第28杯 ②
彼女は特別何も言わなかったけど、藤井くんに特別な感情がある事は、あたしには、なんとなくわかった。
あたしは藤井くんはどうなんだろう、と思いながら、彼女が去って行った方向を暗い眼差しで、無意識に追いかける。
あたしの様子に、藤井くんが口を開く。
「えっと、彼女は同じ講義の子だよ」
「……じゃあ、さっきまで一緒だった人なんだ」
「ああ」
この空気の感じ、さっきとは全然違う。
彼女が現れてから、あたしが藤井くんに感じたものが、どこかに行ってしまったみたい。藤井くんは、気持ちに少しは気づいてくれたのかな、と落ち込みそうになるのだった。
「宮野さん、大丈夫?」
「えっ?」
「顔色、悪いよ」
「ああ……うん。全然大丈夫」
「じゃあ、行こうか」
「うん……」
お店に着くまで、あたしはずっとグルグル頭の中、彼女の事が消えない。
藤井くんを気に掛ける余裕が無くなったあたしは、道中、黙ったまま。彼も話し掛ける事もなく、お店へ着くのだった。
とびっきりの笑顔でお店の方が、声を掛けてくれる。
「いらっしゃいませ。お二人様ですね。どうぞあちらへ」
あたしはその澄んだ声で、我に返った。
藤井くんは嬉しそうな声で、あたしへ声を掛ける。
「このお店はとっても美味しいから」
「楽しみだな」
「気に入ってくれると嬉しいよ」
藤井くんの言葉で、あたしの憂鬱な気持ちが吹っ飛ぶのだった。
席についてから、メニューを頼む所で口を開いた藤井くん。
「何がいいかな?」
メニューを開いてあたしに見せてくれる。
「これとか、美味しそう」
「じゃあ、それ頼もうか。他はこっちもどう?」
指でメニューを指してくれる藤井くん。
「うん、じゃこれも」
決めたものを頼むのに、店員さんを藤井くんが手招きで呼んで、頼んだ。
暫く会話をしていると、お料理が運ばれて来た。
テーブルには幾つか頼んだものが、並んでいる。
バターとレモンの香り。それとガーリックの香りが、目の前にあるものはとっても美味しそうだった。
藤井くんが、ガーリックシュリンプの乗ったお皿を、あたしに勧める。
「これ、このまま食べるんだ」
藤井くんが、赤い色の殻付きシュリンプを指で摘まんでから、口に放り込んだ。