第27杯 ③
「えっ、珍しい事……」
戸惑うあたしを見て、哲太さんが代わりに応える。
「董子ちゃん、リアクションに困ってるから、ますみさんそのくらいで勘弁してもらっても」
あたしと哲太さんを交互に見るマス姉。
「悪かったな。そろそろ寝るかな」
マス姉が席を外し、Cafe出て行った後を、あたしは気になって追いかける。ハイツの階段の所で、追いつくのだった。
「マス姉、今日はどうしたんですか?」
「あっいや……なんていうか、悔しくて」
「何が?」
「哲太だよ。アイツ、あんな綺麗な人と知り合いなのに、あたしにはなんも言わなかった」
「大した事じゃないって、逆に思ったのかもしれませんよ」
「そう、正しくそこが悔しいんだよ」
あたしは何がそんなに悔しいのかチンプンカンプンだった。
「マ、マスねぇ?」
声を掛けたけど、マス姉は気にも留めないで、話続ける。
「あんな美人の知り合いを、姉のようなあたしに紹介もしないなんて、アイツあたしよりも異性に……」
悔しさを滲ませた顔で、一瞬黙るマス姉。そして、また話し出す。
「実は不自由してなかったのかって、正直焦る」
「焦るだなんて、競争してるみたいだよ、マス姉」
「董子ちゃんはまだ若いし、分んないだろけど、この年齢になるとね」
思い悩んだ感じの口調で話すマス姉を見ても、ピンと来ないあたし。
「はぁ、そんなものですか?」
「そんなものなのよ、あたしは色々悪い寄り道ばかりしてたからね」
マス姉の重みのある言葉は、あたしの言葉を鈍らせる。
「ああ、まぁなんと言えば……」
あたしの様子にマス姉が気に掛けてから、鼻の頭を指先で軽く触れる。
「まっ自分が悪いんだけどさ――にしてもアイツより負け組かも。そう思うとホント悔しいよ、なんか」
「負け組も勝ち組もないですよ。これからいい恋すれば……」
あたしは自分で言っておきながら、言葉が続かなかった。
「言ってくれるね、それが難しいんだよ一番」
「ですよね」
と言ったあたしは、申し訳なくマス姉に視線を送る。
マス姉はそれに応えるように、あたしへと観念したという感じに、笑ってくれるのだった。