第25杯 ③
洋輔に引きづられる形であたしはファミレスから連れ出された。
予想外の申し出は心の準備をさせてはくれないまま駐輪場へ。バイクを目の前にあたしは躊躇する。
「何してるんだよ、一緒に来いよ」
「でも、余計に誤解を助長しない?」
「直接会ってほしい訳じゃない、部屋の外にいてほしい」
「……外で?」
「俺は冷静に話をするつもりだが、あの親父が冷静に話を聞くかはわからねぇ」
「あの感じじゃ……わからなくもないかな」
「その時は他人に止めてほしい。董子が適任だと思ってる、俺は」
洋輔が説得する理由は解ってる。
あの時、あたしがあの場に居たからなんだろけど、それでも他人が首を突っ込んでいいものか、悩む。これが正解なのか、見当もつかない。
「頼むよ、董子」
あたしはこんな弱気な洋輔を見た事がない。余程せっぱ詰まっているのだ、と彼の表情で確信する。
洋輔の決意をあたしの迷う気持ちで、邪魔しちゃいけないとあたしはやっとの思いで踏ん切りをつける。
「わかったから、それだけ言うのなら行くよ」
「サンキューな」
洋輔はヘルメットを差し出したので、それをあたしは手に受け取った。
あたしがバイクの後ろに乗るのを確認してから、洋輔はバイクのアクセルを踏み込んで出発する。
ある程度、街中をバイクで走っていると少しずつ一軒家からビル街へと様変わりしていくのだった。
幾つかのビルを右や左に曲がるとついにバイクが止まる。
「……ここ」
物凄く口数が少ない洋輔。
「バイク置いてくるから、ここに居て」
洋輔の緊張があたしに感染して、声が出せない。その代わりに軽く頷いてからバイクを降りる。
数分後には向かった方向から洋輔が戻って来た。
「じゃ、行くぞ」
相も変わらずあたしは頷くだけで、意思を伝える。
会社の自動ドアをくぐると真っ先に受付へ向かう洋輔。
あたしは洋輔から少し距離を置いてその様子を見るのだった。
洋輔が受付の女性に何かを伝えると彼女は内線で誰かと話し始める。
受付の女性がものの数分で受話器を置くと、洋輔が彼女の話を聞きながら頷く。そして、引き締まった顔つきの洋輔があたしの方へ来た。
「待たせたな、行くぞ」
洋輔を先頭にエレベーター前に到着すると、上に行くボタンを彼は無言で押す。
エレベーターが降りてくる間も上に上がる間も、あたし達は何も話さなかった。
程なくしてエレベーターが止まる。
洋輔が率先して降りたので、その後をあたしは追い掛ける。目の前にはまた別のエレベーターが現れるのだった。
「ここから上に行くといよいよだからな」
ボソっと洋輔はあたしへ呟く感じに言ってから、上に行くボタンを押す。すぐに目の前のエレベーターの扉が左右に開いた。
迷う事なく洋輔が進む。その様子にあたしも最後のエレベーターに乗るのだった。
あたし達を乗せたエレベーターはそのまま社長室へ。