第27杯 ②
マス姉がそうやって、からかい半分に哲太さんへ絡んでいたら、ひとりの女性がCafeに来店した。
女性は哲太さんへとびっきりの笑顔を向けて、カウンターへ座る。
「来たよ、杉能くん」
「ああ、ホントに……来たんですね」
「ええ、あなたの生活ぶりをね」
「……はぁ」
哲太さんは女性に参ったなという感じに生返事を返した。
「哲太、こちらの女性紹介してくださる?」
話し方がもろに変わったマス姉の顔を、そこにいる女性ではなく、マス姉をあたしは驚きみる。
そんなあたしを誰も気に留めていないよう。
「ああ、この方は――」
哲太さんが言い掛けたのを、女性は構わずに自分で話し始める。
「初めまして遠野美琴です、私は杉能くんの友人です」
「へぇ、こんなお綺麗な方とお知り合いだったの、杉能君」
マス姉の脅迫めいた視線が哲太さんに向く。
それにうろたえたのか、哲太さんが動揺している模様が、あたしにもわかる声だった。
「えっあっそうんなんす。友人で」
「彼とは、もう3か月くらいの付き合いになるのかしら」
遠野さんがあたし達に、哲太さんと出会った事などを話してくれる。
「じゃあ、まだ友人になられて日は浅いんですね」
あたしはマス姉の横から、少し離れた席にいる遠野さんに声を掛けた。
「ええ、彼は余り会話が上手くないので、どんな感じに仕事されてるのか興味が湧いて」
マス姉は遠野さんの一部の言葉に興味深々と言った感じだ。
「ご興味が?」
「ええ、そうなんです。おふたりはここの住人ですよね?」
遠野さんに訊かれたので、まずはあたしが答えた。
「はい、まだあたしも日は浅いですが」
続いてマス姉が意味ありげな視線を、哲太さんに向けながら話す。
「杉能くんとはそれはもう長い付き合いなんですけどね」
「聞いてます、とても親しいんですよね?」
遠野さんがこちら側の話を知っているみたいなのが、マス姉には面白くないみたいだ。
少し怒りにも似た感じの視線を、マス姉が哲太さんにまた向けているのが何よりもの証拠。
「まぁ。でも、親しい中ならあたしにも教えてくれてもね」
「いや、彼女の事は話す程の事でもないかと」
「そう、こんな素敵な方を?」
遠野さんは哲太さんとマス姉の間に何か感じ取ったのか、席を立った。
「少し立ち寄っただけなので、私は行きますね。また今度」
腕時計を見ながら遠野さんが、そそくさと急いでCafeの自動ドアを出て行く。
あたし達は遠野さんを遠目に見送くった。
そして、あたしが気づくとマス姉はもう哲太さんの方に向き直している。
「また、今度だってさ。哲太」
「からかわないで下さいよ、ますみさん」
マス姉が哲太さんをかわして、あたしへと声を掛ける。
「珍しい事も起きるもんだね、董子ちゃん」
ここで声を掛けられるとは、思わなかったあたしは、ろくな言葉を返せないのだった。