第27杯 年頃の悩み
あたしの後ろの方から声が聞こえてくる。
「落ち着く所に落ち着いて、まぁよかったよ」
カウンターのマス姉がそう言って、昨日の事を哲太さんに説明していた。
「俺も心配していたから、話を聞けて安心したっすよ」
あたしはふたりの会話を聞いて、話しながらカウンター近くのテーブル席から、ふたりがいる場所へ移った。
「ですね、あたしもこれでよかったと思います」
「ああ。董子ちゃんカップ洗うよ」
哲太さんにあたしは手を伸ばしてカップを渡した。それから、マス姉の隣に腰掛ける。
「なんだ、董子ちゃんいたんだ。声かけてくれればいいのに」
「マス姉が洋輔の事説明してたから、邪魔しないようにね」
「董子ちゃんは、話の腰を折らない様、気を使ってくれたんすよ。ますみさんに」
哲太さんにそう言われると、マス姉は首をボリボリと掻く。
「別にいいのに、んな事」
「ますみさん、俺の前でも少しは女らしくしてく……」
「んっ、何?」
「いや、だからっすね。女でしょ」
「哲太の前で女らしくしてどーすんの?」
マス姉は悪びれもせず、逆に哲太さんに問うのだった。
ふたりの様子に見兼ねたあたしは、とりあえずふたりの仲介に入る。
「まぁまぁ、ふたりとも」
「だってさ、アンタはあたしの事、誰よりもこんなだって、知ってるだろ」
「まぁそうっすけど……俺は、でも」
「ゴニョゴニョ言ってないで、ハッキリと言え。男だろ」
「ちょっと声大きいかな、マス姉」
周りを気にしてあたしが注意喚起すると、本人も気づいたのか、少しだけトーンを落とすマス姉。
「哲太が男の割にこれだから、ついね」
「つい……ですか?」
こういう感じを絶対マス姉は愉しんでるような気がした。
それはマス姉の顔を見て確信する。
だって、哲太さんといるマス姉の表情がとても豊かになるから。
哲太さんを困らせる事が愉しいみたいで、気づいてないのは本人ぐらいだろうな、とふたりを横目にあたしは思った。
「どっちでもいいけどさ。アンタさ、そんなんで女のひとりでもいるのか?」
マス姉がそうやって、からかい半分に哲太さんへ絡んでいたら、ひとりの女性がCafeに来店した。