第26杯 将来
社長室前の部屋には秘書室があり、洋輔は秘書に話しかけて、その奥へと秘書に促された。
あたしはと言うと、秘書室の向かいにある部屋に案内される。
「どうぞ、こちらへ」
「あ、はい」
あたしは力ない返事をした。
部屋の中は高そうな椅子と机があるが、いかにも応接室といった部屋は落ち着かなかった。
あたしは言われるまま黒光りしている座り心地が良さそうな椅子にひとりぼっちで座るのだった。
秘書の方が間もなくして戻って来ると、お茶を出された。
「こちらを。では、失礼します」
「すみません、ありがとうございます」
秘書の方はお辞儀をしてから、部屋を出て行く。
緊張のあまりにあたしはただただ15分程度、何もせずにいた。
あたしは緊張のせいで、喉がカラカラに渇いて仕方ない事に気づく。
目の前の出されたお茶を飲む。いつも飲むペットボトルのお茶と味が違った。
「味、全然違う。いつも飲んでるのとはまるで違う」
あたしは驚きのあまり、独り言を声に出して発していた。
「実家で飲んでるものとも違う。今まで飲んでた緑茶の味はなんだったの」
また、無意識に声が出る。
その時、洋輔が応接室に秘書の方の案内で入って来た。
「待たせたな、話はついた。帰るぞ」
「えっああ」
cafeハイツの近くの公園までバイクで戻って来ると公園で話をする事に。
洋輔が滑り台の階段に中腰くらいの高さに軽く腰を持たれた。
「サンキューな董子」
「ううん、誤解はどうなったの?」
「ああ、色々とさあったけど、将来も含め話した」
「男になったじゃない、洋輔」
あたしはなぜだか洋輔に誇らしげな気持ちになって、思わず彼の頭を撫でる。
洋輔は髪の毛をくしゃくしゃにされて、あたしを文句いいだげな眼差しで見上げた。
「お前な、からかってんだろ?」
「違うって、将来が決められる洋輔は正直凄いって感じたよ」
「なんだよ、それ」
褒められたのが少し嬉しいのだろうか、照れ笑いした洋輔。
「ホントよ……それに比べて自分は短大を卒業するのに将来を決める余裕さえない」
「じゃあさ、これから考えればいいじゃんか」
「簡単に言ってくれるわね」
「有言実行した男だぞ、俺」
「まぁね、でも洋輔もお父さんもそれぞれの思いがあるんだろけど、少しばかり頑なで頑固すぎ」
「まっ確かにな」
「だからさ――漠然と思ったよ、あたしも」
自分の気持ちをあたしはどう言えばいいか、少しばかり考えてまた話す。
「要はふたりを見て、自分はどんな大人になりたいのかって事……かな」
「よくわかんね~から、帰ろうぜ」
「何、それ」
洋輔の隣であたしはクスクス笑って、バイクの方へ歩く。
そして、cafeハイツへ帰るのだった。