くんと居られたら、と。
藤井くんはあたしのおかしな様子に気がついたようだ。
「お腹いっぱいだったかな?」
「ううん、大丈夫」
「そう。もしかして口に合わなかった?」
「違うの、とっても美味しくてゆっくり味わいたいなって」
「そっか。こっちのも食べてみない?」
「えっいいの?」
「もちろんだよ。シェアしようよ」
「うん、ありがとう」
藤井くんはデザートの乗ったお皿をあたしの方へ近づけてくれる。
あたしも同じように藤井くんへお皿を動かした。
ふたりでお互いのを食べ合ってから、視線がぶつかる。すると、お互い美味しいと言って笑うのだった。
友達とは違う、好きな人とのシェアがあたしの胸を締め付ける。
一緒にいたいと思う気持ちが益々膨れ上がるあたし。
藤井くん藤井くん、あたしは友達、それとも――――、聞けない言葉が、喉に詰まって息苦しくなるよ。胸が苦しい。一緒にいると苦しいのに、一緒にいたい。
想いを口に出せないあたし。勇気のない自分自身が、歯がゆくなる。
あたしはそんな気持ちのままで、店を出る事になった。
ハイツへの道のりを食事の余韻を引きずりながら、帰るのだった。