第28杯 苦しいのに、一緒にいたい
洋輔の事も落ち着いてから、迎える日曜日。
あたしと藤井くんはあの夜約束した事を実現させるのだった。
ふたりだけで食事を。なんか、胸の心拍が上昇してるのが、自分でもわかる。胸は治まる事を知らないみたいで、バクバクと脈打っていた。手には汗。
汗をハンカチで拭ってから、あたしは携帯を見た。
待ち合わせ時間の19時になりかけている。
「もう、来るはずなんだけどな」
あたしは待っている場所から駅の方を彼らしい人を探してみる。
すると、真横から声を掛けられるのだった。
「ごめん、待たせたね」
駅の方から小走りしてきた様子の藤井くんが現れた。
あたしが見ていた所とは、違う場所から来たみたいで、息が少し乱れているけど、気にせず彼は話を続ける。
「この前の時間の約束が、長引いてね」
「ううん、大丈夫。時間通り」
「そっか。じゃあ、行こうか?」
「うん、そうだね」
あたし達は待ち合わせ場所から、歩き始める。
「今日は何食べようか?」
「う~と、藤井くんは何食べたい?」
「そうだな、エビとか好き?」
「好きかな」
「じゃあさ、俺の行きたいとこでもいい?」
「うん、もちろん」
あたしは純粋に嬉しかった。藤井くんの行きつけに行けるなんて、特別な気がしたから。やばい顔にやけてて引き締まらないよ。彼はどんな表情をしているのか、気になって様子を伺うあたし。
気づかれない様に少しだけチラ見してみるのだった。
視線がお互い重なり合う。
それは予想外の事で、お互い息がとまる。
藤井くんの視線は、あたしに何かを感じさせた。でも、何も言えない。言葉を口にするのが怖くて黙るのだった。
ふたりの足は、いつの間にかその場で動かせないでいる。
あたしの手が藤井くんに触れようとした時だった。彼を呼ぶ声が聞こえてくる。
「しんいちっ」
あたし達へ、彼女は息を切らして、ノートらしいものを持って駆け寄って来た。
「はぁはぁ……ごめんコレ」
あたしは急いで手を引っ込める。
藤井くんの視線があたしから、彼女の方へ移った。
「ああ、明日でも良かったのに」
「いや、コレは今日返さないと」
藤井くんの知り合いらしく、ふたりはあたしを残して、しゃべり始める。
「明日朝、いるでしょ」
「課題の提出だったね」
ノートを彼女から藤井くんは受け取るのだった。
横目で彼女があたしを少し見た気がする、品定め的な感じで。
「そうよ、だから追いかけてきたんじゃない」
「悪かったな」
「ううん、いいのよ。それじゃあね」
「じゃ、また」
あたし達ふたりに、彼女は軽く会釈して、駅の方へ去って行く。